「杉並!!」

「・・・桜内か」

学校の昇降口。

義之はさんざん校舎内を探し回って、ようやく杉並の姿を見つけたところであった。

しかし、未だ不気味な雰囲気を漂わせている校舎内での突然の大声にも、杉並は特に驚くこともなく反応する。

「どうした?皆と一緒に帰らないのか?」

「まあな。俺がお前を追ってきたって時点で、お前ならその理由も分かるだろ?」

「・・・なるほど、気付いたのか」

「ふう・・・」と少々残念そうなため息を漏らすが、基本的に杉並の表情は変わらない。

おそらく、どこかでは義之が気付くと分かっていたのだろう。

「ま、それもあるけどな。その前にちょっとお前に確認したいことがあって」

「ほう」

「特別校舎の4階・・・”開かずの女子トイレ”に仕掛けってあったのか?」

「いや、あそこだけは俺でも入りづらくてな。七不思議だけでも充分だろうと思い、何も仕掛けなかった」

「そう・・・なのか」

「・・・出たのか?」

「・・・・・・ああ。今でも信じらんねーがな。正直、よく帰ってこれたなと思うよ」

「それはなかなか面白そうだな」

ニヤリと杉並が口の端を歪める。

怪奇現象などに目がない彼らしいが、義之は呆れと共に首を横に振った。

「やめとけって。あれは・・・たぶんマジでやばい」

「ふむ・・・そうか。残念だな」

義之の真剣な表情を見て、流石の杉並も危険を感じたのか、素直にその言葉に従う。

そうこうしている内に二人は靴を履き替え、昇降口を出た。



「さて。それじゃ、そろそろ本題に入ろうぜ」

校門前で立ち止まり、義之が杉並に呼びかける。

杉並もわかっていたのか、しれっとした表情で振り返った。

「そうだな。それでは、お前の推理を聞こうじゃないか」

「・・・まず変に思ったのが、由夢たちやななかを誘うって聞いた時だ。確かに仲が良いからといえばそれまでだけど、そのメンバーが気になった」

「なにせ、全員が学園のアイドルと呼ばれるほどの美少女揃いだからな」

「次に、美冬ちゃんを誘う時。お前、あの時「学園で人気がある子を誘うのが今回の企画の核だ」みたいなこと言ってただろ?」

「ちょっと考えれば分かることだ。これだけ綺麗どころを集めて、何をするかなんてな」

「そして今日。注意して耳を済ませていたら、微かに聞こえてきたよ」

「至るところに設置された、小型ビデオカメラの作動音がな」

「だいたい、いくらお前の仕掛けとはいえ、丁度タイミングよく自動で仕掛けが発動するのは、センサーとかがないと不可能だろ」

「あの仕掛けは全て遠隔操作・・・つまり、中庭に残ってモニター越しに俺達を見てたなら、タイミングもばっちりってわけだ」

「・・・ふむ」

長い間静かに義之の話を聞いていた杉並は、苦笑と共に「パチパチ」と数回拍手を送った。

「正解だ。やはりお前は、第一線で活躍すべき存在だな」

「茶化すなって。そんで、お前はその映像を使って何をするつもりだ?大方、裏ルートで希望者に回すってところか・・・」

「そこまで分かっているのなら話は早い。それで?俺の考えに気付いたお前はどうするつもりなのだ?」

「もちろん、食い止めるさ。自分の家族と言ってもいいあいつらの映像を、勝手にばら撒かれちゃたまらんからな」

「・・・予想通りの反応だな。しかし、本当に家族だからなのか?」

「なに?」

「いや、まあよかろう。俺としても、企画に気付かれた以上断行するのは性に合わん」

杉並はふっと笑ってそう言うと、胸ポケットから一枚のケースを取り出し、義之に放ってみせた。

「っと・・・これは?」

「今回の肝試しの、マスターディスクと呼べるものだな。ついさっき全てのカメラを回収して、それらを編集したものだ。それをどうするかは、お前の自由にするがいい」

「杉並・・・」

あまりにあっさりとした杉並の態度に、義之は疑問を浮かべつつも呼びかける。

すると杉並はいつものように怪しい笑みを浮かべ、

「なぁに。今回は数々の仕掛けを試せただけでも価値はあったからな」

と言い残し、長い廊下の向こう――闇の中へと消えていった。





D.C.U〜ダ・カーポU〜 SS

             「自由な夢を・・・」

                      Written by 雅輝






<26>  新年の朝





「二人とも、お雑煮できたよ〜」

元旦の朝。

新年早々、芳乃家の居間には、音姫の平和そうな間延びした声が響いた。

「ん・・・ふぁああ。眠・・・」

「そういえば兄さん。昨日肝試しの後から姿が見えなかったけど、どこに行ってたの?」

「あ〜・・・まあ色々とな」

「ふ〜ん・・・」

義之と由夢がそんな会話をしつつ、それぞれ畳に放り出していた上体をゆっくりと起こす。

『杉並との事は別にわざわざ言うことでもないだろう・・・』と、義之は由夢の質問は誤魔化し、目の前の雑煮に目を向けた。

「はい、お椀とお箸。たくさんあるから、頑張って食べてね?」

「サンキュー」

コタツの上で、家族で雑煮を囲む。

まさに典型的な、日本の元旦の風景であった。



「ふぃ〜、食った食った」

「もう、兄さん食べすぎだよ」

「・・・俺よりも餅を多く食ったお前には言われたくねぇ」

足はコタツに突っ込んだまま再度上体を倒した義之は、ふとある疑問を感じてもう一度上体を起こした。

そして目の前の由夢をじっと見つめる。

「な、なに?」

「いや・・・パジャマ、着てるんだなぁと思って」

「・・・今更だよ」

そう、由夢が着ていたのは普段のダサジャージではなく、年末に義之がプレゼントしたパステルカラーのパジャマ。

服が違うだけでこうも変わるものか、と義之は感心しながら口を開いた。

「いいじゃないか。似合ってるよ」

「え、や、当たり前ですから」

由夢が素直な返事をすることがないのは分かっているが、それでもどことなく嬉しそうな顔だったので義之は満足げに頷いた。

「うんうん、これで由夢にいつ彼氏が出来ても安心だな」

「・・・」

「兄として、快くお前を送り出せそうだ・・・って、どうしたんだ?不満そうな顔をして」

はにかんだような表情から一変、急に口を尖らせた彼女は、プイと顔を背けると、

「や、何でもないよ。兄さんも寝てばかりいたら、彼女の一人も作れないですよ?」

と言い残し、リビングを出て自分の部屋へと階段を上がっていった。

「・・・?俺、何か変なこと言ったか?」

そしてリビングには、義之の鈍感な台詞が残ったのであった。





「洗い物終わったよ〜・・・ってあれ、由夢ちゃんは?」

雑煮の後片付けをしてくれていた音姫は、リビングに戻ってくるなりそう口にした。

「さあ?何か急に不貞腐れて上に行っちゃったけど」

「もう、また弟くんが怒らせるようなことを言ったんでしょ?」

腰に手を当て、呆れ顔でそう断定する音姫。

「そう・・・なるのかな?自覚は無いんだけどなぁ」

「はぁ・・・弟くんは由夢ちゃんのお兄さんなんだから、ちゃんと妹には優しくしないとダメだよ?」

「へいへい」

そう軽く返事をした義之だが、胸の中ではもやもやしたものが渦巻いていた。

『お兄さんで・・・妹か・・・』

その繋がりは、昔から。

義之が初めて朝倉家を訪れた時、由夢が彼の事を「お兄ちゃん」と呼んだ瞬間から変わらない、そして変える必要などなかった家族としての繋がり。

それが何故今になって、こうも胸を疼かせるのか?

「由夢は妹・・・なんだよな」

「え?」

自分に確認するように、言い聞かせるように呟いたその小さな声は音姫には聞き取れなかったようだが、義之は反応を示した彼女に軽く首を振った。

「いや、ただの独り言だよ」





「ん、もうこんな時間か」

正月の特番をぼんやりと眺めていた義之は、ふとテレビに映ったニュースの時刻報告に声を上げた。

時刻は既に昼近い・・・昨日の肝試しが効いたのか、今日は音姫までもがゆっくりの起床だったので、自然と朝食も遅くなってしまったのだ。

幾度かチャンネルを回してみるが、12時前のこの時間帯はどこの局も数分間のニュースをやっているようで代わり映えがなかった。

――「たった今速報が入りました。枯れない桜で有名な初音島で、また事故が発生した様子です」

「・・・何?」

ぼんやりとしていた耳に突然飛び込んできた事務的な音声に、義之はチャンネルを押す手を止めて画面を凝視した。

みかんを食べながらのんびりとしていた音姫も、真剣な表情でテレビを見つめる。

――「本日、午前10時半頃。初音島商店街で、突然中華店の看板が外れ、運悪くその看板の下にいた高校生3人が負傷しました」

画面が、フロアから実際の事故現場へと差し変わる。

「うわっ、ひでぇなこりゃ」

「っ・・・」

――「事故原因となった看板の留め金には特に損傷はなく、警察と消防ではどのような経緯で看板が外れたのか調査すると共に――」

「最近こういう事件、多いよなぁ・・・って音姉、どこ行くんだ?」

突然立ち上がり居間を出て行こうとする音姫を呼び止める。

その顔には焦りと憂いが浮かんでおり、義之はその表情に一抹の不安を感じた。

「ちょっと、出掛けてくるから。ご飯は適当に作って、由夢ちゃんと食べてね?」

外見上は笑顔。

しかし何年も同じ屋根の下で暮らしていた義之には分かる・・・その笑顔は偽りのものだと。

彼女が何かを・・・多くは負の感情を隠したいときに用いる、今にも崩れそうな笑みだと。

「音姉!」

再度強く呼びかける。

しかし音姫はその呼びかけに振り向くこともなく、静かに居間から出て行った。

「・・・何なんだよ一体」

呟く義之の胸には、自分の知らない所で何かが起きているような・・・そんな漠然とした不安だけが残った。



27話へ続く


後書き

26話をお送りしました〜^^

また一週間開いてしまいましたが、テスト前なので勘弁してください(笑)


さて、ようやく杉並の計画が明かされたわけですが・・・。

どうでしたでしょう?正直期待はずれと思った方もいるのではないかと^^;

でもあまり小難しいものでもどうかと思うのですよ。まあ思いっきり言い訳ですが(汗)


そして迎えた新年の朝。

家族でほのぼのとした雰囲気・・・しかし何かを隠している音姫に、義之が感じる不安。

そして相変わらずなかなか進まないストーリー(笑)

次回はやっと一歩前進かな?由夢の誕生日までいけるかどうか・・・。


それでは!!



2006.12.10  雅輝