初詣も終わり、残すところはメインイベントのみとなっていた。
そう、夜の学園での肝試し大会である。
さくらから預かった鍵で滞りなく進入できた7人は、中庭に集まっていた。
いつも見慣れている校舎とはいえ、夜になるとまるで別次元のように思えてくるから不思議だ。
まるで外の世界とは隔離された世界・・・中庭は校舎に囲まれているため、一層その感は強い。
「さて、これから諸君に肝試しを行なってもらうわけなのだが・・・」
そんな中、今回の肝試しの企画者である杉並が、仰々しく切り出した。
そしてその声は、まるでこの場の雰囲気に合わせたかのように低く、重々しい。
「その前に、今回の肝試しをさらに面白くするための、とっておきのスパイスを用意しよう」
「・・・スパイス?」
義之は聞き覚えのない話に、隣の渉に確認するように視線を向ける。
しかし渉も聞かされていないのか、驚いたような顔で首を横に振るだけだ。
「今回の肝試しのルールは、学園の七不思議にまつわる場所にばら撒いているコインを取ってくるというものだが・・・七不思議の内容を知らなければ、怖さは半減するだろう?」
「えぇ!七不思議!?」
「・・・どうしたんですか?お姉ちゃん」
杉並の「七不思議」という単語に対して極端な反応を見せた音姫に、由夢がキョトンとしながらも訊ねる。
「そっか・・・。由夢ちゃんと美冬ちゃんはまだ二年生だから知らないんだね」
その質問に答えたのは、音姫ではなくななかだった。
彼女も心当たりがあるのか、その表情は堅い。
「七不思議・・・というものがあるのは知っていましたが、内容は聞いたことありません」
「天枷さんもですか?私も似たようなものかなぁ・・・」
「だから、今その話をしようというのだ」
腕組みをしつつ、ニヤリと笑みを零す杉並。
「っていうかおまえ、いつの間にそんなもの調べてたんだよ?」
「なぁに、この俺の情報網を駆使すれば、赤子の手を捻るが如く簡単なことだ」
「あ、そ・・・」
義之は聞くだけ無駄だった、というように呆れながらため息を吐いた。
しかし考えてみれば、確かにより濃い恐怖を味わえるかもしれない。
義之も七不思議について知っているのはほんのお触り程度なので、音姫の反応からしてもなかなか期待は持てた。
「さて・・・それでは始めようか」
義之が周りを見渡すと、もう既に音姫は涙目で耳を強く塞いでいた。
こういう話が大の苦手の彼女が、このイベントに参加することさえ疑問なのだから、その行動は当たり前といえる。
しかし他の女性陣も、不安げな表情で身体を強張らせていた。
「まずは、風見学園七不思議その壱・・・”血まみれの旋律”からだ」
月の光しか届かない暗闇の中、ひっそりとした杉並の声が、第1の不思議から語り始めた。
D.C.U〜ダ・カーポU〜 SS
「自由な夢を・・・」
Written by 雅輝
<23> 新春肝試し大会(前編)
七不思議は「血まみれの旋律」から始まり、「呻く人体模型」、「旧焼却炉の怪」、「屋上のA子さん」、「昇降口の子供たち」、「姿見の噂」、「開かずの女子トイレ」と続いていき―――。
杉並が全てを語り終えた後には、不気味な静寂が漂っていた。
冬独特の冷たい寒風が、背筋を通り抜けるように吹き荒ぶ。
そんな張り詰めた空気を看破したのは、音姫の気が抜けそうな声だった。
「こ、怖かったよ〜〜」
そのまま地面にペタンと座り込んでしまいそうなほど脱力している.
それもそのはず、実際杉並の話す”七不思議”は、大の大人ですら怖がりそうなほどリアルに綴られていた。
義之も七不思議そのものは全て知っていたが、その内容は初めて聞いたものばかりだったので、内心では多少の恐怖心を隠せない。
音姫以外の女性陣も同様に、必死に平静は装っているもののやはりその顔はぎこちなかった。
「よ〜しっ、それじゃあ次はグループ分けだな!」
そんな中、やけに明るい渉の能天気な声が響き渡る。
義之は強がっているだけなのかとも思ったが、彼の様子を見るにどうやら違うようだ。
元々こういう怪談話に強いのか・・・はたまた、学園でもかなりレベルが高い4人の女の子の内2人と一緒に周れるのが、そんなに嬉しいのか。
ほぼ間違いなく後者であろうが、それでも渉の声に周りの面々の恐怖も何とか解けたようだ。
「そうだな、そうするか・・・ところで杉並。グループはどうやって決めるんだ?」
「いや、特に考えていない。まあジャンケンでよかろう」
「・・・それもそうか」
「あれれ?杉並君は参加しないの?」
ジャンケンをするべく6人が輪になったのだが、杉並だけその輪から外れ何やら取り出した小型無線機のようなものをいじっているのに気付き、ななかが当然の疑問を漏らす。
「ご名答。俺はここで待ってるから、存分に楽しんできてくれたまえ」
「でも杉並先輩って発案者ですよね?」
「そういえばそうですね」
「・・・杉並君、もしかして何か企んでるの?」
そして美冬、由夢からも同じように指摘され、音姫に至っては流石は生徒会長といったところだろうか・・・薄々何かに勘付いたようだ。
「やだなぁ先輩。そんなわけないじゃありませんか」
「・・・何?その爽やかでキモイキャラ」
「隠密行動時に使う、変装用のキャラ作りだ」
「あっ、そう・・・そんじゃま、ジャンケンするか」
これ以上何を言っても時間の無駄だと悟った義之は、杉並の方を向いている皆に呼びかける。
音姫は追及を遮られた形になり不満顔だが、義之と同じくこれ以上何を言っても無駄だと悟ると渋々こちらを向いた。
『さすがに音姉は勘がいいな・・・まあどっちにしろ、今は奴の計画通りに進めておいてやるしかないな』
「グーとパーだけだからな?ジャーンケーン――」
「ポイッ」という義之の声に合わせ、それぞれが手を出す。
そして偶然にも、グループ分けは一発で決まったのであった。
「さて、まずはどこへ行こうか?」
出発は渉のグループと同時だが、一緒に周っても面白くないので昇降口で早々に別れた。
そして今はまだ昇降口からはそれほど離れていない、校舎の二階の廊下。
ここからならチェックポイントのどこに行ってもあまり距離は変わらないので、義之は杉並から預かった学園の見取り図を手に前方の二人へと問いかけた。
「え〜っと・・・私はあまり怖そうじゃないところが・・・」
「私も天枷さんに賛成ですね。・・・どこに行くかは、兄さんに任せますけど」
振り向いた二人――由夢と美冬の返答に、義之はますます首を傾げた。
「う〜ん、とはいっても、どこも似たり寄ったりだと思うけどなぁ。じゃあここから一番近い、理科室にでも行くか」
理科室ということは、当然七不思議は”呻く人体模型”だ。
「効率よく周って、さっさと終わらせようぜ」
「そ、そうですね。兄さんも怖がっているようなので、そうしましょう」
「え?お兄さんも怖いんですか?」
「ん〜、まあまったく怖くないって言えば嘘になるかな。なんだかんだで雰囲気は出てるよなぁ」
義之はそう呟きながら、長い廊下の暗闇の先を見据える。
普段なら生徒で溢れ、その先には三階、一階に続く階段が見えるはずだ。
しかし今は、微弱な月灯りのみを頼りとする、自分がまったく知らなかった世界。
――「キャアアアアアアァァァァァァァッ!!」――
「「「!!」」」
と、その時。
どこか遠くから暗闇を切り裂くような悲鳴が轟き、3人はビクッと背筋を震わせた。
「今のは・・・たぶん音姉だな」
「み、みたいですね」
義之の呟きに、由夢が相槌を打つ。
音姫が怖がりなのは知っているし何も不思議ではないのだが、やはり実際にこういう悲鳴を聞いてしまうと恐怖心も増してしまう。
「もうあちらのグループはチェックポイントに着いたんでしょうか?」
「さあどうだろ?でも、チェックポイントにはたぶん杉並が何か仕掛けてあるだろうし、その可能性は高いな・・・うん?」
美冬の質問に考察を交えて答えていた義之の目に、何か黒い影のようなものが通り過ぎるのが映った。
長い廊下のさらに奥・・・どうやら、階段付近を横切ったようだ。
「? どうしたんですか、兄さん」
「いや・・・今、何かが横切ったような気がしてな」
「え?で、でも今この学園には私達しかいないんじゃ・・・」
「案外、人じゃなかったりしてな」
「ひっ・・・」
「も、もう兄さん!どうしてそんなことを言うんですか!?」
義之の言葉を間に受け悲鳴に近い声を上げた美冬を見て、由夢が射るような視線で抗議する。
しかしその顔は強張っていて、口調もいつもに比べて早足だ。
「はは〜ん。お前も怖いってわけだ?」
「なっ!ち、違いますよ!」
「そんなに目に見えるほど動揺せんでも、お兄ちゃんにはしっかりと分かってるからな、うんうん」
「む・・・」
由夢の恨めしい視線を軽く受け流しながら彼女をからかい続ける義之は、気付くことができなかった。
「・・・」
先程彼が見た、階段付近の黒い影の正体。
――そう、彼の後ろからゆっくりと忍び寄る、人外のものに・・・。
24話へ続く
後書き
予定より早くUPできました、23話です〜^^
さて今回は非常に中途半端なところで切ってみました。
続きが楽しみ・・・というのも、連載物の美点の一つですからね。
でもあんまり期待はせんでください。この話は”ホラー”ではないので・・・。
さてさて、重々しい雰囲気の中始まった肝試し大会。
夜の静けさ・・・そして膨らむ恐怖心と、まるで異世界などではと思える学園。
そういったものが、上手く皆様に伝わっていると良いのですが。
実際七不思議の内容は結構怖いですしね^^;
知らない人は、是非ゲームをご購入ください(←宣伝?)
でわ、またお会いしましょ〜^^