”ピーンポーーン”
「ん?誰か来たのか?」
来客を示すインターホンが芳乃家に響き、キッチンで料理をしていた義之は鍋に掛けていた火を止めた。
一応料理当番は、音姫が居る間は彼女と交代制になっている。
『折角イイ感じにカレーが煮立っていたってのに・・・また後で温めなおすか』
内心でぶつくさと文句を言っても、姉妹二人は上の自室(として宛がわれている部屋)に居るので自分が出るしかない。
「はいはい、ちょっと待ってくださいよ〜」
外の客人に呼びかけながら玄関で靴を履き、芳乃家特有の純和風式な引き戸を開ける。
するとそこには――
「おっす、義之!」
「義之くん、やっほー」
「邪魔するぞ、桜内」
「こんばんはです、お兄さん」
「・・・へ?」
どれも見覚えのある4つの顔が並んでおり、義之は唖然とした様子で間抜けな表情のまま固まってしまった。
D.C.U〜ダ・カーポU〜 SS
「自由な夢を・・・」
Written by 雅輝
<21> メンバー決定
「・・・で?みんな一体何の用なんだ?」
とりあえず4人を中に上げた義之は、皆で囲んだコタツに同じ様に足を入れてから、周りを見渡す。
渉、ななか、杉並、そして美冬・・・一見バラバラに見える組み合わせだが、おそらく渉とななかは肝試しの打ち合わせの為に杉並が連れて来たのだろう。
美冬はよく分からないが、もしかすると杉並が誘ったのかもしれないし、単純に由夢に用があって来たのかもしれない。
「ふっ、俺達は知っての通り、肝試しに関する打ち合わせだ」
「私、何も聞いてないんだけど・・・」
さも当然だと言わんばかりに自信満々に言う杉並に、ななかが抗議の声を上げる。
どうやら、事情も飲み込めない内に連れて来られたらしい。
「っていうか、何で杉並君が私の携帯番号知ってるの?」
「企業秘密だ」
「犯罪じゃないのか?それ」
義之の心底呆れたようなツッコミにも、杉並は肩を竦めてみせるだけ。
これ以上杉並に聞いても無駄だと悟った義之は、隣に居る美冬に話を振ってみた。
「美冬ちゃんは?」
「あっ、私は由夢ちゃんに借りてた本を返しに来たんですけど・・・入り口で先輩方と会って、折角なんで一緒に入れて貰ったんです」
「なるほど・・・」
義之の主語が抜け落ちた質問にも、その意味をしっかりと理解してさらに分かりやすく返してくれる。
『ホント、礼儀正しい子だよなぁ』
義之はそういう情報に疎いが、学内でも彼女は結構な数の男子に人気がある。
容姿も充分に美少女の部類に入るレベルだし、明るく気立てが良いと同級生の中では由夢に負けず劣らずの人気ぶりだ。
部活や委員会に所属していないので上級生はあまり知らない人も多いが、先日のクリパのミスコンで準優勝してからはその株も飛躍的に上昇している。
「くんくん・・・おい義之。良い匂いがするけど、何か作ってるのか?」
とそこに、キッチンから漂ってきた匂いを嗅ぎ付けた渉が、期待の眼差しを向けてきた。
「えっ?ああ・・・そういえばカレーを作ってる最中だった。美冬ちゃん、由夢も飯が出来たら下りてくるからもう少し待ってて」
「わかりました」
「え〜〜!義之くんって、料理作れるの!?」
何気ない義之の言葉に驚きの声を上げたのはななか。
「まあ・・・大体のものは作れるかな?結構長い間やってるし」
「へぇ〜、ちょっと意外かも。でも、料理を作れる男の人って良いなぁ〜」
うっとりとした顔でななかは義之を上目遣いに見上げる。
その頬を上気させた学園のアイドルに、義之が平常心でいられるわけもなく―――
「ちょ、ちょっと料理見てくる」
そう言うや否や、コタツから抜け出し急ぎ足でキッチンへと消えていくのであった。
「ん〜・・・もうちょいか」
「桜内」
カレーを小皿に少量取り味見をしていた義之は、背中から聞こえた声に振り向いた。
「杉並か・・・どうせ肝試しの話でもしに来たんだろ?」
「ご明察。で、その事についての相談なのだが・・・」
「何だよ?」
杉並はもったいぶるように今出てきた部屋を振り返り、いつの間にか打ち解けたななかと談笑している美冬の姿を確認すると、少し抑えた声で提案してきた。
「天枷美冬嬢も誘う・・・というのはどうだ?」
「は?」
その突拍子のない提案に、義之が怪訝そうな声を上げる。
「お前は知ってるかもしれんが、彼女は今年のクリパのミスコンで準優勝に輝いている」
「まあ知ってるが・・・それと美冬ちゃんを誘うのと、一体何の関係があるんだよ?」
「それは明かせん。言うなれば、今回の肝試しの核となる部分だからな」
「・・・本当に俺達には被害はねーんだろうな?」
「それは保障しよう」
自信満々に言ってのける杉並に、義之は「うーん」と頭を悩ませた。
確かに彼女は由夢の友達なのだから、由夢が参加するならば誘っても不思議ではないのだが・・・それを自分が誘うのはどうだろうか?
美冬とはまだ知り合ってから間もなく、友人というよりは由夢という親友を介しての知り合いにしか過ぎない。
例え誘うのを由夢に頼んだところで、今度は由夢に訝しげな視線を向けられるだろう。
「なぁに、そんなに深く考える必要は無い。年末を皆で楽しく過ごそうと言っているだけだ」
義之が何に悩んでいるのかを察した杉並が、尤もらしい言葉を口にする。
確かにそう言ってしまえばそこまでなのだが・・・。
「・・・まあいっか。乗りかかった船だ。そのかわり、誘えなかった場合は諦めろよ?」
「うむ、流石は我が同志だ。して、いつ言うのだ?」
「とりあえず、音姉と由夢が下りてきてからだな。さっきカレーのルーを足しておいたから、他のみんなにも食べてもらうことにしよう」
「了解だ。では俺は、あの3人に夕飯をご馳走になれる旨を伝えておこう」
「ああ。言うのは食べ終わって落ち着いた辺りにするけど、お前も加勢しろよ?」
「愚問だな。元々俺の計画なのだから、お前にばかり苦労を掛けるわけにもいくまい」
「お、おう」
杉並にしてはやけに殊勝な言葉に、義之は驚きながらも返事をした。
そして杉並がキッチンを去った後、鍋をかき混ぜながら考えるのは、先程の言葉の意味。
――「お前は知ってるかもしれんが、彼女は今年のクリパのミスコンで準優勝に輝いている」
「それは企業秘密だ。言うなれば、今回の肝試しの核となる部分だからな」――
「・・・もしかして」
そして行き着く、一つの答え。
その答えは、何年も杉並の悪友をやってきた義之だからこそ、推測できるもの。
それは、学年のアイドルであるななかを誘うという時点で、どこか引っかかっていた疑問だった。
「・・・まあそれならそれで面白いか。肝試しが終わってからでも充分に間に合うだろうし」
一人納得したように呟いた義之は、ようやく煮立った鍋の火を止める。
そして人数分の皿を出し終えた後で、二階にいる姉妹を呼びに階段を上がるのであった。
「――というわけなんだが、参加しないか?」
皆に「美味しい」と大評判だった夕食もすっかり片付き、一息ついたところで義之がようやく話を切り出した。
そしてたった今大まかな説明も終わり、女性陣に返事を求めているところなのだが・・・。
「肝試し・・・ですか」
「あんまり夜の校舎に行くのは賛成できないんだけどなぁ」
「兄さん、何か企んでます?」
美冬、音姫、由夢の反応は以上の通り、あまり良いものとは言えない。
それはそうだろう。いきなり「夜の学校で肝試しをしないか?」と問われれば、戸惑うのが普通の反応だ。
しかし一人考え込んでいた様子のななかは、少し期待したような瞳をこちらに向けてきた。
「ねえねえ。それって、義之くんも行くんだよね?」
「あ、ああ。俺は強制参加みたいなものだからな」
「それじゃあ、私は行ってもいいかなぁ」
「「えっ?」」
ななかの呟くような台詞に反応したのは、その両隣にいた朝倉姉妹。
そして姉妹の様子に頬を歪めた杉並が、たたみかけるように言う。
「そうだな。もし白河嬢だけのようなら、桜内と”二人きり”で周ることになる・・・それもよかろう」
「お、俺は?」
「当然、白河嬢以外に来なければ俺とだな」
「ぐはぁっ!」
頭を抱え悶絶しだした渉を尻目に、音姫と由夢は杉並の「二人きり」という台詞に頬を引き攣らせていた。
『なるほどな・・・相変わらず人の心理を突くのが上手いというか何というか・・・』
いつも感心してしまう杉並の話術。
それは巧みな言い回しだけではなく、このように相手の心理を上手く突けるからでもある。
「しょ、しょうがないなぁ。弟くん達だけじゃ心配だから、お姉ちゃんも着いて行ってあげるよ」
「そ、そうですね。兄さん達だけじゃ何をしでかすか分かったものじゃありませんから。私も行きます」
そして杉並の思惑通り、何かと理由を付けながらもOKする二人。
何となくこういう展開になることを予想していた義之は、一応由夢の隣にいる美冬にも質問してみる。
「美冬ちゃんはどうする?」
「そうですねぇ・・・」
顎に手を当て、美冬は何やら真剣に考え込んでいる。
てっきり即答で断ると思っていた義之にしては、その行動は意外だった。
「由夢ちゃんも行くんだよね?」
「う、うん」
「それじゃあ、私も行ってみよっかな」
美冬は由夢に向けてくしゃっとした愛嬌のある笑みを浮かべると、「宜しくお願いします!」と元気良くその頭を義之に下げる。
完全に呆気に取られていた義之は、ただコクリと頷くことしか出来なかった。
「んじゃな!」
「また明日ね、義之くん」
「明日をせいぜい楽しみにしておくがいい」
「お邪魔しました」
4人がそれぞれ別れの挨拶を義之に向け、芳乃家を後にする。
義之は解放感からため息を吐くと、そのまま二階の自室へと向かった。
居間――皆で夕食をとった場所は音姫と由夢が後片付けをしてくれ、そのまま音姫はキッチンに皿洗いとして残っている。
そして由夢は自室の方へと戻っているはずなのだが・・・。
「お?」
その部屋の前を通ろうとした時、不意に義之の耳に止まったのはご機嫌な鼻唄。
見ると、そのドアは数センチ開いており、その声の主は言うまでもなく――。
『珍しいな、由夢が鼻唄を歌ってるなんて・・・』
何となく興味を持った義之は、無粋な真似だと自覚しつつも好奇心に負け、そのドアをそっと押して気付かれないように中を見る。
「〜♪〜〜♪」
するとそこには、だらしなく緩んだ頬で鏡の前に立ち、今日自分が贈ったプレゼントを体に合わせている由夢の姿があった。
色々なポーズで、色々な角度から眺めては、時々思い出したように嬉しそうな笑みを浮かべる。
「・・・」
その光景を見た、義之は彼女に気付かれないようにそっと扉を閉ざす。
そして、自室に戻る途中――。
「ま、俺がやった事も無駄ではなかったってことだよな」
そう呟いた義之の表情は、とても優しく、そして穏やかだった。
22話へ続く
後書き
はい、ども。雅輝でーす^^
今回は何とか一週間足らずで更新できました。
色々と話を詰め込む内に少々長くなってしまいましたが・・・いかがでしたでしょう?
何とか次の話の時には肝試しまで進めたいと思いまして、予定より多く書くことになりました。
だってあまりコレ(肝試しイベント)で話数を取るわけにはいきませんからねぇ・・・ただでさえ50で収まるかどうか微妙なのに^^;
そんで内容ですが、ようやく美冬の出番が舞い降りましたね(笑)
相変わらずちょい役な渉に比べれば、雲泥の差。
一応美夏に代わってという設定なので、このSSではメインヒロインに当たるんですよねぇ。
あ、あくまでヒロインは由夢ですよ?メインヒロインというのは、ゲームで言うと攻略可能な6人のことです。
そして美冬も一緒に肝試しに行くことに。
少々強引に引きずり込んだ感がないわけではありませんが、由夢の親友なのでまあ理由としては悪くないかな?と。
杉並も何か企んでいるようですしねえ・・・義之はもう気付いたようですが。
次回・・・肝試しまでいけるかなぁ。
実はもう一つ描写しておきたい場面がありまして・・・それ次第では23話になる可能性も(汗)
それでは、相変わらず行き当たりばったりな作者でした^^