まるでパーティーの終わりを名残惜しむかのように、外は徐々に暗くなりつつあった。

この冬という季節、太陽が街を照らす時間が少ないので、もう少しすると辺りも真っ暗になるだろう。

空を仰いでみる。

今日は雲ひとつ無い快晴だったので、あと数十分もすれば綺麗な星空を楽しむことができるはず。

できれば、明日も今日ほどに晴れて欲しいものだ。

「・・・ふう」

校門に背を預けていた義之は、そんな事を考えながら少し膨らんだ腹を押さえつつ軽いため息を吐いた。

・・・パフェは義之の予想を遥かに超えていた。

たかが生クリームの集合体だろうと安易に考えていた義之だったが、食べていく内にそれが間違いだと知ることになる。

フルーツは勿論、チョコレートにプリンにゼリーにフレークに・・・。

とにかく考えられる甘いものを全て詰め込んだって感じだった。

この辺りがただのジャンボパフェとは違う、デラックスハイパー(超豪華)たる所以なのだろうか。

「・・・すぐ調子に乗るのは、俺の悪い癖だよな」

誰ともなしに自嘲気味に呟き、先程のことを思い出す。

――パフェを食べ始めて数十分。

6合目辺りまで完食したところでそろそろ止めようかと考えていた義之だが、ふと周りを見渡してみる。

すると、店員はおろか客までも「もしかすると、食べきれるかもしれない」という期待の目でチラチラとこちらを覗っていたのだ。

これは後から美冬に聞いた話なのだが、どうやらこのクラスは去年も同様に喫茶店を出し物にして、その時にこの”デラックスハイパー”を食べきれたものはいないらしい。

そして呆れ顔の由夢が働きながら見守る中、義之は燻る芸人魂に勝てず残り4合に再度手を伸ばしたのだ。

「・・・もう甘いものは見たくもねえ」

それでも結局完食してしまったのだから、感心というよりは呆れる他ない。

本人は気付いていないが、完食した時に起こった拍手は誰もが苦笑しながらだったことがそれを証明している。

未だに消化しきれていないスウィーティーな腹を撫で擦りながら、義之は目線を自分の背の高さの位置に戻した。

視界に映るのは、学校から出てくる生徒たち。

今日の余韻を楽しんでいるのか、明日の本番とも言える二日目を楽しみにしているのか――その顔は誰もが楽しげに見える。

しばらくぼんやりとその人の波を目で追っていた義之は、ふと腕時計に目を落とす。

――PM 6:13

最近買ったばかりのデジタル時計の表示に、「そろそろか」と呟いてもたれていた校門から身を起こす。

そのタイミングはまさにピッタリだったようで、彼の瞳には走ってくる二つのお団子が映った。





D.C.U〜ダ・カーポU〜 SS

             「自由な夢を・・・」

                      Written by 雅輝






<12>  叶った願い





「ごめん、兄さん。待った?」

「まあな。かれこれ一時間は」

「え!?」

「冗談」

事も無げに返した義之に、由夢はむっと頬を膨らませて抗議の視線を向けてくる。

「そんな冗談を言うために私を呼んだんですか?」

「実はそう・・・いや嘘ですごめんなさいだから手でグーを作るのはやめてくださいマジで」

二度目の冗談はさすがに笑えなかったらしい。

表情の無い顔で握りこぶしを作る由夢を慌てて宥める。

「はぁ・・・しょうがない。桜公園のクレープで勘弁してあげるよ」

「・・・あの、俺に拒否権は?」

「あると思ってる?」

「・・・さあ桜公園に行こうか」

無駄に爽やかな笑顔で先陣を切る兄に、由夢は彼の後ろに付いて行きながら気付かれないようにクスッと笑みを零していた。





桜公園内のベンチに、二人並んで腰を掛けている義之と由夢。

「おいし〜♪・・・って、兄さんは食べないの?」

「まあ今日は金が無いわけじゃないんだけどな。流石に今は何も食べたくない」

数週間前にほぼ同じ会話をしたのを思い出しつつ、由夢が持っている生チョコクレープを視界に入れないように空を見上げた。

先ほど校門前で行なった予想は見事的中したようで、本島から離れたこの島の夜空には眩いばかりの星が煌めいている。

「一口食べさせてあげるよ」

「や、やめてくれ!今そのクレープを見たら、たぶん俺はそれだけで吐ける!」

そんなどうでもいい事をやけに自信満々に言う義之に、由夢は呆れの表情を見せた。

「もう。変な意地を張って食べきるからそうなるんだよ」

「あのパフェを注文させたのは誰だよ?」

「少なくとも私は、兄さんの口から「それでいい」って聞いたと思うけど?」

「・・・はいはい、俺がわるーございましたよ」

これ以上言っても口では由夢に敵いそうにないので、義之は糖分で溢れている腹を撫でながら適当に譲歩する。

それに由夢は「分かればいいんだよ」と、再びクレープの消化に励んだ。





「ふう、美味しかった。で、結局なんだったの?」

「ん?何が?」

星空を見上げ何となく天秤座を探すのに夢中になっていた義之は、隣から聞こえてきた声に反応を示した。

・・・ちなみに天秤座は夏の星座なので、12月である今見えるはずはない。

「だから、私を校門前に呼んだ理由だよ」

「何だよ?兄が妹と一緒に帰ろうとすることは別に変ではないだろう?」

「それはまあそうなんだけど、天枷さんがすっごいにやけた顔で言ってきたから・・・」

「・・・なるほど」

その様は想像に難くない。

まだ2回しか話したこともない義之だったが、そういう彼女の性格くらいは何となく掴んでいた。

「それに、ただ一緒に帰るだけなら呼び出したりはしないでしょ?」

「もっともだな」

「それで、私を呼び出すほどの話って?」

三度目の問い。

さすがにそれ以上話を逸らす気も起きず、義之は目線をはぐらかしながら言葉に詰まった。

「え〜、だからだな。その〜・・・」

しかし、いざ言うとなればやはり恥ずかしいことには変わりない。

「??」

そんな兄の様子が珍しいのか、由夢が首を傾げる。

――今日は晴れていたと言っても、やはり夜になると冷え込みは一段と厳しいものになる。

落ち着かせようと深く吐いた義之の息も、真っ白になって星空へと昇っていった。

「・・・」

いくら冬の装いをしているとは言え、寒そうに手を擦り合わせながら待っている由夢を見ると、これ以上待たせるわけにはいかない。

『たかが妹を誘うだけじゃないか。何を俺はこんなに緊張してるんだ?』

義之はそう自分に言い聞かせて、意を決し口を開いた。

「なあ由夢」

「なに?」

「明日・・・暇か?」

”ドキッ”

不意にこちらを向いた義之に、由夢の心臓は鈍く疼いた。

しかも、明日といえば――。

「く、クリスマスパーティーの事ですか?特に予定はありませんけど・・・」

「そ、そうか。だったら、俺と一緒に周らないか?」

「えっ・・あ・・・う・・・」

自分でも頬が紅潮しているのがわかる。

わかっているのに、今の由夢はそれを止める術を知らない。

返事をしなくてはいけないと思うのに、この気持ちを言葉にする術を知らない。

「・・・う、うん」

それでもどうにかそれだけ告げて頭をコクンと縦に振ると、義之は安堵の表情を浮かべ脱力したようにベンチへともたれた。

「そ、そっか。まあたまには兄妹水入らずも良いよな?」

「そう・・・ですね」

由夢は未だ信じられない様子でぼんやりと虚空を見つめている。

――ほとんど諦めかけていた願いが叶ったのだ。

それも本番前日になって・・・何とも唐突に。

驚くなという方が無理な話である。

「で、でも兄さん。しらか――ななか先輩はいいの?」

由夢は義之の腕にしがみ付いているななかの笑顔を思い出して、思わずそう口にしていた。

「何でそこでななかが出てくるんだか・・・。それに、ななかは小恋と周るって言ってたぞ?」

一応その前に誘われたのだが、これ以上余計な波風は立てたくないので義之は黙っておいた。

どうせ結局は周らないのだから、言ってもしょうがないだろうとの考えだ。

「そっか・・・そうなんだ・・・」

目を瞑り確認するようにそう呟くと、ようやく実感が湧いてきて歓喜の感情が押し寄せてくる。

由夢はその真っ赤な顔で、はにかんだ笑みを作った。

「しょうがないですね。明日はモテない可哀想な兄さんの面倒を、見てあげることにしますか」

素直ではないその言葉の節々には、隠しきれない喜びが浮かんでいる。

そんな天邪鬼な妹の笑顔に、義之は暖かい気持ちを抑えきれず頬を緩ませ目を細めるのであった。



13話へ続く


後書き

はい、予定通りに12話UPです。

これにて1日目が終了。

13話は翌日から・・・まあクリパ二日目って事です。

ようやく由夢も誘えたことだし、思いっきり二人を動かして楽しむぞ〜^^


んで、話は変わりますが、もうすぐこのサイトも晴れて一周年を迎えます。

私も1週間前くらいまでリアルに忘れていましたが、一周年記念ということで10月5日になった時点で特別SSをUPします。

実はそのSS、もう書きあがってるんですよ。土、日、月3日間まるまる使って(汗)

ななかSSなのですが、作者的にも充分満足のいく出来に仕上がりました。

その内容は・・・まあ5日に(笑)


それでは、ななかSSの後書きで(ぇ



2006.10.2  雅輝