Memories Off SS

      「Present for・・・」

                       Witten by 雅輝




<3> もてもて智也君?



2時間目が終了した休み時間。

「ふっ、んん〜〜〜〜〜〜」

1、2時間目の数学の時間を、体力回復(要するに惰眠)に当てていた智也はようやく重たい体を起こすと、眠気を風に乗せて運ぶ儀式(ただの伸び)をしていた。

以前、かおるに「あやしい儀式」と言われた為やめようとしてはいるのだが、気がつけばやってしまっているのでしょうがない。

とそこに、

「智也さん」

本を持った銀髪の女生徒が話しかけてきた。

「おう、詩音。おはよう。」

「?、おはよう・・ですか?」

「ああ、おはようだ」

「ふふ・・・おはようございます」

彼女は“双海詩音(ふたみ しおん)”。

9月に海外から転入してきた彼女は、当初誰とも接しようとしなかった。

しかし、智也のおかげで徐々に心を開いていき、今ではすっかりクラスに馴染んでいた。

本と紅茶が大好きで、暇さえあれば本を読み、紅茶を淹れる腕は店を出せる程である。

美しく長い銀髪と整った顔立ちを持った、かなりの美少女である。

「それでどうしたんだ?」

「あっはい。この前智也さんが読みたがっていた本を持ってきましたので、良かったらお貸ししようと・・・」

と言って持っていた本を見せる。

「おお、あれか!わざわざありがとう詩音。喜んで借りることにするよ」

それは今話題の本で、読みたかったのだが仕送り生活の智也には買うのはもったいなく、諦めようとしていたものだった。

「い、いえ。智也さんに喜んでいただけて私も嬉しいです」

少々顔を赤らめながらいう詩音に智也は

『詩音顔が赤いけど・・・風邪でもひいてるのか?』

などと思っていた。

鈍感なところは相変わらずである。

「あと・・・もし宜しければ、今日の放課後に図書室の仕事を手伝ってくれませんか?」

詩音は図書委員で、智也も時々力仕事などを手伝ってあげている。

何も予定が無ければ、二つ返事で了承していたところだったが・・・

「・・ごめん、詩音。俺、今日は大事な用があるんだ」

いつに無く真剣な表情で謝られて、詩音は焦ってしまった。

「い、いえそんな、頼んでいるのはこっちなのですから、謝らないでください。

逆に私の方こそ申し訳ないです・・。手伝って頂いてるのに、ろくにお礼も出来なくて・・・」

しょぼんとしてしまった詩音を見て、智也の方も焦ってしまった。

「そ、そんなこと無いぞ。詩音にはいつも世話になってるし・・・だからそんな顔、しないでくれよ。なっ?」

「智也さん・・・ありがとうございます」

二人にいい雰囲気が流れたそのとき、

「キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン」

絶妙なタイミングで3時間目開始のチャイムが鳴り、

「ガラッ」

これまた絶妙なタイミングで教師が入ってきた。

「よ〜し、おまえら席につけ〜」

「あっ、それでは智也さん・・・」

「ああ。本、サンキューな」

「はい」

智也に微笑みを向けた詩音は嬉しそうな表情で席に着いた。


彩花はそんな智也と詩音のやりとりを、窓の外からじっと見ていた。

その目は何か言いたげだったが、決して口には出さなかった。

―――言葉にしてしまうと智也への想いが溢れてしまいそうだから・・・。

 

彩花は授業の間の暇つぶしに校内を散歩していた。

『智也とさっきの銀髪の娘・・良い雰囲気だったなぁ・・・』

もしかしたらあの娘が―――とも思ったがそうと決め付けるにはまだ早い。

「それにしても智也ってもてるよねぇ」

他人事のように呟く。

「さっきの二人もそうだけど、唯笑ちゃんも昔から智也のことが好きだし・・・きっとみなもちゃんだって・・・」

そう。みなもにはまだみなもが入院しているとき、退屈だろうと毎日お見舞いに行き、智也のことを聞かせてあげていた。

まあ、単に惚気ていたということもあるのだが・・・。

話を聞かせる度、みなもがまだ見ぬ先輩に憧れを抱いていくのに彩花は気づいていた。

『誰が智也の彼女なのかなぁ?』

まだいると決まったわけじゃないが、これだけの娘が好意を寄せているのに、いないわけがない。

勝手にそう決め付けた彩花は

「こうなったら絶対天界に帰るまでに、智也の彼女が誰なのか暴いてやる!」

良い意味で吹っ切れて、意気込んでいた。

 

「ではちょっと早いが、きりが良いのでここで終わる」

『よぉっっっしゃぁぁぁぁぁ!!!』

4時間目終了まで後十分。

国語教師の言葉に、智也は心の中で歓喜の雄叫びをあげた。

智也は一人暮らしなので当然弁当など無い。

だから智也はいつも購買部でパンを買っていた。

しかしこの学校の食堂は、味があまり良くないせいか人気が無い。

よって4時間目が終わると、購買部は猛者たちが集う戦いの場となるのだ。

智也もその猛者たちに交じって戦うのだが、それはかなり体力を消耗する上、目当てのパンを取り損なうこともしばしば。

以前は売り子のおばちゃんに取り置きしてもらっていたのだが、現在の人に替わってからはそれも出来なくなった。

しかし今日は十分も早く終わったため、楽勝でゲットできる。

そんな悦に浸っている智也に声をかける男がいた。

「おい、智也」

彼は“稲穂信(いなほ しん)”。

智也のクラスメートで、智也曰く「一番仲の良い顔見知り」だ。

顔立ちから黙っていれば女子にももてるのだろうが、その軽い性格のため彼女はいない。

しかし、ここぞという時に一番頼りになるのはこいつだろうと、智也は密かに思っている。

もちろん口には出さないが・・・。

「ん?なんだ信か・・・」

「おいおい、なんだはないだろう。せっかくお前の意識が飛んでいるところを助けてやったのに」

「お?」

「どうせ今日も購買だろう?さっさと行かないと、目当てのパンが無くなるぞ」

信の言葉に黒板の上に掛かっている時計を見てみると、4時間目終了まで後五分しかない。

どうやら五分もの間、悦に浸っていたらしい。

「おおっ、もうこんな時間か。確かにそろそろ行かないとやばいな」

「ということで、お前を救ってやった俺にコーヒー牛乳でも奢って・・・」

「助かった、信。それじゃあ行ってくる」

「って、おい!!ちょっと待て〜〜〜!!」

後ろでなにやら喚いている信を無視して、智也は階段を駆け下りた。

 

丁度その頃、彩花は購買にいた。

「ここは・・購買部か。そういえば智也はお昼ご飯どうしてるんだろう?」

以前は毎日、料理の得意な彩花が手作り弁当を作ってあげていたのだが・・・。

『今の彼女さんが作ってあげてるのかなぁ』

などと思っていたその時、

「ふぅ〜。あまり急ぐ必要なかったかな」

背後から智也の声が聞こえた。