Piaキャロットへようこそ!!2 SS

          「Piaキャロ2 〜another summer〜」

                          Written by 雅輝


<3>  休日の勉強会(前編)



「ふぁあ〜」

耕治は眠気眼を擦りながら、一度大あくびをする。

今日は日曜日。

週六日という殺人的シフトに入っている耕治にとっては、一週間で唯一の安息日だ。

ぼ〜っとした頭で、壁に掛かっている時計の時刻を確認する。

『なんだ、まだ9時か・・・』

今日は一日中だらだら過ごすつもりだった耕治は、薄い布団を腹部にかけて二度寝に突入しようとした。

だが・・・。

”トゥルルルルルルル トゥルルルルルルル”

「・・・」

枕に勢い良く頭を沈めた途端、鳴り響く電話の音。

耕治はしぶしぶ起き上がり、「誰だよ、こんな朝っぱらから・・・」とごちながら受話器を取る。

「もしもし、前田です」

「おっ、耕治か?矢野だけど・・・」

電話の相手は耕治の親友というか悪友というか・・・腐れ縁が一番適当な表現だろうか・・・矢野真士だった。

真士がこうして電話を掛けてくる時は、大抵ナンパの誘いだった。

せっかくの休日をそんなことになど使いたくない耕治は、

「今日暇か?だったら・・・」

「この電話番号は現在使われておりません。番号をもう一度お確かめの上、この番号には二度と掛けて来ないでください」

と言い放って相手の返事も聞かず、がちゃっと電話を切った。

「ったく。真士の奴・・・こんな朝っぱらから電話して来やがって・・・」

”トゥルルルルルルル トゥルルルルルルル”

寝なおそうと、ベッドへと向かう耕治を再び電話の音が止める。

「・・・」

一瞬このまま出ないでおこうかとも考えたが、真士以外からの電話だったら大変なので、一応出てみることにした。

「・・・もしもし、前田です」

「おいっ!さっきはいきなり切りやがって・・・一体どうゆうつも」

「この電話は、現在電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため掛かりません。仮に繋がったとしても話すつもりはさらさら無いので、さっさと諦めることをお勧め致します」

真士の話を遮るように、何気に酷いことを言って電話を切る耕治。

まあこれも、親友という間柄だから成せることなのだろう。

・・・たぶん。

”トゥルルルルルルル トゥルルルルルルル”

「・・・」

受話器を置いた途端、三度コール音が鳴り響く。

このまま相手をしないと一日中掛かってきそうなので、耕治は本当に嫌々という感じで受話器を取る。

「しつこいぞ、真士!たまの休みくらいゆっくりさせろ!!」

「えっ?あ、あの・・・その・・・」

「・・・って、あれ?」

絶対に真士だと思い、二度寝を邪魔された恨みも込めて怒鳴りつけてしまったが、どうやら困惑している電話の相手は女の子のようだ。

『う、うわ〜〜、やっちまった〜〜』

思わず手を顔に被せるように置き、天井を見上げる耕治。

「え、えっと・・・日野森美奈と言いますが、前田耕治さんはいらっしゃいますか?」

『えっ、美奈ちゃん!?』

放心状態のため、ほとんど耳に付けていなかった受話器から聞こえたその声に、耕治はしっかりと受話器を握り直し耳にしっかりとあてがう。

「もしもし美奈ちゃん?」

「あっ、耕治さん。おはようございます」

「うん、おはよう。さっきはごめんね?友達からの電話だと思って・・・ホントにごめん!」

「いえ、いいんですよぉ。美奈、全然気にしてませんから・・・。ちょっと驚いちゃいましたけど」

「エヘヘ」と笑いながらそう言う美奈。

『本当に優しい娘だよな・・・。美奈ちゃんって』

「ありがとう・・・。えっと、それで今日は何か用事かな?」

「あっ、はい。実は少しお願いがあって・・・」

「お願い?」

『なんだろう・・・。美奈ちゃんからこういう話はされた事が無いから、なんか妙に緊張するぞ』

「はい・・・。そのお願いというのは・・・実は・・・」

『・・・ゴクッ』

「勉強を見て欲しいんです!」

「・・・へ?」

自分の予想していた内容とかなり違うことに、思わず間抜けな声が出てしまう耕治。

耕治が何を考えていたかは・・・あえて言わないでおこう。

「えっと・・・なんでそういう話になったのかな?」

「実は美奈、夏休みの宿題を早く終わらせたいんですけど、分からない問題があって・・・。あずさお姉ちゃんは今日シフトに入ってますし、耕治さんが前に教えてくれるって言ってたから・・・」

『・・・あっ、そういえば一昨日に・・・』



――「耕治さん。やっぱり三年生も夏休みの宿題ってあるんですか?」

――「うん、先生が受験の事を配慮して、一・二年の時よりは少なくなってるけどね。それでも多いことには変わりないよ」

――「そうなんですか・・・。美奈の学校も、夏休みの宿題がいっぱい出ちゃって・・・。後半は研修旅行があるから早めに終わらせたいんですけど、難しい問題とかもあってなかなか捗らなくて・・・」

――「・・・良かったら、今度勉強見てあげようか?」

――「えっ、いいんですか?」

――「うん。高一の内容だったらなんとか解ると思うし・・・もちろん、美奈ちゃんが嫌だったら話は別だけど・・・」

――「そ、そんな事あるわけありません!!そ、それじゃあ今度頼んじゃっていいですか?」

――「もちろん!あっ、これ。俺の家の電話番号だから、何かあったら掛けて来てね?」

――「はい♪ありがとうございます」



『・・・なんて会話を休憩の時にしてたような気が・・・』

「あの・・・やっぱりご迷惑ですか?」

しばらく何も言わなかった耕治に対して心配になったのか、美奈がおどおどと尋ねかける。

「いや、そんな事無いよ。美奈ちゃんだったら大歓迎さ!」

本当ならだらだらと過ごすつもりだったが、美奈からのお願いとなれば別だ。

正直なところ、耕治も可愛い妹のような美奈と一緒に勉強するのは悪い気はしない・・・というか、むしろ嬉しかったりする。

「あ・・・」

そんな耕治の言葉に、美奈は電話口で思いっきり照れていた。

「それじゃあ今日の・・・昼でいいかな?一時くらいに俺の部屋に来てくれる?」

「はい、分かりました♪」

「あっ、場所分かるかな?」

「あずさお姉ちゃんのお部屋には何度か行ったことがあるので・・・たしかその隣の部屋でしたよね?」

「うん。それじゃあ、待ってるから」

「はい、では後でお邪魔しますね?」

電話が切れたのを確認して、受話器を置く。

”トゥルルルルルルル トゥルルルルルルル”

その瞬間、今日四度目のコール音が鳴り響く。

『ん?美奈ちゃん、何か言い忘れたことでもあったのかな?』

「はい、前田・・・」

「おいっ、やっと出やがったな!?二度も途中で切りやがって!」

さすがにそろそろ相手をしないと本格的に怒ってしまいそうなので、耕治は観念してしらじらしく話しかける。

「よお、真士か。おはよう」

「おはよう・・・じゃねーよ!はぁ・・・もういい。耕治、午後から暇だろ?ちょっと街に出ようぜ」

『やっぱり、ナンパの誘いだったか・・・。相手にしなくて正解だったな』

『しかしここまで予想通りに行動してくれるとは・・・』と耕治は呆れを通り越して、少し悲しくなってきた。

「悪いな、真士。実はついさっき予定が入ったんだ」

「ちぇ〜、なんだよそれ。分かったよ。今日は諦める・・・。その代わり、次は付き合えよな」

「ああ、それじゃあな」

受話器を置き、今日四度鳴り響いた電話はようやく落ち着いた。

『最初の電話の時に断れば良かったかな?』

結局真士から三度も電話が来た事と、真士があっさり引き下がった事を考えると、今更になってそれが一番良かったような気がしてくる。

『まあ、おかげでばっちりと目も覚めたことだし・・・部屋の片付けでもするか』

耕治の部屋は男の一人暮らしにしては片付いている方だが、それでも女の子を呼ぶのにこのままで良いなんて事はない。

『まずはこれだよな・・・』

とりあえず秘蔵の本やビデオから片付け(隠し)始める耕治であった。





「ふんふ〜ん♪」

「あら、美奈ちゃん、ご機嫌ねぇ。どこに行くの?」

美奈が玄関で鼻歌を歌いながら靴を履いている所に、現在日野森姉妹がお世話になっている叔母が話しかけてくる。

「はい♪ちょっとバイト先の人に勉強を教えてもらって来ます」

嬉々として答える美奈に、割と勘の鋭い叔母は何かを感じ取ったようだ。

「へえ〜・・・もしかして男の人かしら?」

「え、あ、あの、その・・・」

目に見えて動揺してしまう美奈。

「美奈ちゃんの彼氏だったりして〜?」

「ち、違いますぅ!」

美奈は顔を真っ赤にして反論する。

「あはは、ごめんなさいね。少し意地悪が過ぎちゃったかしら・・・。晩御飯までには帰ってくるのよ?」

「は、はい。じゃあ行ってきま〜す!」

元気に家を出て行く美奈を見送って、彼女の叔母―日野森佐恵子(ひのもり さえこ)はポツリと呟く。

「・・・もう、あんな年頃なのね」

美奈が家に来て早十年。

成長した我が子――正確には夫の弟夫婦の娘なのだが――を見ていると少し感慨深げになってしまう。

「美奈ちゃん・・・頑張ってね」

今はもう見えない美奈に、佐恵子は一言、激励の言葉を送った。

4話へ続く


後書き

今回は長くなりそうだったので、前後編に分けました。

いや〜、あずさSSなのにまったくあずさが出てきませんでしたねぇ。

たぶん後編も出番少ないかと・・・。

そうそう、言い忘れてましたが、真士はあずさの存在を知りません。

あずさと耕治が口論しているとき、真士は気づかずにPiaキャロットに向かっていたという設定で。

よって真士とあずさのからみは無しです。

二人のからみを入れると、どうしても本編と似たような展開になってしまうので・・・。

だから今回の真士君の役割は、ネタ詰まり用のサブキャラで(笑)。

あと、あずさたちの叔母の名前は勝手に決めちゃいました。

なんとなく語呂がいい名前を考えて・・・まあ実際20秒くらいで決まりましたけどね(笑)。

それでは、次の更新で会いましょ〜。

2005.11.19  雅輝