キャロット研修旅行二日目。

ロッジで行なわれた全員参加でのバーベキューも終了し、一同は満ちたお腹を擦りながらゆっくりとしていた。

とその時・・・。

「クゥ〜ン、クゥ〜ン」

「え?・・・きゃああ!!」

あずさの甲高い悲鳴と共に、彼女の陰から何とも可愛らしい客が姿を現した。





Piaキャロットへようこそ!!2 SS

          「Piaキャロ2 〜another summer〜」

                          Written by 雅輝





<24>  キャロット研修旅行(中編)




「わぁっ、可愛い〜〜♪」

紛れ込んだ客――小さな子犬を、真っ先に抱き上げて頬ずりする美奈。

「本当、可愛いわねぇ」

「首輪は付いていないようだけど・・・一体どこから来たのかしら?」

「美奈ちゃん、いいなぁ〜。後でボクにも抱かせてよ♪」

思わぬ来訪者に他の女性陣も続々集まってくる。

「うぅ〜、ミーナ、噛まれちゃうわよぉ;」

しかしそんな中、美奈を盾にするように身を隠している女性が一人。

「へぇ〜、日野森って犬が苦手だったんだ?」

「うっ・・・そうなのよ。小さな頃、大きな犬に手を噛まれたことがトラウマになっちゃって、それ以来こんなに小さな犬でも・・・」

「キャン、キャン!」

「きゃっ!」

「・・・と、まぁこんな感じなんです」

話の途中に犬に吠えられただけで、軽い悲鳴を上げてしまったあずさを、美奈がクスクスと笑いながら説明する。

「も、もうミーナったら・・・」

「えへへ、ごめんなさい♪」

照れた様子で非難するあずさに、可愛らしくペロっと舌を出して謝る美奈。

「でも、ホントにどこから来たのかしらねぇ?」

そんな中葵が、子犬の頭を優しく撫でながら誰とは無しに問いかけた。

「う〜〜ん、やっぱり迷子なんじゃないかなぁ?」

「そうね。首輪が付いてないところを見ると、近くに母犬がいるんじゃないかしら」

つかさが人差し指を立てながらどこかの探偵っぽく答えると、葵と同じく子犬の体を擦ってあげていた涼子も同意する。

そして耕治はというと・・・。

『犬って”迷子”っていうのかなぁ?”迷い犬”の方が正しいような気もするけど・・・』

などと、少しずれたことを考えていた。



「すみませ〜ん、誰かこの子のお母さんを知りませんか〜?」

「すみませ〜ん!」

「お願いしま〜す!」

そして話し合いの結果――特に美奈の強い要望で――、全員で母犬を探してあげることに。

しかし探し始めてからもう既に2時間が経とうとしていたが、未だに収穫は無し。

ロッジの周辺にいる人にはほとんど訊いて回ったのだが、期待するような答えは返ってこなかった。

「ふう・・・」

耕治は吹き出てくる汗を拭いながら、汗を吸い取って少し重くなったバンダナを外す。

8月も下旬に差しかかったとはいえ、まだまだ残暑は厳しい。

田舎独特の涼風が時々吹き込むが、それでも最高気温が30度を超える日に歩き回っているとさすがにきついものがある。

ふと周りを見渡してみても、やはり暑さのせいか・・・一緒に近くを探していたあずさとつかさ、そして美奈も疲労を隠せない様子だった。

「大丈夫だからね、ワンちゃん。きっと美奈がお母さんを見つけてあげるから・・・」

丸太でできた椅子に座って足を休ませながら、美奈が子犬を悲しげにぎゅっと抱きしめる。

『美奈ちゃん・・・』

その気持ちは痛いほどよく分かる。

優しい美奈にとっては、母親とはぐれてしまった子犬を見捨てることなんて絶対に出来ないことなのだろう。

いや・・・もしかしたら自分が幼い頃に母親と死別したことで、その子犬と昔の自分を重ね合わせているのかもしれない。

このままでは美奈は、きっと母親を見つけ出すまでこの場を離れようとはしない。

存在するかどうかも定かではない母親を見つけ出すまで・・・。

『・・・そういうわけにもいかないよな』

「美奈ちゃん」

決心した耕治は、片手で足をほぐしている美奈にそっと話しかけた。

「・・・耕治お兄ちゃん」

いつもより反応速度が遅いところとその顔色から見ても、美奈はだいぶ疲労しているようだった。

美奈が一番精力的に、母犬探しに尽力していたのだから当たり前といえば当たり前なのだが・・・。

「・・・もうそろそろ夕方になる。危ないから、お母さんを探すのはこの辺で止めよう」

耕治は同じ目線の高さになるようしゃがみ込んで、できるだけ優しい声を意識して美奈を諭す。

美奈の瞳がその言葉に驚いたように一瞬揺れたが、すぐに俯いて一言。

「・・・嫌です」

「・・・でも、もうみんな疲れてるみたいだし、何より美奈ちゃんが一番疲れて――」

「嫌ったら嫌です!!」

耕治の言葉を遮るように、美奈がかぶりを振って拒否する。

そして腕の中にいる子犬を、まるで離すまいとするようにぎゅっと抱きしめた。

『しょうがない。これだけは言いたくなかったんだけど・・・』

今から言う言葉は、彼女を傷つけるかもしれない。

彼女に嫌われるかもしれない。

でも、それが彼女の為になるのなら・・・。

「・・・こんな事あまり言いたく無いけど・・・もうその子のお母さんは死んでいないのかもしれないんだ。それでも探すのか?」





耕治の言葉を聞いた瞬間、美奈は一気に頭に血が上ってしまった。

その相手がたとえ好きな人であっても・・・美奈は感情をぶつけずにはいられなかった。

「何で・・・何でそんなことを言うんですか!!」

「何で、そんな悲しいことを言うんですか!!」

「耕治お兄ちゃんの・・・バカぁ!!!」

瞳に涙を溜めながら叫ぶ美奈に、三人は口を開けなかった。

しばらくして落ち着いたのか、美奈が沈んだ声で

「・・・ごめんなさい。美奈、先にホテルに戻ってますね」

そう言って、ホテルの方へと走っていってしまった。

「あっ、美奈ちゃん待って!」

そして、つかさも美奈の後を追って走り出す。

後に残ったのは、所在無く立ち尽くしているあずさと、しゃがみ込んだままの耕治だけとなった。

「・・・前田君」

あずさが、まだ立とうとせず背中を向けている耕治に遠慮がちに話しかける。

「日野森・・・」

耕治はその声でようやく立ち上がり、あずさの方に向き直る。

「ごめんな?美奈ちゃんを、傷つけてしまって・・・」

「ううん、いいの。さっきの言葉はミーナの事を想って言ってくれたんでしょ?」

「まあ・・・な」

「丁度私も言おうとしていたところだったの・・・。あの子、ああいう事になると周りが見えなくなっちゃうから」

「それだけ、美奈ちゃんが優しい女の子だってことだよ。普通はあそこまでできるもんじゃない」

「・・・そうね。でも、本当にごめんなさい。本来なら私が言うべきことだったのに・・・」

「いや、別にいいさ。何だかんだ言って、俺も美奈ちゃんが心配だっただけだし」

「・・・」

「さて、そろそろ帰るか。と・・・その前に店長さん達に伝えないとな」

「え、ええ。行きましょう」

「う〜んっ」と伸びをしながら歩き始める耕治と、何故か心持ちぎこちない笑顔を浮かべたあずさ

二人は、別の場所を探していた祐介・涼子・葵にこの事を伝えて、ホテルへと戻っていった。





「ふぅ・・・」

今にも消え入りそうなため息を一つ吐いて、あずさは今しがた戻ってきたばかりのベッドに身体を沈めた。

「・・・」

”ゴロン”と、うつ伏せになっていた身体を仰向けにして、ぼんやりと電灯すら点いていない天井を眺める。

そのままそっと目を閉じてみると、頭に浮かんでくるのは先程の耕治の言葉。


――「いや、別にいいさ。何だかんだ言って、俺も美奈ちゃんが心配だっただけだし」――


「心配・・・か・・・」

再び目を開けて、夕陽が眩しく輝いている窓の外へと目をやりながら、あずさはポツリと呟いた。

「やっぱり、前田君はミーナのことが・・・」

その続きを口に出すことに躊躇いを覚えて、あずさは口を閉ざしてしまう。

たとえ、自分は身を引くべきだと理解していても、その言葉は自ら言いたくなかったから・・・。

しかしまともに考えれば、心配=好きという等号式にはならないだろう。

しかも耕治の性格から考えれば、その相手が美奈でなく、つかさであっても、早苗であっても・・・勿論のことあずさであっても心配しただろう。

だが、ここ数日の出来事で頭の中がぐちゃぐちゃになっている今のあずさには、そんなまともな思慮はできなかった。

『・・・寝よう・・・』

昨夜も遅くまで眠れなかったあずさは疲れのせいか、急激な眠気に逆らうこともなくその瞼を閉じた。



25話へ続く


後書き

ちわっす、雅輝です^^

当初は前後編にしようと思っていたのですが、予想以上に今回の話が長くなってしまったので中編としました。

次回は研修旅行最後の夜。

それも美奈シナリオでいこうと思ってます。

・・・プレイしたことのある人は(っていうかほとんどそうなのかも・・・汗)、もうだいたいどんな話になるか分かりますよね?

それではまた次話の後書きで会いましょ〜^^



2006.2.17  雅輝