「耕治ちゃ〜ん、入るよ〜?」

「うん?いいよ」

民宿の自分の部屋でのんびりと横になっていた耕治は、扉の外から聞こえた声に上半身を起こした。

”がちゃ”

「葵ちゃんが、楽しいイベントをやるから涼子さんの部屋に集合だって」

声の主はつかさで、部屋に入ってくるなり早速用件を耕治に伝える。

「楽しいイベント?何それ?」

「さあ?よくわかんない」

『なんだろう・・・?葵さんが主催って地点であまり良い予感はしないけど・・・』

耕治はつかさの回答を聞いて、何気に酷いことを考える。

もし今の考えを葵に知られでもしたら、即刻”あのこと”をバラされていただろう。

「分かった。わざわざありがとう、つかさちゃん」

耕治はそう言ってつかさに穏やかに微笑む。

「う、ううん。これぐらい何でもないよ。あっ、じゃ、じゃあボクもう行くね?あずささん達にもこのこと伝えなくちゃいけないんだ」

つかさは軽く頬を染めて、あたふたしながら部屋を出て行った。

「? つかさちゃん、どうしたんだろう?なんか急いでたみたいだけど・・・」

そして部屋の中には、首を捻りながらごちる男が一人。

・・・やはり耕治は果てしなく鈍感だった。





Piaキャロットへようこそ!!2 SS

          「Piaキャロ2 〜another summer〜」

                          Written by 雅輝





<13>  真夏の夜の肝試し(前編)




”がちゃ”

「失礼しまーす」

「耕治君、遅〜い☆もうみんな来てるわよ〜?」

葵の部屋に入ると、耕治以外の全員が既に来ていた。

しかも主催の葵は妙にテンションが高い。

『まさか・・・』

ほのかに赤くなった顔。

そして葵の足元には、中身が無くなったビール缶がざっと見て5,6本。

『・・・まずい。嫌な予感しかしない』

耕治はその嫌な予感を払拭したくなり、葵におずおずと訊ねる。

「あの、葵さん・・・。ひょっとして酔ってます?」

「や〜ねぇ、耕治君たら♪酔ってるわけないでしょ?」

『・・・完全に酔ってるな』

予感的中。

無事に帰れる可能性が50%から一気に20%にダウン。

『そうだ!涼子さんは?』

耕治はいつも暴走する葵を諌めてくれる、キャロットの女神様に救いを求めようと視線を巡らせると・・・

「まえらく〜ん♪そ〜んな所に立ってらいでこっちにいらっひゃいよ〜」

『・・・終わった』

缶ビールは両手で持ちながら真っ赤な顔をしたキャロットの敏腕マネージャーは、既に呂律すら回っていなかった。

無事に帰れる可能性が20%から一気に3%にダウン。

「あの・・・それで葵さん。一体何をするんですか?」

げんなりした耕治が畳に胡坐を掻いたとほぼ同時に、あずさが葵に質問する。

まだ葵以外、誰も何をするか知らないのだ。

「ん?そうね〜。耕治君も来たことだし・・・そろそろ発表しようかな☆」

葵がもったいぶるようにそう前置きを置いたので、雑談していた美奈とつかさも姿勢を正して葵の方を向く。

「それでは、第一回キャロット肝試し大会の開催をここに宣言します!!」

「わぁ〜、わぁ〜。葵ちゃんかぁっくい〜☆」

「「「「・・・」」」」

酔って葵を囃し立てている涼子以外、一同は無言になる。

「・・・あの葵さん。肝試しって・・・今からですか?」

あずさが一同の意見を代表して、葵に確認する。

もう時刻は10時を過ぎており、あまり外には出たくない時間となっている。

「大丈夫よ〜。そんなに遅くならないと思うし・・・。それに耕治君もいるじゃない?」

「で、でも・・・」

尚も言いよどむあずさに、葵は身を寄せて耳元で囁く。

「それとも・・・耕治君じゃご不満?」

「だ、誰もそんなことは言ってません!」

真っ赤な顔で怒るあずさに対して、葵はしたり顔でにやりと笑う。

『やっぱりね・・・。あずさちゃんは耕治君に脈ありみたいだわ』

『そうね。このまま行けば上手く仲直り出来るかも・・・』

そんなあずさの様子を見て、葵と涼子はアイコンタクトで会話をする。

実はこの二人、ほとんど酔ってはおらず演技をしているだけなのだ。

その理由はもちろんあずさと耕治を仲直りさせるため。

酔った勢いで肝試しを開催し、二人の仲を取り持とうという作戦だ。

『あとはあなた次第よ。耕治君☆』

葵は激励の意味も込めて、俯いてぶつぶつ言っているあずさの死角から耕治に向かってウインクをする。

「?」

もちろん、鈍感な耕治はその意味をまるで理解出来ず、つかさに腕を引っ張られるとすぐにそちらに意識が行ってしまった。

「ねぇ、耕治ちゃんは行くよね?」

「えっ?」

「う〜。美奈、怖いからあんまり行きたくないですぅ」

「大丈夫だよ、美奈ちゃん。いざとなったら耕治ちゃんが守ってくれるから!ね?」

「え?ああ・・・うん」

つかさに期待の眼差しで見つめられ、耕治はなし崩し的にOKしてしまった。

『・・・ま、いっか。宴会よりはよっぽどマシだしな』

葵主催の宴会など、それこそ地獄絵図のような状態になる。

しかも耕治は結構酒に強いため、一番苦労するタイプなのだ。

正直、今日は無事には帰れない覚悟をしていたので、肝試しをするというのは耕治にとってかなり悪くない話だ。

「耕治さんが行くなら、美奈も行ってみようかなぁ」

「え?ミーナ!?」

美奈がおずおずと・・・でもどこか嬉しそうな顔で参加すると言うのを聞いて、あずさは驚いたような焦ったような声を出す。

「さあ、どうするのあずさちゃん?どうしても嫌なら無理にとは言わないけど・・・」

そんなあずさに、葵が意地の悪い笑顔を浮かべる。

それでもまだ考え込んでいる様子のあずさに、つかさと美奈がとどめの一言を放つ。

「じゃあ、耕治ちゃん!ボクと一緒に回ろうよ!」

「えぇ〜?耕治さんは美奈と回るんですぅ!」

「!!」

『駄目よ!前田君は私と一緒に回るんだから!』

驚いた拍子に不意に口に出しそうになった考えに、あずさははっとしてその感情を押さえ込んだ。

そして目の前で、二人に言い寄られて困っている耕治を見て決心する。

耕治に謝ることが出来るチャンスかもしれない・・・そう考えると自然と勇気が湧いてきた。

「ミ、ミーナが行くならしょうがないわね。私も一緒に行くわ!」

明らかに強がっている口調でそう言ったあずさを見て、葵と涼子は互いに目を合わせて満足そうに微笑んだ。





「結構暗いなぁ」

民宿の裏手にある鬱蒼と生い茂った森を見て、耕治が誰ともなしに呟く。

目の前に広がる森林は月夜だというのに、先が見えないほど闇で覆い尽くされていた。

「さあ、組み合わせを決めるわよ〜♪」

そんな暗さなど物ともせず、葵のテンションは相変わらず高い。

しかし不安すら湧いてくるその場所では、葵のハイテンションは一同にとってありがたいものだった。

「・・・って、あれ?みんなで一緒に行くんじゃないんですか?」

”組み合わせ”と聞いて、あずさがふと思った疑問を口に出す。

「な〜に言ってるのよぉ?肝試しの醍醐味といったら組み合わせ抽選会じゃな〜い♪」

「「「「・・・」」」」

『『『『そうなのか(なぁ)?』』』』

葵の無茶苦茶な理論に、メンバーは全員心の中で疑問に思う。

しかし酔っている葵に何を言っても無駄だというのはよく分かっているので、誰一人としてその疑問を口に出す者はいなかった。

「あっ、そうそう。2人と3人に別れるから、当然耕治君は2人のほうね?」

「いや、まあそれは良いですけど・・・ん?そういえば涼子さんはどこに行ったんですか?」

先程まで一緒に来ていた筈の涼子がいないので、耕治は少し焦って葵に訊ねる。

「涼子はこの森を抜けた所にある、ゴール地点の墓場で待ってるわ」

「ええ!?涼子さん、相当酔っていたようですけど大丈夫なんですか!?」

思わずさらっと答えてしまった葵に、耕治が驚いて詰め寄る。

『あっちゃ〜。そういえば涼子はべろんべろんに酔っている演技をしてるんだった・・・』

まさか「あれは演技だったのよ〜、あはは」なんて答えれる訳がないので、

「それだったら大丈夫。もうだいぶ酔いが醒めたようだったから」

葵は何でもないように装いながら、適当な嘘をつく。

「・・・そうですか」

耕治は微妙に納得していない様子ながらも、とりあえずは納得してくれたようだ。

「さあ、組み合わせを決めるわよ〜」

葵は内心安堵のため息をつき、あらかじめ用意していた三本の紐を、全て片方を見せないように手で覆いながら取り出す。

「この中で一本だけ赤い印が付いた紐があるわ。・・・まあ、当たりってやつね。それを引いた人が耕治君とペアで先に出発、残りの二人は私と一緒にその後から出発するってことで」

それを聞いた美奈とつかさは、必死に『当たりが出ますように』と心の中で呟き続ける。

一方のあずさも、外面は冷静な態度を装いながらも、内心かなりドキドキしていた。

『前田君とペアになったらどうしよう?昼間はミーナがいたけど、今度は二人っきりになるわけだし・・・。あっ、でも、謝る絶好のチャンスかも・・・』

「じゃあ、このクジを、そうねぇ・・・あずさちゃんから引いてもらおうかな?」

「えっ、あ・・・はい」

葵に生返事を返したあずさの目の前に出される三本の紐。

美奈とつかさも緊張した面持ちで、紐の行方を見守っている。

『どうせ謝るんだったら、早いに越したことはないわよね。・・・どうか当たりますように』

あずさは心の中でそう祈りながら、差し出される紐の内の一本をそっと引き抜いた。




14話へ続く


後書き

新年、あけましておめでとうございます!

・・・ってことで、2006年最初のSSです。

初書きってやつですかね?

で、そのSSですが、かなり中途半端なところで終わらせました。

もちろんネタ切れではなくて、続きも考えてあるんですけど・・・まあ分かりますよね?(笑)

仲直りできるかどうかは・・・まあ次回をお楽しみにってことで(汗)。

でもこの旅行、2泊3日なんですよねぇ(ニヤソ)。

それでは、最後になりましたが・・・皆様、今年も当サイトをよろしくお願い致します^^




2006.1.2  雅輝