「さて・・・これからどうするかな」

荷物を置いて少し休憩した後、水着に着替えて早速海に出てきた耕治。

しかし今回の耕治の目標達成の相手であるあずさはとっくに美奈と海に行っていたため、雄大な海を眺めながら耕治は一人途方に暮れていたのだ。

『とりあえず浜辺を歩いてみるか。もしかしたら、二人を見つけられるかもしれないし・・・』

そんな淡い期待を抱きながら、耕治はキョロキョと辺りを見回しながら海岸線を移動していく。

「あっ、耕治さ〜ん!」

『・・・ん?』

不意に海の方から聞こえてきた声に、耕治の目線も自然とそちらへと向く。

「こっちですよ〜♪」

『・・・なんか拍子抜けなくらいあっさりと見つかったな』

耕治の視線の先には、嬉しそうに大きく手を振る美奈と、耕治に気づいて若干気まずそうに目を逸らしたあずさがいた。

『・・・行くか!』

耕治は絶対に仲直りするという決意を胸に、二人のいる海へと入っていった。





Piaキャロットへようこそ!!2 SS

          「Piaキャロ2 〜another summer〜」

                          Written by 雅輝





<12>  臆病心




「やあ、二人とも」

耕治はある程度二人に近づいてから、冷静さを装って挨拶をする。

内心、かなり緊張してたりするのだが・・・。

「えへへ、耕治さんお一人ですか?」

耕治の挨拶に、美奈が明るく屈託のない笑顔で返してくる。

あずさはというと、とても気まずそうな顔で事の成り行きを見守っている。

「うん。とりあえず浜辺を散歩してみようかな〜と思ってね」

「そうですか・・・。あっ、それなら美奈たちと一緒に遊びませんか?」

『よしっ、予想通りだ』

耕治は思わず心の中でガッツポーズをしてしまう。

おそらく今のような含みを持った言い方をすれば、人懐っこい美奈は自分を誘ってくれるだろう。

そんな打算的な考えを持ちつつ、二人に話しかけたのだから。

『なんかダシに使っちゃったみたいでごめんね、美奈ちゃん』

耕治は心の中で美奈に謝りつつ、あずさの方を向く。

了解する前に、どうしても確認しておきたい事があったからだ。

「俺は嬉しいんだけど・・・日野森は良いのかな?」

耕治が質問すると、あずさは目を見開いて驚いていた。

どうやら自分に振られるとは思っていなかったようだ。

『分かりやすい反応だな。・・・・さてどう出るか?』

もしかしたら断られるかもしれない。

いや、むしろその可能性の方が高いと言える。

『日野森も気まずいだろうしな・・・』

もし断られたら、耕治はそれ以上強く頼むつもりはなかった。

目標はあくまで仲直りであって、あずさを困らせることではないからだ。

かと言って諦めるつもりもないので、その時は何か別の手を考えるつもりでいるのだが・・・。

「・・・」

耕治は身体の半分が海水に浸かっている状態で、あずさが口を開くのを静かに待った。





『前田君・・・どうゆうつもりなの?』

耕治の一見何でもないような態度に、あずさは少し困惑してしまう。

『あの時のこと・・・もう気にしてないのかな・・・?』

一瞬そうも考えたが、すぐにその考えを打ち消す。

『ううん、そんなことないわ。だって・・・私は確かに、彼を傷つけたのだから・・・』

あの時の悲しげな表情が不意に頭の中に蘇ってきて、胸がズキッと痛む。

あずさはこの二日間、耕治のことを出来るだけ避けていた。

耕治にあんな事を言ってしまった以上、今までのように邪険に振舞うわけにもいかなかったし、それ以前に罪悪感から耕治に合わせる顔など無かったからだ。

もちろん何度も謝ろうとしたのだが、その度にあずさは恐怖に駆られてしまい結局出来ず終いだった。

”もしかしたら、もう既に愛想を尽かれたかもしれない・・・”

そう思うと心の底から怖くなり、彼の姿を見ても声を発することが出来ない。

だからあずさには”避ける”という行動しか取れなかったのだ。

「お姉ちゃん・・・?」

美奈の声に、あずさははっとして今の状況を思い出す。

耕治の方を見ると、彼は依然として静かにあずさの答えを待ってくれていた。

『どうしよう・・・』

答えはもうほとんどあずさの中で決まっていた。

ただそれを実行する勇気が持てなかったのだ。

『でも・・・私は前田君と仲直りしたい。前田君にちゃんと謝りたい。そして・・・』

ありったけの勇気をしぼって、あずさは顔を上げて口を開く。

「べ、別に私は良いわよ?美奈もあなたと一緒が良いみたいだし・・・ね」

『――前田君と一緒に・・・楽しく、働きたいから』

そして普段どおりぶっきらぼうに・・・しかし少しだけ頬を染めて耕治に微笑んでみせた。





「いや〜、さすがにびっくりしたなぁ」

「もう!笑い事じゃないでしょ?」

「グスッ・・・美奈、怖かったですぅ」

耕治がハハハと苦笑しながら言い、あずさがそんな耕治に不機嫌そうにツッコミ、美奈が二人の間で”グスッ、グスッ”と泣き声を上げる。

もうだいぶ傾いた夕陽をバックに、三人が疲れたような顔をして海から上がってきた。

さて、何故こんなことになったかというと・・・。



あずさの承諾を得られて内心ほっとした耕治は、二人にボートで沖に行こうと提案した。

美奈は嬉々として、あずさは渋々ながら――とは言っても照れ隠しにそう装っているだけのだが――了承し、耕治は早速近くにある海の家にボートを借りに行った。

そして美奈の「しゅっぱ〜つ♪」という元気な声を合図として、三人が乗ったボートは大海原への航海を始めた。

・・・ここまでは良かったのだ。

しかし船を漕ぎ始めて数十分後、だいぶ沖の方に出てきたところで、船を漕いでいた耕治の後ろから「キャーーーッ!」という日野森姉妹の悲鳴が聞こえた。

慌てて後ろを振り返った耕治が目にした物は、高さ3mになろうかという大波だった。

さすがに命に関わるレベルではないが、それでも耕治たちが乗っているゴムボートなら十分に飲み込まれてしまう大きさだ。

耕治は咄嗟に二人を抱きかかえ、海に飛び込んだ。

そうした方が被害が少なくて済むと思ったからだ。

”ザッザーーーーンッ!!!”

豪快な音と共に、湾曲していた大波がボートを覆うように平行な水面に叩きつけられる。

耕治は二人を抱きかかえる腕に少し力を込め、大波とは少し離れた場所で浮上した。

耕治の咄嗟の機転であずさ達には大した怪我もなく(美奈はびっくりして泣いていたが・・・)、耕治はほっと胸を撫で下ろしたのだが・・・。

はたと気が付くと耕治たちが脱出したゴムボートは大波に浚われ、はるか遠方に流されていた。

耕治は急いで転覆しているゴムボートを回収しに行ったのだが・・・今度は船を漕ぐためのオールが行方不明になっていた。

探すといっても360°海に囲まれているため、どこから探せばいいか検討もつかない。

仕方なくオールは諦め、耕治が泳いでボートを押すこととなった。

もちろん、あずさと美奈も手で必死に漕いでくれていたが・・・。

そうしてようやく戻ってこれた頃にはもう陽が暮れかけていたというわけだ。



「じゃあボートを返してくるよ」

「ええ」

耕治がボートを担いで海の家へと向かう。

その背中をちらっと見てから、あずさは未だにぐずっている妹に目を向ける。

「ほらほら、ミーナもいつまでも泣いてないの」

そう言って頭を優しく撫でてあげる。

「あっ・・・えへへ」

それだけで美奈はすっかり泣き止み、あずさにはにかんだ笑顔を見せる。

そんな美奈にあずさは微笑を浮かべつつも、頭の中では別のことを思っていた。

『結局、前田君に謝れなかったな・・・』

確かに美奈がいたから言いにくかったというのもあるのだが、それは都合のいい言い訳に過ぎない。

二人だけの時間を作ろうと思えば作れたし、それをしなかったのは・・・いや、出来なかったのは単に自分が臆病だからだ。

『明日・・・絶対に明日は謝らなくちゃ』

今回の旅行は二泊三日の予定なので、明後日の朝にはここを発ってしまう。

もしこの機会を逃したら、ずっと耕治とは気まずいままだという確信めいた予感を、あずさは感じていた。

「・・・」

美奈の頭を何度も優しく撫で続けながら、あずさは決意を新たにした。





『ふう、弁償させられないでよかった』

ボートを返し終えた耕治は、後頭部をポリポリと掻きながら安堵の息を吐く。

海の家の主人は話が分かる人だったので、事情と共にオールを無くしてしまった事を話し謝ると、「それじゃあしょうがないか」と許してくれた。

もちろん、延滞料金はきっちり取られたのだが・・・。

「・・・」

『結局、日野森とは仲直り出来なかったな・・・』

立ち止まった耕治が沈みかけている夕陽を見つめながら考えていたのは、あずさのことだった。

『機会はいくらでもあったのに・・・』

大波によるアクシデントもあったが、それまでは普通に雑談しながら沖へと進んでいた。

つまり、切り出そうと思えばいつでも切り出せた。

しかしそれが出来なかったのは、単純に怖かったからだ。

三人で過ごす楽しい時間が、それを言うことで崩れてしまいそうで怖かった。

『臆病だよな・・・俺は』

でも、だからと言ってこのままで良いはずは無い。

絶対にケジメだけは付けなくてはいけない。

『・・・明日だ』

明日、あずさと話し合わなければ・・・いつまでも変わらない。

たとえその結果が、どんな形になろうとも・・・。

「・・・よしっ!」

耕治は気合を入れるために自分の両頬を”パチンッ”と挟み込むように叩き、遠くから手を振っている美奈と、そんな美奈を苦笑しながらもこちらに視線を向けているあずさの元へと歩いていった。



13話へ続く



後書き

どうも、雅輝です。

丁度一週間振りのUPですね。

多分今年最後の更新になると思います。

さすがに明日明後日で書くのはしんどいので・・・(汗)。

次の話もまだ漠然としか考えていませんし・・・。

やりたいゲームや買ったゲームもあるので、とりあえずそっちを消化していきます。

・・・なんだか暇なのか忙しいのかよく分からない年末になりそうです(笑)。



2005.12.29  雅輝