夏といえば――
高い空。
白い砂浜。
そして・・・蒼い海。
「さあみんな、海に到着したわよ〜♪」
ということで、Piaキャロットがお盆休みである今日から三日間、一同は郊外にある海水浴場での二泊三日の簡易旅行を楽しむことにした。
そしてたった今、耕治たちを乗せた車は、葵の運転で彼女の知り合いが経営している民宿の駐車場に到着した。
「わぁ☆美奈、早く海を見に行きたいです〜」
「あっ、ミーナ!一人で行っちゃ危ないでしょ?」
「あ、ずる〜い。美奈ちゃん、待って〜」
「さて、私達も美奈ちゃんに負けてられないわ。さっさと荷物を置いて海に行くわよ?涼子」
「はぁ・・・なんで運転してきたのにそんなに元気なの?少し休んでからにしたら?」
今回の参加メンバーは上の台詞から分かるように、美奈・あずさ・つかさ・葵・涼子、そして耕治の6人である。
つかさとは”榎本つかさ(えのもと つかさ)”のことで、3日前に一号店からのヘルプとして二号店にやって来た元気な娘だ。
性格は天真爛漫で、コスプレを趣味としている。
ちなみに祐介・潤・早苗はそれぞれ用事があって、残念ながらも今回の旅行は見送っていた。
「う・・・う〜ん・・・」
最後に車から降りた耕治は、伸びをして体をほぐしながら、眼前に広がる太陽光をキラキラと反射している海を見つめる。
耕治はそんな荘厳な風景をぼんやりと眺めながら、海に来ることになった経緯を振り返った。
話は2日前に遡る。
Piaキャロットへようこそ!!2 SS
「Piaキャロ2 〜another
summer〜」
Written by 雅輝
<11> チャンスと決意
「・・・えっ、海・・・ですか?」
「ええ、お店の研修旅行は山に決まったでしょう?でも海に行きたい人もいたから、同士を集って二泊三日の簡易旅行をすることにしたの。そこで前田君もどうかしらと思って・・・」
仕事も終わり帰ろうとしていた耕治は、涼子に引き止められた。
あずさの言葉を思いっきり引きずっていて、正直なところ早く帰りたかった耕治であったが、さすがにそのまま帰るわけにも行かず話を聞くことにした。
そこで海への旅行の件を話されたのである。
「えっと・・・誰が行くことになってるんですか?」
耕治はその件で一番気になっていることを訊いてみた。
「私が今回の旅行の幹事で、あとは葵、つかさちゃん、美奈ちゃん、そしてあずささんよ」
『やっぱり日野森も来るのか・・・』
あずさの事を考えていると、さっきの言葉も頭に蘇ってきて胸がズキッと痛む。
「・・・どうかしたの?」
急に俯いてしまった耕治に、涼子が心配そうに声を掛ける。
「えっ・・・いや〜、最近金欠なもので旅費のことが気になってたんですよ〜。ははは」
涼子に気づかれないように耕治は咄嗟に嘘をつき、無理して明るい声を出した。
「? 葵の知り合いの民宿に泊まるから格安にしてくれるらしいけど・・・」
「あっ、そうですか、よかった〜」
『どうしよう・・・』
今のあずさとの関係は非常に気まずい状態である。
『俺も一緒に行ったら日野森も気まずいだろうしなぁ・・・』
最悪、自分が旅行に行くことを知ったら彼女はキャンセルするかもしれない。
『・・・やっぱり断ろう』
それが一番妥当な考えのような気がする。
海に行けないのは少々残念だが、仕方がないだろう。
「涼子さん、俺は・・・」
しかし耕治が申し訳なさそうに口を開いたとき・・・。
「お疲れ様〜」
がちゃっと事務所のドアが開いて、ウェイトレス姿の葵が現れた。
「あれ、耕治君じゃな〜い。事務室にいるなんて珍しいわね」
「ははは、お疲れ様です」
会話の機会を逃した耕治はとりあえず葵に挨拶を返しておく。
「で?涼子ってば耕治君と二人きりで何やってたのよ〜?あっ、まさかあ〜んなことやこ〜んなことを・・・」
「してません!!」
相変わらず絶好調な葵の際どい冗談に、涼子は少し頬を赤らめすぐさま否定する。
それにも動じず、「嘘よ、嘘」とあっけらかんに手をひらひらと振っている葵はさすがと言うべきか・・・。
「ふう・・・前田君を例の旅行に誘っていたのよ」
涼子は「もういいわ」といった感じのため息を一つ吐き、葵に説明してやる。
「ああ、明後日の旅行のことね?そんなの当然来るに決まってるわよね?耕治君」
「い、いや俺は・・・」
答えを渋っている様子の耕治に、葵は耕治の耳元に顔を近づけ小声で
「あのこと。みんなにバラすわよ?」
「ええ!?あのことは誰にも話さないって・・・」
ちなみに”あのこと”とは、耕治とあずさの歓迎会(という名のただの宴会)のときの事。
酔い潰れて歓迎会をしていた耕治の部屋でそのまま寝てしまった葵の胸に、これまた酔い潰れて寝てしまっていた耕治の手がそれを掴むように握っていた。
そして二人同時に目を覚ましたので、その先は言わずもがなだろう。
以来、耕治は葵に弱みを握られている状態となってしまったのだ。
「?・・・あのことって?」
「い、いやいや。何でもないです!」
耕治が思わず出してしまった大声に涼子は気になって問いかけるが、耕治はすぐにはぐらかした。
そして葵と小声での会話をし始める。
「それは時と場合によるわ。でも、私は耕治君と一緒に行きたいなぁ」
『・・・それは脅しって言うんですよ』
耕治は内心そう反論するが言葉には出せない。
出した瞬間、耕治は店の従業員達に”変態”にレッテルを貼られてしまうからだ。
「・・・わかりました。旅行に参加します」
結局これしか道は無かった。
「うん、それでこそ耕治君よ♪涼子、前田君も参加するって!」
「じゃあ、参加ってことにしておくわね?予算は二万円くらいあったら足りると思うから・・・」
「はい、分かりました・・・」
『はぁ・・・俺って意志弱いなぁ』と内心自嘲しながらも、涼子に頷いてみせる耕治。
本当は耕治も海には行きたかったので、あまりそのことには気にせず旅行を楽しもうと気持ちを切り替えたのだ。
「ほら!せっかく私がお膳立てしてあげたんだから、しっかりしなさいよ?」
「・・・へ?」
『何のこと?』といった顔で、気になる発言をした葵のほうを振り向く耕治。
「あずさちゃんとの事よ。・・・何かあったんでしょ?この機会に仲直りしちゃいなさい!」
そんな耕治に葵はウインクで答えた。
「前田君。私達でよかったらいつでも相談に乗るからね?」
そして涼子も穏やかな顔で申し出てくれる。
「えっと・・・やっぱりバレてました?」
耕治が少しバツが悪そうな顔で訊ねる。
「そりゃあれだけあなたにあずさちゃんが露骨な態度を取っているのを見たら・・・ねぇ?」
「ええ。この前あずささんにも訊ねてみたけど、結局はぐらかされてしまったし・・・」
「だから私達が一肌脱いであげようと思ってね☆もちろん、旅行の目的は海に行きたいからだけど、耕治君はしっかりあずさちゃんと仲直りすること。もし出来なかったらあのことバラしちゃうわよ?」
「葵さん・・・」
口調こそ軽いものに聞こえるが、耕治は葵たちが本当に自分のことを考えてくれているのだと感激した。
「ありがとうございます・・・」
Piaキャロットの頼れるお姉さん達に、耕治は感謝の気持ちを込めて深く頭を下げた。
休憩室での出来事があってから、耕治はあずさとはまったくといっていいほど話していない。
それ以前に顔すら合わせていなかった。
まあ、会っても気まずいだけだというのは耕治も分かっていたのだが・・・。
『やっぱりこのままじゃ駄目だよな・・・』
今の関係を夏休み終了時までずっと続けるわけにはいかない。
キャロットという場所から離れた今回の旅行。
確かに気まずい思いもあるが、同時にあずさと仲直りする絶好の機会ともいえるだろう。
『せっかく葵さんたちが作ってくれたチャンス・・・絶対に活かさなきゃな』
耕治は瞳に堅い決意を宿し、しばらく穏やかな海を眺めた後、三日間お世話になる民宿へと入っていった。
12話へ続く
後書き
11話UPです。
・・・っていうかいつの間にって感じですね。
このペースだったら20話くらいまで逝っちゃうかも(笑)。
まだ完結の目処も立っていませんしね(汗)。
まあそれはさておき、どうでしたでしょうか?11話。
・・・またあずさがほとんど出ていませんねぇ。
何となく葵SSっぽくなってしまいました(汗)。
あと、つかさちゃんを(かなり強引に)連れて行きました。
本来なら8月4日にヘルプにやってくるのですが・・・正直なところすっかり忘れていました(笑)。
つかさちゃんファンの方々、すみません(ペコリ)。
彼女が物語に絡んでくるかどうかは・・・まあ、未定ってことで(汗)。