「・・・よしっ、完成!」

最後の作業を終わって、私は固まった身体を解すように「ん〜」と伸びをする。

ふと思い出したように時計を見てみると、既に夜の12時を過ぎていた。

ということは、もう「今日」なんだ。

何となくワクワクしたような、高揚した気分になってきた私は、鼻唄を歌いながら「それ」の包装に取り掛かる。

「お兄さん、喜んでくれるかなぁ・・・?」

綺麗に包装紙に包まれたその直方体の箱を眺めて、私は自然と彼の名前を出していた。

「うん。お兄さんなら、大丈夫だよね」

自分にそう言い聞かせつつ、後はリボンをつけるだけとなったそれを冷蔵庫にしまっておく。

そしてこんな時間になるまで格闘していた台所。その後片付けも何とか終わらせて、ようやく自室のベッドに辿り着いた。

「ふう・・・」

そのまま”ギシッ”という軽い音を立てて、ベッドに横になる。しかしすぐに眠気が襲ってくるわけでもなく、私は明日――もとい今日の事を色々と想像していた。

「いつ渡そうかなぁ」とか、「何て言おうかなぁ」とか、「どんな反応をするのかなぁ」とか。考え始めたら、キリが無い。

「・・・あ、そうだ。カレンダーめくっておかなくちゃ」

それから悶々と想像すること30分。ようやく眠気がやってきた私は、いつもの日課を思い出しベッドサイドにある日めくりカレンダーを手に取った。

そしていつものように破る。出てきたのは、昨日より一日だけ進んだ日付。

2月14日。

そう、今日は女の子達が浮き足立つ日――バレンタインデーだ。





しかし、この時の私はまだ知らなかった。

今、この瞬間。もう既にライバルは行動を起こしているということを。

そして。

――今日この日が、私にとって一生忘れられない日になるということを。





D.C.U〜ダ・カーポU〜 SS  「自由な夢を・・・」 外伝

             「美冬の恋心」

                      Written by 雅輝






<9>  由夢の告白(前編)





〜Yume side〜



私は、とある家の前に立っていた。

右手に紙袋。空いている左手でドキドキと律動する心臓を宥めるように押さえ、大きく息を吐き出す。

「・・・よし」

自分自身に踏ん切りを付けるようにそう声に出してから、目の前のインターホンに指を伸ばす。

もう日付を跨いだ時間帯に鳴る、小気味好いブザー音。鳴り終わった後の静寂が耳に痛い。

――「はい」

数秒のラグを経て、ブザーに応答したのは予想していた声ではなく、明らかに女性のものだった。

ということは、さくらさんか。

「あ、あの。夜分遅くにすみません、さくらさん。由夢ですけど・・・」

――「あっ、由夢ちゃん?珍しいね、こんな時間に。どうぞ、上がってよ」

「あ、はい。お邪魔します」

どうやら鍵も開いてるみたい。回線の切れたインターホンを眺めつつ、私はまた一つ息を吐いてから歩き出す。

・・・覚悟は、とっくに決めてきたはずなのに。なのに、やけに心臓の音がうるさく感じる。

私はとりあえず思考を閉ざして、その「とある家」――芳乃家の玄関をくぐった。



「いらっしゃい、由夢ちゃん」

「お邪魔します、さくらさん」

右手に持っていた紙袋を両手に持ち替えて、わざわざ出迎えてくれた家主にペコリと頭を下げる。

靴を脱ぎ、居間に通されると、そこには既に二人分のお茶が用意してあった。

「義之くんに用事なんでしょ?その前にちょっとだけ、お茶でも飲んでいかない?」

「あ・・・そうですね。いただきます」

兄さんに会う前に一度気持ちを落ち着かせたくて、さくらさんの好意に甘えることにする。

互いに座布団に腰を下ろし、一口ずつ温かい緑茶を啜ると、あまりにも唐突にさくらさんは核心を突いてきた。

「こんな時間に来たってことは・・・大方、義之くんに愛の告白でもしに来たのかな?」

「――っ!?ケホッ!コホッ!!」

悪戯っぽい笑みを零しながら、名探偵のように顎に手を添えているさくらさんの推理に、私は驚きのあまり咽てしまう。

まあその時点で、その推理に肯定しているようなものなのだけど。

「な、なんで・・・」

「ん〜、だって今日はバレンタインデーだし。それに渡すならいつものように通学途中とか、音姫ちゃんと一緒でもいいからね」

「それなのに、わざわざこんな時間に。しかも日付が変わった瞬間にやって来るなんて、いつもとは何かが違うなって、そう思っただけだよ」

「で、でもそれだけで愛の告白とは・・・」

「・・・それにね。義之くんから聞いてたんだ。天枷美冬ちゃんの話を」

「っ!」

美冬ちゃんの話を?兄さんが?

「まあ色々とあったみたいで、義之くんも悩んでたみたいだからね。ちょっと相談に乗ってあげたんだ」

「・・・」

「もちろん、美冬ちゃんだけじゃなくて、由夢ちゃんのことも話してたよ。だから・・・かな?何となく、分かっちゃったんだ」

「親友同士・・・同じ人を好きになっちゃった人の、気持ちがね・・・」

「・・・さくらさん?それってもしかして・・・」

「うにゃ。どう?ボクの名推理。当たってるでしょ?」

「・・・はい」

さくらさんの様子に疑問を感じたものの、またいつものような笑顔でダメ押しされたら、はいと頷くしかない。

「それじゃあ・・・それまでは、ここで充分にリラックスしてよ」

「はい、ありがとうございます」

そう言って心から微笑みかけてくれる彼女に、私も素直にお茶を飲みなおし始めた。



〜Yume side end〜





〜Sakura side〜



「さくらさん。お茶、ご馳走さまでした」

「うん。義之くん、まだ起きてると思うけど、もし寝てたら叩き起こしても別にいいからね?」

「クスクス、はい、分かってます」

最後にそういい残して、由夢ちゃんが一歩ずつ階段を上がっていく。

ボクはその後ろ姿が見えなくなるまで手を振ると、ゆっくりとした足取りで居間のテーブルへと戻った。

「・・・ふう」

そしてため息を一つ。

とても陰鬱な気分だ。その原因は・・・おそらく、罪悪感なんだろう。

僅かばかりの希望を持って、義之くんの部屋へと向かった由夢ちゃん。

そしてその望みが叶わないと半ば予想しつつも、送り出したボク。

・・・そう、分かっていたのに。おそらく義之くんは、由夢ちゃんの気持ちを受け入れないであろうことくらい。

何故なら、ボクは義之くんの相談に乗ったときに、彼の本音を聞いてしまったのだから。

そう、彼は――。

「ごめんね。、由夢ちゃん」

それでも彼女を送り出してしまったのは、今まさにけじめを着けようとしている彼女の邪魔をしたくなかったからか。

それとも。

「お兄ちゃん・・・」

――過去の自分を見ているようで、怖かったからだろうか。



10話へ続く


後書き

10話で完結なんて言っておきながら、絶対に10話じゃ収まらない話になってしまった・・・orz

何故でしょうねぇ。書く前のプロットでは今回で由夢の告白は終わっているはずなのに。

その答えはおそらく、さくらさんの登場でしょうね。元々予定していませんでしたし〜。

これは完全に思い付きです。いきなり義之に告白するよりも、その前にさくらを入れることで、このシーンに厚みと深さを出したかったんですよ。

結果は・・・とりあえず、予想通りな程度には成功したかなと思うのですが。


さて、次回はクライマックス最初のヤマ場。由夢の告白シーンです。

とりあえずこれを10話で終わらせて・・・11、12話で美冬のエンディングに持っていけたらなと。

それでは、次回もお楽しみに〜^^



2007.10.8  雅輝