彼への想いを自覚しても、接し方まではそう簡単に変わらなかった。

今までのように、会えば挨拶をして、時間があれば話しこみ、そして笑顔で別れを言い合う。

ただ、時々由夢ちゃんを含めた3人で遊びに行くことがある。というのは、良い方向への変化なのだろう。

とはいえ、基本的には私達の間には何の進展も見られず。

それと反比例するかのように、彼と接する時間の、私の胸の高鳴りは徐々に大きくなっていく。

彼を強く意識している自分が居る。それと同時に、そんな気持ちに蓋をして忘れてしまおうとする自分も、確かに存在していた。

相反する気持ち。それはきっと、いつも彼の傍にいる親友を意識しているからこそ生まれるもの。

同性の私から見ても、由夢ちゃんは凄く魅力的で、可愛いから。

そして何より、気付いてしまったから。

・・・ううん。私だけじゃない。気付いたのは、お互い様。

私も、そして由夢ちゃんも。気付いてしまった。

季節は真冬。年が明けたばかりの、真夜中の校舎で。

――互いに、同じ男性(ひと)を好きになってしまったことに。





D.C.U〜ダ・カーポU〜 SS  「自由な夢を・・・」 外伝

             「美冬の恋心」

                      Written by 雅輝






<4>  互いの気持ち (前編)





日付は、その2日ほど前に遡る。

「――というわけなんだが、参加しないか?」

借りていた本を由夢ちゃんに返しに来ただけなのに、流れのまま夕飯を頂いてしまったその食後。

意外にも――と言っては失礼かもしれないけど――絶品だったカレーに心地良い満腹感を味わっているところに、唐突にお兄さんは話を切り出した。

「肝試し・・・ですか」

それは、初詣の後に行なわれる肝試し大会への招待状。

どうやら、お兄さんが誘ってはいるけど杉並先輩が主催のようだ。

そのことに若干不安は感じるものの、企画自体は非常に面白そう。

周りが先輩ばかりで少し萎縮してしまうけれど、まあ由夢ちゃんが一緒ならいいかな?

「しょ、しょうがないなぁ。弟くん達だけじゃ心配だから、お姉ちゃんも着いて行ってあげるよ」

「そ、そうですね。兄さん達だけじゃ何をしでかすか分かったものじゃありませんから。私も行きます」

などと考え込んでいる内に、いつの間にか私以外は参加が決定したみたい。

「美冬ちゃんはどうする?」

「そうですねぇ・・・」

お兄さんに話を振られて、再度考え込む。

真夜中の誰もいない校舎で、お兄さんと二人きり。

・・・。

・・・うん。悪くないかもしれない。

それにお兄さんから折角誘われたのに、無碍に断りたくないし。

今年の年越しはお父さんも帰って来れないって言ってたし、事後承諾でいいよね。

「それじゃあ、ご一緒させて頂きます」

一気に上機嫌になってしまった私は、自分でも自覚できるほど緩んでしまっている笑顔でお兄さんに返答した。







そして当日。

お兄さんの家で夕食を取り、年を越えてから初詣。

それも滞りなく終了し、後は肝試しを残すばかりとなった。

「さて、これから諸君に肝試しを行なってもらうわけなのだが・・・」

私達7人以外誰もいない中庭に、杉並先輩の朗々とした声が響く。

いつもよりもはっきりと聞こえるのは、夜独特の静けさからか。

「その前に、今回の肝試しをさらに面白くするための、とっておきのスパイスを用意しよう」

「・・・スパイス?」

その突然の提案に、お兄さんからも疑問の声が漏れる。

話をまとめると、この学園には「七不思議」と呼ばれる怪談話があって、それを肝試しの前に話して恐怖を煽る・・・ということらしい。

正直に言うと、私は実はこういう話が苦手。肝試しくらいなら何とかなると思ってたんだけど、さらにその恐怖感が上がるとなれば話は別だ。

しかし、怖いものみたさ・・・みたいな興味もある。

周りを見渡しても、先輩方の瞳も不安半分、期待半分といったところだろうか。

・・・音姫先輩だけは、涙目でしっかりと耳を塞いでいたが。

「さて、始めようか・・・。まずは、風見学園七不思議その壱・・・”血まみれの旋律”からだ」

そして訥々と、杉並先輩の口から七不思議が語られていった。





「こ、怖かったよ〜〜」

ペタンと座り込んでしまった音姫先輩に、張り詰めていた場の雰囲気も何とか和らぐ。

――内容は想像以上に凄惨で、確かに恐怖心を煽られるようなものだった。

事実、今から一人で校舎に行けと言われても、絶対に無理だと胸を張って言えるくらいだ。

「よ〜しっ、それじゃあ次はグループ分けだな!」

そんな中、まったく恐怖を感じていないような人が一人。

板橋先輩の意気揚々とした底抜けに明るい声に、今は救われた気分だ。

「そうだな、そうするか・・・ところで杉並。グループはどうやって決めるんだ?」

「いや、特に考えていない。まあジャンケンでよかろう」

「・・・それもそうか」

どうやら杉並先輩は参加しないようで、どこからか取り出した小型無線機のようなものをいじっている。

まあ確かに、7人という半端な数字なので一人は余ってしまうんだけど・・・そこに怪しさを感じてしまうのは私だけだろうか。

「・・・杉並君、もしかして何か企んでるの?」

「やだなぁ先輩。そんなわけないじゃありませんか」

それは音姫先輩も同じだったみたいで、生徒会長の表情で探りを入れるがあっさりとはぐらかされてしまう。

「あっ、そう・・・そんじゃま、ジャンケンするか」

これ以上の問答は無駄だと悟ったのか、お兄さんは諦めたようにため息をつくと軽くみんなに向けて右手を差し出した。

みんなもそれには同意だったようで、それぞれ手を差し出す。

そんな中。私が見ているのはお兄さんの手。

出来ることなら、同じグループになりたいから。

「グーとパーだけだからな?ジャーンケーン――」

祈るような気持ちで、手を出す。

そして偶然にも、グループ分けは私が望んでいた形に一発で決まったのだった。





「さて、まずはどこに行こうか?」

後ろを歩くお兄さんが、学園の見取り図を手に問いかけてくる。

「え〜っと・・・私はあまり怖そうじゃないところが・・・」

「私も天枷さんに賛成ですね。・・・どこに行くかは、兄さんに任せますけど」

私と隣を歩く由夢ちゃんがそう返すと、お兄さんはさらに首を傾げ「う〜〜ん・・・」と唸り声を上げた。

結局グループ分けは、私にとっては出来すぎたような形に。

親友の由夢ちゃんと、そして・・・お兄さん。二人と一緒のグループになれたことで、今のところは気持ちも落ち着いている。

「う〜ん、とはいっても、どこも似たり寄ったりだと思うけどなぁ。じゃあここから一番近い、理科室にでも行くか。効率よく周って、さっさと終わらせようぜ」

「そ、そうですね。兄さんも怖がっているようなので、そうしましょう」

「え?お兄さんも怖いんですか?」

今まであまりにも平然とした態度だったので、てっきり怖くないんだと思ってたのだけど。

「ん〜、まあまったく怖くないって言えば嘘になるかな。なんだかんだで雰囲気は出てるよなぁ」

思わず出した私の疑問の声に、お兄さんが苦笑で返す。

確かに、それは思う。いつもは生徒で溢れた賑やかな廊下も、時間帯が違うだけでまるでまったく別の空間のように感じてしまう。

「・・・なるべく早く終わらそう」

「そ、そうですね」

「い、一応、板橋先輩たちとの勝負ですもんね」

そのどこまでも続くかのような廊下の向こうの深淵に何か感じたのか、お兄さんが歩を進める。

同じように私と由夢ちゃんも同意して、彼の後を心持ち早足で付いていくのだった。



5話へ続く


後書き

・・・まずはごめんなさいm(__)m

最近はなかなか執筆に時間が取れなくてですねぇ。しかも今回は、ちょっとスランプに陥ったみたいで・・・。

まったくネタが浮かんでこなか〜(←何弁?

んで、結局は「自由な夢を・・・」本編の21話〜25話くらいまでの肝試しに。

元々ここの美冬視点は書くつもりだったので。タイトルに沿うようにと色々考えましたが、この肝試しでも充分可能なことに気付きました(ぇ

次の後編・・・で終わるかなぁ。もしかしたらまた、中編を挟むかもしれません。


次はおそらく3週間後。いや、もっと開くかもしれません。

とりあえずは、「自由な夢を・・・」の方を完結させようと思っているので。180000HITのリク作品も書かなければいけませんし。

あっ、ちなみにリクはS・Tさんより頂いた、「義之×茜」です。どんな話になるかは、まったくの未定(笑)

でも今度は流石に連載には出来ないので、恋人同士という設定から始めるか、それとも恋人になっていく過程を書くかのどちらかになると思います。


それでは〜^^



2007.7.18  雅輝