クリスマスパーティーの日に初めて会って以来、私と桜内先輩――お兄さんは、割と話をするようになった。

学校内ですれ違えば立ち止まり、簡単な挨拶をする。

朝の通学路で出会うと、そのまま他愛もない話をしながら昇降口まで歩く。

今までほとんど親しい男友達を持たなかった私にとって、お兄さんとの時間は新鮮で、しかし息の詰まるものではなかった。

そして、そんな風に彼と接することにいつの間にか不自然さを持たなくなっていた、丁度その頃。

季節はあれから半分巡って、夏。

――あの日から、私はお兄さんのことを、ただの”親友のお兄さん”として見られなくなってしまった。





D.C.U〜ダ・カーポU〜 SS  「自由な夢を・・・」 外伝

             「美冬の恋心」

                      Written by 雅輝






<2>  淡く灯った想い(前編)





その日は、夏休みに入ってまだ間もない頃で。

私はクーラーの効いた自室で、一人暇を持て余していた。

「う〜ん・・・暇だなぁ」

もう既に何度か読み返している少女マンガから視線を逸らし、天井を見つめながら誰ともなしに呟く。

元々私は早寝早起き型の人間なので、今のように午前が終わりかけようという時間には既に寝起きから何時間も過ぎている。

勿論、しなければならないことはある。学校の宿題とか宿題とか宿題とか。

でも、私は勉強が苦手・・・というよりは嫌いな方なので、毎日ちゃんと1時間というノルマを決めていた。

そうでもしないと、毎年のように新学期間際になって慌てるのが目に見えているから。

実際に去年は、付属に入ってから初めての夏休みということもあり、遊び呆けていたらいつの間にか残り1週間。

由夢ちゃんに教えてもらいながらだったので、どうにか間に合ったのだが・・・また彼女に迷惑を掛けるわけにもいかないし。

なので、一日一時間というノルマを自分に課したのだけれど、それは逆に言えば一時間以上はやらなくてもいいということであり。

今日は既に朝ごはんを食べた後にノルマを済ませた身としては、どうにもやる気なんて起きやしなかった。

「・・・そうだ。由夢ちゃんに電話でもしてみよっかな」

先ほどの思考に彼女が登場したこともあり、私は携帯電話を手繰り寄せ電話帳を開いた。

時間は・・・11時40分。流石に起きているだろう。そう結論付けて、発信ボタンを押す。

――「トゥルルルルルルル・・・トゥルルルルルルル・・・」

コール音が繰り返されるも、一向に出る気配はない。

『?・・・手が離せないのかな』

コール音が10回を超えた辺りで、そろそろ切ろうと電源ボタンに手を伸ばしかけた私の耳に、「ガチャ」という回線が繋がった音が届いた。

慌てて再度電話を構え、声を出す。

「あっ、おはよう、由夢ちゃん。今、大丈夫?」

しかし、その後聞こえてきた声は、完全に予想外だった。

――「・・・え、えっと、美冬ちゃん?おはよう」

『・・・あれ?』

由夢ちゃん、知らない内に随分と声が低くなったなぁ・・・じゃなくって。

それは、どう考えても男の人の声。それにこの声、どこかで聞き覚えが・・・。

数秒考えてみたものの、私の知っている限り男の人で由夢ちゃんの携帯に出られるような人は一人しか浮かばなかった。

「あ、あの・・・もしかして、お兄さんですか?」

――「うん、ごめんな。まだ由夢のやつ寝てるから」

「え・・・寝てる?」

――「ああ、今は夏休みだから、あまり珍しいことでもないんだけどね」

電話口で苦笑しているようなお兄さんの声。

なるほど。普段は優等生というイメージが強い由夢ちゃんにも、そんな一面があったらしい。

「あれ?でも、何でお兄さんが由夢ちゃんの携帯を?」

「今日は留守中の音姉に、由夢の目覚ましを頼まれてね。こうして家までやってきたんだけど、リビングに置かれたままのコレが鳴っててさ。画面に表示されてる名前を見て、まあ美冬ちゃんならと思って出てみたんだけど・・・やっぱりダメだったかな?」

「あっ、いえ。そんな事はないですよ。私としては出てくれてよかったですし」

「そっか。それは何よりだよ」

お兄さんの穏やかな声に、自然と私の顔にも笑みが浮かぶ。

「それより、何か由夢に用事?急な用事だったら叩き起こすし、伝言があるんだったら伝えとくけど・・・」

「用事ってほどでは無いんですけど・・・ただ、由夢ちゃんを誘ってどこかに行こうかと」

「あ〜・・・実は今日は、あいつの買い物に付き合うことになってるんだよ」

ということは・・・由夢ちゃんもアウトか。

どうしよう。他の友達は、塾の夏期講習とかで忙しいようだし。

などと考え事をしていた私の耳に再びお兄さんの声が聞こえ、私は意識をまた電話に向ける。

「そうだ。暇だったら、美冬ちゃんも一緒に行かないか?」

「え?」

まさかそう誘われるとは思っていなかった私は、思わず疑問詞で返してしまった。

「いいんですか?」

「ああ、由夢も喜ぶだろうし」

「いえ、そうではなくて・・・お兄さんが」

「俺?・・・誘った時点で、それは分かって欲しかったけどなぁ」

電話口の、お兄さんの悪戯っぽい口調。

私は何故か頬が熱くなったが、特に気には留めずに返事をした。

「えっと・・・それじゃあ、宜しくお願いします」

「オッケー。じゃあ2時に出る予定だから・・・美冬ちゃん、家はどこなの?」

「あっ、由夢ちゃんの家は商店街に行く途中にあるので、合流は由夢ちゃんの家で大丈夫ですよ」

「話が早くて助かるよ。それじゃ、2時前に来てくれるか?」

「はい、分かりました」

「ああ、それじゃ」

通話を終える。

『そういえば、お兄さんと学園以外で会うのは初めてだなぁ』

携帯を仕舞いながら、そんなことを薄らぼんやりと思う。

ちょっと予想外だったけど、なんだか楽しくなりそうだ。

お兄さんの配慮に感謝しつつ、とりあえず約束の時間まで私がすることと言えば。

「さてと・・・何着て行こっかな?」

タンスの中の夏服を、全てベッドの上に並べることだった。



3話へ続く


後書き

ちょっと短いですが、前編ということで2話を上げました。

んー、なんつーか・・・予想以上に難しいですね。オリジナルキャラ。

自分で設定しているので、どんな性格にもなり得るところが特に。

一応性格は固まってはいるのですが・・・それが読者の皆様に伝わらなければ、意味が無いですしね。

とりあえずプロフィールもまだ出来ていません。今週は全然時間が無くて・・・。書くかどうかもわかりませんが^^;

次回は後編。3人で買い物にレッツラゴーです。


それでは、また2週間後に会いましょう^^



2007.6.17  雅輝