「ふう、今日も激戦であった・・・」
翌日の昼休み。
俺は戦利品を掲げ、満足した気分で購買部を後にした。
相も変わらず小夜美さんのお釣り間違いのスキルが絶好調だったので、正直買えるかどうか微妙なラインだったが・・・今日は運も味方してくれたようだ。
「ん〜〜っ」
伸びをしつつ目を向けた校庭は今の俺の気分のように晴れ渡っていて、たまには外で食べようかという気にさせてくれる。
『そういえば、詩音はいつも中庭のベンチで昼飯を食べてたっけ・・・』
10月半ばのあの日以来、そこでは彼女と食べたことはないのだが・・・。
「よしっ、行ってみるか」
俺は澄み渡っている空をもう一度見上げてから、おそらく今日も一人で小説を読み耽りながら弁当をつついているであろう彼女の元へと足を運んだ。
Memories Off SS
「心の仮面」
Written by 雅輝
<22> 5文字の手紙
「こんにちは」
「え?」
突然掛けられたその言葉に、私の思考が小説の世界から戻ってくる。
顔を上げた先に立っていたのは、おそらくパンが入っているのであろう袋を提げている彼だった。
「あ、こんにちは。智也さん」
「隣、いいかな?」
「ええ、どうぞ」
私は傍らに置いていた弁当箱と水筒と共に少し横にずれて、彼が座るスペースを作る。
彼は「ありがとう」と私に一言掛けてからそのスペースに腰を下ろした。
昨日、彼と別れてから初めて訪れた二人きりの時間。
正直言うと、私はこの時間に淡い期待を抱いていた。
『もしかすると、彼があやかさんの事を話してくれるのではないか?』と・・・。
「・・・そういえば、詩音と初めてまともに会話したのはここだったっけ」
パンの袋を破って中身を取り出しながら、彼は何かを思い出したように懐かしげな目を前方へと向ける。
まだあれから一月程しか経っていないというのに、随分と昔のことのように感じられる。
「そうでしたね・・・その節は失礼しました」
確かあの時は、彼が隣に座ったと同時に私がまだ食べかけのお弁当を片付けて・・・動揺する彼を尻目に一人教室に帰った。
今思えば、相当失礼な態度だけど。
そして、彼が私の忘れた水筒を持ってきてくれて・・・。
それから、かもしれない。
私が彼のことを、他のクラスメイトとは少し違った目で見るようになったのは・・・。
「その、話し方は変えないのか?」
「ええ・・・もう癖みたいになってますから」
そういう意味では、全てはここから始まったということになる。
私がこの日本という国で前に進めたのも・・・そして彼の事も――。
「私が・・・ここに来なければ・・・」
「え?」
「お会いできませんでしたね」
「・・・ああ。そうだな」
彼は最初驚いたような顔をしていたが、すぐにいつもの穏やかな顔になって頷いた。
「・・・」
「・・・」
そして、その後に訪れた静寂。
ちらりと横目で見た彼の表情はなんとなく・・・何かを躊躇っているように感じた。
とても悲しく、それでいて優しい、そんな顔。
私は、その顔を知っている。
彼が、私を彼女と間違えた時に見せる、あの顔だった。
「どうかなさいましたか・・・?」
そんな彼をこれ以上見ているのが居た堪れなくなり、私の口が動く。
そして、ココロの中では切に願っていた。
――彼が、私に全てを話してくれることを・・・。
「いや、何でもないって。ちょっと疲れただけ」
「――っ!」
それなのに・・・それなのに、彼はまだ嘘をつく。
彼が、私を頼ってくれないことがただ悲しくて・・・そして辛くて・・・。
「・・・ウソ・・・」
私は気がつけば立ち上がり、胸の中に渦巻いているこの想いを吐き出していた。
「何でも・・・仰ってください。それとも、私では不足ですか・・・?」
「そんなバカな!俺は、詩音が・・・」
「だったらっ!!」
彼の言葉を遮ったその言葉が、自分が思っていたより大きくて・・・私は落ち着くように一度大きく息を吐いてからまた話し始める。
「・・・貴方は、私に何か隠し事がありますね・・・?言ってください。昨日、私は言いましたよ」
こんな言い分、自分でも子供じみていると思う。
でも、そんな理屈じゃこの感情は抑えきれなかった。
「・・・俺には、幼馴染がいたんだ」
すると彼は諦めたように短く息を吐いてから、遠い目をして語り始めた。
「それは・・・恋人だったというあやかさんですか?」
「っ!詩音・・・知って・・・」
私の言葉に、智也さんが大きく目を見開く。
「少し前・・・唯笑さんに教えてもらいました」
「・・・唯笑に?」
「はい。・・・でも、貴方達三人が幼馴染だった事と、智也さんとあやかさんが付き合っていたということしか教えてくれませんでした」
「それ以上は、智也さんに直接聞かないと意味が無いからと・・・」
「・・・そっか。唯笑のやつ・・・」
彼はそう言って笑むと、「そうだよな・・・その先は俺から話さないといけないよな・・・」と呟くように言ってから、語りだした。
彼と、あやかさんの想い出を・・・。
”キーンコーンカーンコーン”
「あ・・・」
突然鳴り響いた昼休み終了のチャイムに、彼の話が途切れる。
しかし、頭の中には今聞いたことがぐるぐると回っていて、すぐに動こうという気にはなれなかった。
智也さんが彩花さんを、本当に愛していたこと。
その彩花さんが、永遠に失われてしまったこと。
そして、私から彩花さんの面影を見いだし、重ねていたことも・・・。
でも、彼女が死んでしまった理由はまだ聞いていなかった。
話す気がないのか――それともたまたま時間になってしまったからか。
「・・・予鈴だ」
「はい」
それすらもわからぬまま、彼の言葉に頷き中庭を後にする。
無言のまま彼と共に教室に向かっているときも、そこにあるのはただひたすらに重い空気だけだった。
私は教室に戻ると、本を開けることもなく一枚のメモ用紙を取り出した。
そしてすぐに書き終えたそれを、隣の席で俯いていた智也さんに渡す。
そのまま彼の反応を見ることなく、前方へと顔を向けた。
「・・・」
どうしてもやりきれない想いを書いた、たった5文字の簡単な手紙。
『私を見て欲しい・・・彩花さんの代わりとしてではなく、一人の女の子として・・・』
そんな私の真摯な願いを込めた手紙を見て、彼はいったいどう思うのだろう?
「・・・」
――授業中にそっと窺った彼の瞳は、どこまでも真剣な光を宿していた。
23話へ続く
後書き
予定より1日早い更新となりました〜^^
ビバ・夏休み☆
ってことで22話UPです。
ん〜、まあ今回もある程度は本編どおりかなぁ・・・。
それでも先に詩音が唯笑に話を聞いていたので、その辺はちょこちょこっと変えてますね。
そして手渡した5文字の手紙・・・。
サブタイトルにもなっていますが、プレイをしたことのある人ならその内容もわかると思います。
まあそれでも次話の冒頭部分に内容は出すと思いますが。
ではでは、また次の話でお会いしましょう^^