Memories Base Combination Production
Back Grounds Memories
夏の盛りも過ぎ、季節はようやく秋の装いを見せ始めてきた十月。間宮巴は鞄を肩に担いで揚々と帰路に着いていた。彼女が通う私立天望桜女子高校は
運動系の部活動で例年優秀な結果を残しており、また夏の大会では敗退したとはいえ自身がキャプテンを務めていたソフトボール部が、めでたく秋季大会を
突破した事は当然、何よりも喜ばしい成果である。
現在、巴は生徒会側からの強い要望を受けて、運動部系の統括・管理を務める運動部会執行部という重々しい名前の組織に所属しており、また年内限定
という条件ではあるがその学生顧問という立場にある。元々優れたリーダーシップを誇る彼女の能力は学生側のみならず教職員にも広く認められており、
既に卒業後は同窓会幹事になる事も決定済みだ。卒業まであと五カ月、しかし天望桜女子高にとって巴はまだまだ必要不可欠な人材であり、渋々ではあるが
他人に認められるのは悪い気はしなかった。
とはいえ、二足の草鞋を軽々と履いてのける巴の器量は常人のそれを易々と凌駕するものであるということを、彼女自身があまり自覚していないという
から恐ろしいものである。天才・才媛・文武両道などとはよく言われる形容だが、その言葉は間宮巴にこそ相応しいのかも知れない。
「まぁ、頼まれた以上はやりたいしね」
ひとりごちながら携帯電話を操作すると、ディスプレイに表示されたのは自分を含めた三人の女の子が写っている一枚のデータ。幼稚園からの親友であり、
しかし今は同じ学校に通っていない二人。そのうちの一人――――背が高く、スタイルも良い長い髪の女の子を見て、巴はくすりと笑みを漏らす。
夏休み前にようやく彼氏が出来たその少女に、恋人を作るように炊きつけたのは巴の仕業だった。「自分に彼氏が出来たからそっちも作ってみろ」などと
身勝手な事を言い、しかし二年経ってようやくそれを果たした彼女。だが当の巴には彼氏など出来た事はなく、実際はまだ誰とも付き合った事もない。
だが、巴はそれで良いと思っている。写真に写るもう一人の幼馴染である背の低いショートツインテールの彼女は、小さい頃から――今も小さいが――
その子にかかりきりになる事が多く、いつまで経っても自立する気配がなかった。その関係を危ぶんだ巴は一計を案じ、ロングヘアの少女に自立を促す事で
同時に二人の間の問題を解決させようと思ったのだ。
結果としては、その試みは大成功だった。携帯を操作して二枚目に表示した画像にはその相手である「彼氏くん」が表示されており、女の子の飼い猫を
抱っこしての写真である。背はかなり高くまた少々無愛想にも見えるが、男前だし、話してみたがとても礼儀正しく好感の持てる少年だった。
またこの少年の登場によりもう一人の幼馴染もかなり渋々……というか、未だに本心では納得していないと口喧しく言ってはいるが、少年のことを一応
認めてくれてはいる。少年の言葉と態度、そして彼が長髪の幼馴染をどれだけ愛しているかを直接聞いているからこそであり、またそんな上っ面の態度だけ
ではなく、実力的な意味でも少年が幼馴染を守れると知っているからだろう。
万事順風とは行かないまでも、取り立てて問題にするほどに問題ではない。なんだかんだで小さな幼馴染と少年も上手くやっていけるだろうし、長髪の
幼馴染に関しては何をかいわんやである。
だが、幼馴染二人と少年が与り知らぬ所で少々問題が発生していることを、間宮巴は知っていた。いや、巴だからこそ知っている些細な、しかし間違い
なく巴にとっては深刻な問題。
帰宅すると、巴は鞄を自室の椅子に置いてブレザーを脱ぎ、緩めていた首のリボンをさっと解いて一息ついた。この制服もあと数カ月しか着ないとなると
少々感慨深いものがあるが、そんな感傷に浸るのはさておいてさっさと部屋を出て隣の部屋に向かう。
隣の部屋には『YU-KI』とローマ字で作られた看板が掛かっている。中に人の気配を感じ、巴は鬱陶しそうに溜め息を吐く。
「ユーキ、いるんでしょ!? 出てきなさい!!」
がつん、と乱暴にドアを叩く。中の気配が怯えるのを理解していながらの蛮行だが、今日という今日は我慢の限界だ。母も父も「そっとしておいてやれ」
などと甘いことを言っているが、生憎な事に巴は身内にとても厳しい。それは彼女にとって何よりも近しい存在である『ユーキ』がいつまでも自室に籠って
いる事に苛立ちを覚え、またその理由というのが何とも情けない事でしかないのだから。
数えて三日。『ユーキ』が引き籠もり生活を始めてからの日数。その間、巴も両親も何度か呼びかけてはいるが返事はなく、しかし心配して食事を部屋の
前に置けばいつの間にか完食して部屋の前に戻していることから、気付かないうちに外出しているということはないのだろう。ひょっとしたら日中外出して
いるのかも知れないが、少なくとも仕舞っておいた靴が出ていないところを見る限りではそれもなさそうだ。
だが、それが余計に巴を苛立たせる。どんな形であれ外出し、外の空気を吸うことで人の気持ちは少なからず上向きになる。狭い空間に籠って鬱々として
いても何も変わらないし、何も得られない。ただ負の情念のみが際限なく降り積もり、己の感情に埋もれてしまう。かつては親友に対して、無自覚にそれに
近い状況を引き起こしそうになった巴だからこその懸念であり、だれもが親友のように強く振る舞える訳ではないと知っているから。
だから、今日は徹底的にやると心に決めていた。事前に母を説得し、最終手段である部屋の鍵をコピーしたものを取り出す。帰宅途中に鍵屋に立ち寄って
作成したもので、受け取ったのはついさっきだ。たかが引き籠もり相手に大袈裟なと思うかも知れないが、少なくとも巴にとっては重要な問題である。
たとえ誰が否定しても、誰に非難されても構わない。
何故なら間宮巴にとって、『ユーキ』という存在は。
世界でただ一人の同じ血を分けた、かけがえのない大切な分身なのだから。
The 4th anniversary Special Project
presented by 鷹
Little Boy meets Little Girl ~Way to Growing up !!~
01.Meet in Rainy Day
「あぁん、もう最悪……!」
帰宅途中に降り出した秋の長雨に見舞われた中塚舞は、誰に対してでもなく不満を吐き出した。今日は一人暮らしをしている兄のところに行き、いつもの
ように夕食の支度をしていると、アパートの管理人である宮本瞳と話し込んでしまって帰る時間が遅くなってしまった。管理人と話をするのは嫌いではない
のだが、彼女の話題は世間話から始まってアパートの住人たちに対するあれこれ、そしてその中でも特にお気に入りらしい高校生の話題が、頻繁に上がって
くる。瞳曰く、「年下の男の子って、遠慮はするけどちゃんと手伝ってくれたりするから大好きなの♪」とのこと。
その基準で言えば、舞の兄・中塚征(せい)も管理人から見れば十分年下である。征は現在大学一年生、舞とは五歳離れた家族で、本人には言わないが
自慢の兄だ。学生の身でありながら自活し、家計のためにしているアルバイトと本業である学業の両立もしっかりしている。ただ、帰ってくる時間は割と
不規則になりがちで、それを心配した舞がほぼ毎日のように夕飯を作りに出向いているというのが現状である。
瞳の言葉がどこまで本気かは分からないが、少なくとも征に対して好意的であることは疑いようがない。本命は高校生の方なのだろうが、おっとりしつつ
それでいてどこか放っておけない危なっかしさと、やんわりとした母性溢れる包容力は男性を無自覚に惑わす危険な性質であり、舞としてもなかなか気が
抜けない相手である。
それ故か、話しているうちに時間も大分遅くなってしまった。時刻は既に午後七時を回っており、降り出した雨を少しでも早く避けるべくバスに駆け込む
までは良かったのだが、自宅の最寄りバス停に辿り着いてみれば見事な豪雨。走っていけば五分程度で着けるとはいえ、濡れるリスクはもはや考えるまでも
ないレベルだった。
「しょ、っと」
バスから降りてバス停の屋根下に身体を滑り込ませるも、降りしきる雨に制服が濡れる。ちょうど衣替えシーズンということで着ていた制服の上着が雨を
弾き、鞄を傘にしていたおかげで髪の毛などは濡れていない。
「迎えに来てもらうのも悪いし……さっさと走って帰って、お風呂入った方がいいよね」
ひとりごちながら自宅に続く道を見る。バスから降りた他の乗客はそれぞれ傘を差したり、舞と同じように濡れる覚悟で帰路に着いており、まだバス停に
残っているのは舞だけだ。そして舞も、いつまでもバス停に居残っているような必要もないのでさっさと帰ろうと一歩踏み出す。
と、その時。
舞の視線の先に、こちらに向かって歩いてくる人影があった。
「…………え? ちょ……」
人影自体は珍しくもない。傘を差していないのも、不意に降り出したこの雨に対応しきれなかったのだという事情であろうと推測はできる。
だがその人影は急ぐ訳でもなく、力など微塵も感じさせない弱々しい足取りで。
着崩した黒いシャツと白のズボン、そして半端に履いたスニーカーを引きずった女の子が、濡れることを意にも介さず歩いていた。
「……………………ぁっ」
よろよろと歩いていた女の子は、半脱ぎの靴につまずいて転んでしまう。それを何度か繰り返していたのだろう、衣服の汚れは一度や二度の転倒で付く
ような汚れではなかった。パッと舞が見た限りでは怪我はなさそうだが、のろのろと起き上がる事さえ緩慢な女の子を見ていて、舞は咄嗟にバス停を飛び
出して駆け寄った。
「ちょっと、大丈夫!? どこか怪我してるんじゃないの!?」
「ぇ……? あ……」
女の子が顔をあげて舞を見る。首まで覆うくらいのやや長い黒髪と、整った目鼻立ち。雨に濡れて体温が下がっているせいか、病的なまでに白い肌。
とっさに掴んだ肩はか細く、寒さでふるふると小刻みに震えている。
「……あ、の……」
「――――――――はっ!? ……と、とにかく、こんなトコにいつまでもいたら風邪引くから……早く帰りなさいよ?」
思わず見とれていた舞は女の子の声で我に返ったが、ソプラノボイスの綺麗な声にも内心驚いていた。立ち上がらせてみれば舞とさほど変わらない身長の
女の子は、おそらく同年代だろう。しかし通っている中学校では見たことのない顔だ。学年が違うのか、それとも他校の生徒か。どちらにせよ、こんなにも
可愛い女の子なら一目で覚えてしまえる自信がある。
「帰、れ…………ない、です……家、飛び出して、来たから……」
「飛び出してって……家出!?」
女の子の発言に驚いて無意識に肩を掴む。すると女の子はうっと顔を歪め、眼の端に涙を滲ませる。
「い、痛い……っ」
「あ、ああっ、ゴメン!! でも家出なんて……? ちょっと……」
濡れた髪をかき分けて、女の子の左頬を露出させる。そこはわずかに赤く腫れ上がっており、女の子もそれに気付いたのかさっと顔を背けた。
「…………何、それ……叩かれたの?」
「うん……お姉ちゃん、に…………」
じわ、と女の子の目から涙があふれる。一番近しい肉親に手を上げられ、そこから逃げ出してきた。兄妹仲の良い舞には想像もつかない出来事だが、明確
な傷跡が事実を雄弁に物語っている。
「…………分かった。あたしじゃ大した事は出来ないけど、手当くらいはしてあげる。だから――――」
ぐっ、と女の子の顔を両手で支え、額をくっつける。きめ細やかな女の子の肌と、そこから感じる低い体温を感じながら。
今はもう、この世にいない母がしてくれたように。
寂しいと泣いていた自分を励ましてくれた、兄のように。
「大丈夫。あなたは今、ひとりじゃないから」
優しくも力強い声で、中塚舞は女の子を勇気づけた。
陽乃海市、天月町。高級住宅街である天桜町の隣に位置するこの町も、富裕層から中流家庭まで幅広い住民を抱える住宅街であり、マンション・アパート・
そして一戸建てが乱立している。しかし住民たちはそれを納得した上で居住しており、新規で建設されるマンションに対して苦情を述べることもなければ、
また同じく新築の戸建てにも寛容な穏やかな町である。
その天月町の中にある一戸建ての一つが、舞の自宅だった。和の様式を思わせる佇まいと瓦葺の屋根。滴り落ちる雨水は桟によって庭に落ち、雨の中に
溶け込むような落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「伯父さんたちはまだ帰ってないかぁ……ま、ちょうどいいかな。さ、入って入って!!」
「ぁぅ、で、でも……」
びしょ濡れになった舞を、さらにびしょ濡れの女の子が見上げる。女の子とさほど変わらないくらいの体格の舞はどこか自信に溢れたような表情でくすっ、
と微笑むと、半ば無理やりに女の子を玄関に引きずり込んだ。
「わ、わぁっ!?」
「遠慮なんかしなくていいって! それに家に帰るにしたって、そんなずぶ濡れの格好で帰れるの? お風呂くらい入って行きなさいよ」
舞の手に引かれ、女の子はそのまま玄関に入ってしまった。初めてなのにどこか懐かしさを感じさせる内装と、二階に続く階段。廊下は奥までまっすぐに
伸びており、その途中でいくつかの部屋に枝分かれしている。そんな風に観察していながら、女の子はふとそれが失礼な行為に当たると考えて、咄嗟に舞に
頭を下げた。
「ご、ごめんなさいっ……勝手に家の中、ジロジロ見たりして……」
「え? ああ、別にそんなのどうでもいいわよ。でも、一つだけ言って欲しい言葉があるんだけどなぁ〜…………気付かない?」
舞の言葉に女の子はきょろきょろと家の中を見回し、答えを探す。何かを褒めれば良いのか、それとも遠慮せずに振る舞えばいいのか。だが舞は『言葉』
と言っていたのだから、きっと何か大切な事を言わなければいけないのだろう。女の子がしばらく考えていると、舞は半ば呆れ気味に溜め息を吐いた。
「……人の家に来たら、まず何を言えばいいと思う?」
「……あ、ああっ、ご、ごめんなさいっ」
ひくっ、と舞の表情が強張る。言って欲しい答えとはまるで異なる謝罪。おどおどと震える女の子は迷子の子犬を思わせる愛らしさがあるが、舞は掴んだ
ままの女の子の手を引いて家に上がらせる。
「――――いらっしゃい。ようこそあたしの家へ。それと……今更だけど、自己紹介。中塚舞です、よろしくね」
「え、あ、は、はい……おじゃまします。それと、間宮勇希です……」
にっこりと舞がほほ笑むと、勇希も戸惑いながらだが笑顔を作る。しかしそれはまだまだ固い笑みでしかなく、舞はやれやれといった感じで溜め息を吐き、
おもむろに手を伸ばして――――
「えいっ!!」
「ふぁっ!?」
両頬をぐいっと左右それぞれに引っ張って、無理やりに表情を変えるという乱暴な手法。勇希は抵抗するように舞の手に触れるが、引き剥がすには余りに
弱々しい抗議でしかない。
「にゃ、にゃにひゅるんれふかぁっ?」
「いつまでもジメジメウジウジしてないの! ぱぁっと気持ち切り替えて、ちょっとは明るい事考えなさい!!」
叱責と言うにはあまりにも明るく張りのある舞の声。勇希の濡れた瞳が舞を捉えると舞はゆっくりと手の力を抜いて頬を撫でた後、肩に手を置いた。
「さてと! いつまでもそんな濡れたカッコじゃ風邪引いちゃうからね、まずはお風呂に入らないと。それにあたしも濡れちゃってるし……勇希ちゃん、
一緒に入ろうか?」
言うが早いか、舞は半ば強引に勇希の手を取って風呂場へと歩いていく。唐突すぎる申し出に頭が追い付いていない勇希の処理がようやく追いつく頃には、
既に風呂場の前にまで来てしまっていた。
「あ、ああ、あの、ちょ、ちょっと待ってくださいっ!? いきなりお風呂だなんて、それに見ず知らずの他人をですか!?」
「何言ってんの。名前名乗り合った時点で見ず知らずじゃないでしょ? それに困った時はお互いさま。家出してきたんだったらどこかに泊まる事になる
だろうけど、この雨の中でも勇希ちゃんみたいに可愛い子が野宿なんてしたら、身体壊した上に知らない人のオモチャにされちゃうんだからね?」
確かに、舞の言い分も一理ある。降りしきる雨に打たれ続ければ風邪を引くことなど誰でも分かる事だし、さらに勇希の可愛らしさを世に蔓延している
特殊性癖の持ち主たちが捨て置くとは思えない。そういう意味では舞に出会えたことは勇希にとって不幸中の幸いと言えるかも知れないが、だからと言って
舞のオモチャにしていいわけでもない。
ぷちぷちと勇希が来ている水浸しのシャツのボタンを外し、するんと脱がせる。下着をつけていない真っ白な肌があらわになり、舞は思わずその美しさに
言葉を無くしかけた。
「――――――――はっ、ご、ごめんごめん。それにしても……細いね。ちゃんとご飯とか食べてる?」
「は、はい……お姉ちゃんにも、もっと食べろって言われます……」
しゅん、としょぼくれながら姉に叩かれた頬を押さえる勇希。家を飛び出してきたとはいえ、やはり姉は姉だ。世界でただ一人同じ血を分けた肉親である
相手を想うことは人間として正しい思考であり、舞も同じように兄を持つ身として勇希の心はそれとなく察することが出来る。
「……お姉さんと、仲直りしたいんだ?」
「…………はい……」
絞り出すような声は弱々しくも、しかしはっきりと聞こえるものだった。舞はその答えに満足したように頷く。
「じゃあ、濡れた格好で帰ったらお姉さんに心配かけちゃうよね? あたしの服貸してあげるからさ、ちゃっちゃとお風呂入っちゃおう!!」
すかさず勇希のズボンに手をかける。咄嗟には反応出来なかった勇希の手がベルトを押さえようとするよりも早く、舞の手はボタンとファスナーを外し、
勢い良く下方にずり下げる。
「――――――――――――――――え?」
「あ、あわ、あぁ……――――――――っ」
パキン、と音を立てて空気が凍った。そんな擬音を確かに舞は聞いた気がした。
別に『コレ』を見るのは初めてではない。幼い頃には父のも見た事があるし、数年前までは兄のも見た事がある。多少なりとも免疫は付いているほうだし、
むしろ同世代の女子たちが保健体育の授業でキャーキャーと騒ぐ方が馬鹿馬鹿しいと思っていた。
だけど、これは驚くなと言う方が無理だ。目の前にいるこの間宮勇希は、どこからどう見ても女の子にしか見えない。そんな『彼女』が――――
「そ、その、僕…………男、なんです…………」
――――愛らしいソプラノボイスの持ち主が『彼』だなどと、いったい誰が信じるだろうか。
降りしきる雨の日、自業自得とは果たしてどちらに対して当てはまる言葉だろう。
偶然の出会いは誤解と共に始まり、少女二人と思えた関係は少年少女の物語へと転じ。
間宮勇希は過失とはいえ、本日二度目の平手打ちを見舞われる羽目になった。
あとがき: