Memories Base Combination Production

Back Grounds Memories

 

“キーン・コーン・カーン・コーン・・・”

その日の学校の終わりを告げるチャイムの音が鳴る。

私は、サッカーボールを持って教室を出ようとする男の子に声を掛ける。

「か、勝人くん!?」

「な、何だよ、美咲ちゃん」

普段は気弱な私の大きな声に驚く勝人くん。

「俺に何か用?」

今日は、終業式で学校は午前中で終わり。

勝人くんも友達と早く遊びに行きたいみたいだった。

「・・・」

だけど、呼び止めたのはいいけど、言葉が出ない私を見て勝人くんの表情が曇る。

「ひょっとして・・・また誰かにイジメられたのか?」

「う、ううん、違うの」

「そっか、泣きそうな顔してるから・・・」

私は分からないけど、泣きそうなのは本当だった。

今日は、私がこの学校に通う最後の日だから、そして勝人くんに会うのも・・・

「ほら、そんな顔しないでよ。俺は美咲ちゃんが泣いてる顔は見たくないんだから」

「!!」

その言葉が限界だった。

私は、白瀬くんに自分が持っていたミサンガを渡すと、その横を走り抜けた。

「ち、ちょっと美咲ちゃん!?」

(勝人くん・・・私のこと、忘れないでね・・・)

私の頬には堪えていた涙が流れていた―――

 

 

The 4th anniversary Special Project

                                         presented by フォーゲル

 

Two stars to which it draws close each other

 

 

第2話  憧れの女の子

 

 

「何年振りだっけ?」

「え〜と、6年振りかな」

霧島と再会した後、俺達は陽乃海市内に戻って来た。

目の前に居る霧島は俺の記憶に残っている小学生の頃のままだった。

だからこそ、俺には心配なことがあった。

「それでさ、霧島・・・お前、体調の方はいいのか?」

霧島は小学生の時は病弱で、学校を休みがちなことが多かった。

先生達は、当然何かあるといけないので、霧島に対しては気を使っていることが多かったのだが・・・

それが気に入らなかったのか、霧島をイジメる奴もいた。

そういう連中からは、俺と『あいつ』が守っていたんだけど。

「うん、転校したのもお父さんの仕事の都合もあったけど、私の体調のことも考えてくれたから」

そう言った霧島の表情が少し曇ったのが印象に残った。

「そういえばさ、霧島、お前、何で言ってくれなかったんだよ」

「えっ?」

「転校のことだよ。俺、何にも聞いてなかったからさ、言ってくれればお別れ会とかやったのに」

「あ、ご、ゴメンね。・・・ちょっと事情があって。・・・私のこと嫌いになった?」

不安な表情を見せる霧島。

そんな霧島を見て、俺は、呆れたように肩を竦めた。

「そんなことで嫌いになってたら、それこそ今、こうして一緒に歩いたりしてないって」

「本当に?」

「本当だって、俺が霧島にウソついたことあったか?」

「そ、そうだね。良かった・・・」

心底、ホッとしたように笑顔を浮かべる霧島。

 

“ドキッ”

 

その笑顔に何故か顔が赤くなるのを感じた。

 

 

 

 

「勝人くん?私を連れて来たかったのって・・・ここ?」

俺は霧島を連れて、とある場所に来ていた。

欧風喫茶レストラン、『ひいらぎ』。

ここは、俺の友達の親が経営している店だ。

俺が霧島をこの店に連れて来た理由は・・・

(今の時間帯なら・・・丁度、お客さんも落ち着いてる頃だろうな)

もう一人、霧島に会わせたい人物がいるからだ。

そいつは、『ひいらぎ』の手伝いをしている。

 

“カランコロン”

 

カウベルの音が鳴る。

 

“いらっしゃいませー!!”

ウエイターの声が響く。

「って・・・白瀬か」

俺の友人の一人で『ひいらぎ』でバイトをしている高平継が声を掛ける。

「よっ!!」

俺は片手を上げて、挨拶をする。

「こ、こんにちは・・・」

俺の後に続き、霧島もおずおずと挨拶する。

「継くん?どうしたの?お客さん?」

厨房から声を聞きつけたのか、『ひいらぎ』のパティシェール見習いで、

高平の恋人でもある、柊木要も顔を出す。

『ひいらぎ』は彼女の家族が経営している店だ。

「白瀬くん。いらっしゃい」

そして、柊木は俺の後ろに目をやる。

「彼女は・・・白瀬くんの彼女?」

「なっ・・・ち、違うって!!」

笑いながら聞く柊木。

俺の後ろに立っている霧島を見る。

その顔は真っ赤に染まっていた。

「あたしは、柊木要、よろしくね。霧島さん」

いつの間にか、霧島の前に立っていた柊が自己紹介する。

「俺は、高平継。よろしくな」

「は、はい、霧島美咲です。よろしくお願いします」

お互いに自己紹介を終えた後、柊木は高平の方を見て呟く。

「継くんも、こういう時は気を効かせないとダメだよ」

「ああ、そうだな。悪かった」

「違うって・・・2人共余計な気を使わなくていいよ」

「でも、デート帰りにしか見えないよ?」

た、確かにそうかも知れないけど・・・

「霧島とは、今日再会したんですよ。ここに来たのは会わせたい人物がいるからな」

その時だった。

 

「お疲れさまでした〜」

 

大きな声がバックヤードの方から聞こえてくる。

「ふう〜疲れた」

その声の主は、やがて俺達の前に姿を現す。

「要、高平くん。お疲れ様〜って勝人じゃない。どうしたのよ。って・・・」

声の主は俺よりも俺の後ろにいるもう一人の人物に驚いたみたいだ。

それは霧島も同じだったみたいだ。

「ひょっとして、紗雪ちゃん?」

「美咲!?久しぶり〜!!」

嬉しそうに霧島に駆け寄る紗雪。

これが、俺が霧島を『ひいらぎ』に連れて来た理由。

俺と同じく霧島の親友だった東野 紗雪(とうの さゆき)に霧島を会わせるためだった。

紗雪は、『ひいらぎ』で、厨房の方でアルバイトをしている。

「今週『久しぶりの再会』の場面を見たのは2回目だな・・・」

俺の後ろで高平が何事か呟いていた。

 

 

 

 

陽も暮れて、街頭に灯が付き始めた陽乃海市の街並みを、

私達3人は並んで歩いていました。

「何、落ち込んでるのよ。勝人」

落ち込んでいる白瀬くんを励ますように肩を叩く紗雪ちゃん。

「いや、別に・・・ただ今月残り、どうやって生活しようかとな」

白瀬くんが落ち込んでいるのは、『ひいらぎ』での食事代を私達の分まで出してくれたから。

「当然でしょ!ああいう時には男の子がお金を出すものよ」

「しかも、柊木もオマケとかしてくれなかったし・・・」

「あ、あの、白瀬くん?やっぱり私、お金出そうか?」

「いや、いいよ。確かに紗雪の言うとおりでもあるしな」

諦めにも似た表情で呟く白瀬くん。

「でも、そう言ってくれるだけで嬉しいぜ。ありがとう。霧島。それに引き換え・・・」

「何か、言いたそうね。勝人」

「いや〜どこかの誰かさんと違って気を使ってくれるだけ嬉しいな〜と」

「ふ〜ん、どこかの誰かさんって一体誰のことかしら?」

「さあ?自分の胸に手をあてて、考えろよ」

「そういうことを言うのは、この口かしら?」

思いっきり、白瀬くんの頬をつねる紗雪ちゃん。

「い、いひゃい、いひゃい(痛い、痛い)」

「プッ・・・」

そんな2人の姿を見ながら、私は思わず笑い出す。

「何がおかしいのよ?美咲?」

私の姿が気になったのか、問い掛ける紗雪ちゃん。

「ご、ゴメンね。2人共変わってないな〜って」

白瀬くんと、紗雪ちゃん。

2人は確かに変わっていなかった。

白瀬くんもそうだけど、紗雪ちゃんも小学生時代から変わっていなかった。

紗雪ちゃんは、明るくて、堂々としていて、いつもクラスの中心にいた。

男の子とも物おじしないで、普通にお喋りとかが出来る女の子だった。

もちろん、私みたいな物静かなタイプの人にも、分け隔て無く接してくれた。

だからかな。私はこう思うようになっていたの。

 

「私も紗雪ちゃんみたいな女の子になりたい」

 

 

だから、紗雪ちゃんは私にとって『憧れの女の子』かな。

 

 

「全くだぜ。口も早いが手も早くて本当に困る」

「それは、勝人が変な行動ばっかりするからでしょ」

「変な行動って何だよ」

「ことあるごとに新崎くんに勝負を挑んだりするあたりよ」

「あれは、俺の男のプライドにおいて引けない部分なんだよ。だいたいお前だって似たようなもんじゃないか」

「あたしがいつそんなことしたのよ」

「久慈と『どっちが料理研究会の部長になるか?』で揉めた時にはお互い引かなくて大変だったらしいな。

 で、結局今村先輩の裁定で決着付いたんだろ?」

「あ、あれは・・・結局引かない樹希が悪いのよ!!」

「やっぱり、俺と変わらないじゃねーか・・・」

 

 

「・・・」

そんな2人の会話を見ている間に私はある想いにとらわれていた。

2人とも、口ゲンカをしているけど、とても楽しそう。

特に白瀬くんが『対等に』紗雪ちゃんと話しているのが羨ましかった。

小学生の時、私のことは、どことなく『妹』みたいな感じで接していたから。

それに、こうして見ると2人はまるで・・・

 

 

“♪〜♪〜♪”

私の携帯電話が鳴ったのはその時だった。

 

 

 

“♪〜♪〜♪”

俺と紗雪が言い争いをしていた、その時、携帯の音がした。

俺でも、紗雪でも無い。となると・・・

「もしもし?お父さん?どうしたの?」

鳴ったのは、美咲の携帯だった。

「うん、今、友達と一緒?うん・・・うん・・・分かった、もうすぐ帰るね」

電話を切る美咲。

「美咲?誰からよ?」

「お父さんから。『早く帰って来なさい』って」

何気なく時計を見る、7時くらいを指している。

「あ〜確かに、そんな時間よね・・・」

紗雪ちゃんは、何か考えた後、俺の肩を叩いた。

「勝人、美咲ちゃんを送ってあげなさい。こういう時は男が送ってあげなきゃだめよ」

「でも、私、電車で陽乃海市に来たから・・・向こうに着いたらお父さんが迎えに来るって言うし」

「俺はいいぞ、天崎駅まででも何かあったら大変だしな」

「ありがとう、白瀬くん」

丁度スーパーの前まで来て、紗雪は立ち止る。

「じゃあ、あたしは夕飯の買い物でもして帰ろうかな」

そして、俺と美咲を見て呟く。

「勝人〜送り狼になっちゃダメよ〜」

「だ、誰がなるか!!いいからとっとと行けよ!!」

「あははっ!!じゃあね〜2人共〜」

紗雪は手を振りながらスーパーの中へ消えて行った。

 

 

 

 

“ガタン・ゴトン・・・”

電車の中で私は今日一日のことを思いだしていた。

白瀬くんや紗雪ちゃんと再会出来たこと。

それに、高平くんや要ちゃん。新しい友達。

学校は違うけど、これから楽しくなりそうで嬉しかった。

(だけど・・・)

紗雪ちゃんと分かれた後の白瀬くんの表情を思い出す。

 

『全く、しょうがないな、あいつは・・・』

 

そんなこと言いながら、その顔は笑顔だった。

その表情を見て、私は白瀬くんと紗雪ちゃんを見てて思ったことがあった。

 

 

『2人は付き合ってるの?』

 

だけど、私はその質問をとうとう出来なかった。

(何でかな・・・)

電車に揺られながら、私はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

〜第3話に続く〜

 

 

こんばんは〜フォーゲルです。

 

Two stars to which it draws close each otherの第2話目になります。

 

今回は、勝人に加えて美咲と紗雪の再会も書いてみました。

 

                   美咲の感情の揺れ動きなどが読み取れたら嬉しいですね。

 

          次回は、『BGMシリーズの某キャラ』を出したいと思います

 

                 と言っても他のSSとの兼ね合いがありますので、次回は11月になってからが濃厚です(汗)

 

           楽しみにして頂けると嬉しいです。

 

           それでは、失礼します〜






2009.10.14