Memories Base Combination Production

Back Grounds Memories

 

『天崎(あまみさき)〜天崎〜お忘れ物の無いように・・・』

 駅員の独特の口調が、電車の到着を告げる。

 到着と同時に乗客が次々と降りて行く。

 『彼女』もまたその乗客の中の一人だった。

 栗色の髪は肩のところで切りそろえられていて、印象はどこか幼い感じを受ける。

 人目を引く美人という訳では無いが、そのクリクリとした瞳が可愛らしい雰囲気を醸し出していた。

 服装は、カーディガンにロングスカートとどことなく控え目だった。

 「久しぶりだな・・・こうしてゆっくりこの町に来るのも」

 彼女は懐かしそうに呟く。

 

 

The 4th anniversary Special Project

 

                                         presented by フォーゲル

 

Two stars to which it draws close each other

 

 

 

第1話 休日の再会

 

 最も、彼女はこの町に今帰って来た訳じゃない。

 彼女は小学四年生までの頃まで、この町『陽乃海市』に住んでいた。

 父親の転勤で引っ越ししてしまったのだが、今度はまた陽乃海市の近くの市に戻って来たのだ。

 今度通うことになったのが、陽乃海市内にある陽乃平高校なので、転校のための手続きを終えたのが昨日。

 彼女がプライベートで陽乃海市に来るのは小学校以来になる。

 「大分、変わっているみたい・・・」

 彼女がまだ陽乃海市にいる時には、天崎駅も大きな駅舎があるだけだった。

 しかし、今の陽乃海市は大きな都市のベットタウン化していることもあり、駅前には大きなデパートなども建ち並んでいた。

 「・・・」

 彼女はそのことに一抹の不安を覚える。

 変わらないものなんてありえない。それは決して避けようのないことだ。

 「でも、変わらないものも・・・あってほしいな」

 そう呟くと彼女―――『霧島 美咲』(きりしま みさき)は歩き始めた。

 

 

 

「なあ・・・どうしてもダメか?」

 夏が終わり、秋が近付いていることを感じさせられることが多くなって来たある日の陽ヶ崎高校生徒会室。

 俺―――『白瀬 勝人』(しらせ かつひと)は『ある交渉』をしていた。

 「残念ながらそんな理由を認めることは出来ないが?」

 交渉相手である生徒会長、蓮見 龍也は俺の方を見もせずに答える。

 「どうしてだよ〜蓮見。剣道部の防具や竹刀が壊れかけているから、修理費を出してくれって言っているだけだろ?」

 「それは、今までの部費の中でやりくりすればいいと思いますが?」

 「そうは言うけどさ、あれだけの部費で全部は直しきれないんだよ」

 ただでさえ、ウチの剣道部は弱小な上、部費が抑えられている。

 俺の家は副業で剣道の道場もやっているから、それで何とかしてきたがそれにも限界というものがある。

 「白瀬くん、生徒会としても各部活動と話し合いをして出した結論なのです。勝手に特定の部活にだけ部費を出すというわけには行かないのですよ」

 蓮見は仕事を終えたのか、ノートパソコンのディスプレイを閉じると帰り支度を始める。

 「今村先輩の時には、各部活結構融通が聞いてくれたけどな」

 「前会長は前会長、僕には僕のやり方があるんでね」

 蓮見は支度を整えると俺の方を見た。

 「白瀬くん。もし部費を増やして欲しいなら、結果を出せばいいんですよ」

 「結果?」

 「インターハイで上位に行くとか、そこまでじゃなくても県大会で上位に行くとかです」

 「そういう結果なら出したと思うんだが・・・」

 夏の新人戦、俺は県で準優勝という結果を残した。

 「それは、白瀬くん『一人』の力でしょう?部活とは本来『先輩・後輩の垣根を越えて交流を深める』のが目的ですから」

 た、確かに個人戦はともかく団体戦は結果はよろしく無かったが・・・

 「団体戦で好成績を残せたら、考えないでもないです。では」

 そう言い残し、蓮見はさっさと生徒会室を出ていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

  蓮見が居なくなった以上、これ以上学校にいる意味もない。

 そう判断した俺も、帰り支度をして学園を出た。

 家路を急ぎつつ、俺はこれからの剣道部の強化プランを考えていた。

 剣道部は今顧問が居ない。

 正確には顧問の朝岡が階段から転落するという怪我をした後、勝手に剣道部の顧問を降りてしまったのだ。

 顧問になる先生が居ないのは大変だったが、それは俺が大会で結果を出したおかげで他の先生がなってくれた。

 だから、今の剣道部は俺が主将兼コーチみたいなものだ。

 (やっぱり、まずは基礎からやらないとダメかもな・・・)

 俺がそんなことを考えながら歩いていると―――

 「あれ?白瀬くんじゃないですか?」

 「お前、なにやってるんだよ。こんなところで」

 そこには、俺のライバルである新崎謙悟とその彼女の今村冴霞先輩がいた。

 「俺か?俺は部活で学校に行ってて今帰りなんだよ。2人は・・・デートか?」

 「まあ、そんなところだな」

 「け、謙悟くん!?そんな堂々と他の人に言わないで下さい」

 「違うのか?冴霞?」

 「ち、違いませんけど・・・」

 謙悟の言葉に頬を赤く染め、俯く今村先輩。

(こうして見ると、結構絵になるんだよな。この2人・・・)

 俺は声には出さず、そんなことを考える。

 校内で『不良』のレッテルを張られていた謙悟と美人で優等生な今村先輩。

 一見どう考えても不釣り合いな2人がある時期から一緒にいることが多くなったのは俺でも分かった。

 『付き合ってるんじゃないか?あの2人』そんな噂も流れていた。

 その噂はこないだの文化祭で謙悟が大衆の面前で『俺の冴霞』発言をかましたことで『噂』が『事実』として確定した訳だ。

 それはともかく、まだ顔が赤い今村先輩を見て、俺は思わず呟く。

 「う〜ん・・・こればっかりは叶わないかもな〜」

 「何がですか?」

 俺の言葉に疑問の表情を浮かべる今村先輩。

 「いや、俺は謙悟のライバルであらゆる面でコイツには負けたくないって思ってる訳ですけど・・・」

 「『自称』だろ?それは。俺はお前をライバル視した覚えは一切無いぞ」

 呆れたように言う謙悟。

 「・・・そういえば、白瀬くんはどうして謙悟くんをライバルだと思ってるんですか?」

 

 「え?ああ・・・それはですね」

 今村先輩の疑問に俺はその時のことを語り始めた。

 

 

 

 

 

 

  俺の家は剣道の道場をやっている。

 そのせいで、俺も子供の頃から剣道をしていた。

 俺は、元々素質があったらしく、剣道を始めた小学3年の頃から、中学2年の間に少なくとも同世代の間には敵が居なかった。

 

 それが良くなかったのかも知れない。中学2年の頃の俺は練習をサボるようになっていた。

 そんな時に出たのが、道場対抗の練習試合。

 俺は先鋒で出てとっとと終わらせようとして、実際に一人で副将まで倒した。

 そして、最後に立ちはだかったのが―――謙悟だった。

 

 

 

 

 

  「それで、どうなったんですか?」

 今村先輩の問いに俺は苦笑いを浮かべる。

 「2分でした」

 「えっ?」

 「試合時間です。『始め!!』の『め!』っていう声が消えるくらいであっと言う間に一本取られてそのまま終了でした」

 俺は苦笑いで言う。

 「それ以来だよな。お前がことあるごとに俺に勝負を挑むようになったのは?」

 謙悟が笑いながら言う。

 「悔しかったからな〜お前には何がなんでも負けたくないって思ったし」

 

 

 「だからって、100M走だの、サッカーやバスケでどちらが多く点とるだのでも勝負を挑まれても困るんだがな」

 苦笑いを浮かべる謙悟。

 「でも、そんな俺でもさっきは『これは無理』だと思えましたね」

 「そういえば、さっきもそんなこと言ってましたね。何ですか?」

 俺は今村先輩を見ながら答える。

 「『謙悟よりも可愛い彼女を作る』ってことですよ」

 「な、何をいってるんですか!白瀬くん?先輩をからかっちゃダメですよ!」

 勢いよく、更にさっきより顔を真っ赤にする今村先輩。

 「いや、からかっちゃいませんが・・・」

 実際問題、今村先輩よりも可愛い彼女となると相当ハードル高いような気がする。

 「・・・冴霞、そろそろ時間じゃないのか?」

 「あっ、そうですね」

 2人は腕時計を見て、顔を見合わせる。

 「どうしたんですか?」

 「もうすぐ見に行こうと思ってた映画の開演時間なんです」

 「そういうことだ。じゃあな、勝人」

 「あっ、待って下さいよ。謙悟くん!?白瀬くん。明日また学校で!」

 そう言い残して2人は慌ただしく走って行った。

 

 

 

  2人と別れた後、まだ家に帰るには早い時間だなと思った俺は、『ある場所』に来ていた。

 

 陽乃海市は海と山が比較的近い場所にあり、それが町の観光のウリになっている。

 俺が来たのはその山の一角。

 高台になっていて、小さなブランコが2つと大きな樫の木があった。

 その場所に辿り着いた俺はその樫の木についている刀傷に触れる。

 (懐かしいな・・・)

 そこは俺が剣道を始めた頃に強くなるために『秘密の特訓』をしていた場所だった。

 (謙悟に負けてからだよな・・・俺がどうして剣道始めたのか、思い出したのは)

 俺が剣道を始めた理由―――それはクラスメートの女の子を守るためだった。

 彼女は身体が弱くて、学校を休みがちだった。そのため両親や教職員も気を使っていた。

 しかし、その『特別扱い』が気にいらない奴もいたのだろう。

 彼女はイジメを受けていた。

 俺はそれが気に入らなかった。

 身体が弱いのも、そのせいで特別扱いされているのも彼女が望んだ訳じゃない。

 それなのに、イジメるなんて卑怯者のすることだと思った。

 そう思った瞬間―――俺は彼女を庇うようにいじめっ子の前に立っていた―――

 (って懐かしいこと思い出したな・・・)

 俺はそう言って樫の木を見つめる。

 昔、目線の高さに会った刀傷は今では俺の腰くらいの位置にある。

 そのことがあれから月日が立ったことを感じさせた。

 (あいつ・・・転校してから大丈夫なのかな・・・心配してもしょうがないけど)

 俺がそんなことを考えたその時だった。

 「・・・もしかして、白瀬くん?」

 後ろから名前を呼ぶ声。

 俺はゆっくりと後ろを振り向く。

 そこには、一人の少女が立っていた。

 短い栗色の髪。クリクリとした大きな瞳。その幼い雰囲気が小学生の頃と一致した。

 「・・・ひょっとして、霧島か?」

 これが俺が守ろうとした女の子――――霧島 美咲との再会だった。

 

 

 

 

 

〜第2話に続く〜

 

 

 

 

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白瀬 勝人(しらせかつひと)

身長170cm 体重63kg 3月9日生まれ O型

 

県立陽ヶ崎高校二年四組。剣道部主将。

家族構成は、両親との三人暮らし。

 

性格は少しお調子者の処もあるが基本は真面目。

家が剣道の道場をやっていることもあり、実力はかなりのもの。

反比例するかのように成績はあまり良くなかったりする。

最も中学時代はその性格が災いし、剣道に関して身が入らなかった時期がある。

敵なし状態だったせいで、天狗になっていたのだ。

しかし、中学二年の時に出た剣道の大会で、仕方なく出ていた謙悟にあっさり敗北して自分が『井の中の蛙』状態だったことを自覚してからは、

真剣に剣道に打ち込むようになってその時から謙悟の数少ない友人の一人になる。

そして、自分が剣道を始めた理由『クラスメートで気になってた女の子を守るために強くなる』という目的を思い出す。

当面の目標は謙悟から一本取ること。

その目標&弱小剣道部を強くするため謙悟を入部させようとしていたが結局うまく行かず。

その時の行動のせいか、周りからは『不良の謙悟に話しかける勇気ある男』という評判が立つ。

今は受け継いだばかりの剣道部主将としてどうやって後輩達を指導していくのかが悩みの種?

 

 

 

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霧島 美咲(きりしま みさき)

身長:160cm 体重:43kg B/W/H80/54/82 AB

陽乃平高校(謙悟たちとは違う学校)二年生。元来身体が丈夫な方ではなく、身長に対して痩せている。

病弱だった小学校の頃は学校も休みがちであり、教職員や親たちも気を使ってくれていたが、それが原因で同級生からは

イジメに遭うこともしばしばあった。しかし小学三年生の時に同じクラスになった男の子が守ってくれたことから、彼のことを

特別な存在だと感じるようになり、言い出せないながらもずっと慕っていた。

しかし、両親の離婚とともに他の市に引っ越すことになり、小学四年生の終業式後に引っ越す。それ以来、陽乃海市に来る

ことはほとんど無くなったのだが、通い始めた陽乃平高校が陽乃海市内ということもあり久し振りの帰郷を果たす……。

 

 

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                                〜あとがき〜

                                 

 

                こんばんわ〜フォーゲルです。鷹さんの作品『BGMシリーズ』を舞台にした合作作品、

 

                     Two stars to which it draws close each otherのスタートです。

 

                         まずは、鷹さん、合同作品のお誘いありがとうございます。

 

              主人公の白瀬勝人は、私、フォーゲルが、そしてヒロインの霧島美咲ちゃんは鷹さんに考えて頂きました。

 

                         美咲ちゃんはいいキャラで書き甲斐がありますね。

 

                         この作品をいい作品にしていけたらいいなと思います。

 

                       タイトルの意味は『寄り添いあう2つの星』という意味の英文です。

 

                    勝人と美咲がタイトル通りの関係になれるか、楽しみにして頂けると嬉しいです。

 

                                 それでは、失礼します〜



2009.10.5