てんたまSS
              「初音と双葉」
                               Written by 雅輝


<7> 咎の代償



今日は12月18日。

双葉の命日まで後一週間。

確か花梨が帰るのもその日だったような気がする。

『それまでに、決着つけなくちゃな・・・』

いつまでも今の状態ではいけない。

それは自分なりのけじめだった。



今、俺は一人で商店街に来ている。

花梨に買い物を頼まれたのだ。

『さて、何を買えばよかったんだっけ』

スーパーの前で、朝出るときに花梨に貰ったメモを開く。

と、そこに

「椎名さん」

後ろから声を掛けてくる人がいた。

聞き覚えのある声。

『最近よく会うな・・・』

俺は振り向きざまに挨拶した。

「やあ、初音さん」

「こんにちは、椎名さん」

笑顔で挨拶を返してくれる初音さん。

・・・この前初音さんと会ったときは貴史たちが一緒だった。

だから自然に会話もできたし、双葉のことも想い出さなかった。

でも今日はどうだろうか?

初音さんを傷つけてしまうかもしれない。

だったら早く別れた方がいいんじゃないか?

「椎名さん?」

「え?」

「どうかしたんですか?」

「いや、別に・・・何でもないよ」

「?」

いや、それは逃げに他ならない。

けじめをつけると決めたのは俺なんだ。

たとえどんな結果になろうとも、俺はそれを受け入れなければならない。

・・・逃げてはいけないんだ。

「それより今日はクラブはないの?」

「はい。毎週木曜日は休みなんです」

「そうなんだ」

「はい」

「・・・」

「・・・」

会話が続かない。

その気まずい雰囲気に俺は、初音さんから視線を逸らし空を見上げた。

今は冬なので、陽が昇っている時間は少ない。

まだ学校が終わってすぐのこの時間帯でも、すでに空は夕焼け空へと変わっていた。

「椎名さん・・・」

そんな俺に初音さんが静かに語りかけてくる。

視線を空から初音さんの元へと戻す。

「クレープ、食べに行きませんか?」

「・・・え?」



辺りが少し暗くなり始めた商店街。

そして横には笑顔でクレープを食べている初音さん。

『そういえば前、甘いものが好きって言ってたな・・・』

あの時はこの寒い季節に、嬉しそうに氷いちごを食べていたっけ。

「あの・・・ご迷惑だったでしょうか?突然クレープが食べたいだなんて・・・」

「いや、全然そんなことはないよ」

そういえば、双葉にもよくこんな風に誘われたな。

「ところで、椎名さんは何を買ったんですか?」

――「ねえねえ、椎名は何を買ったの?」――

「俺はラムチョコだよ」

――「俺はラムチョコだ」――

「美味しそうですね・・・」

――「わぁ、美味しそ〜。ねぇ一口頂戴?」――

「もし良かったら一口いる?」

――「しょうがないなぁ。後で双葉の分も貰うぞ」――

「えっ、いいんですか?」

――「えっ、いいの?」――

「ああ、遠慮せずどうぞ」

――「いいのって・・・お前から言って来たんだろ?」――

「えっと・・・それではお言葉に甘えて・・・」

――「じゃあ、いただきま〜す」――

「パクッ」

――「パクッ」――

「美味しいです。ご馳走様でした、椎名さん」

――「おいし〜・・・ありがとう、椎名」

「まったく・・・双葉には敵わないな」

「・・・えっ?」

「あっ・・・」

しまった。

しかしそう思った時には、既に手遅れだった。

「双葉・・・さん。その人が、私に視ていた人の名前ですか・・・?」

「・・・」

やっぱり・・・気づかれていたのか・・・。

「私は・・・」

「私は・・・!」

「私は双葉さんではありません!!吉沢初音です!!」

そう叫ぶ初音さんの瞳には、涙が溢れていた。

「どうして・・・私を視てくれないんですか・・・?」

「どうして・・・私じゃ駄目なんですか・・・?」

「私は・・・!私は双葉さんの代わりなんかじゃありません!!」

耐え切れなくなったように、駅の方へ駆けて行こうとする初音さん。

「初音さん!」

俺は咄嗟に、初音さんの肩を掴む。

しかし・・・

”パンッ”

「離して!優しい素振りなんか見せないでよ!!」

「っ!!」

心に、鋭く、深く突き刺さったその言葉・・・。

「あっ・・・っ!!」

初音さんは一瞬動揺した顔を見せたが、すぐに振り向き、今度こそ駅の方へ走っていってしまった。

「・・・」

俺はそんな初音さんの後姿を、黙って見ていることしか出来なかった・・・。

いつまでもそうしては居られないので、重たい気持ちを引きずり、我が家へと帰ってきた。

ラキシスが愛嬌良く迎えてくれるが、今の俺にはそれに応えてやる元気も無い。

「・・・」

自分で自分が嫌になる。

俺は結局・・・初音さんを傷つけてしまった。

――「何で・・・私を視てくれないんですか・・・?」

あの悲痛な表情。

――「何で・・・私じゃ駄目なんですか・・・?」

涙が溢れた瞳。

そして・・・

――「私は・・・双葉さんの代わりなんかじゃありません!!」

傷ついた、心。

全て俺のせいだ。

償っても、償いきれないほどの咎。

でも、その代償に得た物がある。

ここ最近、ずっと考えていたこと・・・。

もう今更、意味が無いものかも知れない。

それは・・・

――「椎名が今考えることは、どうやって双葉のことを吹っ切るかではなくて、初音自身のことを椎名がどう想っているかです」

花梨が言っていた言葉の・・・答え。



後書き

こんばんわ(?)、雅輝です。

なんと、二日連続更新!!

でも2話共内容薄いですね(汗)。

次回は初音視点から始まります。

おそらく今週中にはUPできるかと・・・。

それでは、次の更新で!



2005.10.23  雅輝