てんたまSS
              「初音と双葉」
                               Written by 雅輝


<6> 商店街で・・・



「やっぱりあのクレープ屋さんのフルーツミックスは最高よね〜」

「そうかぁ?俺はバナナチョコの方が好きだけどなぁ」

「え〜っ?貴史、味覚おかしいんじゃないの?」

「なんだと〜?千夏こそ舌が腐ってんじゃねーのか?」

「まあまあ、どっちでも良いじゃないか」

少し険悪になりかけた二人を、タイミング良く諌める。

このタイミングは、幼い頃からの付き合いによって習得したものだ。

尤も、言い合いをし始めたのは中学ぐらいからだったが・・・。

まあ喧嘩するほど仲が良いって言うし、第一この二人は今付き合っているんだから大丈夫だろう。



俺たちは今、商店街に来ている。

千夏の希望で、クレープを食べにわざわざやって来たのだ。

・・・それにしても、どうして女の子はこうも甘いものが好きなんだ?

双葉にもよく付き合わされた記憶がある。

まあ、別に嫌いではないから良いんだけど・・・。

『双葉・・・か・・・』

最近双葉のことを思い出すことが多い。

12月に入って、双葉の命日が近づいて来たからかもしれない。

それに・・・初音さんのことを想っていると、どうしても双葉のことまで想い出してしまう。

こんなことではいけないのに・・・。

あの日・・・真央と話をした日から、既に一週間が経過していた。

だが、俺は未だに”答え”を出せずにいた。

花梨は「焦ってもしょうがないですの」と言っていたが・・・。

あれ以来、真央はおろか初音さんとも会っていない。

・・・会わない方が良いのかも知れないな。

会っても、初音さんを・・・傷つけてしまうだけだから。

「ん?あれは・・・」

そのとき、前方に見えた後姿。

赤いセミロングの髪に、聖沙女子の制服。

それは間違いなく、初音さんの後姿だった。

『・・・どうしようか』

姿を見てしまった以上、このまま声を掛けないのは悪い気がする。

でも、初音さんと何を話せば良いのか分からない。

まだ俺の推測に過ぎないが、初音さんは俺が初音さんに視ている”誰か”の存在に気づいている。

もし今会って、無意識の内に双葉を視てしまったら・・・。

俺はこれ以上、彼女を傷つけたくなかった。

そんな事を考えている内に、不意に初音さんが振り向き、俺と目が合った。

『あっ』

・・・行くしかないか。

目が合ってしまった以上、気づかない振りをするという選択肢は有り得ない。

しかし、覚悟を決めた俺より早く行動を起こす奴がいた。

「おお〜〜!!!あれはまさしく、この間の麗しき御令嬢!また会えるとはなんてラッキーなんだ〜〜」

と言って初音さんの所へダッシュしようとする貴史。

だが・・・

「ぐえっ!!」

蛙が潰れたときに発するような声が、千夏に後ろから襟元をしっかりと捕まえられている貴史の口から出る。

「たぁ〜かぁ〜しぃ〜??こ〜んなかわいい彼女をほったらかしにして、どこに行くつもりだったのかなぁ??」

ヤバイ。

こんなに禍々しい千夏を見るのは久しぶりだ。

「い、いやあの・・・ちょっとトイレに行きたくなって・・・」

苦しい言い訳をする貴史。

貴史も千夏の威圧感に気づいたのか、かなり必死だ。

「ふふふ・・・トイレよりも、もっと素敵な所へ連れて行ってあげましょうかぁ?」

「・・・」

「もしかしたら、去年亡くなった貴史のおじいちゃんにも会えるかもしれないわよ〜?」

・・・多分、天国だ。

グッバイ、貴史。

「ぐほぁ!!!」

千夏の肘鉄が貴史の背中にめりこむ。

「あの・・・」

いつもならそこから殺人コンボが始まるのだが、突然掛けられた声に千夏の攻撃が止まる。

声を掛けてきたのは・・・初音さんだった。

『・・・忘れてた』

千夏の殺気が一瞬で俺の頭の中を真っ白にしたからな・・・。

まあ、会う時の緊張が解れてよかったけど。

「こんにち・・・」

しかし俺が挨拶をしようとした矢先、復活した貴史が真っ先に初音さんの手を握る。

「どうしたんだい?君みたいなかわいい娘が俺たちに何か・・・」

”ドムッ”

「ぐっ!!」

とりあえず、貴史の大腿筋に思いっきり膝を入れとく。

もちろん、おろおろしている初音さんからは完全に見えない死角からだ。

「てめっ・・・椎名・・・」

痛みにもがきながら、恨み言を言っている貴史を押しのけて

「こんにちは、初音さん」

俺はやっと初音さんに挨拶することができた。

「えっと、あの・・・こんにちは」

初音さんも困惑しながら挨拶を返してくれる。

「あれ?椎名。知り合いなの?」

横にいる千夏が聞いてくる。

「ああ、二人に紹介しておくよ。この人は吉沢初音さん。聖沙女子の生徒で、俺たちと同じ二年生だ」

「初めまして。吉沢初音です」

「そしてこの二人が前にも話した俺の幼馴染。相沢貴史と篠崎千夏だよ」

「よろしくね初音ちゃん。いやぁしかし驚いたなぁ。椎名が君みたいなかわいい娘と知り合いだなんて・・・。どう?今度俺と二人でお茶でも・・・」

「スパーーーッン」

スリッパの軽快な音が響く。

案の定、スリッパを持った千夏が仁王立ちしていた。

「貴史?いい加減におふざけはやめましょうね?」

「は、はい!!!」

頭を押さえていた貴史が、千夏のその言葉に背筋を伸ばして答える。

「あ、それと後で話があるから付き合ってね?」

「・・・」

「話があるから付き合えって言ってるんだけど(怒)?」

「・・・はい」

その絶望しきった表情は、まるで今から裁かれる死刑囚のそれだった。

「あの・・・」

放置されていた初音さんがおどおどと問いかけてくる。

「あっ、ごめんね。私は篠崎千夏。一応この馬鹿の彼女をやってるから、あなたも襲われそうになったら真っ先に私に言ってね?」

「は、はい。宜しくお願いします。篠崎さん」

「篠崎さんだなんてそんな他人行儀な・・・。千夏でいいわよ」

そう言って笑顔を向ける千夏。

今まで何度も凶暴化した千夏を見て、少し怯えていた初音さんだが、その笑顔を見て安心したようだ。

「でしたら、私の事も初音と呼んでください」

「わかったわ。これからも宜しくね、初音」

「はい。宜しくお願いします。千夏さん」

その後俺たちは軽い雑談をして、初音さんと別れた。



「それにしても椎名。どうやって初音と知り合ったのよ?まさか、貴史みたいにナンパとかしてたんじゃないでしょうね?」

「んな事するかよ・・・」

貴史と同等に見られたことが少しショックだった。



後書き

どうも、雅輝です。

今回はかなりギャグ要素が多くなってしまいました。

貴史と千夏を出すと何故かこうなっちゃうんですよ(笑)。

ゲームでは二人とも初音さんとは会ってないんですよね。

そのことを疑問に思っていたので、会わせてみました。

予想以上に難しかったです・・・。

そろそろこの物語も終盤に入る予定です。

それでは最後までお付き合いくださいませ。



2005.10.22  雅輝