てんたまSS
              「初音と双葉」
                               Written by 雅輝



<2> ナンパの被害者は・・・



「よっ、椎名。何を買うんだ?」

ここは商店街の中にあるCDショップ。

店内は俺たちと同じように、学校帰りであろう生徒で結構混雑していた。

この辺にCDショップはここだけなので、皆ここに買いに来るようだ。

俺は今声を掛けてきた貴史に、買おうとしているCDのジャケットを見せてやる。

「あっ、それってCMで流れてる曲だよな?」

「ああ。結構頻繁に流れてるから、なんとなく耳に残っちゃってさ」

なんだか販売元の思うツボな気もするが・・・気にしないでおこう。

「そういう貴史は何を買ったんだよ?」

まあ聞かなくても大体分かるけど、聞いて欲しそうな顔をしてるので一応聞いてみる。

「ん?ああこれだよ」

と言って貴史が見せたのは・・・

『やっぱりか・・・』

アニメの主題歌で流れているような曲・・・俗に言う”アニソン”というやつだ。

なぜか貴史は中学の頃にアニソンにハマって以来、今でもこうして買い続けている。

人の趣味をとやかく言うつもりはないが・・・カラオケに行っても、三曲に二曲はアニソンを歌うというのは正直勘弁して欲しい。

「二人とも何買うの?」

そこに千夏がやって来た。

混雑している店内で三人固まるのはどうかと思ったので、会計を済まして店の外へと出た。

暖かい店内から寒い風が吹く外に出ると、今の冬という季節をつくづく実感できる。

実感などしたくはないのだが・・・。

「お〜、寒っ。これからどうする?」

隣にいる千夏に聞いてみる。

「そうねぇ。ブラブラ商店街を見て回ろうかと思ってたんだけど、今日は一段と寒いし・・・もう帰ろっか?」

激しく賛成。

一刻も早く、暖房の効いた我が家へと帰りたい。

「ねえ、貴史もそれでいいわよね?・・・ってあれ、貴史は?」

俺たちの後ろに貴史の姿はなく、周りを見渡すと

「その制服って聖沙(せいさ)のだよね?俺も一回文化祭に行ったことあるんだ〜」

貴史は本屋から出てきたのであろう聖沙の生徒をナンパしている最中だった。

聖沙というのは”私立聖沙女子高等学校”のことで、海沿いにある名門の女子高として知られている。

制服がかわいいということもあり、まさに女子にとっては憧れの高校と言える。

そこに在学している女の子のレベル(たぶん可愛さの、だろう。)もピカ一らしい。(貴史談)

とそのとき、背筋がぞっとするような声が俺の耳に届いた。

「へえ〜〜。貴史ってば、私というものがありながらあ〜んなことしてくれるんだぁ?」

殺気を感じて、千夏の顔をおそるおそるチラッと見るとそこには・・・・・・閻魔がいた。

いや、訂正。

こめかみに青筋を浮かばせた千夏が、握りこぶしを作りながら立っていた。

顔は笑っているが、その目は果てしなく冷たかった。

『ヤバイっ!今千夏の視界に入ったら、確実に殺られる!』

本能でそう感じ取った俺は、一歩下がることで千夏の視界から完全に消えることに成功した。

だが千夏は俺のことなど目もくれないで、

「ふふ、腐腐腐不不」

と呟きながら、ゆっくりと貴史の方へと歩み寄る。

それを見ながら俺は

『貴史、明日学校来れるかな?・・・あいつにノート貸しっぱなしなんだよなぁ』

などと冷静に考えていた。

慣れって恐ろしいな・・・。


千夏の向かう先にいる貴史を見てみると、さっきの女の子相手にまだ粘っていた。

『あの様子だと気づいてないな』

あと数秒で自分に降りかかってくる災いにまったく気づかず、ナンパに熱中している貴史。

そしてそんな貴史になんと言っていいか分からず、おろおろしている初音さん。

・・・・・・ん?

初音・・・さん・・・・・・・?

「って、えぇ!!!!!」

目を擦ってもう一度確認。

・・・間違いなく初音さんだ。

なんで俺、今まで気づかなかったんだ?

彼女は”吉沢初音(よしざわ はつね)”さん。

さっきも言った通り聖沙の生徒で、俺たちと同じ二年生。

この前貴史に無理やり連れて行かれた聖沙の文化祭で、中学時代の元後輩、”小高真央(こだか まお)”に紹介されて以来親しくなった。

クラブは真央と一緒にラクロス部に所属しており、エース級の腕前を持っている。

性格はおっとりとしているが、心優しくて芯が強い。

そして・・・。

今俺が・・・・最も気になっている女性(ひと)・・・・。

「・・・なんて冷静に分析してる場合じゃない!!」

助けないと・・・ってあれっ?

飛んできた意識が戻ってくると、そこには貴史と千夏の姿はなく、初音さんが呆然と立っていた。

とりあえず声を掛けてみよう。

「初音さん」

ゆっくりと振り向いた初音さんは泣きそうな顔をしていたが、

「あっ、椎名さん・・・。こんにちわ」

俺に気づくと少しぎこちないものの、笑顔で挨拶してくれた。

「こんにちわ、初音さん」

当然俺も笑顔で返す。

「えっと、さっき初音さんをナンパしてたやつは?」

貴史たちがいないことに疑問を感じ聞いてみると、

「知り合いなんですか?」

と少し驚いたように聞かれた。

「うん、まあ知り合いっていうか・・・この前話したよね?小さい頃からの親友のこと」

「ええ!?じゃあ、あの人が!?」

「ああ、その親友だよ」

『認めたくないけどね』

そう心の中で付け足しておく。

「えっと、その人でしたら・・・とても綺麗なんですけど鬼のような形相をした人が来て、私に一言謝ってどこかに連れて行かれました」

状況理解。

貴史・・・無事でいろよ。

「そうか・・・ごめん、初音さん。根はいいやつなんだけど、女の子のこととなると見境がつかなくなるから」

初音さんを困らせたのは間違いないんだし、監督不届きということで俺からも頭を下げておく。

「そ、そんな。椎名さんが謝ることはありませんよ。だからどうか頭を上げてください」

「でも・・・」

「断りきれなかった私も悪いですし・・・結果的に何もなかったですから」

「・・・初音さんがそう言ってくれるなら」

と、ついつい初音さんの優しさに甘えてしまう。

「ありがとうございます」

「? なにが”ありがとう”なの?」

むしろ責められてもおかしくない立場なのに・・・。

「頭を上げてくれて、です」

そう言う初音さんは、優しげに微笑んでいた。

『・・・まったく、敵わないな。この女性(ひと)には・・・。』

「じゃあ、俺も。ありがとう、初音さん」

「? それは何の”ありがとう”なんですか?」

初音さんが首を傾げる。

「俺を許してくれて、だよ」

結局、二人ともお礼をするというなんとも奇妙な展開になってしまった。

「まあ、ふふふ」

「・・・」

初音さんが笑う・・・。

何気ないその仕草を見ていると、どうしても思い出してしまう。

彼女と一緒の時間を過ごすと、どうしても思い出してしまう。

似ている・・・。

容姿とかじゃなくて・・・ふとした瞬間(とき)の仕草や、彼女の雰囲気が。

時々、あいつと一緒にいた頃のような感覚に陥る。

それぐらい、彼女は似ているんだ・・・。

そう、俺のかつての恋人・・・・・・双葉に・・・。


後書き

どうも、雅輝です。

今日は部活が中止になってしまったんで、一気に書き上げました。

てんたま、むずかしいですねぇ〜。

椎名のキャラが掴めない(汗)。

そして終わりが見えない(笑)。

まあ、地道に頑張っていきますんで、これからも宜しくお願いします。

2005.10.8   雅輝