<1> 騒がしい日常
”キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン”
「よし、今日はここまで。次回までにしっかり予習してくること」
「起り〜つ、礼」
「ふう」
出て行く数学教師を見送りながら、俺は一つため息を吐いた。
俺は”早瀬川椎名(はせがわ しいな)”
ここ”柊咲高校”の二年生だ。
今はやっと数学の授業が終わり、本日の授業はすべて終了となった。
つまり放課後である。
『さて、どうするかな・・・新譜のCDでも見に、商店街でも行くか』
などと思案していたちょうどその時、
「ガラッ」
教室の後ろの扉が開き、
「椎名〜、一緒に帰ろうぜ」
お馴染みの(見飽きたとも言える)顔が現れた。
このいかにも軽そうな男は”相沢貴史(あいざわ たかし)”
俺の幼馴染で、まだ俺たちが小さかった頃からの親友だ。
はっきり言って”イケメン”というやつだが、ナンパが生業という女好きで軽い性格のため、なかなか結果が出なかった。
そうついこの間までは・・・。
「ふふふ・・・たぁ〜かぁ〜しぃ〜?日直の仕事をしてたこの私をほっていくなんて、いい度胸してるじゃな〜い?」
「ひょうぇっ!!」
奇妙な悲鳴を上げた貴史の後ろには・・・鬼がいた。
いや、訂正。
もう一人の幼馴染、”篠崎千夏(しのざき ちなつ)”が怖い微笑みを浮かべて仁王立ちしていた。
整った顔立ちに、綺麗なストレートのロングヘアー。
黙っていれば間違いなく”美少女”だろう。
あくまで”黙っていれば”だが・・・。
”ギ・ギ・ギ”という効果音が聞こえてきそうなくらいぎこちなく、貴史の首が千夏へと向く。
「や、やあ。千夏さん。今日も相変わらずお美しいことで」
とりあえずご機嫌取りに行く親友を見ていると、少し悲しくなる。
「あら、ありがとう。それで?なんでほっていったのかなぁ?」
だが千夏の表情は、まったく変わらない。
「いや、あの・・・。そ、そう!椎名に授業が終わったら、ダッシュで来てくれって頼まれたんだよ!な、なあ、椎名?」
そう言いながらも必死に「口裏合わせてくれ」と目で訴えてくる。
合わせてやってもいいんだけど・・・たぶん嘘を吐いても千夏には一発でばれるだろう。
こういう時の千夏の勘は非常に良く当たるということは、子供の頃からの長い付き合いの中でしっかりと理解している。
最悪嘘を吐いたことで同罪と見なされるかも知れない。
「いや、そんなこと言った覚えはないけど?」
「し、しいなぁぁぁぁ〜〜〜〜!」
すまん、貴史。
親友のためになんとかしたいとは思うが・・・今回はさすがにリスクが大きすぎる。
「ふ〜〜〜ん。椎名を使ってそんな嘘まで吐こうとするんだぁ?」
相変わらず笑顔を崩さない千夏・・・いや、今こめかみが「ぴくっ」と動いたな。
俺はもう完全に傍観者になっていた。
「スパーーーンッ」
気持ちがいいくらい軽快な音が教室に響く。
「あ〜〜〜。すっきりした」
そう言う千夏の手には、先ほど貴史を殴った凶器・・・スリッパが握られていた。
スリッパといっても馬鹿にできないことは、倒れている貴史を見れば分かるだろう。
『しかし・・・いつも思うんだが、あのスリッパはどこから出してるんだ?』
千夏は優しくて、しっかり者なのだが・・・貴史にだけはとても凶暴になる。
実は今、貴史と千夏は付き合っている。
いろいろあったが、こうなって良かったと俺は思っている。
と言うのも、以前は二人ともお互いを意識しすぎて、衝突ばかり繰り返していた。
なかなか素直になれず、お互いを傷つけ合っていた。
そして、傷ついた千夏を励ましている内に・・・俺は千夏のことを好きになってしまった。
その上、千夏も俺のことを・・・。
だが、俺は千夏に告白する前に貴史を呼び出して、そして・・・最後の確認をした。
「本当に・・・このままでいいのか?」
「・・・」
「お前は千夏のことを、子供の頃からずっと想ってきたんだろう?そんな簡単に諦めちまっていいのかよ!?」
「・・・」
「そうか・・・お前が千夏を想う気持ちなんて、所詮そんなものなのか。がっかりしたよ」
「!!」
”バキィッ”
「ぐっ!!」
「ふざけるな!!俺が千夏を想う気持ちは誰にも負けねぇ!!俺は・・・俺は・・・!!」
「だったら言ってやれよ・・・」
「えっ?」
「今お前が言った言葉・・・そっくりそのままあいつに伝えてやれよ・・・千夏だって、きっと分かってくれるはずさ」
「椎名・・・お前、それを言うためにわざと・・・?」
「まあな・・・けどあの言葉にお前が無反応だった場合は、本当に俺が千夏と付き合うつもりだったけどな・・・」
「・・・すまん、椎名。やっぱり俺、千夏のことが好きなんだ」
「バ〜カ。んなこと、初めから分かってるんだよ・・・。千夏は海の見える公園に呼び出してるから、さっさと行って来い」
「椎名・・・ありがとな」
「礼は告白が成功してから言ってくれ。・・・しっかり決めろよ?」
「ああ!!」
”タッタッタッタッタ”
「・・・」
「ホント、損な役回りだよな。俺って」
「でもこれで・・・これで良かったんだよな?・・・双葉」
それでもやっぱり千夏のことが好きだった俺は、一晩泣いたっけ。
そのときのことを懐かしく思っていると、
「さて、椎名。帰ろう?」
と千夏が笑顔で言ってきた。
俺たち三人はあれ以来ギクシャクすることもなく、昔と変わらない良好な関係を保てた。
この現状を見ていると、あの選択は間違いじゃなかったと実感できる。
「ああ。・・・っと、貴史は?」
「呼んだか?」
「うわっ」
いきなり横からにょきっと出てくる。
もう復活したのか・・・さすが貴史、慣れてるな。
「椎名ぁ〜・・・後で覚えとけよ〜?」
「は、はは」
貴史の恨み言に、渇いた笑いで返す。
「そ、それで?まっすぐ帰るのか?」
このままでは分が悪いので、別の話題を振ってみる。
「そうね・・・貴史はどこか行きたい所とかある?」
「別にねえけど・・・どっか行くんなら付き合うぜ?」
「椎名は?」
「俺は商店街に、新譜のCDでも見に行こうかと思ってたんだけど・・・」
「そういえばそろそろ新しいのが出る頃ね・・・じゃあ、商店街に行きましょう?」
「そうだな、最近行ってなかったし」
話もまとまり、学校を出た俺たちは商店街に向かった。
後書き
どうも、雅輝です。
SS二作目は、てんたまを書いてみました。
椎名視点で、進んでいきます。(ときどき初音視点も混ざるかも)
それはそうと、椎名のキャラが微妙に違うような・・・。
なんか貴史と青春しちゃってますし(笑)。
しかも初音SSなのに、一度も出て来ませんでしたねぇ。
二話目から出すつもりなんですけど・・・。
初音は私が好きなキャラなんで、楽しく書けそうです。
では、次の更新をお楽しみに!!
2005.10.7 雅輝