―It’s a Sword of Starlights―
EXTRA STORY
〜Melancholy by hospitalization〜
真期1065年、黄緑の月21日。『山国』マエラテルム、首都メルオシス。
マエラテルム国立病院、特別医療病棟1003号室。
先のカインとの戦いにより『大嵐』ゼルヴィータを発動させその反動により重傷を負ったリディア・ハーケンは、退屈そうにベッドから外を眺めていた。
「はぁ……」
溜め息が落ちる。何とか腕や上半身はまともに動かせるようになったものの、脚は未だに言う事を聞いてくれない。立ち上がろうものなら数歩も持たずに
膝が砕け、たちまちそこにしゃがみこんでしまうという現状は、リハビリ以前の問題である。
「寝るのも疲れたしなぁ……何もする事ないよぉ……」
瞑想状態でイメージトレーニングをする事は入院生活が始まってから続けている日課だが、イメージはあくまでイメージ。実際に身体を動かし、実践して
みない事にはいざと言うときなんの役にも立たない。
普段明るい彼女にしては珍しく憂鬱な気分に落ちかけており、いっその事またレティシアのところにでも行こうかと思ったが、この数日はリシェルが毎日の
ようにレティシアの見舞いに来て彼女の傍で仕事をしているため、下手に訪れようものならあっさりと追い返されるのが分かりきっている。
それに、折角姉妹で語り合う機会を得たのだから邪魔してはいけないだろう、と思う気持ちもやはりある上に別の事情で今は動けないので――――結局、
どこにも動く事ができないのだった。
と、その時。
『ポォ〜ン』という電子音とともに、インターホンのディスプレイが起動する。
映し出されたのはチームメイトであり、また友達でもあるレオン・ウィルグリッドだ。
『俺だ、開けてくれ』
「はぁ〜い」
マイク越しに応対し、ベッドに設置されているパネルを操作してドアロックを開ける。レオンは抱えていた荷物をどさっとキッチンスペースに置くと、上着を
脱いでからリディアのベッドに腰を下ろした。
「どうだ、調子のほうは」
「退屈で死にそう。フロートシートは没収されちゃったし、どこにも行けないよぅ」
「それはお前が悪いんだから、仕方が無いだろう」
サクサクとりんごの皮を剥きながら控えめな溜め息を吐くレオン。リディアは恨みがましい眼で彼を見るものの、フロートシート没収の原因は彼女にある。
昨日、事もあろうにリディアはフロートシートを使って病院内を徘徊し、入院中の老人達や見舞いの子ども達と仲良くなって2人ばかりをフロートシートに同乗
させた上でリハビリテーション室へと赴き、介護士や医師の許可も無く無断でリハビリを行おうとしたのだ。
しかし先にも述べたとおり彼女の身体、特に脚は重傷もいいところであり、医師の診断によれば筋肉や腱が断裂を起こしていないだけでも奇跡に近いという状態。
リディアはただちに看護師らに取り押さえられ、結果勝手な行動が出来ないようにとフロートシートは没収。子ども達はゲラゲラ笑っていたが、リディアはとても
笑えるような状態ではなく、現在進行形で鬱っているのである。
「無理せずゆっくり休んでおけ。治る怪我も治らなくなる」
切り終えたりんごをひとかけら取り、リディアの口元に運ぶレオン。リディアは口で受け取りしゃくしゃくと食べる。
「甘くて美味しい……これ、どこで買ってきたの?」
「マーケットの露天販売だ。やたらしつこく勧めてくる男から買ったが、意外と当たりだったな」
自分でもりんごを切り分けその一つを口に運ぶ。そしてふと視線をリディアに向けると、やはり気分は優れない様子である。
そんなリディアの表情はレオンの知らない彼女の一部であり、また普段どれだけ彼女の明るさが、チームにとっての活性剤になっているのかをレオンは改めて認識し。
出来る事なら、何とか元気づけたいとも思っていた。
「――――リディア。外に行くか」
「……だから、フロートシートが……って、わぁっ!?」
返事も待たずにシーツを引っぺがされると同時に現れたリディアの格好は、入院用にとリシェルが買ってきた白水色のパジャマ姿。
「レオン、ちょ、何!? いきなり……」
「外に行くと言ったろ。俺の上着を着ておけ、外はまだ少し寒いからな」
「う、うん……?」
もそもそと言われるままに上着を羽織る。綿抜きのハーフレザージャケットは、雨季を迎える前とはいえまだ肌寒いマエラテルムでは、それほど珍しい物でもない。
「…………」
「……服の匂いを嗅ぐな」
「えへへ……って、いたっ」
軽く小突かれるもリディアは照れたように少しだけ赤面し、ようやく笑顔を見せた。
「じゃあ、行くぞ」
「でも、どうやって――――」
その言葉を発した瞬間、ある出来事がリディアの脳裏をフラッシュバックする。
忘れもしない、あの船の上で。
レオンと初めて出会ったとき、自分は彼にどうやってトイレまで運んでもらったのか。
「やっ、やだ、待って、まさか!?」
嫌な予感ほど的中するのは、悲しいかな世の常である。
レオンは軽々とリディアを抱きかかえ、2度目のお姫様抱っこを敢行する。抗う事が非常に難しいこの体勢で下手に暴れようものなら、立つ事ができないリディアは
そのまま地面に落下し、下手をすればまた怪我を負いかねない。つまりまたしても、レオンが安全な場所までリディアを運んでくれるまで、リディアに抵抗するという
選択肢は用意されていないのだ。
「うぁぅ〜……」
「変な声を出すな、みっともない。さっさと行くぞ」
だがそこで、リディアはこの状況が極めてマズイ事を感じた。
なぜならば、ここはリェルス・ボウラとは違い大勢の人間が出入りする病院だ。当然多くの人間が彼らの姿を見ることになり、普段なら他人の事などさして気にも
止めない人々も、流石にお姫様抱っこしている男女2人を見れば注目せざるを得ない。
「ちょ、ちょっと待って! なにこの羞恥プレイ!? みんな絶対変な想像するよ!?」
「気にするな」
「気にするぅ! レオンは病院来なかったら済むけど、あたしはここにまだ入院してるんだよ!? 明日から看護師さんとか、変な目で見るよ!!」
「我慢しろ、俺だって少しは恥ずかしいんだ」
「恥ずかしいならしないでよぉ!!」
病院では静かにという常識を無視して声を張り上げて抵抗するリディア。だがそれも、レオンが発した言葉であっさりと消沈する。
「……お前が心配なんだ。いつも元気なリディアに元気がないと……落ち着かない」
「へ……え、えぁ?」
ぷいっと顔を背けわずかに赤面するレオン。しかしその思いもかけない告白に、レオン以上にリディアは真っ赤になっていた。
「……外と言っても、外出許可は取ってないからな。病院の中庭で、我慢してくれ」
「う…………うん」
すっかり静かになってしまったリディアは、何とか力の入る腕をレオンの首に回し。
レオンもまた、リディアの小さな身体を引き寄せ、距離を縮める。
外への道のりは近くはない。一体何人の人々があらぬ誤解をするのかという不安が消えたわけではないが。
「(まぁ……いっか)」
とりあえず、この不器用な彼に任せておこう。それに今は――――凄く、嬉しい気持ちでいっぱいだから。
同特別医療病棟個室、1001号室。
「姉さん、口を開けて」
「ありがとう……ん」
スプーンで掬い取ったオニオンスープをレティシアの口に運ぶリシェル。あらかじめ吐息で冷ます事も忘れず、また左手はこぼれないように添えられている、
入院以来、看護師たちへ強い要望を出してレティシアの身の回りの世話を買って出たリシェルは、今日も献身的な介護を行っていた。
そしてそんな彼女たちの様子を、ロウ・ラ・ガディスはリシェルとベッドを挟んでの向かいに座って、優しく見守っている。
「リシェル……随分介護士姿が板に着いたんじゃない?」
「茶化さないで。それに今は姉さんの食事中なんだから、邪魔するなら帰っていいのよ?」
ロウを見向きもせずに鋭利な言葉を平然と投げつけるのは、やはりいつものリシェルと変わりない。だがレティシアは、そんな妹をたしなめる。
「リシェル? ロウ君は貴女の事を褒めてくれてるのよ?」
「そうそう、僕はリシェルのそういう姿も素敵だなぁって思ってね。ああ勿論、レティシアのことも素敵だと思ってるよ?」
「あら、本当かしら?」
「当たり前じゃないか。僕がレティシアに嘘をついたことがあるとでも?」
「さぁ……どうだったかしらね?」
どことなく意地悪な笑みを浮かべてはぐらかすレティシアに、残念そうに溜め息をつくロウ。普段から本心を見せずのらりくらりとしているロウだが、その
彼をこうも簡単にあしらい、かつ話の主導権を握っているレティシアは実際見事と言う他ない。
だがそんな2人のやり取りを、面白く思わないのは当然リシェルである。
「……随分、仲が良いのね……姉さんとロウは」
微妙に声のトーンが低いリシェル。既にその表情からは笑みが消え失せ、半ば問い詰めモードに移行しつつある。
「まぁ、実際4年前からの付き合いだしね。この国を出たのが3年前だから、丸々1年くらいかな?」
「その間、貴方は何度私を口説いたか……忙しいって言っているのに構わず執務室に入ってくるから、あの時は本当に困ったわ」
カチン、とどこかで撃鉄が起きる音がした。
「……口説いた? 姉さんを、1年間も?」
「ええ。いつだったか、無理矢理遊園地に連れて行かれたこともあったわね」
「あははっ、そんな事もあったね」
からからと音を立てて弾倉が回転する。勿論、込められた弾丸に詰まっているのは火薬などではない。
「……遊園地なら、私とも行ったわね」
「そうなの? ロウ君」
「うん。あ、でも誤解しないで聞いて欲しいんだけど、僕は決して誰でも誘うわけじゃないよ? 本当に行きたい相手としかそんなところには行かないから」
それが、引き金になってしまった。
リシェルはトレーにスプーンと食器を置くと、緩やかな足取りでロウの前に歩み寄る。
「…………姉妹揃って口説いて、同じような場所に誘って、行きたい相手としか行かないって……非常識にも程があるとは思わない……?」
極低温の声が静かに響き渡る。リシェルの怒りは燃え上がる炎ではなく、全てを凍てつかせる極寒の吹雪。
「いや、僕はそんな――――」
「言い訳が通ると思ってるの!?」
怒りと嫉妬がない交ぜになった銃弾が撃ち出される。その証拠にリシェルが発した言葉は普段の彼女の口調ではなく、素の口調。
だが弾丸は比喩ではなく現実。まさに弾丸の如く打ち出されたリシェルの右ストレートは正確にロウの胸――――胸骨を直撃し、折角治りかけていた傷を悪化
させるという結果を招くに足る一撃だった。
「ぐはっ!?」
「あらあら……すごい音がしたけれど、ロウ君……大丈夫?」
目の前で怪我人が同じ箇所を殴打されてもなお、レティシアの声はどこまでも穏やか。実際見えていないのだから仕方ないと言えば仕方がない反応なのかも知れ
ないがしかし、彼女は微笑みを浮かべたまま。
「――――リシェル。黙って部屋を出て行くのは、お姉ちゃん感心しないわね」
「っ……!」
部屋を出て行こうとしていたリシェルの足が思わず止まり、視線がレティシアに向けられる。
「ロウ君、悪いけどしばらく留守にするわ。ある程度痛みが治まったら、自分の病室に戻ってね」
素っ気なく告げると、レティシアはベッドを降りる。そして――――驚いた事に、彼女は盲目にも関らず杖も何も使わずに室内を歩いたかと思うと、応接用ソファー
のすぐ横に置いていたフロートシートまで、一度たりともぶつかる事無く辿り着いた。
呆然としていたリシェルは慌てて姉のすぐ傍に駆け寄り、しっかりとその身体を支える。
「姉さん、無茶しないで!!」
「大丈夫よ。この部屋をただ歩くくらいなら、眼が見えなくても出来るわ」
既に妹に譲り渡したとはいえ、彼女の加護精霊は高い空間認識を可能とする風・ウィータ。たとえ精霊の加護を譲り渡しても、11年間身に付けてきた物とまた騎士として
培った経験があれば、この程度の行為はレティシアには造作もないのだろう。
「さぁ、リシェル。お姉ちゃんとお散歩しましょうか」
姉の声は楽しげに、表情も明るく。妹はそれに多少なりとも困惑しつつも。
姉妹は怪我人を放置して、病室を後にする。
そして当の怪我人であるロウはその様子を見送ってからぴったり5分後、何事もなかったかのように起き上がった。
「やれやれ……少しは素直になったかと思ったら、コレだもんなぁ」
嘆息しつつも表情はどこか嬉しそうに。
既に完治しつつある傷を殴られたのは確かに痛かったが、リシェルもそこは分かっているのかそれほど強い打撃ではなかったし、悪化するようなダメージでもない。もともと
アルディスタス人であるロウは傷の治りも早く、亀裂骨折も2週間程度で完治してしまうという常識外れな回復力を持っているのだ。
病室を出て、一瞬彼女たちの後を追おうかとも考えたが――――ロウはレティシアに言われたとおり、自分の病室に戻る事にした。
屋上に出たリシェルは手すりの傍に設置されているベンチに腰掛け、その隣りにレティシアもフロートシートを止める。
「いい天気ね……」
眼は見えずとも肌で感じる日差しの暖かさと、穏やかな微風。今日の天気はまさしく晴天そのものであるが、レティシアのすぐ横では曇り模様のリシェルが不機嫌そうに
姉の横顔を眺めている。
「……どうしたの?」
「別に……なんでもないわ」
「なんでもない人の声には聞こえないんですけれど?」
手探りでリシェルの手を探し当て、そっと包み込む。レティシアのぬくもりは先程まで吹き荒れていたりシェルの荒ぶる吹雪を、少しずつ穏やかに変えていく。
「ロウ君のこと、好きなの?」
「んなっ……!」
単刀直入もいい所の質問に、リシェルは思わずリディアのような呻き声を上げた。
「だ、誰が! あんないい加減でとりとめが無くて、口ばかり達者で、いつもヘラヘラして本性を見せないような男を、誰が……!!」
「じゃあ、嫌いなの?」
「――――それ……は……っ」
そう、嫌いだったはずだ。少なくとも1ヵ月前までは。
なのに何故だろう、今はその言葉を――――ロウが嫌いだ、と言う言葉を出せないのは。
「…………っ」
「お姉ちゃんに嫉妬しちゃった?」
「ね、姉さん!?」
赤面しつつレティシアを見るが、レティシアは変わらずにただ穏やかな微笑みを浮かべている。
「まだ自分の気持ちを割り切れるほどハッキリしてないってところかしらね。リシェルはいつからそんな素直じゃない子になっちゃったの?」
「だ、だって……姉さんと話してるときのロウは、楽しそうで……それに、私は……姉さんと違って、怒りっぽい、し……」
小さくなってしまう声は、普段のリシェルとはかけ離れて弱気で心許なく。
普段のどこか高潔な雰囲気さえ漂わせている彼女も、肉親の前ではただの15歳の少女に戻ってしまう。
「自信がないのね……リシェルはこんなに綺麗になったんだから、不安がる事なんてないのよ?」
握っていた手を放しそっとリシェルの髪に触れ、ゆっくりと髪を掻き上げていく姉の手。長い銀髪はその波を抵抗なく受け入れ、上り詰めた手の平は頬を撫でる。
「姉さんはロウのこと、どう思ってるの……?」
一番気がかりだった事を尋ねる。するとレティシアはくすりと笑って。
「ロウ君のことは好きよ。でもそれはリシェルが思うような、男女の恋愛としての好意じゃなくて……弟みたいな感覚として。ロウ君も、きっとそれは分かってる。
それに……」
「それに……?」
「貴女が私の手を跳ね除けた時、私の事よりもあなたのことを心配して追いかけたのを、忘れちゃったの?」
レティシアの言う通り、あの場でロウがレティシアに対して思慕の念を抱いていたのならば、レティシアの為に残ると言う選択を優先するだろう。
だが現実は違った。ロウは自ら率先してリシェルの後を追い、またカインとの戦いにおいても死力を尽くして彼女を守った。
その事だけでも、ロウが少なくともレティシアよりもリシェルに好意を寄せているというのは明らかではないだろうか。
「まだ難しいかもしれないけれど……ゆっくりでいいから、ちゃんと向き合いなさい。自分の気持ちに」
「――――…………うん」
涼しい風が吹き抜ける。
優しくて、それでいて爽やかな風だった。
「――――」
人々の喧騒は少なく、適度に静かな中庭。
リディアはそこの芝生にぺたんと座り込み、動かせない足を伸ばして、なおかつ裸足のまま。
ただ目を閉じて、この小さく切り取られた自然のざわめきを感じていた。
思えばあの日、カインを圧倒していた『大嵐』ゼルヴィータを発動していたときは、とてもではないが冷静とは言えなかった。怒りに駆られほとんど無意識に、警棒を
使ってまでカインを突き穿ち、殺そうとさえしていたのだから。
その反動がコレだ。友とその家族を罵られ、我を忘れて剣を振るえば等しく己の身さえ傷つける。アレは二度と使ってはならない力であり――――そして。
あの時、瞬間的にではあるが……戦闘を中断させたレオンに対して敵意を覚えてしまったことを、リディアは忘れてはいない。
「……っ!」
ズキリと胸が痛む。思い出しただけで心が締め付けられ、悔しくて情けなくて堪らない。
どうしてあんな事を考えてしまったのだろう? レオンは自分を助けてくれたのに、彼を傷つけようなんて馬鹿なことを。そこまでして戦おうとしていたなんて。
さっきまであった嬉しさも、暗い感情の前に薄れてしまいそうになる。あの不器用だけど優しい彼に剣を向けようとしていたなんて――――!
「リディア……どうした?」
「あ――――う、ううん、なんでもないよ?」
飲み物を買いに行っていたレオンが戻ってくると同時に、リディアは笑顔を向ける。だがそれは取り繕っただけの、上辺だけの物であり。
レオンはそれを一目で看破すると、彼女の隣りに座り込んで……かすかに眼の端に滲んだ涙を掬い取った。
「あっ……」
「泣いていたのか……どうして」
真っ直ぐに見つめてくる碧眼。ただそれだけなのに、また涙が溢れそうになる。
その激情を抑えようとして、リディアはぐっと眼をつぶり両手で顔を覆う。レオンに心配させまいと、泣いている顔を見られないように。
だが、顔を覆う両の手はあっさりと。
レオンの手でこじ開けられてしまった。
「どうして、我慢しようとするんだ」
「だ、だって……あたし、レオンのこと……っ」
青い瞳が揺れている。今まで見たこともないくらいに弱々しく。ついさっきまではそんなことも無かったのに。
「……何があった?」
「イヤ……言えないよ……言いたくない……っ」
思い出してしまった。レオンの顔を見て、抱き上げられて、優しくされて、それが嬉しくて。
でもその全てをあの瞬間の自分は戦うために失くそうとしていた。失くしても構わないと、躊躇うということさえ思わずに。
「放してっ!」
声とは裏腹に弱い抵抗。だが思わず溢れた涙を見てレオンの拘束が一瞬解ける。その拍子にリディアの身体はバランスを崩してしまい――――。
「あっ……」
反射的に、半ば抱きしめるような体勢でレオンはリディアが倒れるのを防いだ。
「……悪かった。何があったのかは、もう聞かない」
気遣うような、けれど寂しそうな声。
その声で、リディアは今の自分の態度もまたレオンを傷つけている物だと気がついた。
そんなつもりはなかったのに。これ以上彼を傷つけたくなんかないのに。どうしてこんな事になってしまうのか。
「違うよ……あたしが、悪いんだから……っ」
しゃくりあげる涙声。リディアは震える唇でゆっくりと、懸命に言葉を搾り出す。
「あの時……あたし、レオンの、事、本気で……殴ろうと、してた……」
青の輝石から大粒の涙が零れ落ちる。
「そんな、こと、考えちゃ、いけないの、分かってるのに……っ、身体、動かなく、ならなかっ、たら……っ」
そこでリディアの言葉は塞がれた。
他ならぬ、レオンの口唇で。
「――――っ」
「…………もういい、もう……喋らなくていい」
口唇を離し、優しく告げる。
「でも……あたし……っ」
「いいんだ……悪かった」
強く抱きしめられる。そのぬくもりが、聞こえてくる心臓の鼓動が、ゆっくりとリディアの中に染み込んでいく。それと同時に自分の心音も耳朶に響いて聞こえてくる。
いつもより鼓動が早い。レオンも同じなのか、鼓動はまるで早鐘のように鳴り止まず……次第にリズムが合う瞬間が近づいてくるのが分かる。
「あ……今、一緒だった……」
「? ああ……心臓の鼓動か」
不安が解けていく。混ざり合って消えていく。鼓動と共に、ゆっくりと。
抱擁を解いて向かい合う2人。涙で腫れかかったリディアの目元を、レオンの手が優しく拭う。
「…………もう、我慢するな」
「え?」
そっとレオンの手がリディアの飴色の髪を撫で、ゆっくりと頬に触れる。
「お前が教えてくれたんだ、俺たちは独りじゃない。独りで抱え込まないで、我慢せずに言ってくれ……そうしてくれると嬉しい」
「レオン…………うん」
風が吹く。その風向きが変わるように。
レオンの心もかつてとは違い、誰かを支えられるほどに強く変わりつつある。
「…………なんか、どさくさだったけど……あたしのファーストキス、レオンに取られちゃった……レオンは?」
「っ……一応、初めてだったが……すまない……咄嗟にあんな事を」
レオンの発言にむぅっとむくれるリディア。その表情のどこに、さっきまで泣いていた人間の面影があるだろうか。
「あんな事って言うなぁ……もう。罰としてもう一回、ちゃんとした形で」
「……恥ずかしいとか言っていたのは、どこの誰だ?」
「知らないもーん……」
あと数cmで触れ合う2人の口唇。だがその前に、確認しておかなければならない事がある。
「あたし、レオンのこと……好きだよ」
「ああ……俺も、リディアが好きだ」
交わされるセカンドキス。順序が逆になってしまったが、そんなことは気にしても仕方がない。
チームで行動する以上、一緒にいられる時間を長く取れるかどうかは分からない。だがこの2人の場合は友を交えて進展したとも言えるため、むしろ4人で
いる状態こそが自然といえるだろう。とりあえず、発表は控えておくに越したことはない。
リディアの憂鬱な入院生活は終わり、これからは楽しい入院生活が待っている。
/OMAKE
ロウ「……なんか今回、僕出番少なくない?」
レオン「仕方ないだろう。次はお前の話なんだから」
リシェル「でも貴方も出るんでしょう? 男組の話らしいし」
リディア「まぁまぁ、それより……レティシアさんがすっごいオーラ出してるのが怖いんだけど……」
レティシア「最年少で彼氏持ち……主人公だからって……私は今年で、26……ふふふ……」
リシェル「姉さん……(涙)」
リディア「と、年下でよければレンを紹介しますけど……ダメ?」
ロウ「次期国王を差し出すのはどうかと思うよ、リディア……」
レオン「本人の意向は完全に無視だな……」
レティシア「逆タマ……アリかも知れないわね」
4人「「「「え!!?」」」」
あとがき:
エクストラなのに祝・カップル誕生になるというお話。
しかしこれは来るべき展開に向けて避けては通れない道であり、どうしてもエクストラでしか
補完できないエピソードなので、思い切って今回盛り込むことにしました。
そして本当に可哀想なのはロウでもレティシアでもなくレーウィン。ネタか本気か分からないが、
哀れレティシアの婿候補に。次期代表の未来はどっちだ。
そして次回は男組のターン。もちろんリシェルとリディアも出ますが、出番はかなり少なくなるかも。
管理人の感想
というわけでっ!3話続きEXストーリーをお届けしてもらいました^^
この前の番外編もなかなかに甘甘でしたが、今回のはそれをさらに凌ぐほどの糖分でしたね^^;
まさか、本当に恋人同士になるとは・・・なるにしても、リシェル・ロウと同時期ぐらいかなぁと思ってましたから。
当分は、誰にも明かさない関係だそうで。でも、ロウもリシェルも鋭そう&リディアは顔に出そうなので、案外早くバレてしまいそうな・・・(笑)
次回は男組!ロウとレオンが頑張るのかな?どんな話になるかはまったく検討も付きませんが。
では、皆様も6話をお楽しみに!^^