It’s a Sword of Starlights

 

 

 

 

 レオンがカインの事を知ったのは、ほんの2週間ほど前。

 あの荷電粒子砲発射未遂事件の日の夜の事だった。

「やはり行くのか……」

「ああ。一応こう見えてもお尋ね者なんでね……って、追っかけてる本人に言うまでもねぇか」

 背中に大剣を背負い、ラグナ・レスフォードは屈託なく笑う。本来ならば彼を逮捕すべきレオンはどういう訳か、今まさにその相手を見逃そうとしていた。

「しっかし……どういう心境の変化だ? 見逃すどころか、わざわざ見送りに来るなんてよ?」

「……今回の任務が成功したのは、アンタとイグジスタンスが決定打になったと言っても良いぐらいだ。それに感謝の意を込めて、今回だけは見逃す……というのが、

うちのとあるチームメイトの言だからな」

「ハッ、らしくもねぇ。それに従うってのか? 言ったのは誰なんだよ?」

 レオンの脳裏に困ったような表情でその提案をした彼女の顔が浮かび上がる。本来ならばそんな提案など一も二もなく却下するところだが――――

――――今度ラグナさんに会ったら、あたしも手伝うから! だからお願い!!

 一度だけのワガママという事で、その提案を受けることにしたのだった……が、そのことをラグナに言おうものならば烈火の如くからかわれる事は目に見えている。

「誰でもいいだろう。それとも、今この場で逮捕して欲しいのか?」

「ヘッ、冗談じゃねぇよ。お前とキッチリ決着つけるまでは、当分修行させてもらうぜ」

 申し合わせたように互いの拳をぶつけ合う2人。そこには敵意も殺意もなく、あるのはただ細く繋がった友情のみ。

「見逃してくれる礼と言っちゃあなんだが……一つだけ忠告しといてやる。レオン、これから先向かう国がどこかは知らねぇが、マエラテルムに行くなら気をつけろ」

「どういう意味だ……?」

「八席円卓の1人にな、カイン・ザンディークって男がいる。奴は今そこに駐留してるんだが……アイツは間違いなく現役騎士の中では最強で最低のクソ野郎だ。関わると

ろくな事にならねぇ。はっきり言って、イカれてる」

 アーク・トゥエラの最高位ともいえる八席円卓に名を連ねながらも、かつて騎士であったラグナにここまで言わせる男、カイン。

 その素性をはっきりと知らないレオンには、その評価は意外を通り越して疑わしい物でさえあった。

 八席円卓の基準は、多くは騎士としての戦果と人格によって判断され選ばれるのが通常である。もちろん国によっては例外もあるが、それは極めて稀なケースだ。

 だが、レオンには。

 かつては友と呼んだラグナが、そんな嘘をつくとも思えなかった。

「どういう男なんだ、カインは」

「そうだな。一言で言うなら――――戦闘狂だ」

 

 

 

第五話 絶ちえぬ絆

03.狂戦士

 

 

 

 リシェルとロウがメルオシス時計塔を出て公園に到着すると、そこは既に緊張感漂う戦場だった。

 3人の男が、1人の男を相手にゼンセイバーを向けており、その相手である長身の男もまた右手にゼンセイバーを持っている。

 正確には分からないが、男の身長はロウよりも10cm以上高いだろう。加えて服の上からでも分かる力強い肉体は、まさしく戦士に相応しい頑強な身体。

 年齢はおそらく30代から40代前。身体的なピークは過ぎているが、あれだけの肉体を維持している以上、侮る事など出来ない。

「どういう事? 騎士同士で剣を向け合うなんて……」

「さぁ……でもここは、加勢するよりも状況を把握しないと」

 冷静にそう判断したロウはリシェルを連れて距離を取る。だがゼンセイバーを向けられている男はそれに気づいていたのか、一瞬ロウと視線を合わせた。

(気づかれた? いや……最初から気づいていたのか)

 クッ、と含み笑いを漏らす男。それを見ていた3人のうちの1人が声を張り上げる。

「貴様……!! 私たちを笑うか!!」

「ん? いやいや、別にお前らの事じゃねぇよ。……で、まだやる気かい? 討伐隊の坊主ども」

 鷹揚に両手を広げ、あからさまな挑発。討伐隊と呼ばれた男達は素早くゼンセイバーを構える。

「当然だ! 騎士の身でありながら暴虐を尽くし、あげく腐敗の一因を担った男を、許して置けるはずがないだろう!!」

「レティシア殿の意思には反するが、これは法を守るための正義の行いだ!! 我らはその担い手として貴様を倒す!!」

「覚悟しろ、八席円卓に相応しくない腐敗騎士……アーク・トゥエラの恥さらし、カイン・ザンディーク!!」

 気迫に満ちた声を上げる3人。しかしそれを受けてもカインは全く動じる事無く、それどころか嘲笑うように彼らを……文字通り見下ろした。

「腐敗騎士ねぇ……だがそんな男にすら立場で劣る貴様らが、いくら数を揃えようと、この俺に本気で勝てると思ってんのか?」

 右手に持っていたゼンセイバーを仕舞い込み、ごく自然体で構えも取らない姿勢をとる。だがそこに隙があるかと言われれば――――皆無。

「不意討ちしかけられてやむなくゼンセイバーを使っちまったが、テメェら格下に使うようなモンじゃねぇ。――――来いよ」

 屈辱的なまでの挑発。リシェルとロウが展望室から見たあの光はゼンセイバー同士のぶつかり合いによる発光現象だった。だがそれは討伐隊の彼らが不意をついて

仕掛けた結果であり、カイン自身はまだまともな戦闘をしたつもりさえないと言うのだ。

「舐めるな――――!!」

 散開。息の合ったその動きは彼らが熟達した騎士であり、また長い時間を掛けて作り上げた陣形である事は見て取れる。

 正面、横、そして上空。いかに優れた騎士であっても同時に3人の敵を打ち倒す事は容易ではない。1点に気を取られればたちまち必殺の剣たるゼンセイバーが、

その光の牙を剥いて襲い掛かる。

 だが、それは。

 カインの瞬速の前には無意味以外の何物でもない。

「まずは1人目だな」

 耳元で囁かれる死神の宣告。それに気づいた時にはすでにカインの右手が腹部を深々と抉っている。

「ぐぶっ……!?」

 胃の内容物どころか、内臓そのものを吐き出しそうになるほどの凶悪な一撃。剣を振るう間もなく意識を断たれた正面の騎士を片腕だけで抱え、カインはすぐさま

上空の騎士に投げつける。それはまるで拾ったボールを放り投げるような気軽さ。

 上空の騎士は咄嗟にゼンセイバーの光刃を消し、同胞を受け止める。

 だがその間にカインは横から迫る騎士へと肉薄し、彼の側頭部をガッチリと掴み――――左腕一本で吊り上げた。

「あ、あああ゛、あ゛ああ゛あ゛!!?」

 激痛にのたうつ苦悶の絶叫。ギリギリと締め上げるカインの指に、手に、腕に、さらに力が篭り、騎士が握っていたゼンセイバーは呆気なく地面に落ち、全身が

ビクンと大きく痙攣すると同時に解放される。

「2人。そして……お前で終わりだ」

 同胞を横たえ、立ち上がろうとする騎士に踏みつけるように蹴りを見舞うカイン。その脚は騎士の右手を踏み砕いており、ゼンセイバーを構えるどころか握る事さえ

許していない。

 わずか20秒足らず。コーヒー一杯をゆっくり飲み終えられるかどうかというほどの、ごく短時間で。

 カイン・ザンディークは討伐隊の面々をあっさりと殲滅し終えた。

「ぐ、ううあ、ぁ……」

 手を踏み潰されている騎士が呻き声を上げる。するとカインはゆっくりと足を上げた。

「分かったか? 俺と貴様らの差は埋めようがねぇのさ……それでも少しは暇つぶしになった事だし、礼の1つもしてやるよ」

 足が動く。残像を残すほどの速さで繰り出される蹴り。

 それは無慈悲にも騎士の顔面を蹴り飛ばし――――硬い靴の爪先が眼球を抉り潰す。

「ぎゃああああああああああ!!!!」

 耳を塞ぎたくなる破裂音と、それをかき消す大絶叫。騎士は何とか動く左手で顔を覆うが、出血と内容物が止まる事はない。その様を悠々と眺めながらカインは騎士が

落としたゼンセイバーを拾い上げ、光刃を展開する。

「可哀想になぁ……そんなに痛いんなら、楽になりてぇだろ? 俺は優しいからな、お前の剣で楽にしてやるよ……!」

 振り下ろされる赤色の魔剣。その行為は騎士同士で争うという禁則を犯しただけではなく、彼らアーク・トゥエラが遵守すべき『法』における最大の禁忌たる殺人を

実行するものである。

 だが。

 そうはさせまいと振り上げられるは黄色の光剣。光刃は激しくぶつかり合い、閃光が弾け飛ぶ。

「ほう……やっと来やがったか。俺を潰そうとする命知らずの、残りカスがよぉ?」

「残念だけど、僕とこの人は何の関係もない。でも貴方がやろうとしてる事を黙って見過ごす道理はない!!」

 黄と赤。絶対防御の「土」グエルクと、一撃必殺の「火」ブルエン。

 それは矛盾という不可能を可能にし、今ここに拮抗している。

 だが拮抗しているだけでは勝負は着かない。更なる一手がなければ、この膠着状態を崩す事はできない。そしてそれを可能とするのは――――。

「ふっ!!」

 流麗なる、青き水龍。

「ハッ――――」

 笑いつつロウから光刃を引き、流れるようにリシェルのゼンセイバーを弾くカイン。弾かれたリシェルは軽やかに着地して脇構えを取る。

 振り返りリシェルの姿を視界に捉え、カインは何を思ったのか突然笑い出した。

「クッ、ハハハハハハッ!! 誰かと思えばレティシアか!? お前も……イヤ、違うな?」

 カインが間違えるのも無理はない。年齢差と身長、体格のわずかな違いと光刃の色を除けば、リシェルとレティシアは双子とまでは行かないにしても、よく似ている。

 長い銀髪も、美しい紫紺の瞳も、その顔の作りも。だがそれはリシェルにとって複雑な感情を抱かせる物であり、特に先程までの心情を引きずっている今、正直なところ

レティシアと間違われるのは、不快でしかない。

「あの人と一緒にしないで欲しいわね。私はリシェル・ベルムント、断じてレティシアではないわ」

 わずかに怒りを孕んだ声。しかしカインは邪悪に口の端をつり上げ、歪んだ笑みを浮かべる。

「なるほどなるほど。とすると、お前はさしずめレティシアの妹ってところか。そしてそこの小僧は、アルディスタス人の血を継いでいる、と」

 ざわりとカインの髪が揺れる。結べるほどに長いややパーマ気味の茶髪と、豊富に蓄えられた髭。そして深く暗い漆黒の瞳。

「素材としては申し分がねぇ。俺が上手く料理できるように、せいぜい活き良く暴れてくれよ?」

 彫りの深い顔に刻まれた感情はただ歓喜のみ。八席に座する騎士は赤色の魔剣を携え、まだ若き騎士を喰らわんと歩み寄る。

 

 

(2対1。けれど、事実上の攻め手が私だけとはね……)

 心の中でわずかに舌打ちしながら、リシェルはこの戦闘の不利を改めて考察する。

 いかにロウの力と技量がリシェルを上回り、カインの一撃を防ぎきったとは言え基本的に「土」のフォーム・グエルクに攻め手は存在しない。

 完全にして絶対の防御を叶えるグエルクはその類稀なる見切りの速さと反応速度の強化こそが最大の長所といえる。結果だけを言うならば、相手の攻撃を回避する事に

関しては「水」リェルシアにさえ匹敵する。それを敢えて「防ぐ」事により彼我の実力差を見せつけ、相手の戦意を断つ事こそがグエルクの真髄なのだ。

 無論攻め手が完全に無い訳ではない。相手の攻撃を弾き、一瞬の隙を突いて繰り出すカウンター。まさに大地のうねりさえ思わせる必倒の一閃。それを出す機会さえ

あれば、並大抵の相手を打ち倒す事はできるだろう。

 だがそれは、八席に至るほどの騎士としてのキャリアを持つカインも当然知るところであり。

 何より、カインは先の戦闘においてもロウとの交錯にしても、恐らく実力の3割さえ見せていないであろうというのがリシェルの読みだった。

「ならば!」

 疾駆。チーム最速のリディアやヴァルバングを持つレオンにはどうしても劣るものの、リシェルの速度もリェルシアの加護を得てかなりの上昇を見せている。

 脇構えから一閃される青の光刃。弾け飛ぶ青と赤。決して相容れることの無い水と火のぶつかり合い。

「ククッ、いいねぇ。初太刀か、それでなくても早いペースで勝負を決するってのは、実力差がある相手に対しては上策だぜ」

 底の見えない邪悪な笑み。だが両手を用いてのリシェルの打ち込みを、フォームと体格の差があるとは言え片腕で防いでいるカインの力は常軌を逸しているとしか

言いようが無い。これほどの相手といつまでも押し合いをする事は出来ない。

「っ!!」

 素早く剣を引くリシェル。だがすぐに打ち込みを再開する。激流、否、瀑布を思わせる剛の打ち落としから展開される流水の連撃。一拍の暇(いとま)さえ惜しいとばかりに

打ち込まれるその豪雨はさながら水巻く嵐。

 だがそれを受けてなお、現役最強の名を持つカイン・ザンディークは涼しげに受け流していく。

「はああああぁぁっ!!」

 加速。手数は先程までの倍に届くほど。一撃一撃の重さはどうしても軽くなってしまうが、それを補って余りある数十条の剣閃。

「良いペースだ。だが足りねえよ」

 撥ね上がる右腕。猛火の火柱が天を突き、打ち込まれる水龍の全てを滅殺する。

 跳ね飛ばされるリシェル。空中で姿勢を変えようと反転するが、しかし。

「なっ!?」

「よう。これで終わりだな、レティシアの妹」

 それはブルエンでは決してあり得ない超速の移動。飛んで行く相手に空中で追いつくなど、それはブルエンの領域ではない。

 鮮血の如き赤の光刃が振り下ろされる。咄嗟にゼンセイバーを構えるものの、元より単純な力で勝るカインの一撃である、完全に受け流せるはずが無い。

 飛散する閃光。だがその光は青と赤ではなく。

「ロウ!!」

「間に合った……!!」

 舞い散る閃光は黄と赤。最強の矛と絶対の盾のぶつかり合い。その姿を、カインは変わらぬ邪笑で眺めるのみ。

「いいぞ、小僧。お前もなかなか骨がありそうだ……だが!」

 ぐん、と振り切られる光刃。わずかばかりの力の解放。しかしたったそれだけの行為で、絶対防御であるはずのグエルクは容易く吹き飛ばされる。

 もつれ合って地面に叩きつけられる2人。だがロウは落下の前にすかさずリシェルを腕の中に抱き、彼女が傷を追うのを防いでいた。

「ありがとう……大丈夫?」

「何とかね。でも……」

 ふわり、とゆるやかに舞い降りるカイン。その一連の動作を見ていた2人は確信する。

「2つのフォームを持つ、上位フォーム所有者なのね」

「ああ、ご明察」

 見下すカイン。しかし油断も隙もない無位自然の構えは、ただ立っているだけでリシェルとロウを圧倒する。

 フォームは加護精霊によって選定されるものだが、ごく稀に2つの加護精霊が見られる人間が現れる。それらはどちらかの加護精霊を選ぶ事も出来るが、無論両方の

加護を同時に受けることも可能である。

 その場合、名称はどちらか一方を選ぶのではなく、担い手自身の属性によって名付けられる。

 即ち、光と闇。ルスティとローグラ。2種の系統を持つ者が大別される原始的な分け方であり、錬度次第ではゼン・セイバーを始祖とする金・ヴァルバングすら凌駕

するとさえ言われる、アーク・トゥエラにおける極みの一つ。

「見ての通りだ。俺のフォームはブルエンとウィータで出来ている。そして属性は闇、ローグラだ」

 攻め手が通じない。

守りの盾が敵わない。

 一撃必殺と最速のフォームを併せ持つ闇のフォーム・ローグラ。

 その闇の深淵は未だ見えず、カイン・ザンディークはその実力の半分も出していないというこの状況。

「なに、恥じるこたぁねぇ。お前らはガキにしては良くやった。特に――――小僧、お前はな」

 闇色の瞳が赤い瞳を貫く。見ているだけで飲み込まれそうなほどに暗いその瞳は、まるで黒い炎のように爛々と輝いている。

「わずかとは言え、俺の打ち込みに耐えたグエルクは久し振りだ。体つきも良い。よほど良い師に恵まれたと見える」

「そりゃどうも……でもね」

 立ち上がり、ゼンセイバーを構えるロウ。しかしそれはこれまでの守りを主眼に置いた中段の構えではなく、攻勢の脇構え。

「こんなところで殺されたりしたら、『剣帝』カナン・アジバラの弟子の名が泣くんでね。本気を出させてもらうよ、カインさん」

「ロウ、何を……」

 あり得ない。絶対防御のグエルクが攻勢に転じるなど、あってはならない事。リシェルはロウを止めようと手を伸ばす。

 だがロウ・ラ・ガディスは。

 そっと、リシェルの手を包んで。

「今まで隠しててごめんね。こういうのは僕の好みじゃないんだけど……今は、キミを守りたいから」

 光刃の色が変わる。

黄から赤へ。

守から攻へ。

 盾から剣へ。

「テメェも上位フォーム……しかも、あのジジィの弟子と来やがったか!! 面白ぇ、もっと俺を楽しませろ!!」

 最速にして必殺を叶えるカインの闇。

 絶対防御から必殺へと身を転じたロウの闇。

 闇の炎は互いの存在を喰い合うように、その剣を重ね合わせる。

 

 

 燃え上がる烈火の赤剣。

飛散する火花の如き閃光。

 巨躯と言うに相応しい2人の騎士と光刃がぶつかり合う。

 184cmのロウと197cmのカイン。体重差は30kg近くこの2人が同じ武器、片刃とはいえ同じフォームを持ってなお拮抗できる理由は2つある。

 それはカイン自身が未だ本領を発揮していない事。そしてもう1つは、ロウの中に流れる亜人――――アルディスタス人の血に縁るもの。

 古くは他星系からの移民であるアルディスタス人は、高い技術とともに優れた運動能力を持つ戦闘種族であった。それがこの星の原住民との交配を重ねる事により

血を薄め、今では純粋なアルディスタス人はほぼ絶滅したといってもいい。

 しかし、あくまでもそれは記録上の物。

 初期の移民数は1000人を超えたアルディスタス人は、最終的には約13600人が移住し。

 少数は同種婚を繰り返し、1万年を越えた今でもその血を色濃く継ぐ者はわずか100人程度だが存在する。

 ゼンポゥラ全人口が約2億という大所帯に比べればそれは確かに微々たる物だが、それでも。

 その1人にして『剣帝』カナンの生涯唯一の弟子、ロウ・ラ・ガディス。

 発展途上ではあるが、その戦闘種族としての実力は決して薄れる事はなく、最強といわれるカイン相手に一歩も引けを取らない。

 だが、その姿に。

 リシェルは自身の無力さを痛感していた。

(私には……何も出来ないのね)

 攻め手という役割もロウに任せてしまっている今、リシェルはこのチームにおける自分の立ち居地を喪失していた。

 思えば、初めてリディアと剣を合わせた時からそうだ。

 1学年下、早生まれという事で実質2歳差の、まだまだ成長途中のリディアと引き分け。

 決死の一撃は眼前で戦っているロウに指だけで止められ、また今も彼に身を守られている。

 レオンは比べるまでも無い。4年目にして10を超える武勲を受けている彼がリディアやロウに劣っているはずが無い。

 フォームの発現により実力自体は飛躍的に向上したが、それはリディアもロウも同じ。

 リディアの速さは最早リシェルでは追いつけない領域。

 ロウの守りも、そして攻めも、リシェルの水では通す事は難しく、防ぐ事もまた至難。

 そして全てを等しく併せ持つレオン。

 優れた仲間を持つと、浮き彫りになってしまう己の未熟さ。

 自分より劣る相手には褒め称えられてきたリシェル。だがそれは同列の存在を持つ事で、あっさりと埋もれてしまう凡才。

――――アナタミタイナ、デキソコナイ。

――――アナタニトウシュハマカセラレナイ。

――――アナタニハ、ナニモノゾマレテイナイ。

 母の声で紡がれたはずのその声は。

 いつの間にか一番憎い姉の――――レティシアの声に、変わっていた。

(貴女に、私の何が分かるの!?)

 見向きもしなかった。

 一度だって連絡をくれなかった。

 憎いなんて嘘。ずっと好きだった。大好きだった。憧れだった。

 羨ましいと思った。貴女みたいになりたかった。抱きしめて欲しかった。

 褒めて欲しかった。よく頑張ったねって。おめでとうって。そう言って欲しかったのに!!

――――りしぇる、アイタカッタワ。

 そんなありふれた言葉いらなかった。悔しくて悲しくて、涙が出そうだった。

 こんな現実なんていらない。こんな姉さんなんていらない。だから姉さんなんか。

――――貴女なんか、居なければ良かった……!!

 震える手がゼンセイバー・リヴェレイトを組み上げる。レティシアが送ってくれたアタッチメント。その銃口をカインに向ける。

 何も出来ないなんて言わせない。私を認めさせる。

 私は出来損ないなんかじゃない、それを貴女に認めさせる――――!!

 撃ち出される光弾。狙いはカインだけを捉えている。ちょうどカインが背中を向けている瞬間を狙い撃ったのだ。

 卑怯と言えば確かにその通り。リシェルはそれを知りつつトリガーを引いた。

だが。

「――――浅いな、レティシアの妹ぉ」

 左手が上がる。その手は黒いグローブ……否、手甲に覆われている。

 光弾が拡散する。その一方で右手はゼンセイバーを握り締め、ロウの斬撃をしっかりと受け止めている。

「不意討ちとはなぁ。レティシアの妹にしちゃ、随分とひねた事してくれるじゃねぇか。だがその姿勢は嫌いじゃねぇぜ?」

 そう言うとカインはわずかに力を増し、またしても片腕でロウのゼンセイバーを撥ね上げる。虚を突かれたロウは一瞬反応が遅れ、そこへカインの左拳が

打ち込まれる。

「ぐあッ……!?」

 ゴキン、という鈍い音。リヴェレイトの光弾すら弾くほどの硬さと対ビーム装備処理を施した手甲による一撃はロウの胸骨に皹を入れ、蹲(うずくま)らせる。

「よく頑張ったよ、お前は。だがお前はまだまだ上位フォームには至ってねぇ。それは自分でも分かってんだろ?」

突きつけられる事実。リシェルは咄嗟にロウとカインの差を見比べ――――その違いを理解した。

「光刃の、色……」

「その通りだ」

 2つを同時に発動させているカインの光刃はブルエンの赤。しかしブルエンとグエルクを同時に発動させているはずのロウが、先の撥ね上げを防げなかったのは

明らかにおかしい。絶対防御を同時に叶えているのであれば、先の一撃も防げたはず。

「理屈は知らねぇが、上位フォーム所有者が使うゼンセイバーの光刃は、フォーム発動時はソイツの基本フォームの色になるらしい。この小僧は俺と力で渡り合うために

ブルエンを選んだのさ。本来のグエルクを捨ててまでな。そうまでしてお前を守ろうとしたのに、お前がいらねぇ横槍を入れたばっかりに緩みが生まれちまった。分かるか?」

「……!!」

 カインが本気ではなかったとは言え、曲がりなりにも拮抗していた両者の戦いに水を差し、結果としてロウに不覚傷を負わせてしまったのは他ならぬリシェル。

「わ、私が……ロウを……」

「そうさ。……まったく、レティシアの妹と思って何か良い策を講じるかと思っていたが、とんだ失敗だったぜ。おかげで思わぬ幕引きになっちまった」

 魔剣が上がる。大上段からの打ち落としを繰り出す必殺の構え。

「だがまぁ、この小僧には楽しませてもらった。その礼として2人とも苦しまねぇように殺して、後でレティシアも送ってやるよ」

 天より来たるは燃える火球。視界の隅でロウが立とうとするのが見えたが、間に合わない。

 刹那。

「なにっ!?」

 吹くは神風。2つの緑の閃光が魔剣を弾き、見るも目映い白刃が立ち塞がる。

「リシェル、大丈夫!?」

「リディ、ア……?」

 リディアに左腕を掴まれ、リシェルはカインから10m以上離れた場所へと移動していた。そして右腕を掴んでいるのは。

「良かった……何とか間に合ったわね」

 憎みつつも愛した、レティシアの姿があった。

 一方カインの目の前には既にランサーの両刃を展開し、対峙するレオンの姿。

「ヴァルバング……そうか、テメェがレオン・ウィルグリッドか!!」

 歓喜に歪むカインの表情。戦いを愉しむこの戦闘狂にとって、伝説にして真期1000年代唯一の使い手であるレオンは格好の相手。

「街中で貴様の死体を晒す趣味はない。……場所を移すぞ、カイン・ザンディーク」

 声にわずかばかりの怒気を込めて、レオンは射抜くように鋭い視線をカインに向けて言い放った。


あとがき:

討伐隊、リシェル、ロウの合計5人を本気どころか実力の半分も出さずに
蹂躙する狂戦士カイン。さらに残虐描写がチラホラと出てますがこの人はこういうのが
大好きな恐ろしい人ですので、ご容赦ください。
ロウのもう1つのフォームとリシェルの暗黒面が浮き彫りになりましたが、鬱っぽい展開はまだ続くのですよ……負負負。


管理人の感想

戦闘開始。カインさん大爆発(笑)
なんかもう、エグいくらい強いですね。実際、討伐隊の倒し方はエグいの一言でしたし・・・実力差がある相手に、あそこまでやるとは。
そしてロウ&リシェルも参戦。しかしカインの圧倒的な力に成す術なく伏してしまう。
ロウが奥の手であるブルエンを発動させるも・・・まだ未完成の上に、リシェルの支援により気が緩み看破されてしまう。
そこに現れたのは頼れる仲間。次回はレオンVSカインかな?
それでは、鷹さん。今回もありがとうございました!



2007.7.16