It’s a Sword of Starlights

 

 

 

 

 廃ビル改め旧オフィスビル、『ウェスリータ』7階。

 そこには、リディアが感知した通りに3人の人間が移動していた。その誰もが、どうみても堅気の人間とは言いがたい独特の雰囲気を纏っており、

彼らは明らかに不審人物であることを、その滲み出る気配で物語っていた。

「さっきから下が騒がしいな……」

 ドアを開け、1人の男が不安そうに声を掛ける。

「どうやら、俺たちが流した情報に食いついた『ヤツ』が、暴れてるらしい。さっき送られてきたメールで確認済みだ」

「元騎士の、大剣使いか? 2年前にボスの脚をぶった切ったってヤツ」

「ああ。まさか、ホントに来るとは思わなかったけどな……」

 嘲笑は静かに室内に響く。彼らの言葉通り、彼らのボスことハンス・コウトニーの脚をゼンセイバーで切断した騎士というのは、ラグナの事だ。その場には

当然レオンも立ち会っており、その瞬間も彼の記憶にはっきりと刻み込まれている。

「まぁ、来てくれたのは僥倖だったが……おかげで、こっちの調整も滞りなく終わった」

 コン、と。今まで黙っていた3人目の男が固い金属音を響かせる。

 床に転がるのは様々な機械工具。

 そして、絨毯のように広がる無数の配線。

室内に蹲っているのは、奇妙な鉄の人形。

 それは、あの事件で使われたアーミーロボットのようにも見えるが……決定的に、装備に違う点がある。

「コイツの調整がもっと早く終わってれば、ボスを逮捕される事も無かったのかもな」

「だが、どっちみち騎士が出張ってくる事には変わりなかっただろうし、下手したらコイツまで壊されていたさ」

「ああ――――それにまだ未完成だったとはいえ……コイツのおかげで、裏切り者のアーノルドどもを始末できたんだからな」

 

 

 

第四話 紅蓮の剣士

03.真相

 

 

 エレベーターのワイヤーは断線していたため、リディアとリシェルは階段を使って7階まで駆け上がった。

 しかし仮に動いていたとしても、相手にこちらの動きを察知されてしまう危険性が高まるという理由から、どちらにせよエレベーターが使われる

ことはなかっただろう。

 息も切らさずに階段を上り終え、踊り場に出る。だがそこで2人はすぐさま廊下に出る事はせず、物陰からそっと進行方向を覗き見た。

「……どう?」

「トラップの類はなさそうね。けれど……そこからあのカメラが見える?」

 視線だけを上に向けるリシェル。その視線をリディアも追い……そのカメラを発見した。

「……カメラだね。しかもレーザーガンつきの」

「ええ。おそらく、コンマ数秒単位でこちらの動きを察知し、問答無用でレーザー照射。出力はどの程度かは分からないけれど、少なくとも生かしておく

つもりはないでしょうね」

「警察は、この階まで調べたのかな?」

「さあ。ずさんな調査だけなら、事件現場の階だけ調べてはいお終いって言うパターンもあるけれど……」

「とにかく、あれを何とかしないと先には進めない、だね」

 物陰に隠れ、2人は隣り合って座り話し合いを開始する。しかし、フォームを修得し、またゼンセイバーを使いこなすアーク・トゥエラにとって、

この程度のトラップはさしたる問題にもならない。一番の問題は、これを破壊した事を相手に察知されてはならない、という点だ。

「――――だけど、あれってモニターしてるのかな?」

「していないでしょうね。おそらくあのカメラは、こちらの動きを感知するためだけの物だから」

「そっか。なら楽だね」

 反動をつけて立ち上がり、リディアは靴で床を軽く叩き、スプリンターのような柔軟運動を開始する。その様子を見てリシェルはくすっと笑った。

「楽しそうね」

「短距離走なら得意ですから。でもかなりスゴイ風が出ると思うから、リシェルはここにいて」

「ええ。お早いお帰りを」

 拳を軽く小突き合い、リディアはリシェルの隣りでフォームを発動させる。

 秒速40mを超える超高速フォーム・風のウィータ。

 この物陰をスタートとするならば、到達すべきゴールはレーザーガンつきの警備カメラ。

 その距離、およそ20m

 即ち――――破壊する事に何の問題があろうか。

 軽やかに地面を蹴ると同時に、リディアの感覚が高速領域のそれにシフトする。世界から一瞬全ての色が失われ、感覚だけが暴走したかのように鋭敏化される。

 転進と同時に物陰から飛び出し、廊下を駆ける。目標との距離は最早皆無。カメラが反応し、レーザーの発射口がその口を開くよりも速く、緑色の光刃がその身を

両断する。そして――――さらに視線の向こうには、あと2機のカメラ。

「っ!」

 銃口から2本の光線。だがその瞬間の軌跡さえ、リディアの視覚は鋭敏すぎるほどに捉えていた。

 壁を蹴り、さらにそこから当然のように壁を駆ける。先程までリディアがいた場所をその光線が穿つよりも速く、彼女のゼンセイバーがその光の発生源を貫く。

 残る1機の角度が変わる。微妙な射角調整。だがそれすらリディア相手では度し難いほどの隙。

(はし)る剣閃。無情な閃光は事も無げにレーザーガンを両断し。

 リディアは廊下に着地すると同時に、フォームを解く。

 所要時間、実に1秒13。走行距離約65m

 既にフォーム発動時の秒速はおよそ58m/sに達しているという驚愕の事実を持って、障害にもならない障害は解決された。

「ぷはぁ……っと」

 大きく深呼吸をしてからリディアはポケットからPCを取り出し、リシェルに連絡を取る。仮にも敵地である以上迂闊に大声を出す事はできない。

『終わった? 凄い突風だったわね』

「ゴメンゴメン。でも、結局3機とも壊したよ」

『了解。今からそっちに向かうわ』

 短い連絡を終え、物陰からリシェルが姿を現す。

 と、同時に。

 ガゴオオオオォオオォオォォオオン!!!

 階下より響く轟音。それは果たしていかなる決着の鐘か――――。

 

 

 

「……っ。流石に、ちょっと無理があったかな?」

 軽い口調でそう言ったのはロウだった。彼の両隣には今なお剣を収めていないレオンとラグナが立っており……おそらくロウがその場を退けば、すぐにでも

戦いを続行しようとするだろう。

「テメェ……一体何のつもりだぁ!?」

 口汚い言葉を浴びせるのは当然ラグナ。一方レオンはといえば、少しでも体力と自分のペースを戻すべく、息を整えている。

「何って、君たちの戦いを止めたんだよ。厳しいとは思ってたけど、予想外に上手くいってよかった」

 ラグナのイグジスタンスから発せられる光刃は、ロウのゼンセイバーが同様に発する黄色の光刃に完全に止められている。しかもどんな怪力なのか、筋力では

圧倒的に勝るはずのラグナの一撃を、驚いた事に片腕だけで止めている。

 さらに……それは利き腕ではない左腕であり。

 ロウの利き腕である右手は、レオンの持つランサーの本体をしっかりと握り締め、同じく尋常ならざる怪力でレオンの攻撃を完全に阻んでいた。

「テメェ……その赤眼、アルディスタス人か」

「うん。けど珍しいね。普通の人は僕たちの事を亜人呼ばわりするのに」

「俺の血にも、かなり薄いが血が混じってるらしくてな。一応身内なんだよ……っ」

 何を思ったのか、ラグナはそう言うとイグジスタンスの光刃を消し、剣を収めた。すると同じく、レオンもランサーの光刃を収める。

「アルディスタス人にグエルクのフォーム、かよ。ただでさえ厄介な完全防御とやらにそんな反則みてぇな血が入ってるんじゃ、やり合えねぇぜ」

 つまらなそうに吐き捨てる。だがラグナの言葉通り、亜人ことアルディスタス人は、その血を継ぐものに高い身体能力を授けるという曰くがあるのだ。

それを証明するように、ロウはラグナの一撃を片腕で抑えていた。曰くは多くの場合偽りや虚飾を含むが、これは紛れも無い事実という証明である。

「でもラグナ。キミだって、本気じゃなかったはずだ――――キミもさっきの一撃、片手だったじゃないか」

 その言葉通り、ラグナの一撃もまた片腕によるもの。いや、あのレオンを弾き飛ばした一撃を除いては、ラグナは一度たりとも両手持ちでイグジスタンスを

振るってはいなかった。

「へっ……それを言うなら、レオンだってそうだろうが。ソイツのヴァルバングは本来なら、俺らが普通1つしか持たねえ4大精霊の特質を、全てバランス良く

含んでるっつー反則紛いのフォームなんだぜ? にも関らず、コイツは今回俺に合わせてブルエンだけにしやがった」

 顎をしゃくってレオンを指すラグナ。だがレオンはそれを気にもせず、さっさとランサーを腰に仕舞っていた。そんな彼を見ながら、ロウとラグナは苦笑する。

「「無視するなよ、レオン」」

「うるさい。2人で同じことを言うな」

 無愛想かつ無表情にそう言うも、ロウとラグナは2人で声を殺して笑い合っている。この場面だけ見れば、3人が先程まで命の危険さえあった局面を演じて

いたなど、一体誰が信じるだろうか。少なくともこの現場に居合わせたデンゼルには、とてもではないが信じられなかった。

「き、君達は、どうかしてるんじゃないか? さっきまで殺しあっていた相手と、わ、笑い合うだなんて……?」

「あ? へっ……別に俺らは憎くて戦ってたワケじゃねーよ。お互いの主義主張ってもんが、たまたま噛み合わなかっただけさ。ま、お固い公僕にゃ分かんねー

かも知れねえけどな」

「ところで聞きたかったんだけど。どうしてラグナはここに?」

「お?」

 デンゼルを一瞥し、ラグナはロウのほうを振り返る。

「あんま信じちゃいなかったんだがよ。匿名で連絡が入ったんで来て見たのさ。ここにレオンが来る、ってな。半信半疑だったんだが見事にビンゴで、

俺としても驚いたぜ」

 その答えは、本来ならばあり得ない情報だ。アーク・トゥエラの情報が事前にリークされる事はまず無いと言って良い。そういった情報を事前に知ることが

出来るのはアーク・トゥエラの情報部か、管理されているその情報そのものに侵入できる腕前を持った、命知らずのハッカーくらいのものだ。

「考えられるのはハッカーか……だとしても、何のためにラグナをここに呼んだかが分からない。相手はどこで、レオンとラグナの関係を知ったんだ?」

「…………」

 ロウの疑問を、沈黙を持って思考するレオン。そのとき不意に、今まで灯っていた照明が落ちた。

 

 

 

 ――――3階の戦闘停止直後の、7階。

「ここだね」

「ええ。これ見よがしに怪しいわ」

 不気味なまでに補強された、見るからに頑丈そうな扉。自動ドアの電源は破壊されており、入りたければ力ずくで押し入って来いと言わんばかり。

 リシェルはその挑発に答えるかのように、ゼンセイバーの光刃を解放し、有無を言わさず一閃。切断された扉を蹴り飛ばし、乱暴に室内に侵入を果たす。

「これは……」

「すご……電算室?」

 いや、そんな上等なものではない。

 室内の広さは8m四方程度の、さして広くもない小部屋。しかし床には縦横無尽にコードが走っており。

 ホログラフィ・ディスプレイや旧型の大型液晶ディスプレイが数台、そして溢れんばかりの電子機材。

 それは異常なまでに高度な処理能力を有した、ゴミ溜め。そんな矛盾した表現こそが、この部屋にはしっくり来る。

『ようこそ、アーク・トゥエラのお嬢さん方。アンタたちが来るのを待ってたよ』

 1台の液晶ディスプレイに映る男が鷹揚にそう言うと、たった今切り捨てたはずの入り口にシャッターが落ちた。それは耐熱線使用の防火壁であり、ゼンセイバーを

もってしても即座に脱出する事は出来ない。

「そう、罠というわけ。けれど、貴方達はこのビルの中にいるのは間違い無さそうね」

『ご明察。さらに言うならこの7階にね。けどそのためにはまず、俺たちの用意した相手と戦ってもらうよ』

 男が軽く右手を上げ、パチンと軽やかに指を鳴らす。

 その瞬間、室内の照明が落ちる。ディスプレイもその全ての表示が消え、しかし予備の電源を最初から積んでいるのか、男の映る液晶ディスプレイだけは健在。

 闇のみが支配する狭小世界。室内のせわしない駆動音は消え、静寂が支配する。

「……? 何、この音……」

『気付いた? これだけの電源を動力に回さないと始動しないのが難点だけどね。けど、それに見合うだけの実力はあるよ』

 ヒュイイイイィィィーーーーーンという、軽くしかし鋭く響く音。その音は徐々に音量を増し。

 ゆらり、と。

 暗闇の中で、静かに立ち上がる黒い影。

『さぁ。ゲームの開幕だ。俺たちのボスを奪った報い、受けてもらうぜ……!!』

 爛と光る2つ目。機材を押し倒し、さらに乱暴にそれらを弾き飛ばす豪風。その暴力を受け、男が映っていたディスプレイも粉微塵に砕かれる。

「ここじゃ不利だよっ! リシェル!!」

 リディアのゼンセイバーが展開し、入り口とは真逆の壁を指す。その意味を瞬時に察しリシェルは壁に向かって走る。

 交錯するは青と緑の光刃。2本の刃は難なく壁を切断し、離脱の道を開く。

 差し込む太陽の光。それに照らし出される2つ目の持ち主。

「アーミーロボット……いえ、違う?」

『――――肯定。私はその程度の兵器ではない』

 合成音声は低く響く。推定体長250cmの人型自立兵器。アーミーロボットの大型フレームに該当する、かつてはこの国の軍が正式採用していた戦略兵器。

『独立AI搭載型戦略兵器、コード・マレス。それが私達の登録名』

 ズシン、と重い一歩が響き渡る。マレスの右腕には巨大な鋼鉄の剣が装備されていた。 その重量はラグナのイグジスタンスの非ではない。

防御もせずまともに受ければ、少女の身体など両断どころかそのまま地面まで切り裂くだろう。

 だがそれは、相手が『並の』少女であればの話。

「……考えてみれば。あたし達、一緒に戦うのって初めてだね」

「そうね。全員と訓練はしたけれど、こういうシチュエーションはなかったわね」

 ジッ、とゼンセイバーを弾き合わせ、2人の戦乙女は構えを取る。

 リディアは日本刀のように、腰からの抜刀を前提にした構え。

 リシェルは構えを取らず、ただなだらかに右手で緩く保持するのみ。

 それらはまさしく、彼女らのフォームを表すかのように。

 超速の風神と、流麗なる水龍。

 鋼鉄の機兵を相手取り、その二刃は輝かしく舞い踊る。

 

 

 一方、3階でも異変が起きていた。停電の影響は事件の後に設置した照明にも影響しており、外の明かりを取り込んでいたとは言え、室内の照度が落ちた

ことに変わりはない。

「何だ?」

「停電?」

 レオンとロウはさっと周囲を見渡す。この時、レオンは初めてリディアとリシェルがいないことに気がついた。

「ロウ、リディアとリシェルはどうした?」

「7階に、誰かの気配を感じたから向かって……まさか!?」

 頷きあい、すぐさま出入り口に向かう2人。だがその前に、思いもかけない人物が立ち塞がった。

 誰あろう、デンゼル・パリシスである。

「デンゼル……お前」

「……見せてもらった。確かにキミ達の力は十分な脅威だ。だが……コイツを相手に、どこまで頑張れるかな?」

 パチン、と指を鳴らす。そしてその音に答えるように、鋼鉄の機兵が壁を突き破って侵入してきた。

「貴方も、テログループの仲間だったのか……」

「ああ。と言っても、本職はあくまで警察官さ。だがハンス氏には恩があってね……恩を返したいと思うのは、当然だろう?」

 腰からブラスターガンを抜き、照準を合わせる。そして一切躊躇う事もなく、発砲。

「っらああぁぁっ!!」

 剛剣一閃。光刃を展開したイグジスタンスはブラスターガンの光線を弾き飛ばし、弾かれた光線は壁を穿つ。

「ラグナ……アンタ」

「野暮は言いっこなしだぜ、レオン。俺は今、最高に気分が良いんだ。今だけはお前らと共闘しても良いくらいには、な」

 豪快に振り上げ、爆発音にも似た音を響かせ、イグジスタンスを地面に突き立てる。そのあまりに強烈な威嚇に、デンゼルは思わず萎縮する。

「ふ、ふん! どれだけ強がろうと、マレスに勝てるものか!! コイツは裏切り者を皆殺しにしたんだぞ!! それに上にも同じ機体が用意してある!!

ああ、この停電はヤツが始動したからだ。お前らの仲間の、あの女どももすぐにくたばる!!」

「「「黙れ、屑が」」」

 刺し貫くように鋭い3人の視線。その視線だけで、デンゼルは腰を抜かした。

「勘違いしてるようだな」

 レオンが1歩前に出る。

「彼女たちは、貴方が思うほど弱くない」

 ロウが1歩前に出る。

「それに、こんなクソ人形で俺らの相手が務まると、本気で思ってんのか」

 大剣を引き抜き、ラグナがさらに前に出る。

「――――相手をしてやる。来い」

 両刃開放。3色の光刃が室内を照らす。

 同じビル、違う階、違う部屋を舞台に。

 機兵相手に、騎士の戦いが幕を開ける。



あとがき:

戦闘終了、そして幕を開ける第2幕。
3話よりも遥かに巨大かつ高性能な敵。
そしてただの雑魚がより惨めな雑魚に。デンゼル・パリシスの明日はどっちだ。
次回で終わる予定ですが、詰め込むことが多すぎるとまたその5が出来てしまうかも知れませんが、ご容赦ください……。


管理人の感想

レオンとラグナの対戦は終結しましたが、また新たな敵との戦いが。
今回はリディアたちと言えども、ちょっと骨が折れそうですね。遥かに3話のロボよりは強そうですから。
しかし、真犯人がロボットというのも意外でした。てっきり人間だと思い込んでいたので。
残党を一瞬にして殲滅した、「マレス」の力は如何程なのか?



2007.4.12