It’s a Sword of Starlights

 

 

 

 

 

 真期1065年、黄緑(おうりょく)の月1日。

 『機国』ガナンタイト・旧市街地区レミンデスタ。

 

 半月以上前の、同時多発テロ並びにプレーン強奪未遂事件を敢行したハンス・コウトニーのグループはこの旧市街を根城に、再起の

機会を伺っていた。元より構成員を絞り込んだ少数精鋭のグループであるため、残存戦力は10人にも満たない。

 しかし、彼らのその能力の高さは折り紙つきである。かつては一流企業に勤めた者もいれば、国衛騎士だった者もいる。

「――――それで、ボスを取り戻すってのは、結局無しで良いのか?」

「ああ。それに、いい機会だしな」

「正直、ボスのやり方は作戦だの何だのって、細かくていけねぇよ」

「俺らは手っ取り早く、世の中をひっくり返せればよかっただけなんだぜ?」

 どんな組織にも、個人レベルではそれぞれの思惑がある。それをまとめ上げるのが組織にとっての大義であり、ハンスが作ったこの組織の

大義は「アンノウンへ辿り着くこと」だった。

 だが先の彼らの言葉通り、単純に暴れたいだけという理由で参加する者もいる。そういうモノを、本来はテロリストとは呼ばない。

それらはただの暴徒であり、時に仲間すらも平然と死に至らしめる悪漢だ。

「じゃあ、これからの方向を決めようや」

「ああ――――まずは、邪魔な連中を抹殺するのが最優先だな」

 大型コンピュータを操作し、各種データベースへアクセスする男――――アーノルド・カルヴァンがそう告げる。彼はハンスの片腕的

存在であり、現状この組織の新たなボスに納まっている。

「一番厄介なのは、やはりアーク・トゥエラだ。こいつらを何とかしないと、俺らに勝ち目はない」

 キーボードを叩き、映像データを呼び出していく。先のテロの際に辛くも回収を逃れたアーミーロボットから抽出した、戦闘時のデータ。

「こいつ等の力量には、どうもバラつきがあるようだ。強い奴はとことん強いが、中には思いがけない雑魚がいる」

 映像の中の騎士は、大柄な男だった。屈強という言葉を絵に描いたようなその男は、アーミーロボットの掃射を受け両足を負傷。ホイール走行で

距離を詰められ、剣を振るう間もなく頭を撃ち抜かれ、絶命した。

 ――――だが、映像はここで終わりではない。

 突如、映像に大きくブレが入る。途端に損害状況画面が映し出され、アーミーロボットの損傷が画面の隅に表示される。

『下半身切断』

『アームガン破損』

『戦闘続行不可能』

 さらに大きく映像がブレる。アーミーロボットの上半身は弧を描いて吹き飛び、同時。

 アーノルドは背中から鉄の塊を突き立てられ、自分が貫かれたことにも気がつかず、この世を去った。

 

 

 

第四話 紅蓮の剣士

                                     01.宿敵

 

 

 

 黄緑の月2日、副都心レィスウェッダ、セクレイッド・マンション2701号室。

 

「殺人事件の調査?」

 思いがけないその任務に、レオン・ウィルグリッドは思わず聞き返した。だがホログラフィ・ディスプレイの向こうにいるオペレーター、

エリン・ウィンスリッタは淡々と続きを述べる。

『はい。郊外の旧市街地区で7人の遺体が発見されました。警察側の調査によると、半月前に逮捕したハンス・コウトニーのグループメンバーだそうです』

 ハンスの事件にはレオンも、そしてリディアもリシェルもロウも参加していた。結果的に逮捕を行ったのはレオン本人であり、その事実を

考えれば、レオンに白羽の矢が立つのも分からない話ではない。だが。

「それは、本当に俺たちが関わるべき任務なのか?」

 アーク・トゥエラの本来の任務は、法を犯す者を実力行使を伴うあらゆる方法で拘束する事。確かにその基準で言うのならば、殺人犯を拘束する

事もまた、彼らの任務の一部といえる。

 だがそれはあくまで『警察機関の手に負えない事件への、超法規的立場からの関与』を大前提としている。殺人事件のような――――言い方は悪いが

『ありふれた』犯罪行為に、アーク・トゥエラが出張るなど、本来の条件からは大きく逸脱している。

『ですが、考えてみれば分かる事です。曲がりなりにも彼らはテロリスト。少なからず銃器で武装している事は想定できます。その彼らが、なんの抵抗も

なくただ一方的に殺害されるなど、あり得ません――――ごく一部の、特定条件を除けば』

 エリンの言葉は正鵠を射ている。いかにならず者の集まりとは言え、彼らもまた身を守る術くらいは持っている。ましてやテロリストというカテゴリーに

分類されている以上、重火器の類は持って然るべき。

 だというのに、現場は綺麗なものだった。銃を乱射した跡も、激しい抵抗をした跡も見受けられず、ただ圧倒的な力で7人もの人間を惨殺した状況のみが

残されている。そんな事が出来るモノは、およそ限られている。

「つまり……それ以上の力を持つ何者かが、犯人だと?」

『さすがに、これは警察の手にも負えないでしょう。むしろ要らぬ犠牲を出す可能性さえあります。ならばこちらも、ジョーカーを用意する必要があります』

 単騎で戦局を打開するワイルドカード。ガナンタイトに現在駐留しているアーク・トゥエラの中でその条件に見合う最高の騎士は、この男のみ。

「了解……そういう事なら従おう。だが、他のメンバーは……」

 僅かに、レオンの声のトーンが下がる。しかしディスプレイの向こうのエリンはそれに気付く様子もなく、答えだけを伝える。

『ロウ・ラ・ガディス、リシェル・ベルムント、リディア・ハーケンは本作戦においては貴方の指揮下に入ります。彼らをどのような配置に置くかは、

全て貴方に委任されています。またこれは、先任騎士の特例項目にもあります』

 先任騎士は通常任務において、そのチームにおける指揮権を有する。特例項目第3項には、確かにその記述がされている。

 だが今はもう、彼らを手足のように使う事に対して、レオンは明確な否定の意思を持っていた。この半月程度の短い時間ではあるが、彼らは確かに

レオンにとってかけがえの無い友人になっている。

「では、調査に関してはこちらでのミーティング後に実行に移る。配置について異論を挟む事は、断固拒否する」

『了解しました、レオン。良い報せを』

 そう言って、エリン側の通信が遮断される。レオンはそれをしっかりと見届けてから、ディスプレイの電源を落とした。

「――――というわけだ。今回の任務は、殺人事件の調査。とは言え手がかりが無いに等しいから、状況報告のメール待ちになる」

 リビングのソファーでPCを開いていたレオンは、ダイニングで黙々と食事しながらもしっかりと聞き耳を立てていた3人と1匹の友人達に、ぶっきらぼうに

そう言い放った。

「なんか、厄介な事件だね」

野菜を千切りながらルゥに与えるリディアが率直な感想を漏らす。だが彼女の言う通り、これは厄介な事件だ。

「そうね。まず、犯人の目的が分からない。殺人という行為自体は最低だけれど、被害者はテロリスト。一般市民や国家に対しては、むしろ都合が良くもある」

「悪く言えば、犯人もまたテロリストだね。けど極端に言い換えるなら、その犯人は正義の味方でもある」

 リシェルとロウの同意と補足を得て、リディアも頷く。

 テロとは本来、明確な政治的目的を持って行われる行為である。ただそこに手段はなく、いかなる方法を用いても目的を達成するという事があり、その点は

非常に厄介極まりないが、その効果はそれに見合う絶大さを持つ。

 それは誰に対しても同様の脅威であり、対象は民間、要人を問わない。ただ目的さえあれば、手段は選ぶ必要など無いのだ。

 そして、今回の殺人事件はそのテロリストが被害者。脅威を与える人間が消えたとなれば、人々はその行為を少なからず賞賛する。それもまた、手段を問わない。

問う必要がない。

 逮捕という、いずれ再び世に放たれる可能性を持つ束縛よりも、二度と再び恐怖に怯える事の無い死という永久の眠り。恐怖を討ち倒した者は英雄視され、

民衆にとって最も分かりやすい――――正義の味方となる。

「だがどんな理由があろうと、正義の味方だろうと。法という枠からはみ出せば、それは罪だ」

 法の守護者、アーク・トゥエラ。彼らが遵守すべき法に、殺人者を赦す記しは無い。いかにその目的が正義の為であろうと、なりふり構わないという手段を

取れば、やはりその犯人もテロリストと変わらない。

「じゃあ、どうするの?」

 テーブルパンにサラダと生ハムを挟んで、レオンにそのサンドイッチを手渡すリディア。彼はそれを受け取ると、ふた口であっさりと食べ尽くし、さらに

ミルクだけを入れたアイスコーヒーを一気にあおって――――コトン、とテーブルに置いた。

「情報を整理して、現場の再調査。まずはそれからだ」

 その言葉を待っていたかのように、レオンのPCにメールの着信が入った。

 

 

 

 エアカーをレンタルし、4人はひとまず現場の調査から始めるためにレミンデスタを訪れた。旧市街といっても、何もその全てが打ち捨てられてわけではない。

今のレミンデスタは一種の貧民街と化しており、しかしながら国政施策の恩恵もあり、人が住むにはそれほど不便は無い。

 ただやはり、多くの面で問題があることは否めない。その1つが貧困による暴力行為の横行。それを温床として、いわゆる犯罪予備軍の雛型が、少なからず

発生してしまうという危険性。

 もちろん治安維持のために警察や警備用ロボットの目も光ってはいるが、やはり数は限られている。どれほど警戒しても、全てを十分に観察する事など出来ない。

 それ故に、ここは犯罪者達には格好のねぐらであり。

 ハンスのテログループの残党達が、密かに隠れ家にしていた場所でもある。

「なんだ、キミ達は。ここは子供の遊び場じゃないぞ」

 事件現場のビルには当然のように警備の警官――――デンゼル・パリシスが立っていた。レオンは自分のPCを取り出し、分かり易くライセンスを突きつける。

「聖堂機関アーク・トゥエラ、レオン・ウィルグリッドだ。昨日の事件について調査を依頼された」

 デンゼルはそのライセンスを見て、一瞬戸惑った。確かに今日、アーク・トゥエラの人間が来るかもしれないという事は聞かされていた。

だが――――それが、自分より10歳近くも年下の少年少女だなどとは、想像すらしていなかったのだ。

「し、失礼した。こちらも報せは受けていたのだが、その……」

「若すぎますか?」

 一番背の高い青年――――ロウがにっこりと微笑む。その笑みは歳相応のあどけなさも残してはいるが、逆にそれが信じられなかった。

 まだ年端も行かないような、こんな子達が騎士だなどと。

「あ、いや……失礼した」

「いいですよ。それで、現場の様子を知りたいんですけど……入ってもいいですか?」

 ロウのその言葉にデンゼルは頷いて、事件の後に取り付けた電子ロックを解除する。

「……必要ないかもしれないが、君たちの付き添いをするよう命令を受けている。同行させてもらうが、構わないか?」

「ああ。それに、現場の情報は多い方が良い」

 目線も合わせずに言い放つレオン。その態度にデンゼルは少なからず不満と怒りを覚えた。だが、

「レオン、今の態度は失礼じゃない?」

「そーだよっ! ちゃんと謝らないと!」

 リシェルとリディアに指摘され、渋々といった感じで視線を向ける。鮮やかな碧眼は美しく、デンゼルはその深さに思わず呑まれそうになった。

「失礼、それと……差し支えなければ、名前を教えて欲しい」

「あ、ああ。デンゼル・パリシスだ、よろしく」

 デンゼルは言いながらドアを開け、4人はそれほど広くない部屋へと通される。

 室内は所々傷んではいるものの、それは老朽化によるものがほとんどで、メールでの報告にも有った通り、人為的な損傷は見受けられない。

 ――――だが。

「……デンゼル。入り口はここ以外には?」

「いや、窓以外に外に繋がるものはないし、ここは3階だ。なんの道具も無しに侵入する事は……」

 その言葉が終わるよりも速く。

 窓を突き破り、何者かが入り口目指して疾走してきた。

 それに応じるようにレオンはデンゼルを押し退け、何者かに向かって走り、拳を繰り出す。

 瞬間。

 ばちいぃん!! と乾いた破裂音を伴い、両者の右拳が激突する。

「……っ!!」

「しぃっ!!」

 両者ともにわずかに後ずさるも、戦闘姿勢は崩さない。どちらもそれを一瞬で判断すると、申し合わせたように反転し回し蹴りを叩き込む。

 交差する互いの左脚。そのタイミングも、全くの同時。

「ハハッ、腕は鈍ってねえなぁっ!!」

「何故、貴様がここにいる……っ!」

 相手の男の脚が落ちる。そこを突いて、レオンは同じく落ちかけた脚でさらに直蹴りを放つ。

 槍のように鋭い一点打突。しかし男はそれを下がる事無く伏せて躱し、そこからさらに足払いを繰り出す。

 だが、その手を読んでいたかのようにレオンは跳躍すると――――リディアと同じように空中を全身のバネを使ってさらに蹴り、距離を稼ぐ。

「逃がすかよぉっ!!」

 着地までのわずかな時間。その隙を突いて、男は追撃する。その背には大きな包みを背負っているがしかし、その速度は十分に速い。レオンの

着地と同時に仕掛ける事ができるほどに。

「っらあぁぁっ!!」

 風を薙ぐ渾身の右フック。当たれば等しく首から上を吹き飛ばすような剛風はしかし。

 先ほどの自身よりもなお低く伏せたレオンには、届く事も無く。

「ふっ――――!!」

 地面より解き放たれる垂直離陸の左アッパー。室内に積もった塵を巻き上げるその一撃は、上昇する竜巻。

 男は撃ち終わり際に生じる一瞬の硬直故に、回避が一瞬遅れ――――被弾。

 舞うは鮮血。レオンは高々と拳を突き上げる。それはまるで、勝者の宣言の如く。

 だが――――眼前の男は、なおも地に倒れ伏せてはいない。

「効いたぁ……避けそこなうとは、思わなかったぜっ!!」

琥珀色の瞳は爛と輝き、その内に再び闘志を灯す。

「答えろ。何故貴様が今、この国にいる……?」

 鋭いレオンの視線と言葉。しかしそれを受けても、男はただわずかに切れた顎を親指でぬぐい、ピッと血を飛ばす。

「るっせぇな。俺がどこでなにしようが、テメェの知った事じゃねぇだろうが」

「そうはいかない。貴様は逃亡者だ。それに、貴様の動機を考えれば……今回の件の重要参考人にもなり得る」

 その、一言に。

 レオンと男を除いた全員に、動揺が走る。

「じゃ、じゃあ、この男が……犯人!?」

 男を凝視するデンゼル。だが男はそれを気にする様子も無く、真紅の髪を掻き上げる。その右目の脇には、決して小さくない裂傷痕が。

「重要参考人、ねぇ。ここでの事件は知ってるが……まぁ、いいや」

 男は背の包みを解き、それを乱暴に床へ突き立てる。

 ガギン、という金属音。その正体は――――通常の剣の規格を上回る、大剣。

「賭けをしようぜ。俺が負けたら、俺の知ってる情報を喋ってやる」

 見え透いた挑発。普段のレオンならば、そんなものは一蹴するところだが。

「いいだろう。俺が負けたら――――」

「その命、貰い受けるぜ」

「やってみろ……ラグナ・レスフォード」

 ――――誰が知ろう。

 このラグナこそ、かつてレオンとともに行動し、理解し合えた最初の騎士。

 リステンボルクより秘匿物指定を受けていた物を奪い、騎士の名を捨てた剣士。

 そして――――レオンの手により、そう遠くない内に剣士としての命の灯を、消すと言われている男。

 彼らの因縁は深く……まさしく2人は宿敵なのだ。




あとがき:

今までよりもちょっと短くなりましたが、ようやく舞台に映える敵役の登場です。
戦闘描写はここからさらに加熱する予定ですが、あんまり熱くなり過ぎると収束が
大変なので、バランスを取らないといけませんねぇ。
格闘戦よりも剣での戦闘がメインですので、次回もお付き合いください。


管理人の感想

4話の1から、驚くような急展開。ハンスの残党が今度は出張ってくるのかとおもえば、突然すぎる死。
そして今回の任務が、その殺人犯の調査となったわけですが。
事件現場で突然現れた謎の男、ラグナ・レスフォードをレオンが迎え撃つ。
そこには、二人にしか分からない因縁のようなものがありそうですねぇ。
話しぶりからするに、ラグナは犯人・・・ではないのかな?
その辺の関連も含めて、次の話も楽しみですね♪



2007.3.30