It’s a Sword of Starlights

 

 

 

 

「く、クソッ……あの、野郎……」

 傷だらけの身体を引きずりながら、ハンス・コウトニーはどうにか牽引車輌から這いずり出した。運転席の部下も生きてはいるが、重傷だ。

 まさか、あんな荒い手段で自分たちを止めにくるとは。あれほど乱暴な方法は、およそ騎士の手段としては相応しくない。

 だが、確実ではある。自信の損害を省みることさえしなければ、これほど効果的な方法は無いとも言える。

「ま、まだだ……まだ、終わら、ねぇ……」

 何がハンスを突き動かすのか。移動手段を奪われて尚、彼はプレーンベースへ向かおうとしていた。

「そこまでだ。これ以上は行かせない」

 だが、無情にも立ち塞がる者は現れる。

 視線を上げるハンス。見下ろすレオン・ウィルグリッド。てっきり相手も手傷を負っていると思っていたハンスだが、眼前のレオンはまったくの無傷。

「へっ、さすが……本物の騎士様は、違うねぇ。で? どうすんだ、これから」

「つまらない虚勢は止めろ。趨勢は決した。これより、貴様を逮捕、連行する……ハンス・コウトニー」

「!? テメェ……なんで、俺の、名前を……?」

 ハンスの名前はメディアに流れたことは一度もない。彼らのグループはメンバー以外に本名を明かすことはせず、普段から役職名や、個人の

名前を特定するような情報は口にしないようにしている。

「3年前だからな……覚えていないのも、無理はない」

「3年……ま、まさか、テメェ、あの時のガキか……」

「そうだ……お前の足を奪ったあの男の仲間だった、ガキだ」

 無常の風が吹く荒野で。

 過去を語るレオンとハンスの会話は……レオンの騎馬として走り抜いた、ドゥス・アストラーダだけが聞いていた。

 

 

 

第三話 孤高の青年

04.()わる道

 

 

 

 PCの通話機能に着信が入ると、リディアはすぐさま通話状態に切り替えて、イヤーフックで左耳に掛けた。

「はい、もしもーし」

『俺だ。今どこにいる? GPSの発信を入れてくれ』

「あ、レオンか。うん……今入れたよ? そっちは大丈夫?」

 PCの側面に並んでいるいくつかのボタンを操作して、GPSの発信をオンにする。この操作をしなければ、PCの発信源を特定できない。

 リディアは何もない荒野を、1人で歩いていた。そこはレニンジー・プレーンベースまであと30km程度の距離であり、都心部に帰るよりも

レオンと合流して一緒に帰る方が遥かに楽で、効率も良いからという理由だ。

『今、こっちの通信で警察と支部に連絡を取った。20分ほどで護送用のエアカーが来る。それに乗って、俺の居るポイントまで来い』

「ん。りょーかい」

『……リディア』

 わずかに、レオンの声のトーンが変わる。リディアもまたそれに気付き、ふと歩みを止める。

「……どしたの?」

『いや……後で、会ってから話す』

 通話が途切れる。リディアもまたPCを操作して通話を切ると、またしても着信が入った。

「はい?」

『リディア、私よ。そちらの状況は?』

 声の主はリシェルだった。リディアは近くの岩に腰を下ろすと、一息ついて。

「レオンがテロリストを確保したみたい。あたしは、アーミーロボットを片付けただけだよ」

『どこも怪我はない?』

「うん。ただ……初めてフォーム使っての実戦だったから、なんかイマイチ感覚が戻んないよ」

『それは私も経験したわ。アリーナの話では一過性の物らしいから、すぐに慣れるそうよ』

「アリーナ? 誰それ」

『解析を手伝ってくれた、この国の駐留騎士の1人よ。話をしてみる?』

「うん!」

 チームのメンバーとカナン以外では初めて会う、他のチーム、他の国のアーク・トゥエラ。そして自分の手助けをしてくれた相手の顔を見ておきたいと

思うのは当然のことだ。リディアは耳からPCを外し、本体を展開。ホログラフィ・ディスプレイを表示する。

『――――はじめまして、リディア。ガナンタイト駐留アーク・トゥエラ、アリーナ・フェムタスよ』

 セミロングのブラウンヘアーに、鳶色の瞳。年齢は20代半ばだろうか、それなりに大人の雰囲気を持っている。

「はじめまして、アリーナさん。リディア・ハーケンです」

『リシェルの話通り、可愛らしいお嬢さんね。まだ14歳なんですって?』

「は、はい……」

 恥ずかしそうにはにかむリディア。その姿にアリーナも微笑む。

『エンゲージメント・フォーティーン。14歳資格者をこう呼ぶことはあるけど、まさかテロリストを打倒したのが、4年前のエンゲージメント・フォーティーンと

今年のペアとはね。正直驚いたわ』

「え? それって……レオンも、14歳で騎士になったんですか?」

 わずかに身を乗り出して尋ねると、アリーナはどこか物憂げに溜め息をついた。

『……ええ。ただ彼は――――レオンは、その有り余る戦士の資質ゆえに、誰からも恐れられていた……』

 それは、リディアにとってもリシェルにとっても、予想だにしない発言だった。

『アリーナ、それは……』

「一体、どういうことですか!?」

 リシェルの静かな声とは対照的に、声を荒げるリディア。その剣幕にアリーナは、先ほどの自分の言葉が予想だにしない失言であったと気付かされる。

『ゴメン、失言だったわ。これ以上は私の口からは言えない……ゴメンね、リディア』

 一方的に切られる通信と、回線遮断に伴いディスプレイも消える。だが、いくら映像が消えたからといっても疑問までが消えることはない。

「レオン……キミは、どんな人なの――――?」

 同じ空の下にいても、声は届かない。

 もちろん、声を届けることも、顔を見ながら話すことも、いつでも出来る。

 

でも、あたしは。

 通信なんかじゃなくて。今すぐキミに直接会って、話がしたいよ……。

 

 

「どういうことなの? アリーナ、貴女はレオンのことを……知っているの?」

「ええ……知ってるどころか、彼とは同期よ。一時期は今のアンタたちと同じように、ルーキーでチームを組んでた。でも……」

「――――でも、彼はいつも独りだった」

 突然口を開くロウに、アリーナの驚きの視線が向けられる。その視線が意味するものは、ロウのその言葉が正鵠を射ていたからだ。

「ロウ、貴方……知っていたの?」

「いや? 僕は何も知らない。レオン・ウィルグリッドという男の子がどんな人生を歩んできたのかも、どういう風に過ごしていたのかも。そしてその答えを全て

知ってるのは、勿論レオンだけだ。でも……貴女はレオンのことを多少なりとも知ってる。もし差し支えなければ、僕達にも教えて欲しい。この事はリディアにも、

レオン自身にも口外しない」

 ロウの言葉はどこまでも透き通っていた。リシェルはその言葉に同意するように頷き、

「私も誓うわ。決して、あの2人に口外しない」

「…………いいわ。私の知ってるレオンを、教えてあげる」

 わずかな沈黙の後。

 アリーナの口から、レオンという青年の数年前――――少年時代が語られた。

 

 

 

 レオンの言葉どおり、20分ほどで護送用のエアカーが到着した。エアカーの乗員である警察関係者はリディアの姿を見ると、サッと敬礼する。

「任務、ご苦労様です。早速ですがご乗車ください。一刻も早く、テロリストどもを連行せねばなりませんので」

「あ、はい」

 言われるままに乗車し、さらに10分ほど移動したところで、目的地であるレオンのいるポイントに辿り着く。

 リディアは急ぎ足でエアカーから飛び出すと、すぐさまレオンのところまで駆け寄った。

「レオン、大丈夫?」

「ああ。だが、ちょっと待ってろ。引渡しの手続きをしてくる」

 そう言って、レオンはリディアの横を通り過ぎる。彼は警察の人間と少し言葉を交わして、提示されたPCの画面をなにやら操作し、ものの数分で戻ってきた。

「もう終わったの?」

「簡単なチェックと、電気手錠の解除キーを教えただけだ。お前にもその内、覚えてもらうからな」

 ドゥス・アストラーダを起動させ、ゆっくりと跨る。リディアもレオンの後に続き、後部座席に腰を下ろした。

 目の前では、負傷した5人のテロリストが連行されている。その中で、おそらく最年長であろう髭を蓄えた男が、不意にリディアとレオンを見た。

「…………」

「?」

 その眼には、怨みも含まれていたが。

 同時に、何かを懐かしむようなわずかな光があったのを、リディアは感じた。

「何をしている、さっさと歩け」

「ぅるっせえよ、こっちは怪我人なんだ……もう少し丁寧に扱いな」

 2人から視線を切り、しかし不遜な態度を崩すことなく。

 男たちは、護送車に乗せられ……後わずかで達せられた目的地よりも遠い場所へと連行された。

「これで……おしまい、だね」

「とりあえずはな。残ってるのは後片付けだ」

 ゆっくりとエンジンをアイドリングさせ、反重力装置を起動させるその背中を見ながら、リディアはそっと、頭を乗せた。

「……なんだ」

「疲れちゃった。まだ感覚がはっきりしないし、靴は壊れちゃうし、それに……」

――――キミが、どんな人なのか、前より分からなくなっちゃったし――――。

 胸の奥でそっと呟いたその言葉は、レオンに届くはずもなく。

 リディアはただ、彼の身体に抱きついて、ゆっくりと睡魔に身を委ねた。

「…………勝手に寝るな……言いそびれただろ」

 高度は控え目に抑え、速度も緩やかに。

 力の抜けたこの腕が、振りほどけない程度の速さで。

 本来の在り方とは違う低速に、アストラーダにわずかながらの不満を覚えさせながら。

「良くやってくれた……ありがとう」

 彼は小さく、彼女に感謝の言葉を述べた。

 

 

 

「お帰りなさい……あら、どうしたの? リディア」

「寝かせておいてやってくれ。ぶっつけ本番でフォームを使ったんだ」

 レオンに背負われたまま、リディアはぐっすりと眠っている。慣れないフォームの行使は必要以上に体力を消耗する事があるため、

まだ経験が浅いどころか実質今日が初めてだったリディアは、少しでも体力を戻そうという精霊の働きと、彼女自身の肉体が睡眠という

手段を取らせているのだ。

「久し振りね、レオン」

 声を掛けたのは、レオンにとって意外な客人。

「アリーナ・フェムタス……あんた、ここの駐留だったのか」

「そうよ。再会を祝いたい所だけど、ウチのチーム、穴が開いちゃったからね。これから支部に出頭よ。じゃね」

 ひらひらと手を振り、レオンの横を通るアリーナ。だが彼女は立ち止まり、視線を合わせずに再びレオンに話し掛ける。

「――――もし、まだガナンタイトにいるんなら、久々に飲まない? 積もる話も」

「俺には、あんたと話すことは何もない」

 冷たく、突き放すような一言。

 だがアリーナは肩を竦め、彼の肩を軽く叩いた。

「相変わらずね、その冷然な態度。なのにその子には優しいんだ? アンタ、私たちとはまともに口も利かなかったくせに」

「……終わったことを蒸し返すつもりか」

 視線は合わせず、しかし。

 刺すように冷たいレオンの『気』が、アリーナを威嚇する。

「アリーナ、早く行ったほうがいいんじゃない? 支部だって忙しいはずだし」

 一触即発になりかねない緊張状態を解いたのは、ロウの一言だった。アリーナは大げさに溜め息をつくと、レオンを一瞥し、無言で2701号室を後にした。

「……余計な事を、するな」

「僕はただ忠告しただけだよ? それに、セーフハウスの中でそんな殺気を放っても仕方ないし」

 ロウはレオンがアリーナにしていたように、視線を合わせることなく。

 かたやリシェルも、野性の本能で脅えているルゥを膝に乗せ、ソファーに座って紅茶を飲んでいる。

「いつまでリディアを負ぶっているつもり? 早くベッドに寝かせてあげたら?」

 ティーカップをサイドボードに乗せ、紫紺の瞳がレオンに向けられる。その眼は、今までのようにどこかレオンを軽蔑するような眼ではなく、真っ直ぐに

彼と向き合う、真剣さを持った眼だった。

「それと――――もう少ししたら食事にするけれど。宅配で何か、食べたいものはあるかしら」

 その、意外な言葉に。

 さすがのレオンも、驚きを隠せない。

「……俺に聞いてるのか?」

「そうよ。ロウのリクエストはもう聞いているし、リディアは答えられる状態じゃないわ。だから、後は貴方だけよ」

「僕は、ルペイバーナのポルフェリカピザセット。どうせなら皆で揃えようって話になってね」

 ルペイバーナというのは、ガナンタイトでも有名なピザ・パスタなどの、現実で言うイタリア料理をメインで扱うレストランで、世界中に支店を持つ

有名店である。当然世界中に展開している以上、味も十分に合格点だ。

「……ケルッティーニセット。それとミネラルサラダを頼む」

 ケルッティーニセットは挽肉のパスタに、2人前程度のベーコンとトマト、さらにやや辛めの香辛料を主に使ったピザ・ケルッティーニのセットであり、

ミネラルサラダは呼んで字の如し。今の季節は海藻をメインにした構成が取られている。

「これでメニューは決まったわね。リディアの分は……私と同じにしておくわ。カンタリンプル・ピザと、生野菜のサラダ。後はルゥね」

 ちなみに、ポルフェリカピザは海鮮メインのピザ、カンタリンプル・ピザはスタンダードなオニオンソースのサラミピザである。

「野生動物だろ……味の濃いものは、良くないんじゃないか」

 それは、レオンが初めて見せるルゥへの言葉。

 そこには間違いなくルゥに対する気遣いの心があり、彼が決してルゥを悪く思っているわけではない、という証拠だった。

「じゃあ、生野菜サラダを追加だね」

「そうね。でもそれだけじゃ味気ないから……ノンペッパージャーキーを入れておきましょう」

 ノンペッパージャーキーは一切の香辛料を使わない、半生の加工牛肉。これならばルゥの味覚にも合うはず。と、その時。

「……んぁ……? …………ぐぅ」

 一瞬目を覚ましかけたリディアだったが、まだ眠いのか、重たい目蓋は再び落ちる。

 その様子を見終えてから、レオンはようやくリディアをベッドに寝かせるために、彼女が選んだ部屋へと向かった。

 

 

 

 ベッドに座り背中からリディアを下ろすと、リディアはそのままこてんと倒れ、変わらずにすやすやと寝息を立てている。

その穏やかな寝顔に、知らずに見入っている自分に気づいた時、レオンは自分がペースを乱されている事を、改めて実感した。

 予想もしていなかった、かつてのチームの仲間だったアリーナとの再会。4年前のチームのメンバーが今、どこで何をしているかなど

まるで興味が無かった。だが会えばやはり…………それなりに、いい気分にはなれない。

「振り切れるもんじゃないな……やっぱり」

 振り切ったつもりになっていた、あの過去。

 だが、過去は振り返ることは出来ても、振り切ることは出来ない。

 連綿と続く現在までの過去は、どこまで行っても自分のいう存在を捕らえる鎖。

 そのとき、不意に。

 暖かい感触が、レオンの手を掴んだ。

「……起きてたのか」

「ううん……今、起きた……」

 リディアの声は小さく、また眠たげな響きで、レオンにだけ届く。

 レオンは彼女の手を振り解く事もせずに、ただ黙ってカーペットの敷かれた床を見ていた。

「……今日は、良くやってくれた。ありがとう」

「ん……えへへ」

 華のようにほころぶ笑顔。歳相応の可愛らしい表情であり、リディアのいつもの微笑。

「言ったよな。会ってから話すことがあるって……」

「うん」

 きゅっと、リディアの手に力が篭もる。

 それに答えるように、レオンもほんのわずか、手を握り返して。

「俺は……ずっと、他人を信じられなかった」

 

 

 

――――4年前。

 1人の少年が14歳資格者として、アーク・トゥエラの資格を得た。

 出身地はイラムトナカ。『武国』として名高いその国では、古来より多くの優れた騎士・戦士を輩出しており、彼もまたそんな騎士の1人。

 だが、彼はその上に限りなく稀少な『金』の加護精霊を持ち、伝説のアーク・トゥエラ、ゼン・セイバーと同じくヴァルバングのフォームを

修得するという偉業を成し得た。

 真期1000年代において、唯一であり初のヴァルバングの使い手。騎士たちはそんな彼に憧憬の年を抱くと同時に。

 嫉妬し、また畏怖の念さえ抱くようになった。

 自分の持たざるもの、異様なものを人は恐怖する。それは騎士であっても同じ人間である以上、無いとは言い切れない。

 チームのメンバーも、まるで腫れ物を触るかのように彼とは一線を引き。

 彼もまた、それを知る身でありながら、自分から歩み寄ろうとはしなかった。

 最初の1年で彼は、若手のアーク・トゥエラの中でも抜きん出た存在となり。

 同時に、最も孤独な存在となっていた。

 2年目に、ある騎士と2人でチームを組む機会があった。

 相手はある意味で問題児であり、孤独という意味で問題視されていた2人は、時折言い争いつつも、良き仲間として行動していた。

 しかし、その年の末。

 相方だった騎士は突然アーク・トゥエラを脱退。その時にリステンボルクに保管されていた『あるもの』を持ち出し、それを食い止めるために

彼と戦闘。彼は無傷で勝利を収め、騎士は右目の横にゼンセイバー・ランサーによって傷を受ける。

 手術を受けなければ、再び騎士として戦うことは出来ないという目の負傷。

 しかし、相方だった騎士はレオンの言葉を聞かず。

 どこかへと、姿を消した。

 背中を預けることさえ出来た相方を失い、彼は3年目には独りで活動するようになり、多くの武勲を立てた。

 そしていつしか、アーク・トゥエラ内で一つの名前が囁かれるようになる。

 ――――孤高の黄金。

 心を開かず、誰をも信じることなく。

 彼はたった独りで、単騎の騎士として戦い続けていた。

 

 そして、4年目。

 『神国』ワルマーシア代表、ロベリア・ワルマーシア・ハーケンに指名を受け、彼はワルマーシアへと赴く。

 通達されたのは、新人達の先任騎士という新たな仕事。

 だが、彼は代表に異を唱える。

『――――何故俺なんです。陛下も、俺の噂くらいは知ってる筈でしょう』

『そうね。でもだからこそ、貴方に必要だと思ったの。人を信じることを止めてしまった貴方だけれど、逆に信頼される立場になってみるのも、悪くないはずよ?』

『そんなこと、ある筈が無い』

『そう言うのなら、賭けをしましょうか。貴方が信頼されれば私の勝ち。貴方が信頼を得られなければ、貴方の勝ち』

 一国の代表にあるまじき、『賭け』という言葉。

 ……心のどこかで、まだ人を信じてみたいという働きがあったのかもしれない。

 ……今でも、その疑問に答えは出ない。

『貴方が勝ったら、私の出来うる限りの権限を与えます。けど、代表の座以外ね。ここはもう予約済みだから』

『では、俺が負けたら――――何をすれば』

『ほんの少しでいいわ。心の扉を開いて、人を信じなさい』

 代表には分の悪い賭けだ、と彼は思った。

 だが、彼は――――。

 

――――今は、お前を信じてやる――――

 

 賭けの勝敗よりも先に、負けた時の条件を達成してしまった。

 

 

 

「誰とも距離を近づけなければ、その距離が離れていくこともない。だから、人を信じない。信じれば、いつか離れたときに傷つくから」

 淡々と、ただ静かに。

 レオンは、己の秘めていた少年時代を語る。

「そうやって、俺は人を遠ざけてきた。だけど正面から向き合ってくれる相手には……少しだけ、楽になれるんだ」

 それは、おそらくジェスやミオのように、打算も何もなく付き合えるような人間を言うのだろう。おそらく彼らも、レオンが騎士であることは知っている。

だがジェスはそんなことさえ気にすることなく、たまに会えれば楽しげに自分やミオ、仲間達の話をする。

 そして――――リディアもまた、それらに近い。

 自身の心を偽らず、ただ己の思うままの事を誓うリディア。そこにもまた悪意や打算はなく、どこまでも純粋。

 だから、信じられる。

 騎士としてではなく、1人の人間として。

「レオンは、みんなの事、好きになりたいんだね」

「そう……かな。そうなのかも知れない。でも――――すぐには変われない」

 たとえ心が理解していても、人はすぐには変われない。その変化を受け止め、関係を変えていくのは、時には他人の協力や、長い時間が必要だ。

「大丈夫だよ。……だって、今は独りじゃないもん」

 そう――――その手の温もりが、確かな証拠。

 

 

 

「なんだかんだで、上手くやっていけそうかな?」

 部屋の外、ドアから少し離れた場所で。

 リシェルとロウ、そしてルゥはリディアとレオンの会話を聞いていた。

 勿論、全てが聞き取れていたわけではない。アリーナから聞いた話以外にも、レオンだけが知っている事情も多々あったが、それも五分五分程度しか

聞き取れなかったのが本当のところだ。

「そうね。なんだかこのチームって、それぞれ複雑な事情を抱えてるみたいね……リディアはどうなのかしら」

「うん……人には過去がある。それは幸せな過去ばかりじゃない。リディアにも、もしかしたらあるのかも知れないけど……それはいつか本人の口から

聞けるまで、僕は待つよ」

「そうね。私たちは仲間である前に、『友達』だもの」

 チン、と手に持っていたグラスを静かに重ね合わせる2人。中身は無論、酒である。

 

 食事はオーダー済み。1時間程度で到着するとの事。

 それが届いたら……新しい『友達』を迎える、パーティーをしようか。



第4話へ続く


あとがき:

超ハイペースで書き上げました、第4節。
いやいや、休日挟んだり時間が予想外に取れたりで、わずか3日で書き上げるという
近年まれに見るペースで書けましたよ。
まぁ、ある程度構成が出来ていたからこそなんですが。
ああ、次回の反動が怖いですぅ……。

管理人の感想

ってことで、第3話の4部をお届けいたしました〜^^
今回はかなりのハイペースで執筆して頂き、私としても嬉しい限りですね。
しかもハイペースに関わらず、クオリティはまったく落ちていないという・・・。
戦闘描写に至っては、作者である鷹さん自身、楽しんで書いてらっしゃるのが想像できました。

さて、これで第3話が終わり、次回からは第4話へと入るわけですが・・・。
その前に、どうやら幕間話が入るご様子。
今回の話で色々とフラグが立ちましたからねぇ・・・それの整理といった所でしょうか。
これ以上は、読者様自身の目でお確かめを(ニヤソ)



2007.3.4