It’s a Sword of Starlights

 

 

 

 

「陽動は、上手く行った様だな」

 大型トレーラーの後部座席に座っている男が、前座席の男達に話し掛ける。歳は40過ぎといった所か、蓄えた髭はある種の貫禄を感じさせる。

「はい。こちらの情報通り、アーク・トゥエラも参加しているようです。しかし――――」

「昨今は腐敗している騎士連中。5人は爆発に巻き込まれ死亡、さらに油断した莫迦があの程度のアーミーロボットで2人、殉職してますぜ」

 都合、7人。騎士の名を冠し、ゼンセイバーを与えられて尚、慢心する愚者の末路。

「世界最高の法の守り手も、大した事はないな」

「いやまったく。しかしそれも――――民間協力者、だなんてウソぶちまけた、ボスのおかげですよ」

「そうそう。邪魔な騎士気取りのクソどもを片付けれるなんて、思ってませんでしたからねぇ」

 車内に広がる嘲笑。ボスと呼ばれた男、ハンス・コウトニーもまた僅かに頬を緩めながら、手元のPCを操作する。

 複数のディスプレイに映るのは、合計20ヵ所の同時多発テロの現場。対象は特に制限しておらず、アーミーロボットに対する命令は

『高層ビルを優先的に攻撃。生存者の排除が完了次第、こちらに追従せよ』という事。

勿論、アーミーロボットが破壊されメモリーが回収された場合には、メモリーにジャミングが掛かるように設定してある。ただ、機材の揃った

ハイスペック・アナライジカルルームなどで解析を受けた場合には判明してしまうだろうが……その時にはもう、遅い。

「プレーンベースまでは、後どのくらいだ」

「残り80kmです。連中がこっちに気づく頃には、俺らがプレーンを制圧した後ですよ」

 水平離陸式プレーン滑走路を有する、郊外のプレーンベース。この日は週に1度の定期点検の日であり、警備もシャトルの方に比べれば手薄。

トレーラー後部には6機のアーミーロボット。並の人間を制圧するには、十分過ぎる戦力だ。

「手が届く距離にある脅威。討って何が悪い……?」

 口の中で、静かに。

 ハンスは、呟いた。

 

 

 

「ジャミングが施されてるわね。でも、この程度なら」

 ホログラフィ・キーボードを操作しながらアリーナ・フェムタスが呟く。彼女はこのガナンタイトに駐留しているアーク・トゥエラの1人であり、

ことコンピュータに関してはプロフェッショナル級の腕前を持つ。

 そこは、アーク・トゥエラのセーフハウスとしてあてがわれているマンション・セクレイッドの一室、2710号室。ここは支部の副電算室として機能しており、

その演算、処理解析能力はハイスペック・アナライジカルルームに匹敵する。

「お願いします、アリーナ。私達のPCでは解析できなかったわ。でもここの設備と、貴女の腕があれば……」

「わかってるわよ。こっちだって、相棒がやられてるんだから……少しくらいは、反撃しないと、ね!」

 リシェルの言葉に答えるように力強くキーボードを操作し、振りかぶってEnterキーを叩く。すると今までディスプレイを埋めていた無数の文字列は徐々に

消え始め、今度は整然とした文字列が数十行に渡って表示され始める。

「これは?」

「アーミーロボットのプログラムよ。連中、かなり大雑把な目的しかインプットしてないわ。とりあえず、高層ビルなら何処でも良かったみたい」

 ロウの質問に答えつつ、アリーナはさらにキーを叩き、ウィンドウを増やしていく。

「本来、アーミーロボットってのは戦闘時における自軍のリスク削減と効率性を最優先した戦闘端末なのよ。もちろん積み替え(スペックアップ)や追加装備(オプション)

必要に応じて追加できる。即応性の高さで言うなら人間の比じゃないわ。それをここまで簡素にしてしまえば、ある意味では最高の効率を発揮できる。単純に言い換えるなら

人を殺すだけ、ね。今じゃ二束三文の値段で手に入る型落ちのアーミーロボット、わざわざ自爆テロに人間の命を使うなんて非効率な真似するより遥かに成果が上がるし、

爆発力の強い水素エンジンの爆発規模を、意図的にあの程度に抑えれば、ほぼ無傷で生還できる。――――木偶人形を使った、いいプランだわ」

 手を止めることなく、ぎりっと歯を鳴らすアリーナ。その言葉には紛れもなく怨嗟の響きがあり、リシェルもロウも、それを察していた。

「それで、主犯格の目的地は? やはりどこかの発射台なの?」

「ちょっと待って。…………出たわ」

 ガナンタイトの地図。その中に一ヵ所だけ光点で示されている、その場所は。

「レニンジー・プレーンベース……テロリスト達の目的は、プレーンの方か」

「どうするの? ここから約200kmも離れた場所よ。今からアンタ達が行っても、とても間に合わないわ。動ける連中なんて、今はほとんどいないし……」

 合計20件の同時多発テロ。今は生存しているアーク・トゥエラも含めて、多くの人間がその事後処理に当たっている。また追撃用の戦闘機を用意しても、間に合うという

保証はないし、そもそも準備がすぐに出来るような物でもない。

 だが、リシェルは落ち着き払ってPCを取り出すと。

「という事よ。目的地はレニンジー・プレーンベース。今送信するから、すぐに追撃して」

 

 

 

第三話 孤高の青年

                              03.ハイウェイ・スター

 

 

 

「了解っ!!」

 ゴーグルディスプレイに表示された地図と、目的地の表示。リディアはそれを読み取ると、すぐにドライバーであるレオンに告げた。

「目的地はレニンジー・プレーンベース! ここから112kmの距離!!」

「分かった。降下する」

 地上80mを飛行していたダグ・ウィーダ、ドゥス・アストラーダは高度を落とし、その高度を通常走行レベルにまで戻す。そこから更に回転数を上げ、

ギアを1速上昇させる。

「逆探知でターゲットの現在地は調査中だって。追いつける!?」

「奴等がどのルートを走ってるかは分からん。だが――――」

 ぽん、と。

 レオンは軽く、アストラーダを叩いた。

 それはまるで、信頼する友人に対する気軽さ。

「コイツに、出来ないことはない」

 右手の傍、カバーで隠れていた部分を開く。そこにあるのは2つのボタン。

 レオンはそれを躊躇うことなく押し込む。

 瞬間、まるで命を吹き込まれたかのようにアストラーダが唸りを上げる。

 レオンが押したボタンは、アストラーダに内蔵されていたもう一つの加速機能、超伝導モーターによるさらなる超加速のスイッチ。

 アストラーダの語源は、astride(またがる)

 さあ、本領発揮だ。

無法の駆る戦車よ、この世界全てに跨ることを許されたこの鉄騎から、逃げられるか――――!?

 

 

「プレーンベースまであと50km。このまま行けばラクショーですね、ボス」

 ナビシートに座っている若い男が後部座席を覗き込む。ハンスの両隣には護衛の2人が座っており、彼らもまた、男の言葉に同意する。

「ああ、間違いねえさ」

「今回の作戦は完璧だからなぁ。それに、今更追いつけやしねぇって」

 下卑た口調でニヤニヤと笑う。しかし、ハンスはそんな彼らに見向きもせず、仕切りにPCを操作していた。

 莫迦共が。死んだ7人は運が悪かったか、ボンクラだったかのどちらかだ。本来騎士どもはそんなに甘いモノじゃない。思い出すだけで痛みがぶり返す。

 再生治療で回復してはいるが、俺の左足は昔、ある騎士に切り落とされた事がある。奴等は基本的に殺しをしない、しかし。

 本物のその力は、伝説になるに相応しい。侮れば奴等はすぐにでも、俺たちのノド笛に、あの剣を――――。

「オイ……」

 運転手が小さく声を上げる。いや、それは決して小さくはなかった。仲間が馬鹿笑いしているから小さく聞こえただけの事。

「オイっつってんだろ!!!?」

 二度目。無視されたことが気に入らなかったのか、その呼び声は必要以上に大きく、仲間達の注目を集めることに成功した。

「んだよ?」

「何かあったのかぁ?」

「っだらねぇことだったら撃ち殺すぞ!?」

 三者三様の口汚いリアクション。だが運転手は彼らの反応など気にも掛けない様子で、ナビの画面を叩いて。

「だ、誰も来てねぇと思って、バックカメラ見てたんだけどよぉ……」

 望遠倍率、100倍。

 そこに、映っていたのは。

「来てやがんだよ、何か!!」

 ディスプレイのタッチパネルを押すと、それは大画面化されて全員の目にはっきりと映る。

 爆走するエアバイク。それはまさしく、道無き荒野を疾走する鋼鉄のサラブレッド。

 乗っているのは彼ら5人の誰よりも若い、男女2人。

「野郎……来やがったな、クソ騎士共が」

 ハンスの声と同時に、トレーラーの後部ハッチが開放される。

 特攻用のアーミーロボットとは別調整を施した、制圧用アーミーロボット。本来ならプレーンベースを制圧するための兵隊だったが、出し惜しんではいられない。

 俺には分かる。奴等は本物だ。ボンクラ騎士とはわけが違う。

 ああ、チクショウ。

 足が、イテェ。

 

 

 

「リディア、ナビはもういい。お前にやってもらう事が出来た」

「え?」

 ゴーグルを頭の上までずらし、レオンの身体の横に身を乗り出して、リディアは迫り来る6機の機兵をその眼で捉えた。先程ビルで倒した機体と同系統。

しかし右腕は大きく形状が異なり、また移動速度も段違いだ。

「実弾式マシンガンを内蔵してるマシンアームに、追加ブースター。速度はそれなり、アストラーダで振り切ろうと思えば振り切れるが……片付けるぞ」

「オッケー。後から倒すのも面倒だしね」

 ゼンセイバーを取り出し、トリガーとは異なるもう一つの部品、L字型のパーツを取り付ける。

 ヒュン、と軽く一振り。それはゼンセイバー本体とあわせることで、全長55センチにまで延長され。また、L字になっているため、突き出た箇所は持ち手としての

役割を果たすようになる。

 その姿は近接戦闘における打撃武器・トンファー改めゼンセイバー・ストライク。膂力の劣る少女であっても、大の男を昏倒せしめる凶器の一つ。

しかし、相手は鋼鉄の機兵。そんなものが役に立つのかと言われれば、無論役に立つはずも無い。それはリディアも重々承知している。

――――ただし、それは『普通』のトンファーであれば、の話だ。

「外すなよ」

「もちろん!」

 ぐっと体重を掛け、機体を倒す。リディアもまた、それに応じて体勢を落とし――――地面まで、わずか2cmという超至近距離。第一目標まであと、

―――3。

――2。

―1。

 0。

「いっけぇっ!!」

 閃光が炸裂する。

 機兵は、股間から頭頂までを一瞬にして抉り取られる。

 わずかコンマ数秒の一撃。解析など出来る余地が、何処にあっただろう。

 しかし、残る5機の機兵とそれを統率するハンスは素早く陣形を展開し、持ちうる全速力を使い、檻を作ろうと懸命に走る。

 その速度、時速180km以上。並のダグ・ウィーダならば、爆発でも起こさぬ限り辿り着けぬ速度。

 だがハンスは知らない。機兵たちなど知る由も無い。

 その程度では、遅すぎるのだと言うことを。

「――――目標速度、240km/hオーバー。想定外速度。ソウテ」

「でぇいっ!!」

 2撃目。首と顎を穿たれ、頭部は蹴飛ばされたボールのように遥か彼方へ飛んでいく。受信機(あたま)を失った機兵はよろよろと走り、檻を作ろうと懸命に奔走していた

同胞に衝突、無様に倒れこみ、3機目も行動不能に陥る。そこへ。

 決して逃がさぬとばかりに転進した鉄騎が迫り、一瞬の交錯の内に3機目の頭部に風穴が開く。

「プレーンベースまで、あと何キロ?」

「あと40kmといった所だ。連中の車は、もう少し進んでる」

 レオンの声を聞きながら、カチカチとグリップをいじるリディア。すると何を思ったのか、彼女はいきなりグリップを外し、元のL字パーツに戻して上着の中に仕舞いこんだ。

「どうした?」

「何か、調子悪いみたい。パイルバンカーばっかり使ってたせいかな?」

 ゼンセイバー・ストライクの本来の用途は打撃と、先端部から発せられる局所放電機能による、スタンガン機能。そしてもう一つが、リディアが4度使ってきた

パイルバンカーと言うスタイル。

 パイルバンカーは本来備わっている放電基部の過放電制御リミッターを、持ち主独自の判断で強制的に解除し、短時間かつ断続的に、短剣状のセイバーを

作り出す機能である。しかし、これは追加装備であるグリップこと『アタッチメント』に多大な負荷をかけ、その運用時間を極端に縮めてしまうという

最悪のデメリットが存在する。

 これを無視して、リディアはビル特攻を敢行したアーミーロボットと、先の3機の合計4機に、半ば連続で使用したため不具合が生じたのだ。

 加えて、2機目以降はアストラーダの超スピードからの発動。想定以上の負荷がかかるのも当然と言えよう。

「参ったなぁ……これじゃ、セイバーしか使えないよ」

「リヴェレイトは使えないのか」

「あたし、銃ってダメだから。レオンはストライクのトリガー、持って来てないの?」

「俺のには使えないからな。部屋に置いてきた」

「使えない?」

 首をかしげるリディアと、僅かに溜め息を漏らすレオン。しかしそんな事はお構い無しに、残る3機の追撃は止まらない。

「どうする? やはり振り切るか」

「ううん……あたしが、降りて戦うよ。あたしだけフォームの修行してないから、実戦訓練だと思ってね」

「…………」

 レオンはリディアのその言葉に、何も言わず――――ゆっくりと、アストラーダの速度を落とし始めた。

「……ゴメンね。こんなんじゃやっぱり、騎士失格……かな」

「…………そうだな。それに、実戦と訓練はどこまで行っても別物だ。下手をすれば、命を落とす危険もある」

「うん……」

「……だが――――この場は、お前を信じてやる」

 それは、意外すぎる一言。

 リディアは驚き、彼を見上げる。背中を向けている以上表情は読み取れない。だが、それは今までのどこか素っ気なく、冷淡なレオンではなく……。

あの日、あのリェルス・ボウラで自分を介抱してくれたレオンのように感じた。

「それほどスピードは落とせない。150km/hまで落とすから、後は自分で着地してくれ」

「って、死ぬよっ!!!」

「その為のフォームだろう。フォームの真髄は、何も剣技に限ったことじゃない」

 そう、レオンの言う通り。

 フォームの真髄はゼンセイバーを扱うだけの技能ではない。それは従来の騎士や戦士達とは比較にならない、身体能力の強化。

正しい精霊の加護を持ってすれば、フォームによっては水の上を走ることも、空を翔けることも可能なのだ。

「そっか……忘れてた」

「…………とにかく、後は任せる。俺は奴等がプレーンベースに到着する前に片付ける。だからリディア、お前も――――」

「うん。絶対、勝って追いつくから」

 少しだけ強く、レオンの身体を抱きしめてから――――リディアは後部座席に立ち上がり、一つ大きく深呼吸して。

 タンッ!

 空へ、跳んだ。

 

 

加速する鋼鉄の騎馬。

空に舞う少女。

 ハンスはわずかに思考し、アーミーロボットの操作をオートに切り替えて仲間達に叫んだ。

「テメェら!! ケツから騎士が近づいてやがる!! 後ろ行って片付けろ!!」

「「「あ、へ、へいっ!!」」」

 助手席と、両隣の男達が席を立ち牽引車輌からトレーラーへと移動する。

 クソ共が、役に立たねぇ。自分で考えて行動しろってんだ。相手は騎士だぞ、アーク・トゥエラだぞ!?

 苛立ちは抑えきれない。その苛立ちをわずかでも鎮める為に――――ハンスは、再びアーミーロボットの操作をしようとPCに向かった。

 

 

 空中へと飛んだリディアは、不思議な感覚を覚えていた。

 身体が、羽根にでもなったかのように軽い。もし自分が望んで動けば、このままもう一段くらい跳べそうな――――そんな、あり得る筈の無い感覚。

 そういえば、あの時ビルから飛び降りたときにもこんな感覚はあった。バイクの座席に立つことを考えていたら、自然と身体が動いてた。

 すごい。

 このまま、身体を捻って。

 腰から、ゼンセイバーを抜いて。

 着地と同時に、スタートを切る。

 うん、これで行こう。

 って……まだ地面が遠いよ?

 あたし、結構余裕あるなぁ。

 じゃあ……折角だから。もう一段、跳んでみよっか?

 ぐっと、足じゃなく身体全体に力を入れて。

 空には地面が無いから、自分の身体のバネで跳ぶ感じで。

 ――――うん、いける。

 地面についてからスタート切ろうと思ってたけど、ちょっとくり上げ。

 ここからが、あたしのフォームのスタートだ。

 

 

 風に舞う羽根のように。

 空を翔ける燕のように。

 リディアは空中で2度目の跳躍を果たし、そのまま機兵たちの眼を引きつけながら地へと落ちる。

 その跳躍距離は、最早人間の到達しうる領域を遥かに凌いでいた。その事実が、機兵を操るハンスを戦慄させる。

 油断は許されない。ヤツは本物だ。着地と同時に、3機のマシンガンを一斉射する。それしか、ヤツの隙を突く瞬間は無い。

 だが。

 ハンス・コウトニーの予想も、手順も。

 リディアの次のアクションの前には、対応し切れなかった。

 着地まで後1秒もない、その瞬間に。

 リディアは地面を蹴ることなく、なおも転進し――――空を、走ったのだ。

「なんだとっ!?」

 ハンスが驚くのも無理は無い。空中で2度も飛び、なおかつ走るなど、誰が想像出来るだろうか。

 一瞬、アーミーロボットの動きが硬直する。オートで稼動させていない以上プログラムAIが作動することはなく、全てハンスの指示を

受けなければ行動を起こすことは出来ない。

 それこそが、ハンスにとっての最大の急所であり。

 同時に、リディアにとっての好機だった。

 腰から抜き放たれる騎士の剣。しかし、そこに刃はない。

 さあ。

 刮目せよ、無法の使徒ども。

 これより放たれるのは、撃てば潰える錬鉄の刃ではない。

疎は技術の集体、大英雄の名を冠する、決して砕けぬ光の刃――――!!

「はあぁっ!!」

 放つ剣は横薙ぎ一閃。錐揉みしながら放たれた太刀筋は緑の刀身。それは穏やかな風を思わせる色ながら。

 しかして、その一撃は烈風の如き破壊力。

 剣閃は鮮やかにアーミーロボットの両腿を等しく両断し、あっさりと動きを封じる。

 その様をハンスが認識した瞬間――――、リディアのゼンセイバーは跳ね上がり、機関銃の右腕を切り飛ばしていた。

「ちぃっ!」

 歯噛みし、舌打ちする。だがそんなわずかな暇さえもこの相手には絶対的な隙となる。ハンスはコンマ数秒でそれを理解し、素早くキーボードを叩く。

足を着いたアーミーロボットに残された武器は、左腕の振動ブレードと内蔵されたアームガンのみ。それもおそらく、この騎士には通用することは無いだろう。

ならば、次手を。残る2機に距離を取らせ、ミドルレンジからのマシンガン掃射。装備しているマシンガンの初速は850m/s

いかに騎士であろうと、容易く避けられる領域ではない!

 駆動音とともに2機が距離を開ける。なおも空中に止まっていたリディアは打ち下ろしの一太刀を以ってアーミーロボットの左腕を切断し、着地と同時に

その音を聞いた。視線を向ければ、敵機は左右に散開し距離を取っている。その距離、およそ30m

「ふぅ……っ!」

 呼吸は浅く。しかしその浅さこそ、リディアにとっては十分な量。

 吸気と同時に、風は疾る。それはまさに文字通りの疾風。

 右腕が上がる。狙いをつける。その、わずか二手の動作の間に。

 光の剣は鉄の機兵を、逆袈裟で両断していた。

「く、クソッ……! なんなんだ、この速さはっ! 30mの間合いを、1秒と掛けずに詰め寄っただと!? 馬鹿な、まるで台風並の速さじゃねぇか!?」

 いかに初速が音速の域へと踏み込もうとも、撃つ前に手を打たれてはどうしようもない。

 今のアーミーロボットは所詮操り人形。繰り手の指が動くよりも早く糸を断ち切るのは、まさしく神速の美技。

 残る機兵はわずかに1機。勝てるどころか、足止めできる見込みすらも絶無。ならば――――この手を使う。

 

 

 残りは1機。

 初めてのフォームを使っての実戦は、思った以上に難しい。

 だって、抑えておかないと、走り出したらそれこそ、どこまでも走れちゃいそうな感覚があるんだから。

 こっちが5m走ろうとするだけで、気付いたら20mくらい歩いてるような、そんな錯覚。

 リシェルやロウが、5日もかけてやっとモノにしたって言うのも頷ける。

 こんなの、普通じゃない。

 慣れるのには時間がかかりそう――――だけど。

 せめて、後1機。あれを倒せば、レオンに追いつくだけだ。

 その一回だけでいい。あたしの思う通りに。イメージ通りに。

 よぉい、スタート!

 

 世界が鈍化する。感覚が劣化する。コンマ01秒進むたびに、世界から音が消えていく。

 それは、あたしが高速の住人になったから。早すぎる速さに、普通の人間は付いてこれないんだって。

 でも、すぐにあたしの感覚は正常に戻る。これがフォームの恩恵で、精霊の加護なんだって、やっと分かるようになった。

 そして――――さらに、加速できるようになる。

 あたしの自己ベストは、100mを5秒92。でもフォームを使って走ったら、きっと2秒切るかもしれない。

 つまり、あたしは今そういう状態。現在秒速……多分、40mくらい。

 なんて悠長に考えてる場合じゃないよね。

 ゼンセイバーを構えて、もう目の前に迫ってるアーミーロボットに切っ先を向ける。

 狙うのは頭と右腕だけど――――今は。

 自分がどこまで出来るか、試す意味で、こう斬る!!

 

 

「――――自爆、しねぇ、だと……!?」

 最後の手段として残しておいた、自爆機能。それをリディアが切りつける瞬間に作動させるのが、ハンスにとっての切り札だった。

しかし、彼が操作するPCのホログラフィ・ディスプレイに映るのは、最後の1機の損害情報のみ。

 それを見て――――ハンスは完膚なきまでに敗北した事を、思い知った。

「は、ハハ……っ、化け物めぇっ!!」

 頭部、両肩、両腕、胴体、両足。

 それらの駆動箇所である首、肩、肘、腹部、両腿、両膝を全て断ち、更に正中線を一刀両断。

こんな冗談のような芸当を、あんな少女が為し得たというのか。いかにアーク・トゥエラといえど、あんなガキがっ!?

「ボ、ボスゥっ!!」

「うるせぇっ!! どうしたぁっ!!?」

 仲間の情けない声に思わず怒鳴り返す。だがそう言い返してから、ハッと気がついた。

 そうだ。騎士は1人ではなかった。

 あの鋼鉄の騎馬が、まだ――――。

 騎馬を駆る、騎士がまだ、残っていやがった……っ!!

 

 

 ドゥス・アストラーダとトレーラーの距離は、既に500mと離れていない。最高時速280km/hを誇るレーシングマシンは、かつての自分を

取り戻した喜びに打ち震えるように、なおも走り続ける。

「気付いたか……」

 フォームの発現により、強化される視力。視線の先には、3人の男がブラスターライフルを構えて立っている。

 その威力は十分に生命を奪いうる物であり、無論エアバイクもその限りではない。当たれば当然破壊される。

「なら、こっちも……相手をしてやる」

 腰から抜く、一振りの長物。

 レオンもまたアーク・トゥエラである以上、得物は勿論ゼンセイバーである。しかし。

 それは、通常のゼンセイバーよりも長く。

 その長さは、先ほどまでリディアが使っていたゼンセイバー・ストライクに匹敵する。

 同時、放たれる無数の光弾。ブラスターライフルから放たれる電光は大地を穿ち、そしてレオンとアストラーダを喰らわんとその牙を剥く。

 だが。

 レオンとアストラーダに命中せんとするものは、舞い踊る光の剣に悉く阻まれた。

 通常のゼンセイバーの光刃は、出力調整機能によって制限されているが、最長でも95cm。しかしレオンの光刃はそれを優に超え、120cm程にもなる。

 ――――そう。

 このレオン・ウィルグリッドこそ、近代60年中唯一のゼンセイバー・ランサーの担い手であり。

 それは即ち、彼が『金』のフォーム・ヴァルバングを修得しているという証拠。

 伝説の大英雄、光の剣の名の原初にして『金』のフォームの始祖。

 ゼン・セイバーの再来と呼ばれる若き騎士とは、この男の事。

 

 光弾を弾き、かわし、アストラーダは距離を詰める。

 トレーラーの最高速度は150km/h。アストラーダの最高速度を持ってすれば、抜き去ることなど何の問題も無い。このままのペースで行けば

プレーンベースまでかなりの距離を残して、テロリスト達の前に立つ事が出来る。

 だが確実に仕留める為に、レオンはより危険な手段を取る。

 アクセルを更に回し、片手にセイバーを携えたまま。

 わずかにステアリングを押し下げ、高度を下げる。

 レオンはエアバイクを横倒しにし、ただでさえ危険な地面との距離を更に縮め。

 遂には、トレーラーの床を仰ぎ見るほどの超低空で、床下に潜り込んだ。

「や、野郎っ?」

「ま、まさか……」

「やめろ、ふざけんなあぁっ!!」

 響く絶叫。彼らの予感はまさに正しい。

――――白色の光剣が床下を貫く。そこにあるのは、トレーラーの複列型反重力装置。

 60tを超える超重量がその重さを取り戻せば、牽引車輌に作用している反重力装置だけではその重みを支えきれない。

 結果。

 目的地を目前に、テロリストたちの戦車は志半ばで命を終えた――――。





あとがき:

やはり敵が弱いと十分な魅力が引き出せませんね。戦闘シーンは。
まぁ、気の早い話ですが、4話以降はそれが解消されるはずです。
やはりゼンセイバーを倒せるのはゼンセイバーだけですから。同等以上の
武器と技量を持った敵が相手なら、イヤでも熱くなるってモンです。
当初の予定通り、3話は4部で終わる見込みです……。



管理人の感想

ついに来ました、戦闘シーン。
相変わらずの描写レベルの高さに、もはや何も言うことはありませんよ。
今回の敵はアーミーロボット・・・人外のものでしたが、それでもリディアの強さとフォームの凄さは分かって頂けたかと。
リシェルやロウが5日掛かったというフォームの習得を、実戦というぶっつけ本番で見事やってのけるリディア。
そういう感覚が秀でているのか・・・天賦の才というやつでしょうか。
そしてレオン。彼もまた、超一流のアーク・トゥエラ。
トレーラーを止めた手際の良さは、読んでいて感心しました。リスクはあるが、より確実な手を選ぶ彼には、騎士としての自信があるのでしょうね。


2007.3.1