It’s a Sword of Starlights

 

 

 

 

 ロベリアとゲインは、40年以上前にブリュンテルファで出会った。

当時ロベリアは16歳であり、先々代国王の彼女の父に随伴しての訪問で、その警護役を任されたうちの1人が、その時20歳のゲインだった。

 要人警護は本来、法の守護者と呼ばれるアーク・トゥエラの任務ではないが、『騎士』として王の警護は当然の任務。

若く血気盛んだったゲインはその務めを快諾し、まだ少女であったロベリアに謁見し――――その愛らしい姿と、心優しさに惹かれた。

 ロベリアもまた、自身と歳の近い若き騎士を快く思い、夜には2人でそっとホテルを抜け出し、彼から悪い遊び(ギャンブル)を教わった。

 一例だが。王家の務めであり、第二継承者とはいえ後継者候補として、精霊信仰における司教の位を持っていた彼女は、

精霊の導きと持ち前の度胸でカジノ(もちろん合法)のルーレットで大勝し、一晩で60000000クレジット(約6億円)を稼いだ。

 その金をその場にいた客と店側に全額分け与え、ド派手な宴を催し、現在のそのカジノでは『青い瞳の女神』と謳われている。

 3日という短い時間だったが、騎士は姫に恋をし。

 姫もまた、騎士の優しさと自由さに淡い恋心を抱く。

 2人の交際は遠距離ながらも2年間続き、ついにはワルマーシアへゲインが赴任した際、国王の御前で堂々と言い放ったのが、2人の恋の決着であった。

――――無礼を承知で申し上げます。私は騎士の身でありながら、ロベリア様を愛しております。どうか私達の婚姻にご同意願いたい!!――――

 宮殿は騒然となり、直ちにゲインは取り押さえられ――――なかった。

 何故ならば。

 その姫が、誰よりも早く騎士の胸に飛び込み、抱擁と誓いのキスを交わしたのだから。

――――国王陛下、いえ父上。私はこの御方を愛しております。司教である私が今の口付けを誓いのものと認め、精霊の祝福もまたあります。

あとは父上のお言葉一つで決着がつきます――――

 王は、かつて無い姫の言葉と凛とした態度に驚き。

 だが一人の父として、娘の想いを汲む事を選んだ。

 

 ロベリアはワルマーシアの第二継承権を自ら放棄し、ゲインの生まれ故郷であるヒューリアで、彼の両親や友人、村の人々と生活し始めた。

 しかし、生粋のお嬢様でお姫様でもあった彼女が容易く村に適応できたかと言われれば、答えはもちろんノーである。

 ゲインは半年でワルマーシアから帰ってきたが、ロベリアの要領の悪さは最悪以外の何物でもなかった。農作業はまともに出来ず、家事も義母からは絶望視されていた。

 さらに、彼女はその時既に妊娠していた。身重というハンデはさらにロベリアに重く圧し掛かり、しかし母親となるからにはそれをクリアしなければならない。

 

 息子・アランの誕生を機に、ロベリアの家事スキルは徐々に向上の兆しを見せ始めた。

 母は強し、とはよく言ったものだ。今までは自分より年上の人間に囲まれて育ってきたロベリアに、初めて身近な幼い存在が出来たことで、

その存在を守るために強くなるという明確な目標が出来た。目標が出来れば、人は努力しようとする。

その努力はいかなる結果を生もうとも、決して無駄になどならない。

 結果、ロベリアは一人の女として、妻として、そして母として。

 ようやく、胸を張れるまでに成長した。

 

 息子アランが成長し、国衛騎士への道を歩み始めるのと同時期に、父である王は崩御。代表の座を空位となり、ロベリアの兄であり第一後継者・ユーマが王位に即位。

ワルマーシアは新たな代表者の誕生に歓喜し、それからも長く、平和な時期が続く――――はずだった。

 

 アランがアリシアと結婚し、ロベルトが生まれ、リディアが生まれ。

 リディアが4歳になった年の、ある日。

 ハーケン家、いやゼンポゥラに訃報が舞い込んだ。

――――ユーマ・ワルマーシア・リィズワール代表、崩御。次期代表候補であった王太子殿下夫婦も海難事故にて行方不明。跡継ぎ問題で揺れる――――

 

 当時、誕生したばかりの王太子の息子・レーウィンにまさか王位を継がせるわけにもいかず、ワルマーシアの行政官達はやむを得ず、ロベリアの元を訪れた。

――――どうか、国にお戻りください。現在正統なワルマーシア王家の血統であり、また司教の位を持つのは貴女様しか居りません。どうか!――――

 ロベリアの心は既に決まっていた。ふっと視線を夫に向けると、彼は深く頷き。

 息子夫婦もまた、母の意志を尊重していた。

 だが。

――――おばあちゃぁぁん!! やだ、やぁだあぁ!!――――

 幼い少女がロベリアにすがりつく。彼女に瓜二つの飴色の髪に、透き通るような青い瞳。

 言うまでもない。まだ幼いリディア・ハーケンだ。

 父の静止も、母の言葉も、悲しみに溺れた激情の前では意味など皆無。さしもの行政官らもどうしようもなく、ただ顔を見合わせるばかり。

 しかし、ロベリアは泣き喚く孫娘をそっと抱き寄せ、優しく諭した。

――――リディア。おばあちゃんはちょっとお仕事に行って来るわ。リディアとは離れてしまうけれど、帰って来ないわけではないのよ? 

リディアが大きくなって、いつか会いに来てくれてもいいんだから。ね?――――

 声は優しく心に響く。サイレンのような泣き声は止み、そのご褒美とばかりに、ロベリアの口付けがリディアの額に与えられた。

――――行って来ます、リディア。いつかあなたが会いに来てくれるのを、おばあちゃんは待ってるわ――――

 それは小さな、しかし確かな約束。

 祖母との別れは少女の原点であり。

 彼女を導いた、最初の運命だった。

 

 

第二話 神の住まう国

                               04.(まこと)なる力

 

 

 

 真期1065年、緑の月4日。

 10年ぶりの再会を果たしたリディアとロベリアは、女王と騎士という関係ではなく、1人の祖母と孫として、一夜を共にした。

 そして朝。別塔で朝を迎えたリシェル、ロウ、ルゥと合流したリディアは朝食の最中に、昨夜の約束どおり、自分とロベリアの関係を明かした。

「それは、なんと言うか……」

「まさか、リディアがお姫様だったとはねぇ……」

「まぁ、位置づけはそうだけどね。でもあたしもお兄ちゃんも継承権は持ってるけど、ちゃんとした第一継承者のレンがいるし」

「レンって……その子の事?」

 ロウが指差した先には、リディアの腕にしがみついてる少年が1人。顔立ちはどこと無くリディアに似ている。

「何だよ、無礼なヤツだな!! 人に向かって指差すなっ!!」

 威勢のいい、やや高めの声。まだ変声期も迎えていない10歳の少年は、50cm近い身長差のロウをきっと睨みつけて大声で怒鳴りつける。

「レン、ダメだよ? ロウは年上のお兄さんなんだから」

「でもリディア姉ぇ、こいつ……」

「こら!」

 ぱしん、と軽く頭を叩かれるレン。しかし、レンは恨みがましい目でリディアを見上げ

「なんだよ!」

「なんだよ、じゃない! ロウはあたしの友達なんだから、ちゃんと謝りなさい! それに、初めて会った人にはちゃんと自己紹介する!」

「う゛〜……………………レーウィン・リィズワール、です……ごめんなさいっ」

「あははっ、いいって。気にしてないから」

「リィズワール……じゃあこの子が、ロベリア様の跡継ぎということなの?」

「うん。でもレーウィンって長くて呼び辛いからさ、あたしはレンって呼んでるの」

「やめてよ姉ぇ、その呼び方……みんなから女の子みたいって言われるんだから。おかげで家庭教師の先生まで『レン様』って言うんだぞ?」

 リディアとレーウィンの付き合いはそれなりに長い。代表を務めるロベリアが忙しいため、レーウィンの世話は彼を取り巻く周囲の大人達に任されていた。

しかしスクールでも王族の1人ということで特別扱いを避けられないレーウィンには、気軽に心を開ける友人が少なかった。

 もちろん、子供同士でそういった壁はほとんど無い。だが子どもらの親はどうだろうかといわれれば、やはりレーウィンは王子なのだ。どうしても優遇されることは避けられない。

そんな彼のために王室とロベリアが与えたのは、ホログラフィ通信による、リディアとの会話だった。

歳もそれほど離れすぎておらず、また遠縁ではあるが親戚である。会話は自然と弾み、レーウィンはリディアのことを「姉()ぇ」と呼び、

リディアもまた、レーウィンに親しみを込めて「レン」というあだ名をつけてやった。

 しかし結果はレーウィン自身が言うように、宮殿に住まうロベリアはもちろんのこと、司教、司祭、助祭、世話係のメイド、給仕、家庭教師、

宮殿の衛士、同年代の友人その他諸々にまで「レン」というあだ名は定着し、その響きから彼のことを半ば「可愛い女の子」扱いする者もいる。

まぁ、それらは特に世話係のメイドの、ごく一部だったりするのだが。

「なによ、あたしの付けたあだ名が気に入らないっての?」

「べ、別に……嫌いじゃないけどさ……リディア姉ぇのことも…………だし

 ぼそぼそと小さくなる言葉。リディアはそれに溜め息をつき、かたやリシェルとロウはそんな反応をするリディアに、やれやれといった感じで首を振る。

(どうやら王子様は、リディアのことが好きみたいだね)

(でも当の本人は全く気づいてないわね。ただの年下の親戚としか見てないわ)

「? 2人とも、何か言った?」

「いいえ、何でもないわ。それより……殿下、ロベリア様はここで待つようにと仰られたのですか?」

 リシェルの『殿下』という本来の呼ばれ方を聞いて、レーウィンは年不相応に咳払いをする。

「いや。代表にも支度があるんだ。それに、いくら大事な洗礼の儀式だからって、騎士3人にそんな大げさに構ってなんかいられない。

だから、王太子である僕が直々に話して、ドームまで案内してひゃりゅんだ、って、ふぃでぃふぁにぇっ!?」

「偉そうに言ってくれちゃって、この子は。どーせスクールが休みで暇だから、家庭教師のベル先生から逃げたんでしょ?」

 ぐいぐいとレーウィンの柔らかいほっぺたを撫で回すリディア。一国の王太子に対する無礼としてはこの上ない。

「びゅ、びゅふぇいみょにょ! ふぃふゅひゃふぃんふぇくぃぢゃきゃるゎっふぇ、ふぉんぬゎふぉちょちとぅえひいとぅもっふぇりゅにょ!?

(訳:ぶ、無礼者! いくら親戚だからって、こんなことしていいと思ってるの!?)

「なんて言ってるか分っかりっませぇーん。レンちゃんのことはぁ、ベル先生からもアナスタシアさんからも色々聞いてるんだよぅー?」

 アナスタシア、というのはレンの世話係をしているメイドの長を務める女性のことだ。

また、ベルは家庭教師であり、どちらもリディアとホログラフィ通信で知り合っている。

「今月に入って授業をブッチした回数も、メイドさんたちのスカート捲りをした回数も、怖い夢見てアナスタシアさんに一緒に寝てもらったことも、

嫌いなおかずを残したことも、まだオネショしてることも。おねーちゃんは何でも知ってるんだからねー♪」

「ひゅ、ひゅきょぅみょにょぉ〜〜!!(訳:ひ、卑怯者〜〜!!)

 じたばたと真っ赤になって暴れるレーウィン。相変わらず頬をこね回すリディア。

呆れたものを見るような表情のリシェル。微笑ましそうに笑うロウ。すやすやとリディアのフードの中で眠るルゥ。

五者五様のその光景は、どこからどうみても平和そのものの光景だった。

 

 

 

 

「さぁ、着いたよ。ここが洗礼の為の場所、ジニィ・ドーム」

 レーウィンの案内に連れられるまま辿り着いたのは、宮殿を出て裏手の丘の上にある大聖堂の、すぐ側に建ち並んでいる建築物。

それらは名前の通りのドーム状であり、しかし大きさはそれほど大きくない。人が4人も入れば一杯になってしまうような、その程度のサイズ。

 それが、総数4棟。うち3棟には司教のローブを纏った男女が3人、それぞれの扉の前で騎士たちを待っていた。

「遠路はるばるようこそ、若き騎士たちよ」

 おそらく最年長の男性が口を開き、視線をリディアらに向ける。見ると、彼の片目はロウと同じく赤色だった。

これは少なからず亜人の血を受け継ぐ者に、稀に現れる体質であり、この老司教がロウと同じく、亜人の血をその身に宿していることを物語っている。

「ロウ、というのはキミかね」

「はい。そうです」

 司教はわずかに沈黙し、まっすぐロウの目を見据えた。

 血のように紅い双眸。それに何を感じ取ったのか、司教は頷いて

「キミは私のドームに入りなさい。リシェル殿は一番北のドームへ。リディア様はこことは反対の東側ドームへお入りください」

「「「はい」」」

 司教の言葉に従い、3人はそれぞれのドームへと分かれる。その光景をレンと、彼に預けられたルゥはただ見送っていた。

「……いってらっしゃい、リディア姉ぇ」

「きゅう〜」

 

 

 

 精霊信仰と洗礼の儀式は、アーク・トゥエラにとって非常に大きな意味を持つ。

それは、彼らがゼンポゥラ各国の騎士とは一線を画した存在であるという事の裏づけであり、精霊という存在の加護なくして、真のアーク・トゥエラとは呼べない。

 約1000年前。アーク・トゥエラの礎を築いた伝説の騎士、ゼン・セイバーは提唱した。

「我らの力は、この星全てを守るもの。なれば、我らもまた星と手を取り合わねばならぬ」

 その言葉に従い、また過去の文献や膨大なデータ、実例を伴い、一つの概念と、フォームという成果が完成に至った。

 そもそも、この星には大きく分けて6種の加護精霊(一部では加護神という呼び方もされる)が存在する。

加護精霊は星に生きる全ての生命を加護し、見守る大いなる素(もと)として、はるかな昔から信仰されてきた。

 しかし信仰とは言っても宗教とは違い、あくまで人々の認識によるものであり、信不信は個人の自由意思に委ねられていた。

6種の加護精霊は火、土、水、風、月、金。これらは六聖系統と呼ばれ、その中でも特に火、土、水、風の4つを四大精霊という名前で呼ぶ。

 また、月においてはゼンポゥラから見ることの出来る双子月、エッダとケルタに由来し、さらに2つに分けられる。これを双月と言う。

 そして金のみは唯一例外的な扱いを受け、単一で四大精霊全体に匹敵する、いわば『別格』として認識されていた。

 さらに、それら六聖系統の上位存在として、属性というものがある。これは単純に光と闇に分化され、相対するモノである。

 これらの二属性六系統を基礎として、アーク・トゥエラとなった者にはそれぞれの属性と系統を、ワルマーシア大聖堂の施設の一つ、

ジニィ・ドームで洗礼の儀式とともに選定される。

 まずは、属性選定。これは今までその人間が歩んできた過去、現在に基づき見出されるものであるが、闇属性だからといってその人間が悪というわけではない。

 歩む道に苦難が多ければ、人の心は激しく浮き沈む。属性の転換は出来ないが、闇であるからといって善行や偉業を為さない、と決め付けるのは早計だ。

事実グロリアスセブンの名を冠する7人の騎士のうち、4人は闇属性なのだから。

 次に行われるのが月の選定。

双子月に分類されたエッダとケルタ。そのどちらが、その人間にとっての守護月であるかを判別するもので、これは必ずどちらかが該当する。

しかし例外として1人の人間が双子月両方から加護を受けていた場合、この人間は残る5つの精霊の結果を待たずに『月』系統であることが認められる。

 だがこれはごく稀なケースであるため、ほとんどの者はエッダかケルタのどちらかが判定され、残る5つの精霊の選定へと移行する。

 

5つの精霊のうち、もっとも多くの人に見られるのが前述の四大精霊。

 火、土、水、風という分かりやすく自然を構成する四つの要素であるが故に、その狭間で生きる人々にはこれが最も多く、また必ず1つ見られる。

5つ目の金だが、これはそもそも発現数自体が非常に少ない。ゼン・セイバー自身がこの金に該当していなければ認知されなかったであろうとも言われるほどに

希少な存在であり、双子月を揃えるよりもなお少ないと言われている。

これらは特に性格や成育環境に由来することが多く、また生まれながらに加護を受けていることも非常に多いため、アーク・トゥエラの最年少年齢である

14歳時には既にある程度加護精霊が定められ、戦闘時のスタイルに色濃く出る。

 その戦闘時のスタイルこそが『フォーム』であり、アーク・トゥエラの実戦における強さの根幹を担っている。

 しかし我流で修得したフォームでは未完成。真のフォームを修得するには司教、司祭らによる正しい加護精霊の認識をする為の洗礼が必要であり、

現在のゼンポゥラで洗礼の儀式を執り行うことが出来る施設であるジニィ・ドームは、ワルマーシアにしか設けられていない。

ワルマーシアが『神国』の名を冠する理由は、古来より『精霊の住む島』と呼ばれ、精霊信仰における事実上の中心地であるが為。

そして大聖堂とジニィ・ドームが建っている丘は、大昔は精霊の郷があったとされていることから、人々の信仰の念によって建設されたのだ。

 

 リシェルの洗礼は終わり、彼女は今穏やかな眠りの中にいる。それは何もリシェルだけに限らず、ロウも、リディアもだ。

ドームの中に焚かれている香はこの島で採れるペルゥシーという薬草から作られるもので、洗礼の際に飲む薬草茶に反応し、強い睡眠効果をもたらす。

 洗礼の儀式などと聞くとさも大げさな儀式のように取られがちだが、実際はそれほど大げさなものではない。

薬草茶を飲み、香の誘眠による半覚醒状態の最中に、司教たちによる精霊視が行われる。精霊視はその名の通り、騎士の属性判別と、

取り巻く加護精霊の姿を視覚と霊感で『視る』。

これには優れた精霊知識と、もともと司教らに備わった霊力によって行われるため、極力外界との接触を遮断する必要がある。

そのような理由も相俟って、ジニィ・ドームでの洗礼は一対一で行うという大原則があるのだ。

 

 

「リシェル……貴女はやはり、あの子の……」

 覚えのある銀色の髪を見ながら、ステファニィー・ダニレスは昔を思い出していた。

 一目見れば鮮明に記憶に残る、銀河の輝きを思わせる銀髪。ステファニィーはかつて、同じものを見た覚えがあった。

その持ち主は、今はどこかの国で騎士をしているという。

 リシェルの加護精霊は水・リェルシア。月はエッダ。属性は光。

その記憶の中の『彼女』とは精霊も月も違うが、外見的にはとてもよく似ている。そう、おそらく……

この子と、『彼女』は深い関係がある。

そして――――リシェルの属性は確かに光だったが、どこか陰りのある光だった。

「いつか、大きな悲劇があなたを襲うかもしれない。そのときが来ないように、せめて私は祈りを捧げるわ」

 まだ見ぬ運命。悲劇の予兆。せめて来ぬよう、悲しみが薄れるように。

 

「ロウ・ラ・ガディス……か」

 横たわる少年の隣りに立ち、老司教――――タッド・ウル・クージェンは静かに眼を閉じた。

 ロウの加護精霊は土・グエルク。月はケルタ。そして極めて珍しいことに、彼には2つ目の加護精霊が見られた。

 それはおそらく、彼が純血の亜人に最も近い為なのだろう。亜人の血を継ぐ者には、こうした特性が稀に見られる。

 そして、彼の属性は…………闇。

 過去に一体何があったのか、司教はそれを察することは出来ない。精霊の力を借りれば読み取ることは

出来るかもしれないが、それは司教として、何より人としてすべき事ではない。

「辛い過去を背負っておるのか……だが、未来は無限に広がっておる」

 願わくば、精霊たちよ。

 この亜人――――アルディスタスの末裔に、幸多からんことを。

 

 すやすやと眠るリディアの髪を優しく梳きながら、司教――――いや、大司教であるロベリアはわずかに溜め息を漏らした。

――――分かっていたことだ。この子は、生まれながらにして加護精霊に愛されている。

 それはリディアが生まれたときから感じていたが、こうして洗礼をすることでそれを思い知らされた。

 リディアの加護精霊は風の精霊、ウィータ。月はエッダ、属性は光。それはロベリア自身が洗礼と選定を行った為、間違いない。

 だが、信じられないことが起きている。こんなことは、本来有り得ない。

 1000年の過去に措いても、そして未来永劫、リディアのような特異な存在は現れないだろう。

「ゲイン。私たちの孫娘は、貴方の故郷の言い伝えどおりの子なのかもしれないわ……だからこそ、私は不安で仕方が無い……」

 ――――疎は即ち、運命を切り開く星の剣。

 まだ14歳の少女にそんな伝説を期待するなど、馬鹿げている思っていた。

 だが、現に私は見てしまった。知ってしまった。だからこそ、この事を打ち明けてはならない。

 打ち明ければ、この子は辛い運命を自ら背負うことになる。リディアは……優しい子だから。

 知らないのなら知らずに過ごした方がいい。本当は、騎士になどなって欲しくはなかった。

 代表としてではなく、祖母として。これ以上、愛する孫娘に辛い思いはさせたくない――――。

 

 

 それぞれの司教の想いを他所に、騎士たちはしばしの休息(ねむり)を取る。

 精霊の加護の元に彼らが身につけた新たなる力は、未だその身で目覚めの時を待っている。

 そして――――目覚めればそれは、彼らの新たなる始まり。

 

 



あとがき:
終始説明的な文章が延々続く今回。作者の脳内設定垂れ流しで
お送りしましたが、書いてるほうも疲れました。
しかし、二次創作には無い完全オリジナルの醍醐味はここにある、と
奮起して書き終えました。まだまだ補足や、話の都合上書けない詳細も
随時盛り込む予定です。
長かった第2話も次で終わらせる予定です。ちなみに2話ではガチ戦闘は
一切ありません。あしからず。
2007.02 鷹
 

管理人の感想

実は私は前々からこの「精霊信仰」や「フォーム」については、鷹さんとのメールのやり取りで知っていたのですが。
改めて説明文を読んでみると、奥が深いですねぇ。読者の皆様はどう感じましたでしょうか?

そしてそれぞれの加護精霊と属性がついに発覚。フォームを用いたこれからの戦闘シーンも非常に見ものですね。
それぞれの司教の呟きも、皆一様に伏線になっているご様子。特にリディアが気になる・・・。
でもまあ、それは後のお楽しみとしておきましょう。

さて、それでは皆様、2話の5も是非ご覧くださいませ^^



2007.2.1