B&G High School Memorial

Graduation Travel La route qui continue au futur

 

Une etape C

 

 

 

 蓮華に付き添われて月華館から白湯華に戻る頃には、時刻は午後四時半を回っていた。ガイドマップに従っての道なので特に迷う事もなく、また蓮華に

道案内してもらうまでもなかったのだが、蓮華曰く

「お客様をご案内しないなんて、アルバイトでも従業員失格ですから! それにもしバレたら、おばあちゃんに怒られちゃいますし」

とのことだ。折角の申し出、断る事もないだろうと謙悟と冴霞は彼女の申し出を快諾。そして偶然にも白湯華のロビーで会った冬華の指示で、そのまま

蓮華は『春桜の間』の仲居見習いとして、二人の世話と遊び相手をすることになった。

 そんなわけで、『春桜の間』。一通り旅館の内外を見て回り、夕食を終えて午後七時半すぎ。謙悟に冴霞、そして蓮華を交えた三人は古式ゆかしい日本式

カードゲーム・花札に興じていた。

「はい、猪鹿蝶に花見酒。また私の勝ちですね」

「ぐあ……」

「はぅ……さ、冴霞さん、強すぎですよぉ〜」

 テーブルに散らばった札を回収し、ちゃっちゃと切る蓮華。その一方で、冴霞は勝敗を書いたスコアを付ける。既に二十回もやっているが、うち冴霞の

勝率は七割以上にも上っているという信じがたい戦績だった。カードの引きも然ることながら、もとより手札の廻りが良すぎるのだ。そしてそれに加えて

先読みと勘の良さが手伝って、このような圧勝を演出していた。

「ふぅ……じゃあ、私はこれでお暇します。そろそろおばあちゃん……じゃなくて、女将のお手伝いをしないといけませんから」

「はい。どうもありがとうございました」

 冴霞の声に礼儀正しく頭を下げて、蓮華は退室していった。二人はその後ろ姿を見送り、廊下からの足音が聞こえなくなってから、ほぼ同時に大きな

溜息をついた。

「まさか蓮華ちゃんが、女将さんの孫だなんて……今更ですけど、ちょっと信じられないですね」

「確かに、無理っていう訳じゃないけど、女将さんのあの若々しさは……なぁ」

 二人の言い分はもっともだった。外見だけならば冬華の年齢は誰がどう見ても四十代後半か、いっていたとしても五十歳程度にしか見えない。それが、

あろうことか禄寿を迎える年齢だと、一体だれが信じるだろうか。

「まぁ、この話はもう止めておこうか。人の歳であれこれ詮索するのも、失礼だろ」

「そうですね」

 蓮華が置いて行った花札をケースにしまい、輪ゴムでくるんと蓋を固定する。その隣で謙悟は畳の上にごろんと横になり、座布団を折り曲げて枕にした。

「料理も美味かったし、静かでいいところだよな。……また時間があったら、旅行に来ようか?」

「うん……大学が落ち着いたら、夏休みにでも」

 ふわ、と冴霞の髪が揺れたかと思うと、そのまま謙悟の隣に冴霞も寝転がる。二人はお互いに身体を寄せ合い、じっと見つめ合った。

「もう、学校で会う事もないんだよな。……正直、寂しいよ」

「私だって、寂しいです……。いくら大学生になって、自由な時間が増えても、……私の場合その時間も満足に活用できないから、結局謙悟くんとの時間は、
今よりもずっと……減っちゃう……」

 既に冴霞は、大まかなカリキュラムの構成は決めていた。一期生の内で可能な限りの単位を履修し、二期生になれば一か月の海外留学。留学については

特待生の特権として無料で招待されるという素晴らしい待遇だが、それでさらに謙悟との時間は削減される。

「でも、決めた事だろう? 冴霞の夢……教師になるっていう、夢を叶えるために頑張るって。無責任に頑張れ、なんて言えないけど……ずっと冴霞が、

やりたかった事なんだから」

「うん……」

 泣きそうな目で謙悟を見つめる冴霞。それは悲しみだけではなく、謙悟が理解を持ってくれているという喜びが同居してのもの。そして、それに甘えても

いられないという複雑な想いから。

 だが、その想いは謙悟が発した言葉で全てが解決してしまう。

「冴霞……俺が高校出て、ちゃんと就職したら、結婚しよう」

「はい――――…………え?」

 結婚。男女が夫婦となること。俗にいえば契り。愛し合う男女が到達する関係の終着点ともいえる事。生涯の伴侶となる人生の一区切り。

 自分の脳内にある知識から適当なものをピックアップした冴霞は「結婚……」と一言呟いた後に、我に返って謙悟を見た。

「け、けっこんって、え、ちょ、ちょっと待っ……えぇっ!?」

「うん、だ、大丈夫、大丈夫だから冴霞、落ち着け」

「お、落ち着けって、お、お……奥さんになるって、ことですよね!? 私が、謙悟くんの!!」

「そう。そして俺は、冴霞の旦那さん。駄目か?」

「だ、駄目だなんて、とんでもないです!! わ、私こそ、ふつつかで粗忽者で、至らないところも多々ありましゅがぅっ!?」

 慌て過ぎて言葉と同時に舌も噛んだのか、うぅっと口を押さえる冴霞。謙悟はそんな彼女のドジを笑いながら、包むように冴霞を抱きしめる。

「至らないところなんて、誰だってある。冴霞に比べれば、俺はなんの夢もなかった半端者以下だ。けど、俺が今ちゃんと勉強頑張って、就職しようとして

いるのは……冴霞のおかげだ」

「……けんごくん?」

 見上げれば、すぐそこに謙悟の顔。その表情はいたって真面目で、しかし聞こえてくる謙悟の鼓動は早鐘のように高鳴っている。

「冴霞は、教師になりたいって夢をずっと持ってた。だけど俺は、これといってやりたい事もなかったし……ガタイだけはいいからさ、もし何もすることが

見つからなかったら、親父と同じ自衛官か、警察官にでもなろうかって、思ってたんだ。だけどそれは俺が本当にやりたい事じゃない。……冴霞に比べれば

少しも輝いてない、駄目な未来だった。でも今は……俺にも夢が見つかった」

 髪を梳き上げ、冴霞の頬に触れる謙悟の手。それを受け止めるように、冴霞も手を重ねる。

「謙悟くんの、夢……教えて?」

「……うん。俺の夢は、冴霞と一緒にいること。冴霞とずっと、幸せに過ごすこと……。その為には、俺も頑張らなくちゃいけない。俺自身が変わらなく

ちゃいけない。ちゃんと勉強して、就職して、働いて。冴霞の夢を、支えられる俺になりたいんだ」

 冴霞を支え、自分も律する。言葉にすれば簡単に聞こえるが、それがどれだけ困難な事かは推して知る事が出来るだろう。ましてや相手が冴霞であれば、

それが理解できないはずがない。

 だが、謙悟の言葉は嘘ではない。事実、謙悟の成績は二学期以降着実に上昇しており、たとえ高卒であったとしても、就職できる職種は相応に選択出来る

ほどの力を身に付けてきている。それを誰よりも知っているのもまた、冴霞本人なのだから。

 有言実行という言葉の通り、謙悟は叶えようとしている。きっとこれからも険しい道のりとなるであろう道を進むことを。それは冴霞のためでもあり、

同時に謙悟自身のためでもある。ならば冴霞が選ぶ答えは、今までと変わらない。

「私も、謙悟くんに負けないくらい頑張って、夢を叶えます。その隣に謙悟くんがいてくれたら、もっともっと頑張れると思う。だから……」

 誓いを交わす。両親でも、親族でも、神の御前でもなく。

 世界で唯一人の愛する人と、己自身の心のもとに。

「私を、謙悟くんの……謙悟の、お嫁さんにして……」

「ありがとう、冴霞……」

 誓約の言葉とともに、口付けを――――

「あ、ごめんなさぁい!! お風呂、いつでも入れますって言い忘れて……どうしたんですか? 二人とも部屋の隅っこに張り付いちゃって……?」

 野生動物もかくやと言わんばかりの速度で跳ね起き、対角の壁に張り付いている謙悟と冴霞を見て、頭の上に「?」と疑問符を浮かべる蓮華。

「い、いえ、ちょっと……黒い例の虫が」

「……あ、ああ、そう。黒い奴が」

「うそ、ゴキブリですか!? ドコです!?」

 部屋の中をうろうろと歩きながら、蓮華がゴキブリを探す。咄嗟に吐いた嘘だがどうやら信じてくれたようだ。しかし、誓いのキスを邪魔された二人は、

その無垢な後ろ姿にわずかながら怒りを覚えていた。

 

 

 

 夜は明けて、三月二十三日。

 ひと組しか敷かれていない布団の中で、謙悟と冴霞は数えるのも面倒なキスを交わしていた。

 露天風呂でひと悶着あったものの、それ以降は何の問題らしい問題もなく、売店でこっそり仕入れておいた地酒を二十倍に薄めてなお酔っぱらった冴霞を

寝かしつけ、しかしそのまま謙悟も布団に引きずり込まれ、あとはひたすら愛し合った二人は、それこそ泥のように眠った。ちなみに就寝したのは午前四時

で、起きたのは午前十時過ぎである。朝食の準備に来た冬華は、部屋に入ろうとした蓮華を締め出し、置き手紙を一筆残して退室していた。

「……朝食は蓮華にお申し付け下さい、だってさ」

「悪いこと、しちゃったね。起こしてもらえば良かったかも……」

「いや、蓮華ちゃんに裸を見られるのは、勘弁してほしいな……」

 笑い合う二人。そして冴霞の左手薬指には、小洒落たクロムシルバーの指輪が納まっている。それを眺めて、冴霞がきゅっと謙悟の身体に身を寄せる。

「サイズぴったり……私、謙悟くんに指輪の号数なんて教えてたっけ?」

「いや、この間勝手に測らせてもらった。クリスマスの、また酔っぱらってぐでんぐでんになってた時に」

「もぉ……La route qui continue au futur……フランス語だね。えっと、続く……

「本物がちゃんと納まるまでの繋ぎだから、大した意味はないんだけど…………将来の約束も込めて、『未来に続く道』って意味」

 恥ずかしそうに頬をかく謙悟。そのセンスはあの日の――――古書店で出会ったころの彼からなんら変わらない、ちょっとロマンティックなものだった。

「ありがとう……じゃあ、私からもお返し。私が知ってるフランス語だけど……Je donne amour de l'eternite,Kengo

「えっと……分かんない。意味は?」

「『あなたに永遠の愛を捧げます……謙悟』」

 

 

 未来は続き、絶えず変化していく。

Le futur continue, continue toujours a changer.

 それでも、この誓いは永遠に守られる。

Meme puis, ce serment est protege eternellement.

 終わりなどない。少年と少女の記憶は、終わる事のないBGMのように。

Il n'y a aucun extremite et semblables.Quant a la memoire du garcon et de la fille, comme BGM qui n'a pas les temps ou il finit.

 聞く者がいる限りいつまでも変わらぬ旋律として響き、届くことだろう。

Si la personne qui entend est il est probablement de faire echo comme melodie qui ne change pas pour toujours, a l'extension.

 

 

 

fin




あとがき:

はぁ。遂にBGMも一年を費やして完結……というわけではなく!
これはあくまで「本編が終わった後に起きる未来」のお話なので、確定した世界の一つでのお話。
もちろん完結編とすることもやぶさかではないのですが!!(どっちだ)
まぁ実際、一区切りついたのも確かなので、本編ではこの未来に向かって進んでいけるよう、ラブラブに
盛り上げていく所存です。新年から少しでも幸せな気分になれればと願いつつ、鷹でした。


管理人の感想

明けましておめでとうございまーすっ! 自身の作品はUPしないので、こちらで挨拶も済ませてみたり^^;
さて、新年の記念作品として、鷹さんよりBGMの外伝・・・というよりはアフターストーリー的な作品をお送りして頂きました〜。
謙悟と冴霞の、甘すぎるほど甘い卒業旅行。この時点でもう既に将来を誓い合った仲ではあった二人ですが、正式な形での謙悟のプロポーズ。
いつのまにかエンゲージリングまで用意しちゃって・・・謙悟はなかなかのロマンチストですね。
最後のフランス語も、またニクイ演出ですね。BGMのタイトルの意味と共に、綺麗なラストでした。

それでは、新年早々こんな素晴らしい作品を送ってくださった鷹さんと、今年も私の拙い作品を読んでくれるであろう皆様に感謝を込めて・・・。



2009.1.1