B&G MEMORIAL of SUMMER
BOYS and GIRLS in Long Vacation
陽乃海シーランド。遊園地としての運営はもちろんのこと、臨海娯楽施設の強みとして水族館としての側面も併せ持ち、アシカやイルカのショーを楽しむ
事が出来るという。プール施設も同様に展開されており、この時期は特に多くの集客で賑わっている。遊園地のアトラクションは一般的なものから水を利用
した物も少なくなく、場合によっては傘やレインコートの類も無料レンタルで貸し出すサービスも行われている。
交通アクセスは主に車か徒歩となり、残念ながら電車からではバスへの乗り換えが不可欠となっている。料金は当然ながら電車を利用した方が安くつくが、
今回の二人にとってはバス以外の選択肢は自宅が電車へのアクセスには遠すぎるという理由から、少々の金額を負担する事になった。
「結構人、入ってるな」
「開園して、まだそんなに経ってないのに……凄いですね」
エントランスゲート前のバス停で降りた二人がまず驚いたのは、その来客数の多さだった。家族連れ、男女組、男の子と女の子のグループ。そして小さな
子どもたち。誰がどこの集団に属しているかなど完全に把握しきれるはずもなく、またその中に飲み込まれる事が無いように、謙悟は冴霞の手を握り、冴霞
もそれを握り返すことで応じる。
どちらとも目立たない服装ではあるが、それでもお互いに長身という条件から遠目であっても把握することは難しくはなかった。しかしこれだけの人間が
いれば、当然謙悟や冴霞より背の高い男女も存在するであろうし、似たような服装をしているかもしれない。手をつないでそれを離さないのが最も簡単かつ
確実な方法であるからこそ、二人は手を取り合い、また周囲からも自分達がカップルであると認識させる事が出来る。
「じゃあ、いつまでもここで突っ立ってても仕方が無いし」
「早く入場、済ませちゃいましょう♪」
冴霞がバッグから入場チケットを取り出し、謙悟に手渡す。無料優待券というそのチケットは当然、入場無料であると同時に、アトラクションについても
一部ではあるが無料で乗る事が出来る。残念ながら全てが無料ではないが、貰ったチケットにそこまで望むというのは贅沢が過ぎるだろう。
と、そこでふと冴霞はチケットの裏面に書かれている六ケタの数字に気がついた。
「謙悟くん、これって何の数字なんでしょう? 発行番号でしょうか?」
「ん? あぁ、ホントだ。でも俺と冴霞のチケットでも、かなり数字に開きがあるな」
見れば、謙悟の番号は『320151』。かたや冴霞の番号は『531402』。発行番号にしては謙悟の言うように不自然なほど開きがある上に、このケタに限って
言えば総発行枚数は百万枚程度という事になる。優待券という特性上それもアリといえばアリなのだが、逆にそうだとすると数字のケタが大きすぎる。
「とりあえず、係の人に聞いてみるか」
謙悟の言葉に冴霞も頷き、手をつないだまま入場受付の整理をしている係員の女性に話しかける。女性は子どもたちを並ばせるのを一段落させると、笑顔
を返して冴霞と謙悟を見上げた。
「はい、なにかありましたか?」
「お尋ねします。このチケットの裏に書かれているこの数字なんですけど、これって何か意味があるんでしょうか?」
冴霞が呈した疑問に、女性スタッフは変わらぬ笑みでエントランスゲート横の看板を指し示す。
「はい。現在、当園ではチケット裏面に記載されている六ケタの数字を使って頂いた抽選キャンペーンを行っております。当たり番号は入場の際にゲートで
発表になりますが、やり方は至って簡単。こちらのマークシートに、お客様のチケットに書かれている数字のうち四つをお使い頂いて数字をチェックするだ
けです。見事的中すれば豪華景品を贈呈いたしますので、どうぞお試しください」
看板にもほぼ同様の事が書かれており、二人は女性からマークシートと鉛筆を手渡される。マークシートに書かれている番号は『0』から『5』までの六ケ
タと、それが四列。一度使った数字は二度は使えない、という注意事項もしっかり明記されており、謙悟は面倒そうに鉛筆をくるくると回した。
「なんか、宝くじみたいだな」
「抽選ですから、本当にそうですね。でもこれもアトラクションの一環だと思えば楽しいですよ」
サラサラと迷いも淀みもなく数字にチェックを入れていく冴霞。当たるとは思っていないのか、それとも純粋に楽しもうとしているのか――――恐らくは
その両方だろう、と謙悟は優しく微笑んで、自身も同じようにマークシートを塗り潰していく。
謙悟が選んだ数字は『1053』。そして冴霞が選んだ数字は『2431』。深く考えたわけではなく、特に冴霞は偶然にも『0』から『5』の数字が最初から全て
揃っていた為に、『1,2,3,4』を全て使おうと考えただけである。
ゲートで受付をしているスタッフにチケットとマークシートを手渡し、無事に入園を果たす。抽選の結果など全く気にしていなかった二人を出迎えたのは
――――金色のくす玉が、目の前で割れる光景だった。
「「「「「「「「おめでとうございます!!!!!!!!」」」」」」」」
「「え??」」
「お客様、おめでとうございます!! 抽選番号完全一致の特賞が、見事当選となりました!!」
そう言ってスタッフの一人が冴霞に手渡してきたのは、二枚のカードだった。フリーパス・プラチナペアチケットと表面に書かれたそれはそのままの意味
であり、当選番号も冴霞が記した『2431』が、くす玉を設置している台座の横に書かれている。六ケタの数字から四つを抜き出し、さらにその順番が定めら
れていないという低確率すぎる賭けに、何の計算もなしに勝利する事など、宝くじを当てるような幸運だろう。
「本日は当園にお越し頂き、誠にありがとうございます。どうぞごゆっくりとお楽しみ下さい!!!!」
正装したスタッフ――――陽乃海シーワールドの長を務める男性がそう告げると、周りにいたスタッフからは拍手が上がり、さらに周囲の客も惜しみない
拍手を送ってくれる。
目立たないように楽しむはずが入園からして大騒ぎになってしまった事には、謙悟も冴霞も複雑な感情を抱かずにはいられない。だがそれでも、この唐突
な幸運に見舞われた事はやはり二人にとって大切な思い出の一つであり、今日という日を楽しむより良い切っ掛けを得たと考え直す事も出来る。
スタッフ一同に礼をし、観客に見送られ、すでに園内に入場している群衆に紛れると、二人は離していた手を握り直す。
「なんだか、最初からとんでもないことになっちゃいましたね」
「でも、そのおかげで出費も抑えられるし。幸運の女神様に感謝だな」
優しい言葉と笑顔の謙悟。それに応えるように、冴霞も帽子のつばをちょっと上げて笑顔を返す。
「じゃあ、感謝の印としていっぱい楽しんでくださいね!!」
BGM EXTRA AFTER EPISODE
Lovely Cohabitation
第9話 Goddess in Amusement Park(後編)
「ふぅ……」
いくつかのアトラクションを堪能し、ようやく一息つこうと冴霞はオープンカフェの座席に腰掛けると、結んでいた三つ編みを解いて軽くブラシをかけて
整えると、今度はシュシュを二つ使って留める位置が低いツインテールを作ってさらに帽子をかぶる。彩乃のように高い位置で結ぶ事も出来るが、冴霞の
髪質はそれほど丈夫な方ではないのでこちらの方が負担も少ない。三つ編みも同様の理由で、あまり長時間結んでいると髪への負担もそれなりに大きくなっ
てしまうのだ。
「ジェットコースターと、フリーフォールと、振り子のアトラクション……我ながら、絶叫系ばっかり」
ひとり呟きながら、くすっと思わず笑みがこぼれる。遊園地で遊んだのは、かれこれ小学生以来の事だ。もうそんな年齢でもないし、少し前まではまたこ
うして誰かと遊園地で遊ぶことなど考えられなかったし、今後もそんな機会は訪れないだろうと高を括っていた。同性のみならず、ましてや異性と遊園地に
くるなどという当たり前のカップルのような事が出来るなど、冴霞自身想像もしていなかったのだから。
「何、一人でニヤニヤしてるんだ?」
両手にトレーを持ち、呆れながらも優しい声をかけてくる謙悟。その言葉に気分を害する訳でもなく、冴霞は変わらぬ笑みのまま頬杖を突く。
「いえいえ。まさか高校生にもなって、遊園地で遊んで楽しむなんて思わなかったものですから」
「いくつになったって良いだろ。楽しいものは楽しいんだからさ……ほら、昼飯。食べよう」
と、持ってきていたトレーから飲み物とホットドッグを冴霞に渡し、彼女の向かいに腰を下ろす。今まで席を離れていたのは言うまでもなく昼食を買って
来るためであり、その間冴霞が場所取りをしていたのだ。二人で一緒に買う事ももちろん考えなかったわけではないが、ただでさえ来客の多い夏休み。ふと
目を離した隙に席を取られるという事もありえなくはない。もっとも、その時はその時で食べ歩きするだけなのだが「往来の中で、そんなはしたない真似は
いけません」という冴霞の言葉により、ちゃんと座っての食事である。
「ジャンクな食事ですね〜。不健康ですよ?」
「こういう場なんだから、こっちが定番だろ? 一応野菜もそれなりに入ってるんだから、文句言わない」
キャベツは多めで、トマトとピクルス、そしてみじん切りした玉ねぎを乗せたホットドッグ。トマトケチャップもふんだんに使われており、さらに謙悟の
物に限ってはトマトケチャップの代わりにチリソースと加えてハラペーニョも含まれ、辛めの仕上がりとなっている。
「なんだか、見るからに辛そうですね……一口貰ってもいいですか?」
「辛いの苦手かと思って止めといたんだけど……大丈夫か?」
既に一口食べてしまっているホットドッグを謙悟が差し出すと、冴霞はそれを大事そうに両手で受け取る。包み紙を一口分だけ剥がし、小さな口を大きく
開けてぱくりと一口。
「むぐ……馬鹿にしないでください。これくらい――――――っっ!!?」
言葉の途中で思わず口を押さえ、一緒に置いていた飲み物をぐいっと煽る。しかし勢いがつきすぎたのか冴霞はけほけほと咳込み、謙悟は内心苦笑しなが
ら冴霞の後ろに回って、優しく背中を撫でてやる。
「ったく、言わんこっちゃない」
「えほっ、けほっ……うぅ〜〜」
恨みがましさ満点の視線で見上げてくる冴霞。自業自得だろう、と言ってやりたいのはやまやまだが、それを言えばますます機嫌を損ねてしまう。ならば
そうはならないように、謙悟は冴霞の横に椅子を持ってきて腰を下ろすと、背中を撫で続けながら空いたもう一方の手で束ねている髪の先にそっと触れる。
「髪型、また変えたんだな。…………いつもより、可愛いくなった」
照れ臭くて思わず顔を逸らしたくなってしまうが、冴霞が謙悟を見る方が早かった。両手に持った飲み物はことんとテーブルに置かれ、歓喜に潤んだ瞳と
朱色の頬が文字通りの喜びを雄弁に表現している。
「も、もう一回、言ってください……」
「う……い、いや、恥ずかしいし、こんな大勢人がいる所じゃ……」
「さ、さっきは言ってくれたじゃないですかっ。もう一回! もう一回だけですからっ」
せがんでくる冴霞の可愛らしさ故に無碍に断る事も出来ないが、だがだからと言って公衆の面前で愛を囁くなどという拷問級に恥ずかしい事など謙悟でな
くとも出来るはずがない。また、謙悟と冴霞は名前こそ知られていないものの、先程の特賞当選で少なからず渦中のカップルとなっている。大勢いる観客の
中には二人の事を覚えている人間もいるだろうし、誰もかれもが無視してくれるわけでもない。こんな状況でも唯一出来そうなのは二人の共通の友人である
秋月愛くらいだろうか。こういう時ばかりは、彼女の天然ぶりが少々輝いても見える。といっても憧れたり真似したいという思いは微塵もないのだが。
「わ、分かった、分かったからっ! あとでちゃんと言うから、今はとっとと飯を食おう。な!?」
「むぅ〜〜……絶対ですよ?」
髪型のせいもあって、普段よりもかなり幼く見える冴霞の膨れっ面にまたしても可愛いと感じながら、謙悟は冴霞が口をつけたホットドッグを口に運んだ。
その味は先ほどよりもいくらか甘く感じられたのは、気のせいではないだろう。
その後もいくつかのアトラクションを堪能し、定番にして一番大きな乗り物である大観覧車を最後のトリとして、二人はゴンドラに乗り込んだ。陽乃海シ
ーランドを象徴する大観覧車は訪れる人間たちから一番に目に留まり、また夜には煌々とライトアップされ、遠目からでも真下からでも、その幻想的な姿で
陽乃海シーランド全体を照らしている。生憎、二人が乗り込んだ時間は夕方前という事もありライトアップされた姿ではないが、見た目はどうあろうと関係
なく楽しむ事が出来る。
「謙悟くん、見て下さい! 海がすごく綺麗ですよ!」
「ああ、ホントだ。こうして見下ろすと意外と綺麗だよな」
数日前に海水浴に行った際には人ゴミばかりで満足に海の様子など見れなかったが、高さ九十メートル以上の高所から見下ろせばゴミも人も大差なく黒い
点にしか見えない。そのはるか先に広がる海は天の中点を通り過ぎて西に傾く陽光を浴びて、涼しげな青をたたえている。
そこで、謙悟はズボンに着けているミニポーチからデジタルカメラを取り出した。遠目に映る景色と、またしても髪型を変えた冴霞を記念に納めておこう
という気持ちが働いての動作であり、今の冴霞は左側に髪をまとめて肩から垂らしシュシュで束ね、右側は光沢のある銀色の髪留めで留めているという少々
変わったヘアースタイルだ。
「謙悟くん? また私だけ撮ろうとしてますね?」
「冴霞は絵になるからな。それにこんなシチュエーション、滅多に撮れないし」
「私、謙悟くんの写真一枚も持ってないんですから、私にも撮らせて下さい!!」
冴霞の言う通り、謙悟はデジカメを持っている関係で何枚か彼女の写真を持っている。しかし冴霞の場合はデジカメは所持しておらず、専ら携帯電話での
撮影がメインとなっており、納得のいく写真は所持していないのだ。
「別にいいだろ、俺の仏頂面の写真なんて見ても楽しくないだろう?」
「どんな顔でも、謙悟くんが欲しいんです!!」
誤解を招きかねない危険な発言に、言われた謙悟だけでなく言った冴霞本人も赤面してしまう。しかしそこで行動を止めないのが冴霞の強さであり、そそ
くさと謙悟の隣に座ると彼の腕を取って身体を滑り込ませる。
「……これで、撮ってください」
「……失敗するかもしれないけど、いいか?」
柔らかな髪と、陽光(ひなた)の香りに心癒されながら謙悟が尋ねる。その問いに頷くだけで答え、右手でカメラを構える謙悟の手に冴霞の左手が添えら
れる。背中側には青く煌めく水面と蒼天。
「まったく…………冴霞はホント、可愛いな」
「っ…………ん」
シャッターボタンを押して、直後に口づけを交わす。遊園地という公共の場に置いて唯一と言って良い隔絶された空間で、誰に咎められることもなく愛を
確かめ合い、また約束の言葉を果たしてくれる謙悟に身を委ねながら。
夜に行われるナイトイベントを待たずして、二人は帰路に着くという選択肢を選んだ。
陽は徐々に陰り始め、時刻は午後六時半過ぎ。夏の空も夜の帳を身に纏い、星々の姿も少しだが見受けられる。
最後の夜が始まる。夢のような日々が終わる前の、最後の夢を見られる時間。残る不安を打ち消すように、希望を残して明日を迎えられるように。
あとがき:
諸事情(主にゲーム)
既 に最終回となる第10話には着手していますので、
さて、
賭け事なんかでもその才 能はさらに顕著に発揮されるのですが、
とにもかくにも、
管理人の感想
BGMLC、後編をお送りして頂きました〜^^
入園直後、まさかのハプニング! まあ「思いがけない出来事」という意味では間違ってませんよね。
ともかく、そんな「幸運なハプニング」を引き起こしたのは、我らがヒロイン冴霞嬢。
4ケタの数字を並べる―――ロト6よりは確率が上とはいえ、それを難なく当ててしまう冴霞には脱帽ですね^^;
そしてその後はだだあまデート。やはりシチュエーションが違うだけで、二人もいつもとは違った楽しみ方が出来ているようですね。
特に観覧車の中での件がむず痒いなぁと。二人で寄り添いながら撮った写真は、きっと一生ものの思い出となるでしょう。
二人っきりの最後の夜。あまあまな二人が織りなす、LC最終話をお楽しみに!