B&G MEMORIAL of SUMMER

BOYS and GIRLS in Long Vacation

 

 

 

「ふぅ……ご馳走様でした」

 三杯目のカレーを完食して、謙悟はようやくスプーンを皿の上に置いた。冴霞も同じく三杯目を食べてはいるが、やはりどれだけご飯の量を減らしたと

言っても、彼女の細い身体に三杯分のエネルギーを消化するほどの容量は無いらしい。既に手は止まってしまっているし、ちょっと気持ち悪そうだ。

「冴霞、無理しなくていいから。それにどう考えても明日の分がまだ残ってるんだから、明日になってまた辛い思いするぞ?」

「うぅ……で、でも、私が自分で注いだ以上はちゃんと食べる責任がある、わけですし……」

 辛そうにしながらもスプーンを動かして一掬い。しかし持ち上げるだけの気力は湧いてこないようだ。謙悟は苦笑いしながら席を立つと、対面に座って

いる冴霞の横に席を移し、止まっている手ごとスプーンを掴むとそのまま自分の口に運んだ。

「あっ……謙悟くん……」

「無理してお腹壊されたら、せっかくの三泊が看病で終わっちまうからな。そんなの俺はイヤだし、冴霞だってイヤだろ?」

「…………はい」

 しゅん、と項垂れる冴霞。その落ちかけた頭を優しく撫でながら、謙悟は一度置いた自分のスプーンを向かいの皿から取り、食事を再開する。

「け、謙悟くんこそ無理しないで下さいよ!?」

「いや、いくらなんでも俺一人で全部は食べられないって。冴霞も手伝ってくれないと。まぁ、一応多めには食べるけどさ」

 スプーンでカレーと米を言葉通りに多めに掬い取り、そのまま口に運ぶ。正直なところ大盛り二杯と並盛一杯の後ではかなり堪えるのだが、それをぐっと

耐えてもぐもぐと咀嚼する。

 冴霞が無理をしているのは、食事前の彼女の言葉が原因だというのは謙悟も分かっていた。愛情たっぷりのご飯ならおかわり三杯はいけるという冗談の

ようなその言葉を、冴霞は律儀に実行しようとしているのだ。元々食が太いタイプではないだけに実際は並盛二杯でもかなり辛いというのに、小盛とはいえ

高カロリー・高エネルギーのカレーライス。食べても太らないという、要が聞いたら包丁を投げつけて来そうなくらい羨ましい体質の冴霞だが、短時間に

大量の食事をすぐさま消化はしきれない。

 かたや謙悟は、運動量と筋肉量が非常に高いため燃費も悪い。大食をしてもすぐに消化できる上に、食べた分のエネルギーを毎日きっちり消化している。

これもまた謙悟が太りづらく、そして体脂肪率を一ケタ台に抑えたスマートかつ絞られた筋肉質な身体を維持できているという結果をもたらしている。

「あむ……っ」

「ん……ごちそうさま」

 最後の一掬いをほぼ同時に食べ終えてスプーンを皿に置いてから、二人とも手を合わせる。そしてお互いに顔を見合わせて、くすっと微笑む。

「ホント、お世辞抜きで美味かったよ。けど無茶な食べ方だけはしないでくれよな?」

「はぁい……ごめんなさい……」

 そのまま椅子の背もたれに体重を預け、大きな溜め息をつく冴霞。どうやら満腹以上に満腹になったため、今は何もしたくないのだろう。謙悟は使った

食器をキッチンに持って行き、軽く水洗いだけしてカレーやサラダのドレッシングを流すと、そのまま食器洗い乾燥機に全てを入れて、洗剤も入れてから

皿洗いをスタートさせる。それをぼ〜っと見ていた冴霞に対し、謙悟はぼそっと呟いた。

「……働き者の旦那と、だらしない奥様?」

「そ、そんな意地悪、言わないで下さいよぉ……あっ」

 椅子ごとずりずりと引き出され、背中と膝の裏に手を回される。そして一気に持ち上げられれば、いとも簡単にお姫様だっこの完成である。

「どこまでお運びしましょうか、冴霞様?」

「え、あ、えっと……ちょっと横になりたいので……謙悟くんのお部屋の、大きなベッドまで……」

 ぎゅっと首に片腕を回す。謙悟は壁に設置されているリビングの証明調整ボタンを冴霞の手で少し暗くしてもらうと、そのまま冴霞の要望通りに彼女を

部屋まで運んだ。

もうすっかり日は落ちた午後七時過ぎ。宿泊という意味での初日が、もうすぐ始まろうとしている。

 

 

 

BGM EXTRA AFTER EPISODE

Lovely Cohabitation

 

 

話 Essence of Bathtime

 

 

 食べ過ぎで苦しい冴霞を後ろから抱っこしたまま、二人はのんびりとベッドの上でテレビを見ていた。部屋のサイズからすればやや小さめの三十二型液晶

テレビは、ランクとしては上位に入る機種であり、フルハイビジョン画質の液晶パネルを使用している代物である。

 最初見ていた番組はドラマだ。といってもまるでどこかの三流恋愛少女小説かというような安っぽい出来であり、謙悟も冴霞もその内容には正直辟易して

いたが、他は品の無いバラエティ番組か、あるいは大して興味のない野球中継くらいしかやっていないので、やむなく謙悟はDVDレコーダーを起動させて

二週間ほど前にやっていた洋画劇場を再生。現在劇場で上映している物の前作品(ただし評価は微妙)を見ている。

「腹の方は大丈夫? 少しは落ち着いた?」

「ええ、さっきよりはかなり楽になりました。そろそろエアコンの温度、下げても大丈夫ですよ?」

 食べ過ぎたばかりのお腹を冷やさないように、という謙悟の配慮で冷房の温度は冷え過ぎない程度のレベルに調整されている。その影響もあって部屋の

温度はあまり下がっておらず、また部屋のドアを開放したままにしているので、外との温度差もそれほどない。

「俺は全然大丈夫だけど……もしかして、暑い?」

「いえ、そういうわけじゃ。ただ謙悟くんが暑いかなあって思って……暑くないなら、もうちょっとくっついてもいいですか?」

 遠慮がちなその提案に謙悟は言葉ではなく行動で答える。相手の願いにはすぐさま応じ、そして互いに思うのは常に己の事ではなく相手の事。どちらもが

相手の事を思いやっていなければ出来ないことであり、冴霞は抱擁に身を委ねるように体重を預け、そして右腕を謙悟の右腕にそっと添える。

「ん……やっぱり、謙悟くんにこうやって抱っこされてるのって、すごく安心する……これって、やっぱり愛ですね?」

「そんな恥ずかしいことを聞かれても困るんだけど……そう思ってくれるなら、いくらでも」

 腰に回していた両手を冴霞の前で組み、薄いキャミソール越しに冴霞のお腹に触れる。しっかりとした腹筋とそれを覆う柔らかな感触。それは女性の持つ

独特の柔らかさであり、謙悟のみならず男性を魅惑してやまない部分の一つだ。それでなくとも最愛の恋人に抱擁を求められ密着しているこの態勢。いかに

理性の鉄人・新崎謙悟といえども我慢の限界はそう遠くない。

 否、既に謙悟の理性は一度砕かれている。来訪と同時に言った冴霞の『不束者ですがたくさん可愛がって下さい』宣言は未だ理性の再構築を阻む強大な壁

であり、少なくとも数時間で復旧できるほど生易しい相手ではない。それにこうやって冴霞と触れ合っている事でその作業速度は遅延どころか完全に停止

している。そこへさらに打撃を受ければもうどうにもたまらん状態である事は誰の目にも明らかなのだが、それでも顔に出さない謙悟はもはや尊敬どころか

崇拝しても良いくらいに紳士だろう。決してヘタレとか言わないように。

「映画、そろそろ終わるな。終わったら風呂に入ろうか……冴霞、先に入る?」

 場面がクライマックスに近づいてきたので、謙悟はそう提案した。既に風呂の支度は済ませており、今日はシャワーではなくちゃんと浴槽に湯を張っての

入浴だ。シャワーだけでは落としきれない皮脂の汚れや老廃物をしっかり洗い流す為には、夏場であっても入浴の方が効果的である。

「え? 私が先って……一緒に入るんじゃないんですか?」

 当然のように尋ね返してくる冴霞。謙悟にしてみればそれは想定の範囲内の答えではあったが、やはり実際言われると鈍い頭痛を覚えずにはいられない。

「言うと思ったよ。……………………どうしても、一緒がいい?」

「一緒がいいです……それとも、謙悟くんは私と一緒にお風呂に入るのは、あれっきりなんですか……?」

 数日前、冴霞の家に泊まった時にも二人は一緒にシャワーを浴びている。あれはある意味事故のようなものだったが、今回は最初からお互いの意思次第で

結果を変える事が出来る。だが冴霞の方は既に謙悟と一緒に入る事を当たり前のように思っており、あとは謙悟の意思次第。

 普段の謙悟ならば、一も二も無く拒否する所だろう。既に男女の仲であり、また一度経験のある事であったとしても、冴霞は彼女の両親である稔臣と悠香

から信頼の元に預けられた大切なお客様だ。失礼な事は避けるべきだし、また信頼を損なうような真似をしてもならない。

 しかし、当の本人が望んでいるとなれば話は変わってくる。それは冴霞の方だけではなく――――謙悟自身の気持ちの方だった。

「分かった。……じゃあ、一緒に入ろう」

 割とあっさり謙悟が許可を出す。冴霞もそれには少々面食らったようにきょとんとしていたが、しかし驚きを跳ね飛ばすくらいに喜びの方が強い。謙悟の

腕の中でぐるりと身体を反転させると、両手を謙悟の首に回して見つめ合う。

「はいっ! 今度はちゃんと洗わせて下さいねっ!!」

 眩しい笑顔で、心の底からの歓喜を隠す事もしない冴霞。そして謙悟も既に砕かれた上に粉にまでなってしまっている文字通り『粉砕』した理性の残滓を、

取りあえず脳内のリサイクル専用ポリバケツに放り込むと、どことなく清々しいような優しい笑顔で冴霞と見つめ合い、どちらからともなく口唇を重ねた。

 

 

 

 脱衣所に入ると二人はそれぞれ持ち寄った着替えを脱衣籠に入れ、その上にタオルを掛ける。そして次に手際良く衣服を脱いでいく。

 謙悟はタンクトップのシャツとジーンズ、それとトランクスだけ。冴霞はキャミソールとジーンズ、そしてブラジャーとパンツ。最後の一枚・下半身の

下着を脱いでしまう前にサッとタオルを巻いて、最低限の防備だけは欠かさない。といってもいざ入浴してしまえばそのタオルさえも外さなければならず、

文字通りに生まれたままの姿での時間が待っている。それを直視せずにすむ方法もあるにはあるのだが――――その一つが、謙悟の提案だ。

「冴霞、入浴剤って嫌い?」

「入浴剤……温泉の素、とかですか? ああいうのは嫌いじゃないですけど……もしかしてあるんですか?」

 冴霞の言葉に首肯で答えると、脱衣籠の下から小さな缶を取り出す謙悟。中には袋詰めされた温泉の素が数種類入っており、その色も効能も様々だ。

「前にお袋が病院で患者さんから貰ってきたやつなんだけど、なかなか使う機会が無くてさ。毎日使うほどじゃないし、それに麻那が飲んだりしたりすると

良くないから、使うのは止めてたんだ。でも冴霞さえ良かったらどうかと思って」

「はぁ。……ん〜……なら、これを使ってみましょう」

 と、あまり深く考えずに冴霞が選んだのは『那須の湯』なるものだった。色は白色を演出し、身体を芯から温めてくれるというキャッチコピーつき。

さすがに効能を再現するほどではないが、黄色や青といった非常識な色よりは自然で、視覚的にもより「温泉らしさ」を与えてくれるものである。

「よし、それで行こう。じゃあ早速……」

「はい。ゆったりお風呂の時間ですねっ」

 二人でバスルームの扉を開けて一緒に入る。そして蓋をしている浴槽を開放して、封を切った入浴剤をサラサラと撒いていく。湯気の中に溶けていく

粉末はゆったりと浸透し、何度か手でかき混ぜてやれば、袋に書かれた通りの白濁湯が完成した。

「あ……ちょっと匂いも温泉っぽくなりましたね。もう入っても良いんですか?」

「いやいや、冴霞も俺もちょっと汗かいてるし、先に身体を洗わないと駄目だろ。それにせっかく持ってきたそれ、使わないのか?」

 と謙悟が指差した冴霞の手には、お泊り用にと自宅から持ってきたシャンプー、リンス、コンディショナーのボトルが入ったキャリングバッグが握られて

いる。さらにそれら三本以外にもう二本が中には収まっており、これが母・悠香から渡されたプレゼント第一弾である。

「そう言えばコレ、母が持たせてくれたんですけど……なんでも、お風呂で使う美肌用ボディーソープと、ローションだそうです。こういうのがあるって

知ってました?」

「いや、知らない……って、お母さんはこれで、何をしろと?」

 嫌な予感しかしない謙悟。冴霞も悠香から言われた言葉を思い返し、ぽっと頬を桜色に染めてしまう。

「えと……ぬ、塗って、もらいなさい、って……はぅ……」

 気が遠くなるほどに魅力的過ぎるお誘い。冗談抜きで目眩を憶えた謙悟はそれでも風呂場で転倒という痛ましい事故だけは避けるようにぐっと踏ん張り、

冴霞の手からバッグを受け取った。

「あっ……や、やっぱり、ダメですよね!? ふ、ふつーにタオルで擦りますから、気にしないで下さいっ!」

「え、あ、いや……その、塗ってもいいけど……」

 わたわたと慌てる冴霞に対して、謙悟からの衝撃の申し出。冴霞の頭は数秒間文字通り真っ白になって思考を停止し、はっと気がついた時にはトマトより

真っ赤に顔を染めていた。

「え、ええっ!? だ、だだ、だって、ぬ、塗るって、塗られて、ぬるぬるで!!?」

「お、落ち着け! 壊れるな!!」

 がっくんがっくんと謙悟に肩を揺さぶられ、なんとか正気に戻る。しかし謙悟は謙悟で自分のやったこととはいえ、ぷるんぷるんと揺れる柔らかさ満点の

大きめな乳房の動きに、思わず仰け反って倒れそうになっていた。

「はっ!? は、はぁ……ご、ごめんなさい! お見苦しい所を……? 謙悟くん、どうかしたんですか?」

「いや……気にしないでくれ。俺もどうにかなりそうだっただけだから……と、取りあえず、深呼吸しよう」

「は、はい……」

 二人揃って吸って吐いての深呼吸。傍から見るとかなり間抜けな光景だが、本人たちには正気を失いかけるほどの大問題だ。とはいえ問題に対しての答え

という点では既に謙悟が出しているし、冴霞も物凄く恥ずかしいが謙悟に洗ってもらうのは正直嬉しい。どちらもが同意している以上、選択肢など最初から

必要無いというのはある意味、楽ではあった。

「じゃあ……お互いに洗うって事で。俺は冴霞のボディーソープを」

「私は謙悟くんのお家のを」

 浴槽のお湯を手桶で掬って掛け合い、濡れた手でお互いのボディーソープを交換して手の中で泡立たせる。そしてバスルームの床に膝立ちの態勢で座って、

ゆっくりと身体を撫で合っていく。

「……そういえば冴霞って、その……胸、隠したりしないな?」

「え? ああ、そうですね。でも謙悟くんにはちゃんと全部を見て欲しいから、隠す必要もないです。本音を言えば恥ずかしいですけどねっ」

 えへへ、と子どもみたいに笑いながらも頬の熱は取れていない。嘘偽りのない真実の告白だというのが良く分かり、謙悟は幸せな気持ちでいっぱいになり

ながら、その胸を右手でくっと持ち上げた。

「んっ……あ、洗うのはいいですけど……あんまり強くしたらダメですよ?」

「分かってるよ……優しく、丁寧に洗わせて頂きます」

 左手は背中や腰回りを洗いながら、右手は変わらず冴霞の豊かな乳房を洗っていく。言葉通りに丁寧ではあるが、力加減も同じく弱め。その微妙な刺激と

ともにもたらされる快感に、冴霞は身体の芯に小さな火を灯してしまった。

 かたや謙悟も最愛の女性に触れ続け、またたどたどしくも確実に自分の身体を這っていく美しい手によって絶えず与えられる感覚に熱を覚え、塵になった

理性がどんどん処分されて行くのを、まるで他人事のように感じていた。

 

 

 一通り身体を洗い終え、冴霞の柔らかい身体にローションを塗る時がやってきた。ラベルに書かれていた説明書の通り、ボトルごとお湯に浸していた為、

とろ〜っと手の中に落としたローションは人肌くらいに温められており、謙悟はそれをぬちゃぬちゃと両手に馴染ませてから、既に泡を落として覚悟完了

状態の冴霞と見つめ合う。

「で、ではっ……参ります」

「は、はいっ!! よろしくお願いしますっ!!」

 まるで真剣勝負を迎えるかのような挨拶だが、気分的には二人ともそんな感じだった。震える手をぐっと意志で抑え込み、首の下から手を当てる謙悟。

そのての感触とともに与えられるローションの感触に、冴霞はびくっと身を震わせる。

「ぁっ……な、なんか、変な感じ……」

「うん……でも、気持ち悪くはないだろ? 香りだって良いし」

 謙悟の言う通り、ほのかに混じる薔薇の香りとほど良い温度のおかげで、不快と言うほどではない。それに美肌効果をもたらしてくれるというこの

ローションを塗ってくれているのが、他ならぬ謙悟の手だというのが何よりも安心できる理由だ。

「うん……じゃあ、続き。お願いします……」

「ああ、了解」

 とぷん、とさらにローションを手に補充し、首から先を順に塗っていく。胸、乳房、腹部、脇腹。そして両腕と背中に丹念に塗り込み、少し飛ばして

両足を。指の間までしっかりと塗り終えたのは十分近く後で、最後にタオルによって隠されたお尻、そして下腹部が残っている。

「そ、そこは、自分でやりますから……ね?」

 全身隈なく撫でられ、冴霞の身体はぬるぬるに輝いていた。しかしそれ以上に肌は桜色に上気し、吐息もどことなく色気を感じさせている。

 その熱に浮かされたのは謙悟の方だ。薔薇の香りに包まれた最愛の恋人が、最後の最後で自分を拒んでいる。それは恐らく一線を越えてしまう事への

危惧と、その裏に隠された密かな期待感。それは勘違いなどではなく、冴霞が纏う雰囲気と熱っぽい視線から十二分に感じ取る事が出来た。

「……じゃあ、タオルの上からするから。効果は薄いかも知れないけど、何もしないよりはいいだろ?」

 およそ謙悟らしくない、言い訳のような理由。だが冴霞の心と身体はその理由をあっさりと受け入れた。

 もっと触れて欲しい。タオル越しでも構わない。理性など、本当はとっくに手放している。駄目だなんていったのは、謙悟の方から迫ってくれるという

期待を込めた誘惑。ずるい事をしているというのは分かっているけど、それでも。

「はい……それなら、お願い……します」

 ぐっと密着し、謙悟の指がお尻を掴む。タオルなど無意味と言わんばかりに強く、しかし解いてしまう事が無いように優しく。

 もう止めるものはいない。止めるつもりもない。求め合う気持ちは熱い滾りへと変わり、互いの心中の火をより強く燃え上がらせた。

 

 

 

 ちゃぽん、とお湯を波立たせて冴霞が両手を湯の中に沈める。謙悟も同じく手を浴槽に入れて、お互いにある物を取り出す。

 今、二人は浴槽の中で向かい合って入浴している。白く濁った疑似温泉のおかげで完全には見えていないが、それでも身体のラインだけははっきりと

分かる程度の濁り。その中で冴霞は謙悟の足の上にぺたんこ座りをしており、謙悟もそれを拒否するどころか、快諾に近い形で許可していた。

「冴霞、本当に……いいのか?」

「うん……だって、もう謙悟くんも、そうなんでしょう……?」

 熱い吐息。風呂の温度に浮かされてのものではなく、もっと生々しい熱病。互いの手に握り合っているのは、腰に巻かれていたタオル。

「えと……この、あたり? ……きゃっ!?」

「わっ、ご、ごめん……」

 思わず触れてしまったそれに、冴霞が慌てて手を引っ込める。お湯以上に熱くて、ガッチリと硬くて大きく、そして何よりも愛おしい――――。

「だ、大丈夫。いきなりだったから、ちょっとびっくりしただけですから……っ」

 ごくり、と生唾を飲み込む。そして意を決したように謙悟の太ももまで移動し、腰を浮かせて両腕を謙悟の首に絡める。そしてゆっくりと腰を落とし、

謙悟と目線があった所で、謙悟もそっと冴霞の腰に手を回す。

「未熟者ですが、たくさん可愛がらせて下さい……」

「はいっ、謙悟くん。いっぱいいっぱい、愛してね……」

 深い深い口唇の交合。舌と舌が一つに溶け合ってしまいそうなほどのディープキスを合図に。

 狂おしいほどに愛し合う二人の密事は、雲を思わせる白い湯幕の中で行われる――――。



あとがき:

恒例のお風呂の時間がやってきました。
しかし今回は普段のそれとは違い、やや 走り気味。 それもそのはず、今回の主目的は最後にこそあります。
直接の描写は避けました が、一体何が起きたのかは 誰の目にも分かる事でしょう。しかしこれはまだまだ『初日』。
一日目の出来事 に過ぎないわけですから、夜と そして翌日以降はどんな甘味が待っているのか。
想像するだに恐ろしくなります ね(笑)



管理人の感想

あー・・・糖尿病になってしまいそうですね(笑)
というわけで管理人です。鷹さんより、LCの3話を送って頂きました〜。

相変わらず、糖度が半端ないですよねー。しかもまだ一日目。
理性の鉄人、謙悟とはいえども既にノックアウト寸前。でも謙悟以外の男だと・・・果たしてどうなっていることやら^^;
二人とも、良い感じに壊れてきているところが見てて面白いですね。

ではでは、また次回の甘いお話で会いましょう。



2009.7.31