B&G MEMORIAL of SUMMER

BOYS and GIRLS in Long Vacation

 

 

 

 第五フレーム。中盤にして折り返し地点となるこのフレームにおいて、場の空気は少々変わりつつあった。四連続ストライクを達成し浮き足立っていた

継と要もさすがにそれを感じ取ったのか、どことなく居心地の悪い雰囲気に心なしか萎縮してしまう。

「……えっと、な、何かあったんですか? 総志さん?」

 おそるおそる継が尋ねる。すると総志はにっこりと晴れやかな笑顔で、

「いや、なんでもないよ。どうやったら継くんたちや今村さんたちに勝てるかって、作戦を考えていただけだから」

「は……はぁ、そう、ですか……」

 総志の態度は普段と変わりない、穏やかで柔らかなものだ。どこにも変化はない――――というのに、継も要も言い知れぬ不安と不気味さをどこかで拭い

去れないでいた。そしてそれは正しい反応であり、実際のところ総志はどうやったら冴霞に勝てるか、という策を巡らせていた。一見すれば勝負に徹する

上で正しい思考ではあるが、総志にとっては一つの節目が訪れつつあった。

 何度か触れてきたが、総志は視力はそれほど低くはないものの、眼鏡をかけている。その理由は視力の補正という以上に瞳の保護という意味合いが強く、

長く着用していなければ総志自身の健康を害する恐れがある。そして、いくら視力が低くないとは言ってもやはり眼鏡を使用している以上、通常時の視界も

それほど良好というわけではなく、むしろ時間が経つにつれ見え辛くなってくる。

 総志が継とのボウリングにおいて勝てない理由はこれであり――――その限界は、常ならば第六フレームあたりに訪れるものだった。

「(まずいな……このままだと、こっちが不利になるだけだ)」

 抱えている不安。それは少なからず焦りを生み、その焦りが伝染したのか一投目を担う愛の投球は大きく外れ、総志も完全にはリカバリ出来ず、結果は

七本。第二ゲームを通じて初めて、一フレームのスコアが十本に達することがないという結末に至った。

 そして、伝播した悪い雰囲気はこれまで好調だった継にも少なからず影響を与えたのか、カーブボールはストライクコースから大きく逸れ、四番と七番、

さらには十番ピンを残すという難しい形のスプリットを作り上げてしまった。当然、要がそれを回収できるはずもない。せめて良いスコアを残そうと投じた

一球はしかし、緊張と力みから七番ピンにしか触れることなく、一本のみを落としてガターに落ちてしまう。

 だが、悪い雰囲気に支配されつつある場において、ただ一組平静を保っているのは。

「しょっ、と……」

 ボールを抱え、アドレスを決める冴霞。その一連の動作は淀みなく、まるで舞うような優雅ささえあった。

 試合も中盤を迎え、またそれぞれにスコアを崩しつつある状況。集中力を維持し続ければストライクを取ることはそう難しくない冴霞だが、やはり連続で

取り続けることは技術以上に多大な精神力を要する。それも考えて、ワンクッションを置く意味で先程は意図的に軽めの投球にしておいたのだが、思って

いた以上に気持ちが落ち着いたので、この投球以降もリラックスし――――作戦通りに、試合を進めることができる。

 従来ならばやや右寄りに立ち、ストライクコースを狙う冴霞だが、この第五フレームは中央にアドレスを取り。

 ゆっくりと力みなく、それでいてしなやかなフォームでボールを投じた。

 

 

森川 総志

秋月 愛

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8

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1

6

30

58

78

89

96

 

高平 継

柊木 要

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F

1

30

60

87

105

113

 

新崎 謙悟

今村 冴霞

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9

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6

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30

59

79

95

 

 冴霞の結果はストレートからやや緩いカーブ気味に変化し、六番、八番、九番、十番の四本を残す物となり、それを見事に謙悟のストレートボールが回収

することで、再びのスペア達成となった。

 それぞれが徐々に崩れつつある中で、いまだ崩壊を知らぬ謙悟・冴霞ペア。折り返しの第五フレームを終え勝負はいよいよ後半へと差し掛かる。

 

 

35.男女混合十柱戯決戦 G

 

 

「謙悟くん。これから先、ストライクは無しにしましょう」

 時間はやや遡り、第四フレーム投球前。総志・愛ペアが投球を行うよりも少し前になる待機時間中に、冴霞はそう謙悟に耳打ちした。

「え……でも、それだと高平たちや総志さんたちに負けないか? いくら一試合目で一位になってるって言ったって、このペースだと……」

 謙悟の懸念はもっともだ。第三フレーム終了段階で、各チームはすべてストライクを達成している。このままのハイペースで試合が続くようなら、恐らく

各チームともに二百越えを可能とするであろうことは想像に難くない。そうなれば先の第一試合で157を出している謙悟・冴霞ペアであっても、その優位

性を確実に維持するためにはより高い数値を目指すべきだろう。

「いいえ、そうじゃないんですよ。この試合の場合は、一位になることが必ずしも勝利というわけではないんです。秋月さんが言った罰ゲーム……一位の

人に科せられる正体不明の罰則を回避する、という目的の為には、一位イコール勝利という常識は通用しない。つまり私たちは二位を目指すべきなんです」

 カチカチと携帯電話の電卓機能を使って計算をしていく冴霞。二人が二位になり、また総志たちか継たちを確実に勝たせるという目標の為には、仮に継の

場合ならば二十点以上の差をつけて負ける必要があり、総志たちの場合は二十二点以上の差が必要となる。条件的にはどちらも大きな差はないが、勝たずに

負けないという矛盾した目標は正直なところかなり難しいし、謙悟の場合は狙ってスコアを調整するような器用なことは出来ない。

「……確かに、話だけなら分かるけど。でも俺は高平や総志さんみたいにコントロールは良くないぞ? せいぜい真っ直ぐを投げるくらいしか――――」

「それが、何よりの武器なんですよ。ボウリングで純粋なストレートを投げられるって、すごく素敵な武器なんですから。それに今は一人じゃなくて二人で

協力してプレイしているんだから……ね? 私のこと、頼りにして下さい」

 愛らしい微笑みとともに、冴霞がきゅっと謙悟の手を握る。確かに、冴霞のコントロールはかなりのものだ。緩やかなカーブボールと中々の球速。元々、

優れた運動能力を誇る冴霞が自信を持ってそう言うのなら、謙悟としても不安なく信じることが出来る。どのピンを狙って何本を倒すというほどに卓越した

神域の技術はないものの、それを補って余りあるほどに彼女のことを信じられる一番の理由は。

「ああ、疑った事なんかない。俺はちゃんと、冴霞のことを信じてるから」

 謙悟が冴霞のことを疑う余地もなく信頼し、そして愛しているからだ。そしてだからこそ、理解できるもう一つの理由。それを口にしない謙悟の優しさが、

冴霞が謙悟と同じく彼を信頼できる理由でもある。

 

 

 

 第六フレーム。総志はやむを得ずに眼鏡を再度装着し、集中力を手放す代わりに視界の確保をすることにした。愛の投球も落ち込んだ状態の波から回復の

兆しが見え始めたようで、三番、五番、六番、そして九番と十番を倒し、総志もまた気を引き締めて油断のない投球で残ったピンを倒し、見事スペアを達成

させる。だがそれでも、総志の表情は硬く、油断を許していない。

「そーじくん、どうしたの?」

 気遣うように尋ねる愛。総志は心配させまいと愛の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜ、うっすら笑って愛を見下ろす。

「いや、大丈夫だ。取りこぼしがないように、確実に狙っていこうな」

「うん! 頑張るね!!」

 総志の笑顔に安堵したのか、愛もにっこりと笑って、ぐっとガッツポーズを取る。しかし総志は態度とは裏腹に、この先のスコアを計算していた。

 現在、一歩リードしているのは継・要ペアだ。先のミスは多少のダメージにはなるものの、次の投球は継の番。となれば、確実にストライクを狙ってくる

だろう。仮にストライクを取られた場合、苦しくなるのは謙悟・冴霞ペアではなく自分たちの方だ。愛が第一投を担っている以上、ストライクを取ることは

正直、かなり難しい。調子は上がって来ているが、それでも続く第七か、あるいは第八フレームにストライクを取れなければ、二百越えはほぼ不可能。

 無論、最下位になっても罰ゲームの回避は出来るのだが……愛と一緒にプレイして、二度も負けるのは総志としても好むところではない。

 厳しい状況ではあるが、総志に出来ることは愛にアドバイスを与えること。そして何より、彼女を信じてやることだけだ。

 

 

 続く継・要ペアは総志の予想通り、気合満々の継がその得意のカーブボールを駆使して、見事ストライクを達成――――するかに見えた。しかしキレが

良すぎたのか厚めのコースに入ってしまい、難しいコースではないものの九番ピンと十番ピンが残る結果となり、二連続のスプリット。これを回収すれば

スペア達成という状況にプレッシャーを感じたのか、要の投球は九番の左をわずかに掠めるのみに止まり、また九番もグラグラと揺らいだものの、倒すには

至らずに終わってしまった。

「あう……ゴメンね、継くん」

「心配すんなって。次は絶対ストライク取るからよ、そしたら要がミスってもちゃ〜んと俺がカバーしてやっから!!」

 バシバシ、と励ますように要の肩を叩く継。ことこの二人に関しては、愛からもたらされる驚異の罰ゲームを恐れている様子は全くない。彼らは純粋に

このゲームを楽しんでおり、また継の性格からして一位を取ることのみを最大にして絶対の目標としている事を理解している要は、総志や冴霞が何かしらの

作戦のもとにプレイしている様子を察しながらも、継にそれを伝えることはしない。

 自分が得意とするボウリングで、何かしらの策を講じるような無粋を継が容認するとは思えないし、それよりも彼が楽しんでいる姿を見るのが、柊木要に

とっては他の何よりの喜びなのだから。

 

 

 順番が回ってきた冴霞は十ポンドボールを掲げると、ふぅ、と小さくため息をついた。他の女性陣よりも二ポンド重いこのボールはおよそ四.五キロにも

なり――――それが、冴霞がこの作戦を取ったもう一つの理由である。

 女性陣の中では確かに運動能力において突出している冴霞だが、力はそれほど強いと言えるほど強くはない。短時間で何度もこれだけの重さを持ち上げ、

振り投げるのは意外と大変な作業であり、また普段あまり使っていない筋肉を使っているために疲れが来るのも、軽いボールを使っている要や愛より随分と

早かった。だが、それを理由に泣き言を言ったり、謙悟に相談したりしない気丈さは冴霞の美点である。

「(謙悟くんも、きっと気づいてるんでしょうね……)」

 謙悟の手を握った時に、わずかに曇った彼の表情。かすかに震えていた腕の筋肉、その動きを察していたのだろう。それでも何も言わずに続ける事を許し

てくれた彼に応えるために、冴霞はゆっくりと助走をつけて投球する。だが――――

「――――あっ!?」

 投げた瞬間、普段よりも回転がかかってしまった事が分かった。疲れから来る筋肉の緊張、それによる力の加え方の変化。

 明らかな失投は大きな弧を描き、一番と二番、そして五番、七番、八番を倒すという結果を残した。

「冴霞……大丈夫か」

 戻って来た冴霞の右腕をつかむ謙悟。腕は小刻みに震えており、しかしそれは単純に疲労からだけではなく。

「ご、ごめんなさい……本当だったら、右側だけを残せるようにするはずだったのに……」

「そんなのいいから、先に休んでろ……後でマッサージするから。ここは、あとはスペアで良いんだよな?」

 微妙な形のスプリット。しかし幸いにも、一番奥も中央だけが抜けている形になっているので、謙悟が投じるストレートボールならば回収することはそう

難しいことでもない。難しいことがあるとすれば、それは謙悟自身の気持ちの問題になる。

「任せろ。冴霞は……俺のこと信じて、応援してくれ」

「…………はいっ。頑張って、謙悟くん」

 何よりも力になるその一言を受け取って、謙悟が投じた二投目。

 それは第一試合、第二試合を通しての最高速度を更新する問答無用の剛速球となった。

 

 

森川 総志

秋月 愛

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1

6

5

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30

58

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89

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高平 継

柊木 要

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F

1

G

30

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87

105

113

121

 

新崎 謙悟

今村 冴霞

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5

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30

59

79

95

110

 

 さらに加熱する戦い。それぞれが容易く逆転できる状況下において、先んじることが出来るのは果たしてどの組合せか。

 

 

 

 

愛「らぶらぶ?」

継「だなぁ」

総志「余裕あるなぁ」

要「う、羨ましいですけど、場所を弁えてくださいね……?」

冴霞「す、すみません……(マッサージ中)」

謙悟「別にやましい事してるわけじゃないんだが……(マッサージ中)」

総志「まぁ、あと少しでボウリングも終わりそうだし」

愛「大目に見てあげるよっ!」

謙悟「……そりゃ、どーも」

冴霞「い、いたた、いたいですよっ!?」

継「それじゃ、今度はおれたちの番か。要!」

要「う、うん、せ〜のっ!!」

継&要「続きます!!!!」




あとがき:

ゲームにはまったり、PCの再設定や再調整、OS乗せ換えによるデータの破損など、さまざまな
事情もありましたが、ようやくの35話。戦いは激化の一途をたどるも、残すところあと二話くらいで
ボウリング編も終わりが見えて来ました。ノーミス続きの最強ペア・謙悟&冴霞を襲った思いも
かけないアクシデント。ストライクを狙う継と、彼を支える要。負けられないという意識が強い総志と、
お気楽ながらも調子が上がって来た愛。六人の戦いに、どうか最後までお付き合いください!!



管理人の感想

とうとうボウリング対決も終盤戦。
各人、思惑がありながらも、なかなかそれ通りには行っていないご様子ですね。
1位を狙う継・要ペアも、現状では謙悟・冴霞ペアに先を許しているわけですし。
順調そうに見える謙悟・冴霞ペアも、冴霞の腕の調子次第。
さらに逆転を狙う総志・愛ペアも、現状では愛のストライクに期待するしか光明が無く、総志自身もメガネの問題が。
さて、予測が付かない探り合い。さて、結果は・・・?



2009.5.7