B&G MEMORIAL of SUMMER
BOYS and GIRLS in Long Vacation
第四フレーム、第五フレームと消化しながら、徐々にスコアを伸ばしてきたのは要だった。第四フレームはスペアを再び取り、第五フレームでは念願の
ストライク。一方で首位を行く謙悟&冴霞チームも、第四フレームでは冴霞がまたストライクを取りダブル達成。第五フレームは惜しくも九本に終わるも、
まだ首位は譲らない。そして総志&愛チームはあくまでマイペースだが、第四フレーム八本に第五フレームはスペア。こちらも着実にスコアを伸ばしてきて
いる。しかし好調続きの面々の中で、ただ一人不調に陥っているのは最も高い技量をもつはずの高平継だった。
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1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
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1 |
新崎 謙悟 今村 冴霞 |
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E |
3 |
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4 |
5 |
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19 |
28 |
52 |
71 |
80 |
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2 |
森川 総志 秋月 愛 |
2 |
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G |
9 |
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8 |
− |
9 |
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10 |
19 |
37 |
45 |
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3 |
高平 継 |
7 |
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4 |
|
6 |
2 |
4 |
3 |
5 |
3 |
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14 |
30 |
38 |
45 |
53 |
|||||||
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4 |
柊木 要 |
6 |
2 |
4 |
1 |
G |
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7 |
|
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8 |
13 |
30 |
50 |
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スコアを見ればその不調は如実に表れていた。第六フレームの総志&愛の結果を待たずとも、現段階で継は最下位。常であればアベレージ二百を取る事も
出来た継の滑落ぶりは、総志たちも正直驚いていた。しかしそれでも一投もガターに陥っていないのが、せめてもの救いだろうか。否――――いっその事、
ガターを取ってしまった方が気持ちに区切りが付けられたかも知れない。
継の惨状を目の当たりにして、要は彼にさっきまでの自分を重ねていた。勝つ事だけに気持ちを奪われて普段の実力も満足に出せないばかりか、悪い方へ
悪い方へと引っ張られていく。それを打ち破ってくれたのは友の――――冴霞の言葉であり、継にもその言葉をかけてくれる人間はいるはずだった。
敵対関係にある以上、要が継に助言することは許されない。ならば
「その……新崎、くん」
「? どうした?」
情けない声で話しかける要。謙悟は持ち上げた十五ポンドボールをボールリターンに置き、要の方へ振り向く。
「えっと……あたしからだと、継くんも言うこと聞いてくれないから……お願い。新崎くんから、継くんにアドバイスしてあげて。もっと――――」
「悪いけど……それはできない、柊木」
要が願いを言い終えるよりも早く、謙悟の答えが返ってくる。要は愕然とした表情になりながら静かに、しかしはっきりと疑問を伝える。
「どうして……どうして、できない、の……? 新崎くんは、継くんの……ともだち、でしょ?」
「……友だちだからこそ、あいつ自身に気付いてもらわなくちゃいけない。それに、高平の得意分野で、したり顔で俺がアドバイスしたところで、あいつが
俺の言うことをまともに聞くとは思えない。だから……あいつが自分で何とかするか、柊木が手を貸してやるかだと、俺は思ってる」
再びボールを取り、アプローチに入る謙悟。その背中を要はただ見送ることしか出来なかった。
謙悟の言うことはもっともだった。実際、第三フレームの投球時には要もそのつもりでいた。自分の力を見せる事で、自分が楽しんでプレイし続ける事で
継の目を覚まさせる。それが要の考えであり、間接的ではあるが継に『手を貸す』ことにつながると思っていた。
だが、このままでは継はいずれ大失敗をするのではないだろうか。謙悟や冴霞、総志に愛、そして――――他ならぬ、要のせいで。
追い詰めてしまっているのではないだろうか。自分が良いスコアを出せば出すほど、ままならない自分に嫌気が差してしまうのではないだろうか。
決意したはずの答えは揺らぐ。だが時間は無情にも流れ、そしてゲームも進行して行く。
謙悟が投じた一投は九本、冴霞のリカバリが功を奏して結果はスペア。
森川総志の投球は、追い上げの兆しを見せるかのような見事なストライク。
続く高平継の一投目は――――ついに、要が恐れていた結果に終わってしまった。
32.男女混合十柱戯決戦 D
力みが生んだ強いカーブはピンの直前で大きくぶれ、一番ピンの先にわずかに触れた。だがピンは揺れ動くだけで倒れることはなく、またボールは無情に
外側の黒く暗い溝へと飲み込まれていく。
一本のピンも倒すこともなく、一番ピンを倒すこともない。継自身、久しく経験していなかった最悪のミス――――ノーヘッドとガターの同時発生。
その結果に、継は苛立つ以上に呆れていた。まさか自分がここまで落ち込むことになるとは。だが呆れとともに現れたのは焦燥感ではなく、奇妙なまでの
落ち着きだった。
ゆっくりと息を吸って、吐き、この不調の原因を考える。もう何度も考えた事なので答えはすぐに出た。
「要……」
口の中で呟いた名前とともに、彼女を見る。次に備えるためか、あるいは自分を心配してか、要は席を立って自分を見ていた。後者ならばと僅かな期待を
抱いて見た要の表情は、今にも泣きそうにしている。
そんな顔をしないでほしい。本当は笑っているのが似合うのに、要は気がつけばいつも泣きそうな顔をしている。
そうさせていたのは自分だ。いつも自分が馬鹿な事をしてきたから、要は心配そうな顔と泣きそうな眼差しを向けてしまう。
そして今日も。継の不器用なプライドのために、要を傷つけてしまった。
継がペアマッチに反対した理由は謙悟に勝ちたいがため。それは以前にも述べている通り、友人でありライバル(一方通行だが)である謙悟への意識だが、
それ以上の理由がもう一つだけある。
言葉にすれば何と言うことはないのだが、継は要にいいところを見せたかった。
今まで要の前では謙悟との間で惨めなところばかり見せてきた。『ひいらぎ』での一件がその最たるものだ。謙悟が年齢以上に成熟し、また要とも冴霞に
関係することで少々親しくなっていることから、ささやかながら嫉妬心めいたものも抱いている。だからこそ、継の得意分野の一つであるボウリングでその
汚名を返上したかったのだ。
だが結果的にその目論見は失敗し、今もまた要を悲しませている。その後悔がずっと継の心の中で引っかかっており、今はっきりと目に見える形で動揺が
明かされた。
「要……ごめん」
何とか聞きとれるくらいの声で、継が要に声をかける。要はその呼びかけに応じるようにつかつかとアプローチに上り、大きく右手を振りかぶって。
――――ぺちん
鈍く、弱々しい打撃音。否、そもそも打撃ですらなくただ触れるだけの平手。
しかし、その一撃は今までにないほどの痛みを伴って、継の胸に響いた。
「ばか……けいくんの、ばか……」
「うん……ごめん」
「聞こえないよ……あたしだけに言っても、だめだよ……みんなにも、謝らないと」
要の言葉にうんと頷き、継はアプローチを降りて、ギャラリーの四人に深く頭を下げた。
「愛ちゃん、総志さん、今村先輩……新崎。本当に、ごめん。俺のせいでせっかくのボウリング、台無しにして……」
「気にしてないよぉ。これでもっともっと楽しくなるんだからっ。ね、そーじくん?」
「そうだな。まぁ、継くんも反省しているようだし、俺から言うことは何もないよ」
ニコニコと笑う愛と、優しく微笑む総志。
「台無しになんかなっていませんよ。まだまだ、始まったばかりなんですから」
「時間はたくさんあるんだし、な」
冴霞も謙悟も、同様に笑顔で継の罪を許してくれる。彼らの優しさに思わず泣きそうになる継だが、そこはぐっとこらえて。
「――――っ、「ありがとうございます!」!」
要も頭を下げ、継と要の声が同時に響く。そして二人が顔をあげると、四人が拍手をもって歓待してくれた。
「じゃあ、どうする? ここまでの試合は、全部リセットするか?」
謙悟の提案。確かに、ここで一度リセットして最初からペアマッチをやり直す方が時間の無駄にはならないだろう。だが継は首を横に振って。
「いや、このまま続ける。ここから逆転して、次のゲームでは俺と要が完全勝利してやるから、お前に勝ち逃げなんてさせねぇ!!」
「え、継くん、ここから勝つ気でいるの!?」
「無謀だなぁ……新崎くんと今村さんは強敵だよ?」
「継くん、やめた方が……」
愛、総志、要がやんわりと止めに入るが、継はずびしっと謙悟と冴霞の椅子の間を指さして。
「俺に不可能はなぁい!! そこの運動優良ペアを、完全敗北させてやる!!」
いつもの調子に戻って、十二ポンドボールをボールリターンから取ると、早々にアドレスに入った。
「……なんとかしちゃいましたね、高平くん」
「あいつは、ああ見えて結構強い奴だからな。自分で持ち直すんじゃないかって思ってたよ」
要の投球を応援する継の姿を見ながら、謙悟と冴霞は椅子の後ろで手を握り合って話していた。要から相談されるであろうことを見越していた冴霞から、
相談の受け答えを教わっていた謙悟は、正直なところあそこまで突き放した言い方は正直どうかと思っていたが、それでも半分は本音でもあった。
「それで、パートナーの冴霞さん。勝算のほどはいかがでしょうか?」
「そうですね……まぁ、なんとか頑張ってみましょうか。パートナーの謙悟さん?」
そして、第一試合が終了した。結果は以下の通りである。
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1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
合計 |
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1 |
新崎 謙悟 今村 冴霞 |
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E |
3 |
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4 |
5 |
9 |
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8 |
1 |
6 |
3 |
|
7 |
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157 |
|
19 |
28 |
52 |
71 |
80 |
100 |
119 |
128 |
137 |
157 |
||||||||||||||
|
2 |
森川 総志 秋月 愛 |
2 |
|
G |
9 |
|
|
8 |
− |
9 |
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2 |
6 |
7 |
2 |
3 |
|
|
9 |
― |
139 |
|
10 |
19 |
37 |
45 |
65 |
83 |
91 |
100 |
120 |
139 |
||||||||||||||
|
3 |
高平 継 |
7 |
|
4 |
|
6 |
2 |
4 |
3 |
5 |
3 |
G |
|
|
|
|
|
9 |
|
F |
2 |
|
|
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14 |
30 |
38 |
45 |
53 |
73 |
102 |
122 |
139 |
148 |
||||||||||||||
|
4 |
柊木 要 |
6 |
2 |
4 |
1 |
G |
|
7 |
|
|
|
7 |
|
8 |
|
3 |
6 |
7 |
2 |
8 |
1 |
|
128 |
|
8 |
13 |
30 |
50 |
70 |
88 |
101 |
110 |
119 |
128 |
||||||||||||||
第一試合の勝者は、安定した実力を見せた謙悟&冴霞チームとなった。一フレームあたり常に九点を得点し続け、もう一手の決め手があればより高い点を
上げることもできる。それは次回のお楽しみ、というところか。
総志&愛は序盤、第二フレームで愛がミスを犯したのが痛かった。ここさえなければ継を上回るチャンスもあったし、またラスト第十フレームの三投も
全てストライク――――ターキーを決められていれば謙悟たちに勝つ事も出来たはずだった。愛のカバーを優先するあまりに総志が実力を出し切れず、また
実力を出し切れない総志のミスをリカバリ出来るほどの力が愛になかった事が、唯一無二の敗因だろう。
継の最後の投球はスプリットを回収し損ねてのものだ。七番ピンを跳ね返し、十番ピンは落としたものの六番は不動のままに終わり、これによって最後の
三球目に至ることなく幕を閉じた。要も善戦したが、継が復活してくれたことでやや気が緩んだのか、後半はどれもこれもスペアを取り損ねている。
戦いは第二試合へと引き継がれる。今度こそ純然たるペアマッチ。果たして勝利の栄冠は誰の頭上に輝くのか?
継「やっと話に入れるぜぇーー!!」
要「ずっとそわそわしてたもんね」
継「おうよぉ!! ……って、他の皆は!?」
要「気を利かせてくれたみたいだよ。でも継くん、惜しかったね」
継「まぁ過ぎたことは仕方がねぇ!! 次は、要と二人で勝つ!!!!」
要「継くん……そんなおっきな声で(赤面)」
継「というわけで、続きます!!!!」
謙悟「テンション高いっすね」
総志「鬱憤が溜まってたんだろう」
愛「要ちゃん、しゃった〜ちゃんすぅ〜」
冴霞「もぉ……」
あとがき:
第一試合の終了となりました。続く第二試合は、
最初からペアマッチ。
仲直りしたことでより絆が深まったであろう継&要、そしてなんとか首位をキープした
謙悟&冴霞、のんきに楽しみながらも侮れない総志&愛。激化(?)する戦いを勝ち抜くのは
果たして誰か!?そしてボウリング以外にも怪しいネタを考えている作者は一体どうするつもりなのか!?
管理人の感想
祝・仲直りっ!^^
というわけで、やっと(?)仲直りしました、継と要。
それはしっかりとスコアにも表れており・・・結局継は猛追の2位。流石としか言いようがないですね。
そして次は第二試合。純粋なペア合戦。絆が復活した継・要ペア、そしてダークホースともいえる総志・愛ペアに、謙悟・冴霞ペアは果たして勝てるのか・・・?