B&G MEMORIAL of SUMMER

BOYS and GIRLS in Long Vacation

 

 

 

 雷神の如き謙悟の一投に気後れすることなく秋月愛が投じた一投目は、ガターどころかまるで逆の結果を生んだ。右端のアプローチから放たれたボールは

見事なまでのナチュラルフックを得て、ストライクコースからはややズレたものの三番ピンが倒した二番ピンが偶然にも前方へと倒れ、一番ピンを攻略。

残るピンもボールに押されてパタパタとドミノのように倒れ、あれよあれよという間にストライクを成立させた。

「うおっし!! 見た見たそーじく〜ん!! すっとらいくだよ〜!!」

 ダッシュでアプローチから降り総志に飛び掛かるも、総志は椅子から立ち上がることもせずにすり寄ってくる愛の頭をぐりぐりと乱暴に撫でるだけだった。

しかしそれでも愛は嬉しそうにニコニコしながら、総志からの報酬(?)を受け取っている。

 次の投手である高平継はその姿を見ながら、端末に表示されている現在のスコアに目を向ける。

 現在のところ、ストライクを取っていないのは継と要だけだ。まだ中盤前なのでこれから先の展開がどう転んでいくか分からないが、このままのペースで

行けば、謙悟&冴霞のチームが勝つことはほぼ確定だろう。

 冴霞は言うに及ばずだが、謙悟の運動能力もかなり高い。継自身も言っていたが、この二人はまさしく『運動優良ペア』というに相応しいチームである。

 まざまざと見せつけられて改めて実感させられたのは、謙悟のパワーだ。通常、重いボールは投球に力が必要であることは当然のことだが、ボール自身の

変化も強くなりやすい。それをしっかりと制御し、なおかつストレートボールを繰り出せる謙悟の力は相当のものだ。

 また冴霞も、速度も然ることながら、ボールを変更してなおスプリットを回収できる技術を持っている。一本ミスをしたとはいえ狙って当てられる技術が

ある以上、継とほぼ同等のテクニックを持っていると考えるのが妥当だろう。

 そしてもう一組の総志&愛ペア。どちらも個人レベルでは継と総志、要と愛相手にそれぞれ劣っているものの、ペアになった時点で愛のミスを総志が補う

役割が成立している。それが功を奏したのか、先ほどのような好プレーも起こっている。

 その結果という事実が、継のモチベーションを。気持ちを揺れ動かす。

「(何やってんだろうな……俺は……)」

 誰よりも有利な条件だったボウリングという競技。しかし定められたルールに逆らったばかりに、この有様だ。いや、勝てない事以上に要との関係も崩壊

してしまっている今、継に抗う術はなかった。

 その心を象徴するように、一投目は三番、五番、六番、八番、九番、十番の六本を倒したものの、すでに得意のカーブボールのキレも落ちていた。そして

二投目はガターにこそならなかったものの、一番と二番をかすめるだけの当たり。ノーミスも崩れ、継は大きくため息をついてディスプレイに映るスコアを

確認した。

 

 

 

 

新崎 謙悟

今村 冴霞

 

E

 

19

28

 

森川 総志

秋月 愛

 

10

19

 

高平 継

14

30

38

 

柊木 要

 

13

 

 この後に続く第四フレームの結果次第ではあるが、明らかに調子を落としている継がこのまま謙悟たちと拮抗できる可能性は低いだろう。そして場合に

よっては、総志たちに抜かれることも有り得なくはない。しっかりと勝敗にのみ気持ちを割り振らなければ、勝ちは望めない。

 続く投手は現在最下位の柊木要。そしてその投球が終われば――――試合は中盤へと差し掛かる。

 

 

 

31.男女混合十柱戯決戦 C

 

 

 

 女子トイレの洗面台にもたれかかって、要は彼女を見上げていた。

 今村冴霞。陽ケ崎高校において彼女の名を知らない生徒はおらず、また要にとっては既に大切な友人の一人だ。その彼女に連れられてトイレにやって来た

が、二人は何をするでもなくただ無言で向き合っていた。

「…………先輩。あたしもう、行かないと。継くんの番が終わっちゃいますから」

 戻ろうと背を向けた要の言葉に、冴霞はただ頷く。そして今まで閉ざしていた形の良い口唇が、ゆったりと開かれた。

「いつまで、高平くんのことを怒ってるんですか?」

「――――っ」

 たった一言。だがその一言だけで、再び要は硬直する。冴霞は一歩距離を詰め、要の肩に手を置いた。

「私には、高平くんの性格はよく分かりません。そして要さんと高平くんの、今までの事も。だから……」

「だったら、黙っていてください!! これは、あたしと継くんの問題なんだから!!」

 涼やかな冴霞の声を切り裂く、悲鳴のような要の声。しかしそれで冴霞が動じることはなく、肩に置いた手に力を込め、要に触れる。

「そう、要さんと高平くんの問題。だから、私なんかが介入できる問題ではないことは重々承知しています。けれど、少しくらいは手を貸させて下さい。

だって私たち、友だちでしょう? ずっと支えていることは出来なくても、こうやって手を添えることくらいは……ね?」

 振り払うのは簡単だった。冴霞の手を払って、振り切って、関係ないと断じてしまうこともできた。冴霞の手はその程度にしか触れていなかったのだから、

要がその気になれば容易い事だった。しかし。

「あたし……あたし、継くんに勝てれば、継くんがあたしのこと、認めてくれるって、思ってました……でも、もし勝てなかったら……」

 不安を吐露する要。たしかに、現在の段階で要の順位は最下位だ。これから逆転の機会もあるかもしれないが、厳しいということに変わりはない。

 無論、要自身もそれは分かっている。このままのペースで続けていけば、おそらく先にあるのは敗北の二文字。そして敗北を迎えた後に、継とどう向き

合えばいいのか、要はそれを恐れていたのだろう。だからこそ、冴霞からの協力の申し出に応じた。

「要さん。私は謙悟くんのパートナーです。だから直接手を貸してあげることはできません。私が要さんに手を貸せるとしたら、私と謙悟くんが勝つくらい

しかない。でも……要さんがここから逆転するには、もう一つ手段があるんです」

 思いがけない冴霞の言葉に、要はばっと振り向いた。目元にはわずかに涙を浮かべており、冴霞は初めて見る要の涙に驚きながらも、そっとハンカチで

悲しみの雫を拭い去る。

「それって、どんな方法なんですか……?」

「とても簡単なことですけど、とても合理的じゃない方法です。でも私は、陸上をやってた時はこの方法を使ってました。だから、試してみる価値は……、

ちょっとくらいはあるかもしれませんよ?」

 ぴ、と指を立てて可愛らしくウインクする冴霞。その仕草に思いがけずドキッとしながらも、要は冴霞の提案する方法を聞くことにした。

 何故なら、要も知っていた。目の前にいるこの今村冴霞という女性(ひと)が、かつては中学陸上界におけるトップアスリートの一人だったということ。

そして彼女が打ち立てた県内記録は今も破られていないということ。その冴霞が取っていた方法ならば、ちょっとどころの騒ぎではないのだから。

「…………って、本当にそれだけなんですか!?」

「はい。ね? 全然合理的じゃないでしょう? むしろ精神的なものオンリーですから、自分でもすっごく非効率的だと思ってます」

「は、はぁ……でもそれで勝ってたわけですから、やっぱりそれは冴霞先輩の陸上の才能なんじゃ……」

「でも、何かを始める時に、才能は理由にならないんです。たとえ才がなくても人には力がありますから。物事を追い求め、努める力。それを人は努力と

言うんです。要さんだって……素敵な夢に向かって努力しているじゃないですか?」

 要の夢。それは母と同じ、パティシエールになること。生まれついた環境であったとはいえ、要の夢は要自身が選んだものだ。母に強要されたわけでは

ないし、天賦の才があったわけでもない。

 目指したのは、ごくごく単純(シンプル)な理由。お菓子作りしている時に感じる気持ちと、食べてくれる人の笑顔が見たいから。

 冴霞が伝えたのはその気持ちの方。どんなものも、まずはここからスタートする。その為に要がすべきことはまず――――。

 

 

 

「遅かったな」

 急ぎ足でレーンに戻った要には話しかけず、後から出てきた冴霞の背中に声をかけたのは、新崎謙悟だった。冴霞は謙悟の顔を下から見上げると、唐突に

くすっと笑みを漏らす。

「なんだよ?」

「いえいえ。女子トイレの前でずっと待ってるなんて、恥ずかしかったんじゃないかなぁって思って」

「…………分かってるなら、早く説得して来て欲しかったんですけどね」

 珍しく不満を顔に出し、人目も憚(はばか)らず冴霞の頭を抱き寄せる。とはいえ、夏休み中ではあるが平日のスポーツセンターに来客は少なく、強いて

見られるとすれば店員からくらいだが、わざわざ女子トイレを注視するような人間はそうそういない。

「それで、上手くいったんだよな?」

「まぁ、それなりに。あとは要さん次第ですけど、きっと大丈夫ですよ。私たちも負けないように、頑張らないと」

「だな。……ったく、高平の馬鹿が厄介なこと言わなかったら、こんな苦労しないのに」

 溜息を吐く謙悟。そしてそのまま視線を自分たちがプレイしているレーンのディスプレイに向ける。

 要の一投目はすでに終わっており、結果はガターだった。その表示にがくっと肩を落とし、謙悟は冴霞を見下ろす。

「初っ端から失敗してるんですけど!?」

「ええ。だって、最初の一球目はとりあえず思いっ切り投げるって言ってましたから。本番は二投目です」

 聞こえてくる快音。そしてディスプレイに再び表示されるのは「SPARE」の文字。第一フレーム、第二フレームと取りこぼし続けていた要が、初めて

一投で全てを制したという証明である。

 

 

 

「っ!」

 ぐっ、とガッツポーズを取り、そのまま帰還する要。拍手で迎えてくれているのは愛と総志だけで、継は何とも言えない微妙な表情をしていた。

 だが、今はそれでいいと要は割り切り、アプローチを降りる。これで少なからず要にも勝機が見えてきた。

 

 

 

 

新崎 謙悟

今村 冴霞

 

E

 

19

28

 

森川 総志

秋月 愛

 

10

19

 

高平 継

14

30

38

 

柊木 要

13

 

 横一列、とはいかないまでもそれぞれのスコアは接戦の様相を呈して来ている。ギャラリーに戻った冴霞は早速十ポンドボールを持ち上げ、アプローチに

入る。その後ろ姿を見ながら、要は心の中でつぶやく。

「(先輩……ううん、冴霞さん。あたし、頑張ります。冴霞さんが教えてくれたこと……楽しむ気持ち、忘れないから)」

 冴霞が要に伝えたことは、当たり前すぎるほどに当たり前なこと。だがそれ故に、忘れがちなこと。

 物事を始めるきっかけは才能ではない。その物を好きになり、楽しむこと。要もお菓子作りをしているときは、いつも楽しい気持ちで作っていた。そうで

なければ美味しいものは作れないし、食べてくれる人を喜ばせることも、喜んでくれることを自分が喜ぶことも出来ない。

 今その事を何よりも理解し、このボウリング対決を楽しんでいるのは愛だ。彼女は本当に勝ち負けなどどうでもよく、ただ純粋に楽しんでいる。逆に勝利

のみに固執し、ただそれだけを求めているのは継だった。

「(思い出させて見せる。継くんが今、忘れてること……あたしがきっと、思い出させるから!!)」

 

 

 

 

謙悟「なんだか、スポ根になってきた?」

冴霞「どうでしょう? 純粋なスポ根とは大分違いますけど」

愛「熱血してるのは確かだよね〜」

総志「話の流れからして、今回も継くんはここに絡めそうにないね」

要「継くん、おあずけ!! な〜んちゃって♪ では、続きます!!」

継「…………くぅん」




あとがき:

話自体はほとんど進んでいませんが、 要が決意を新たにするための重要な
話だったので一話費やさせて頂きました。どんなものも、楽しまなければ意味はない。
ただ勝つだけでは不十分という事に気付けた要と、その事を忘れてただ勝利によって
取り戻そうとしている継。二人の方向性の違いが明暗を分けることでしょう。


管理人の感想

というわけで、BGM31話をお送りして頂きました^^
今回は、冴霞と要の女の友情が目立った話でしたね。
もう後には引けない要と、そんな彼女をやんわりと諭す冴霞。それが、踏み込んではいけない領域であると知りつつも――。
そして調子を上げてきた要に対し、逆に調子を落としてきた継。もしや来週は、謙悟と継のピロートークが!?(笑)



2009.2.1