B&G MEMORIAL of SUMMER

BOYS and GIRLS in Long Vacation

 

 

 

 柊木要はどことなく緊張した面持ちで、アドレスを決めてボールを掲げた。八ポンドボールの重さは腕にしっくりくる重さで、そう感じるだけの回数を

このボウリング場で何度となく繰り返してきた。

 その理由は言うまでもなく継や、もう一人の幼馴染である山崎薫、そして継の兄である高平弌(はじめ)や、幼い頃から親しく、また先々月の六月に弌と

結婚した蘆原(あしはら)瑞希などを交えて、もう数え切れないほどボウリングをプレイしてきたからだ。だが要のスコアは決して芳しい物ではなく、継に

まともに勝負と呼べるだけの勝負を演じたことは少ない。何より要は継の言った通りにスポーツ全般が得意ではない。だがそれでも、今だけはそのハンデを

乗り越えて、継と闘わなければならない。

 

 小さい頃から、要は継の後ろについて行くことが多かった。よく転ぶし、泣くし、幼いながら継もそんな要に少なからず愛想を尽かしていた所もあった。

 実際、要にもそう思われているという自覚はあった。母親同士が知り合いだったこともあり、表向き二人は良好な幼馴染関係に見えていたが、継が自分を

疎ましく思っているという事も、幼いながら――――いや、幼いからこそ、無意識に察することができた。

 だがその関係に転機が訪れる。要と、そして継にとって何よりも辛く、悲しく、痛ましい出来事。

 継の母、高平遼子の死。

 世界が終ってしまったかのようなあの雨の日。壊れてしまいそうに弱く、儚く、触れれば砕けてしまいそうなほど打ちのめされた継に、要は言った。

『あたし、もう泣かないから。けーくんのこと、ずっと泣かせないから。そばにいて、けーくんのこと……守るから……』

 その誓いは、永遠のもの。例え遠い未来に継が自分から離れるとしても、要はその誓いを守ろうと決めた。

 時の流れとともに、継はやがてその約束を忘却した。それが己の心を守るための自己防衛本能であり、要はそれでも誓いを頑なに守った。

 それが報われたのかは分からない。だが、継と要がただの幼馴染ではなくなったのは、継自身が要との誓いを思い出したからだ。要に守られ、救われ続け

ていたという事に気付き、今までどれだけ要に甘えていたのかを知ったからだ。だからこそ、二人は一緒にいられる。

 だが、継は――――大切であるはずの要を、肝心なところで『恋人』ではなく『幼馴染』として扱ってしまった。

 互いに支えあうべき恋人ではなく。協力者としての幼馴染として。

 そしてその実力は、自分の相棒としては不十分だとして。

 だから、要は見せなければならない、と思った。

 どんなに実力に開きがあったとしても。どんなに運動音痴であったとしても。

あたしは、継くんを支えられて――――継くんに負けないくらいに、頑張れるところを、見せなくちゃいけない。

 

 助走の後にボールが投じられる。速度は速く、しかし曲がることなく一直線に突き進むボールは、わずかに右寄り。

 快音。そして倒れ行くピン。その数、実に六本。

 要の第一投は、継にわずかに及ばぬ数字からスタートした。

 

 

 

30.男女混合十柱戯決戦 B

 

 

 

 残ったピンは二番、四番、七番、八番の四本。要はそれを全て落とそうとアドレス位置を変更し、二投目を行う。しかし力みが生んだ強いフックは狙いを

逸れ、四番と七番に当たった後はガターへと落下。要の第一フレームは八本となり、結果は以下の通りである。

 

 

 

 

新崎 謙悟

今村 冴霞

 

 

森川 総志

秋月 愛

 

高平 継

 

柊木 要

 

 総じてレベルの高い出だしだが、まだまだ試合は始まったばかりだ。そして第二フレーム第一投目を担うのは、冴霞がストライクを取ったために女子と

男子の順番が入れ替わり、本日初投球となる新崎謙悟である。

「謙悟くん、頑張ってくださいね!!」

「ああ。行ってくる」

 冴霞の声援を受けて、ボールリターンから青のボールを取る。男性用にと用意していた十二ポンドボールだ。約五.五キログラムのそれを謙悟は軽々と

持ち上げ、レーンの真ん中にアドレス位置を決める。

数年ぶり……正しくは中学一年生以来なので、謙悟にとっては実に四年ぶりになるボウリング。当時もあまり上手とは言えなかったが、これだけの長い

ブランクがあればハイスコアを出すことはおそらく無理だろう、と判断したが故の位置取りだ。

 ゆっくりと助走し、振り子の力を強めてボールを投げる。しかしてその球速は、これまでの六人の中で最速にして強力。

 放たれた剛速球はほとんど曲がることなく一直線にピンを打ち抜き、見事に中央のピン六本を跳ね飛ばし、四番、六番、七番、十番ピンを残した。

「あー……スプリットになっちまった」

「これは、難しいだろうな」

 継と総志が言う通り、この位置での回収は困難な物の一つである。ボールだけでスペアを取ることは絶対に不可能である以上、投手はボールコントロール

だけではなく当てたピンを跳ね飛ばして、別のピンにまで当てて倒さなければならない。そしてそれを行うのは、謙悟のパートナーである冴霞だ。

「悪い、せっかくストライク取ってくれたのに」

「気にしないでください。それに、そこまで自信はないですけど……なんとか、やれるだけやってみますから」

 そう言うと、冴霞は店で用意されているハウスボールが並んでいる棚から、新しくボールを一つ持ってきた。重さは女子用に用意した八ポンドボールより

重い、十ポンドボール。アスリートとして活躍していた冴霞にとって、この程度の重さならば苦もなく扱えるというのもあるが、これを選んだ何よりの理由は。

「さっきのボール、ちょっと軽くて。今だったら、多分これくらいの方が良いスコアが出せると思いましたから」

「その軽いのでストライク取ったって、どんだけ運動神経良いんですか、あなたは……」

 苦笑する謙悟。冴霞もくすっと笑って、ボールを掲げてアドレスを決める。第一フレームの時よりもさらに少しだけ右側に立ち、そこで一つ深呼吸。

 謙悟の手前ああ言ったものの、確率的には三割強というのが冴霞の見立てだった。冴霞自身、ボウリングの経験はやはり彩乃や巴と何度かしたことがあり、

その中でも同じようなシチュエーションは当然あったが、上手く行かないことの方が多かった。

 だが、だからといって諦めていい道理などない。謙悟と二人で協力し合っているのだから、謙悟が失敗したら彼のフォローをするのは冴霞の役目だ。なら、

ここで確率云々を理由に諦めることなど、ただの逃げでしかない。

「はぁ……――――っ!!」

 大きく息を吸い、助走。そして狙うは六番と十番。フックを掛けた投球は右から左へとその球筋を変化させ、ピンの間を打つ。ボール自体の重量の増加と

十分な速度もあり、強い衝撃に従って左方へと跳ねたピンは四番ピンを叩き、叩かれた四番ピンはバランスを崩してその場でくるくると回転する。それが

後方へと倒れれば、七番ピンを倒すことも出来る。

 ――――しかし、その目論見ほどに上手くはいかなかった。四番ピンは倒れたものの、ピンは後方ではなくガターの方へ横倒しになり、七番ピンには底が

わずかに触れただけに終わった。七番ピンは倒れることなく、結果九本。謙悟・冴霞チームの第二フレームはこれで終了となる。

「……ごめんなさい。スペアには出来ませんでした……」

 しゅん、としょぼくれて帰ってくる冴霞。だが謙悟は冴霞の乱れた髪をささっと整えると、ぽんと肩を叩いた。

「十分だよ。俺があんなミスしたのに、冴霞のおかげで助かったんだから……ありがとう」

「ん……はいっ、どういたしましてっ」

 ぱん、と互いの手を叩き合って、賞賛しあう二人。そこへ次の投手である愛がやってきて、ニヤニヤと携帯を構え、断りもなくシャッターを切る。

「う〜ん、らぶらぶさんですねぇ、センパイと新崎くん♪」

「なっ……あ、秋月、お前っ!?」

 謙悟が手を伸ばそうとするが、愛はすかさず八ポンドボールを構える。アドレスに入った選手がいるアプローチで、選手以外が残っているのは基本的に

マナー違反だ。その程度のことは謙悟も知っており、伸ばした手を仕方なく下ろすと、冴霞と一緒にアプローチを降りてギャラリーに戻る。

「済まないね、うちの馬鹿が」

「いえ……」

「別に、いいですけど……」

 総志からの謝罪を受け、渋々ではあるが愛の行為を許してしまう謙悟。だがその一方で、謙悟と冴霞のことを見つめているのは、継と要だった。

 どうして、自分たちはあの二人のように出来ないのだろう。ずっと一緒にいたのに、誰よりも相手のことを知っているはずなのに、恋人同士なのに。

 ――――新崎くんと冴霞先輩の信頼関係は、付き合い始めて二か月も経っていないカップルのものとは思えない。もう何年も連れ添った夫婦のように確か

で、深く、強い絆がある。そしてきっと、総志さんと愛ちゃんにもそれは通じるものでもある。

 ――――俺たちは、一体何をしているんだろう。本当だったらすぐにでも仲直りが出来るはずなのに。手を伸ばせば触れられるだけの場所にいるのに。

要のことを、大切に思っているのは確かなはずなのに。

 一度生まれた齟齬は噛み合わず。しかし時間は無情に進行し続ける。

 

 

 

 第二フレーム、愛・総志チームのスコアは九本に終わった。愛は見事この試合初のガターを成し遂げ、総志から脳天チョップを頂戴した。総志もリカバリ

には苦労したものの、八番ピンを残して九本を落とす。

 迷いを抱えたままの継は、得意のカーブボールで一投目、六番・八番・九番・十番ピンを落とし、二投目で無難にスペアを達成。ストライクこそないが、

唯一ノーミスでつなぐことができた。しかし普段の継からすれば明らかに不調である。好調時の継ならば例え第一フレームからでもストライクを取ることは

そう難しくないというのに。

 そして要も、やはり普段以上にスコアは良くなかった。一投目は真ん中を抜き、一番、三番、五番、そして九番を落とすも、二投目は左寄りのアドレスが

失敗したのか、七番ピンを落とすのみとなった。結果は五本。現時点で最下位である。

 

 

 

 

新崎 謙悟

今村 冴霞

 

E

19

28

 

森川 総志

秋月 愛

10

19

 

高平 継

14

 

柊木 要

13

 

 しかし勝負の行方はまだ分からない。続く第三フレームは第二フレーム開始時と同じく、謙悟の番となる。だが謙悟が持ってきたボールは今まで用意して

いた十二ポンドボールではなく。

「新崎、お前……そんなもん使うのかよ?」

「ああ。やってみて分かったけど、十二じゃちょっと軽いんだよな。だからこっちを使わせてもらう」

 レンタルのハウスボールでは最も重い、十五ポンドボール。約六.八キロにもなる、重量級ボールだ。謙悟はそれを事も無げにあっさりと持ち上げると、

事前に冴霞から受けていたアドバイスに従って気持ち右寄りにアドレスを決め――――助走とともに、力強い投球を繰り出す。

 一切曲がることのない、完璧なストレートボール。理想的なストライクコースに突き刺さったボールは完膚なきまでにピンを跳ね飛ばし、蹂躙し、チーム

二度目となるストライクを達成した。

 

 

 

 

愛「ふわ、すっご……がしゃぁ〜んだって!!」

総志「凄いペースだね、新崎くんたちは」

要「うぅ、か、勝てないかも……」

謙悟「まだ分からないだろ、ひょっとしたら……なぁ?」

冴霞「ええ。要さんが勝つかもしれませんよ? 頑張りましょうね!」

要「は、はいぃ……」

愛「でも今のすごいの見て、頑張れる人っているのかなぁ?」

継「…………(そわそわ)」

総志「いい加減、会話に入りたそうにしてる人がいるけど……無視して続きます」

謙悟・冴霞「「酷いっ!?」」




あとがき:

第三フレーム一投目までですが、遂に30話にまで到達しました。しかし関係なく
物語は進行していきます。謙悟・冴霞ペアが強力無比な実力を見せる中、仲違いを
している継と要の距離はさらに離れてしまう。要の気持ちを知りながらも歩み寄れない
継と、頑張りが空回りして報われない要。このまま二人は敗れてしまうのか!?


管理人の感想

第30話をお送りして頂きました〜^^
2フレームまで終了しましたね。ここまで謙悟と冴霞が一歩リードといったところですが、それでもまだゲームは序盤。逆転はまだまだ可能ですね。
とはいえ、愛が足を引っ張りまくっている総志ペアと、仲違いをしたままの継・要。
彼らに逆転の目は出るのでしょうか?・・・次回、要が覚醒する?(笑)

それでは!



2009.1.24