B&G MEMORIAL of SUMMER
BOYS and GIRLS in Long Vacation
開始前から波乱の様相を呈しているボウリング対決だが、さておき順番を決めない事にはその勝負の始めようもない。謙悟・冴霞と総志・愛の両チーム
からは冴霞と総志がそれぞれ代表として出て、チーム分断の結果シングルとなった継、そして要がそれぞれジャンケンをし、三回ほどあいこを繰り返して
ようやく順番が決まった。
「じゃあ、私たちが一番ですね」
勝利を決めたチョキをそのままVサインにして、にっこりとほほ笑む冴霞。それを受けて愛がスコアシートの順番を調整し、結果は以下のようになった。
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1 |
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合計 |
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1 |
新崎 謙悟 今村 冴霞 |
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2 |
森川 総志 秋月 愛 |
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3 |
高平 継 |
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4 |
柊木 要 |
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「ん。入力しゅーりょーっと。それじゃあ……さっそくスタートしますよぉー」
入力画面を閉じると、画面が自動計算画面に切り替わる。これはスコアと投球速度のみが表示される状態であり、画面下のメニューボタンを誰かタッチ
しなければ手動での操作は出来なくなっている。
トップバッターである冴霞はぐいっと背伸びをし、そのまま軽い柔軟運動を行う。前屈は指先どころか手のひらまでべったりと地面に着くほど柔らかく、
長い黒髪もその姿勢に合わせて床に落ちる。そして腰を二、三度回し、腕も回し、最後に軽く跳躍をして、ようやく準備運動は完了だ。
「センパイ、すっげー柔らかいのな。要だとああはいかねぇよな?」
ギャラリーになっていた継が要に問いかける。すると、少し離れたところに座っていた要はこれ見よがしに継との距離を置き、彼からの問いかけには何も
答えずにつん、とそっぽを向いた。
「……なぁ、悪かったって。俺もついムキになっちまっただけなんだから」
「つい、ね…………でも、それって本音でもあるんだよね? だったら、やっぱりあたしは継くんとは組まないよ。継くんには絶対負けない」
言葉は向けるものの、要は終始、継の方を見もしなかった。自分が悪い、という自覚がある以上、感情的な発言でなし崩しに解決させる事も出来ない継は、
これ以上はどうする事も出来ないのか、と半ば諦めたように溜息を吐く。
こうなった以上、継に出来る事は言葉での説得ではなく、結果を見せつけての実力行使くらいだ。負けない、といった要を負かすことが出来れば、彼女も
納得してくれるだろう。そしてその条件は、継にとって全く問題にならないほどに容易いことでもある。
確かに先程の態度は、振り返ってみれば自分でも情けないものだ。だが継にとってはそれなりに重要な事でもある。その理由は――――謙悟だ。
謙悟と継は、知り合ってからこれまでで何度か衝突を起こしている。『ひいらぎ』での交流、海での一幕。遡れば授業時間中のサッカーのミニゲーム。
それら全てにおいて、継は謙悟との対決で一度も勝利した事がない。肉体的なものから、精神的なものまで、全て。ただ、以前のように一方的な嫌悪に由来
するような敵愾心は既になく、謙悟に対しては一度も言った事はないが、『友だち』として競い合うような関係が築かれている。そして時には謙悟と、彼の
恋人である冴霞のために奔走するような、友情に厚い一面もある。
普段はどこかいがみ合うような雰囲気を持ちながらも、肝心な時には手を差し伸べる関係。言うなれば『強敵』と書いて『とも』と読ませる、おそらく
そんなライバル関係というのが適当だろう。くれぐれも、ツンデレとか言わないように。
「ではでは! 今村センパイ、お願いします!!」
「はいっ!!」
愛の合図を受けて、既にアドレス位置に立っている冴霞がぐっと力を入れる。気負っている様子もなく、中心よりもわずかに右寄りのアプローチ。球筋が
ストレートであれフックであれ、高得点を狙いやすいストライクコース。
オーソドックスな四歩助走と、滑らかな投球。早めのボールは理想的なコースをたどり――――心地よい快音とともに、男女混成チーム戦の幕は、切って
落とされた。
29.男女混合十柱戯決戦 A
第一フレーム、トップバッターである冴霞の投球は、文句無しのストライクに終わった。球速も時速二十四キロと速く、また開始を告げるという意味でも
申し分のない結果だ。冴霞は少々乱れた髪を手でサッと払うと、迎えに来てくれていた謙悟と手を打ち鳴らせる。
「ナイスストライク。冴霞、上手いんだな」
「ありがとうございます。久し振りだったから、ちょっと不安でしたけど……良かったです」
まだ少し乱れている髪を謙悟に直してもらってから、冴霞はギャラリーの席に着いた。謙悟もその隣に座り、天井から吊り下げられているモニターを見る。
燦然と輝く『STRIKE』の文字。運動神経抜群である冴霞ならばもしかしたら、とは思っていたが、期待通りの結果を叩き出してくれた事は素直に嬉しい。
謙悟自身もボウリングはかれこれ数年プレイしていないが、冴霞と二人ならば勝つ事も出来るだろう。
だが勝ち負けを論じるよりも、謙悟には……いや、謙悟だけではなく冴霞にも、気がかりな事があった。言うまでもなく継と要の事である。彼ら二人は、
既に謙悟にとっても冴霞にとってもかけがえのない友人だ。彼らのおかげで今の関係に至ったと言っても良いというのに、その二人が諍いを起こしていると
なれば、今度はこちらが彼らを助けてあげなければならない。その為には――――要が勝つようにしなければならない、というのが謙悟と冴霞の共通見解
だった。そしてそれが、おそらくは困難なものであるという事も、二人はちゃんと理解している。
「じゃあ二番手! 秋月愛、行きま〜す!!」
意気揚々とアドレスに向かう愛と、早速ウォーミングアップの柔軟を始める総志。その姿を疑問に感じた謙悟は、控え目に尋ねる。
「えっと……秋月ってボウリング、あんまり上手くないんですか?」
「ん? ああ、見てれば分かるよ」
にこりともせずに、どこか冷めた感じの答え。それだけでも何となく結果が見えてしまった謙悟だが……結果は予想を裏切らず、愛の投球は速度の方は
それほど遅くもないものの、あろうことかガターぎりぎりを綱渡りのように直進し、十番ピンにかすり、なんとか倒れた十番ピンが九番ピンを倒し、結果
わずか二本で終わった。
「…………」
「え、えっと……」
「いや、分かってる。無理に褒めようとしなくて良いから、今村さん」
諦めたように溜息を吐きながら、わずかにズレた眼鏡のブリッジを押し上げると同時にレンズが怪しく光る。
「や〜、ごめんね総志くん。あとお願いねっ!」
悪びれることもなく爛漫な笑みとともに帰還する愛。総志は何も言わずくしゃっと愛の髪をなでて、ボール片手にアドレスに入る。
「秋月、お前ボウリング下手だろ」
「うん。それがどうかしたの?」
謙悟の問いを愛は当たり前のように、あっけらかんと肯定する。だが謙悟は愛のその答えに、やはり疑問を感じられずにはいられなかった。
「じゃあなんで、わざわざ苦手なボウリングなんだ? 遊ぶんなら、他にいくらでもあるだろ?」
「ん〜、それもそうだけど。でもさ、みんなでワイワイやって楽しめるものって言ったら、限られるでしょ? 身体動かして、みんなで喜んだりして、比べ
あって。そういうのが出来るのって考えたら、近場ではココくらいかなぁって思ったの。それにあたし、ボウリングは下手だけど嫌いじゃないもん」
快音が響き渡る。総志が投じた二投目は鋭いフックボールであり、愛が倒し損ねた残り八本のピンをすべてなぎ倒し、見事スペアを達成した。その結果に
満足したのか、愛は帰還した総志に駆け寄り、しかしハグはさせまいと総志の腕が愛の頭を押さえつける。
「人前でするなって言ってるだろうが、お前はっ」
「だってぇ〜、嬉しいんだも〜ん!」
ベタベタしながら戻ってくる二人。謙悟も冴霞も、自分が知っている『森川総志』という人物からかけ離れた姿に少々驚きながらも、愛の言葉はしっかり
胸の中に残っていた。
「秋月さん、勝ち負けにこだわってないんですね。みんなが楽しむことだけを考えて……あえて、自分が不得意なことをしようと思うなんて」
「ああ、誰にでも出来ることじゃない。でもそれをあっさりやってのけるのが、秋月の凄いところなんだろうな……下手だけど」
「もぉ、今村センパイも新崎くんも、下手下手言わないでよぉっ!!」
「でも仕方ないよ。愛ちゃん、あたしより下手だもん」
今まで継とのことでどこか鬱屈としていた要も、愛のふくれっ面に耐えられなくなったのか、いつもの調子に戻って会話に参加してきた。それを言及せず、
謙悟たちは要の参加をすんなりと、当たり前のように受け入れる。
「要ちゃんまで〜〜! いいもん! 下手でもそーじくんがフォローしてくれるもん! ね!?」
「…………物理的に不可能なことを言われると、俺も困るんだがな、愛?」
「森川先輩、酷い!」
「総志さん容赦ないですね!?」
賑やかに、楽しく笑い合う五人。しかしその中に加わることをせず、ただ一人孤独にアドレスに入る継。話に入る機を逸したということもあるが、仮にも
今はいがみ合うような間になってしまった要があんなに楽しそうにしているのだから、ここは放っておいてやろうというのが、敵対関係になってしまった
継からのささやかな気遣いだった。
無論、それを間違いだと断じることはできない。だが、継の決意がもう少し緩ければ。継に今一歩の勇気と行動力があれば。
すぐにでも、要と仲直りすることが出来たというのに――――。
「ふっ!!」
気合いの呼吸とともに投じられるボール。冴霞の立っていた位置よりもさらに外側から投じられたボールは、鋭いカーブとともにピンをなぎ倒し、完璧な
ストライクを達成した……かに見えた。
だが継自身の心の内を現したのか、力強いボールは回転力も上乗せされた分、普段よりも大きくカーブし、六番、九番、そして十番ピンを残してしまう
結果となった。
「――――くそっ」
小さく無念を吐き出す継。しかしすぐにボールリターンに置いてある十二ポンドボールを取ると、要たちには見向きもしないで再び構える。だからやはり、
継には気づく事が出来なかった。
ずっとそばにいた彼女が……柊木要が、以前の彼女のような。
継にとって大切な、しかしそれを乗り越えるために忘れようとしていた、母の死から生まれた哀しみの過去をひた隠しにしてきた頃の、いつも涙を堪えて
いた悲しげな表情で継を見ていたことを。
第一試合、第一フレーム途中結果
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1 |
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1 |
新崎 謙悟 今村 冴霞 |
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2 |
森川 総志 秋月 愛 |
2 |
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3 |
高平 継 |
7 |
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4 |
柊木 要 |
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要「はぁ……」
冴霞「よかったですね。高平くん、ちゃんとスペア取れましたよ?」
要「え!? べ、別に心配なんかしてませんよ!?」
愛「あぁん、要ちゃんってばテンプレのツンデレだ〜」
冴霞「つんでれ?」
愛「はい〜。普段は素っ気ないふりをしてるけど、ホントはその人のことが気になって仕方がない人のことです〜」
冴霞「はぁ……つまり、謙悟くんに突っかかってくる高平くんのことですね?」
要「あ、それは正しいかも」
総志「あんなこと言ってるけど、いいのかい?」
謙悟「いや、よく分からないですし。とりあえず続きます」
総志「冷たいなぁ」
あとがき:
遂に決戦の火蓋が切って落とされました、ボウリング対決。そして同時に進行する
会話によって明かされる、愛の狙い。天然ではあるけれど、空気は読める。そんな愛は
実は凄い娘であるということですが、やっぱりおバカはおバカ。愛すべきバカっ子です。
そして継と要のすれ違いは、まだまだ続くようで……さて、次は要の番ですが、果たして
要は継に勝てるのか!?
管理人の感想
ついに始まりましたね! 管理人はボウリングが趣味と言えるほど好きなので、個人的にもかなり楽しみだったり^^
さて、要以外が第一投目を終えたところですが・・・何気にレベル高ぇ(笑)
みんなノーミスですよ、ノーミス! 愛も、総志との愛の力で乗り切ったようですし(ぇ
問題は、継VS要。継は感情が先走り、本調子を出せていないようですが・・・それでも手堅くスペア。
次回、要の一投目はいかに・・・?
それでは!