B&G MEMORIAL of SUMMER
BOYS and GIRLS in Long Vacation
天崎町の隣町である天月(あまつき)町に建てられている陽乃海スポーツセンターは、市民の憩いの場であり、その利用者は老若男女を問わない。
一階はエントランスホールと受付のロビー、また大規模なタワーパーキングも隣接して建設され通路一本で行き来が出来るようになっており、自動車での
来客も視野に入れた造りになっている。
各階へのアクセスは階段、エスカレーター、エレベーターの三通り。エレベーターは二か所六基台。定員は各台十二名。エスカレーターは一か所のみだが、
横幅が広く作られているので不便はなく、また上り下りとも二本ずつ設置されている。これに加えて非常用に設置されているのが階段であり、常時開放
されているので利用はいつでも可能だ。とはいえ、エスカレーターの存在がある以上利用する人間は限りなく少ない。
各階の施設は、二階に会員制のアスレチックジム。そして卓球・バドミントン・バスケットボール・バレーボールが遊べる屋内球戯場。専用靴の貸し出し
も行われている。屋内球戯場は市で行われる中総体、高総体の予選会場に使われることもあり、また予約制ではあるが一時間単位のレンタルも出来るように
なっている。
三階にはボウリング場がある。レーンの数は六十とかなり多く、陽乃海市を含めた近郊の市では一番多い。また子どもや初心者用に、ガターを避ける為の
バンパーを設けるレーンが第一レーンから第十六レーンであり、月に何度か行われるボウリング大会用に使用されているのが第五十レーンから最終レーンの
第六十レーンだ。ここは基本的に使用されることはなく、普段は照明だけでピンも収納されている。
四階に上がれば、スポーツセンターとしては珍しくインターネットカフェが設置されており、そのすぐそばにはゲームセンターが隣接している。こちらの
管理はネットカフェの従業員が行っており、ゲームセンターもネットカフェの一部として運営されている。既にブームの去った一世代古いゲームを、近隣の
ゲームセンターから譲ってもらっての稼働なので、それほど人気があるわけではない。メインはあくまでネットカフェの方、というわけだ。
屋上はゴルフの打ちっぱなしと、バッティングセンターがある。ゴルフクラブはレンタルもあるが、熱心に通っている人間は自前のクラブを持参して
訪れる。バッティングセンターの方は子どもや女性にも優しい球速から、抉り込むようにえげつない変化を実現する物、そして驚異の時速百六十キロという
馬鹿馬鹿しいを通り越して笑うしかないような物まで用意されている。
そして――――屋上の一つ下、五階。
ガラスで南と西を囲まれたカフェテリアに、そのカウンター側にはダーツ、そして四台だけだがビリヤード台が設置されている。それほど頻繁にではない
が、若者たちがプレイしている姿を高平継は何度か見た事があった。実際、継も要や兄・弌と一緒に数える程度だがプレイした事はある。しかし五階の真の
主役は、ビリヤードでもダーツでも、カフェテリアでもない。
「俺と新崎くんは、前に同じ派遣先で一緒にバイトをした事があるんだ。あれは……何だったかな?」
「駅ビルの中にある、洋服屋ですよ。あれは確か、一年くらい前ですよね。それ以来、偶然何度か一緒に仕事入るようになって……」
「それで、二人は知り合いだったんですか……」
はふ、と驚きとともに溜息をつき、冴霞がアイスティーを一口飲む。それが終わると、今度は自分の番とばかりに居住まいを正し、謙悟と総志を見た。
「私が森川先輩と知り合いだったのは、私が一年生の頃に所属していた学年委員会の、当時の三年生委員長をされていたからなんです。森川先輩とは二学期
最初に引き継ぎで会っただけでしたけど、何度かお話も聞いてもらいましたから」
冴霞の言葉に、総志もうんと頷く。謙悟もそれを聞いて納得したように頷いた。
「そっか……でも、世の中って意外と狭いよな。まさか秋月が、総志さんの彼女だなんて」
「違う違う、新崎くん。間違ってるよ?」
今までアイスクリームと格闘していた愛がカランとスプーンを置き、備え付けのナプキンで口元を拭きながら、彼女にしては珍しく真剣な眼差しで謙悟を
見る。謙悟も、そして隣にいる冴霞もその気配を察して真剣に愛と向き合う。
「あたしは彼女ではない! そーじくんの、嫁だぁっっっ!!…………あれ!?」
突発的な愛の告白。だが総志をはじめとして、五人はあっさりと愛に向けていた視線をそらし、スルーしていた。
「ちょ、ちょっとちょっとぉ!? 愛ちゃんのボケだよ!? 誰か突っ込んでくれないと!!」
ばんばん、と乱暴にテーブルを叩く愛。コーラを飲んでいた継は見るからに気だるげにテーブルに肘をつき、ちらりと愛を見る。
「いつものことだし」と継。
「同じく。ゴメンねっ」続いて要。
「……ごめんなさい、なんて言ったらいいのか分からなくて」真剣に悩んでいた冴霞。
「もう疲れた。どうでもいい」呆れながら謙悟。そして
「このおバカ」
言葉の刃が愛を貫く。それをなだめる様に、刃を振りかざした総志がぐりぐりと少々乱暴に頭を撫でてやると、愛はごろごろと猫がするような態度で
総志にすり寄った。
「……ちなみに俺と要が愛ちゃんと友だちなのは」
「中学からの友だちで、愛ちゃんは休日限定で『ひいらぎ』のウェイトレスさんでもあるからなのです」
またひとつ線がつながり、その線から総志との仲も推測することが出来る。線は線と結びつき、ようやく一つの円となって六人の友好関係を明確にした。
「……じゃあ、改めて。冴霞」
「はい。私たちの、出会いと再会に」
謙悟と冴霞がグラスを掲げると、継、要、総志、そして愛もそれぞれのグラスを掲げて。
「「「「「「乾杯!!!!!!」」」」」」
28.男女混合十柱戯決戦 @
カフェテリアで昼食を済ませた六人は、愛が立てた予定通りに三階・ボウリング場へ降りてきた。既に予約を済ませていただけに流れは非常にスムーズで、
受付はものの一分足らずで完了し、それぞれは靴選びに移った。
「えっと、総志さんは俺と同じ二十七センチっすね。……で、新崎は何センチなんだ?」
「普段の靴は二十九センチなんだけど……そんなのあるのか?」
「ああ。ここは結構遊ぶ人も多いからね。三十センチまでなら普通にレンタルできるよ。それ以上は……さすがに要相談、だろうけどね」
受付でもらったカードを使い、シューズロッカーを開ける総志。それに倣って、謙悟も二十九センチのシューズを取り出す。しかし唯一人、継だけは別の
部屋に向かって歩いて行った。シューズも取らずに、だ。
「おい高平、どこに行くんだ?」
「俺のはこっちに預けてあるから、いいんだよ」
そう言って継が向かっていった先のルームガイダンスを見ると『会員用ロッカー』という表記があった。受付には会員カードを通す端末があるのが見える
が、そこから先は奥まった場所にあるのではっきりとは見えない。
「会員用……総志さん、高平ってここの会員になってるんですか?」
「ん? ああ。新崎くんは継くんとここに来るのは初めてか。だったら知らないのも無理ないな。そう、継くんはここのボウリング場の会員なんだ。結構な
腕でね、何度か遊んだ事もあるけれど、俺は勝った事は一度もないよ」
総志が笑いながら告げる。謙悟は「はぁ……」と曖昧な返事をしながら、ふと冴霞たちを見た。彼女たちも謙悟らと同様に靴を選んでおり、既にそれぞれ
の手にはレンタルの靴が握られている。
「お待たせっ、と。ほら、さっさと行こうぜ」
「一番遅いくせに、偉そうだな」
謙悟の嫌味にもスルー耐性がついている継は、ニヤニヤとどこか得意げな笑みを浮かべながら前を行く。総志の言う通り、ボウリングには相当な自信が
あるようだ。だがその後ろ、謙悟の隣で総志はどこか神妙な顔つきで眼鏡をくっと持ち上げた。
「…………と言っても、今日の愛が言い出すルールで、継くんが勝てるかどうかは……分からないけど」
「いや、総志さん。目が笑ってないです」
「ではでは! 各自、自分のパートナーさんとペアになって下さい!」
名前の入力画面には既に愛の操作で『けんご・さえか』、『けい・かなめ』、『そうじ・めぐみ』の入力がされていた。ボールリターンには女性用に軽めの
八ポンドボールが四個と、男性用にやや重い十二ポンドボールが同じく四個置かれている。どちらも男性陣、女性陣がそれぞれ運んだものだ。
「って、おいおい愛ちゃん、個人戦じゃないのかよ?」
不満の声は当然、継から上がったものだ。服は普段着のままだが、靴は自前のマイシューズ、手にはマイグローブ、そして会員用ロッカーから持ってきた
バッグの中には、マイボールまで入っているという気合の入りっぷりだが、愛はそれを一瞥すると「はっwww」と鼻で笑ったりした。
「やだなぁ、けーくん。自分だけ良い条件で勝とうだなんて、ヒキョウ者のすることだよ? マイボールは当然没収! ちゃんとお店のボールで戦ってもら
わないと、フェアじゃないじゃん!!」
普段からしてちょっとお馬鹿な言動が目立つ愛に言われると、継も少々イラッとくるものの、愛の言葉は紛れもなく正論過ぎるほどに正論だ。昂りかけた
気持ちを抑える様に大きく息を吐き、その隣にいた要もきゅっと継の手を握ってくれる。
「……わーったよ。マイボールは使わない。それで、次は?」
要と繋いだ手を背中に隠しながら継が問いかける。その様子を生温かい目で見ながら、愛はさらにルールを提示する。
「投げる順番は、女の子が最初で、男の子が二回目。最初の一球でストライクが取れたら、次の一球目は男の子の番。あとは、同じように女の子、男の子の
順番で投げて行きます。これを……とりあえず、二ゲームくらいやります! これで平均が一番高いチームが勝ち! あと余裕があれば個人戦も!」
説明を終えると愛はふふん、と得意げに胸を張り、頑張ったご褒美にと総志が頭を撫でてやる。残された四人は愛が言ったルールを吟味し、理解し終えた
謙悟が口を開く。
「……つまり、ペアで協力し合って」
「ハイスコアを目指し、アベレージを競うわけですね」
言葉を引き継いで、冴霞が納得したように頷きながら謙悟を見上げる。謙悟もうんと頷くと、要が感心するような口調で。
「愛ちゃん、意外とちゃんと考えてたんだね…………継くん?」
要の言葉に反応して、一同が揃って継を見る。すると継はわなわなと肩を震わせ、びしっと愛を指差した。
「何だよそのルールは!! 圧倒的に俺らが不利じゃねーか!! 要がストライク取れなかったら、ほぼ俺たちの負け確定だろ!?」
「いくらなんでも、それは……ないだろ?」
謙悟が口を挟む。だがその言葉で、継の矛先は愛から謙悟に移った。
「黙れこの運動優良ペアが!! お前は要の運動音痴っぷりを知らねーからそんなことが言えるんだよ!! 要はなぁ、ことスポーツと名のつくモノは、
悉く下手なんだ!! ペアマッチでこいつと組んで、勝った事なんて――――」
「そんなに、イヤなんだ………」
地の底から響くような低く、冷たい声。
「あたしと組むの、そんなにイヤだったんだ…………」
ギリギリと継の手を握りつぶす尋常ならざる握力。
「あ、いや、俺はそんな……」
継の首は鈍い音を立てながら、ゆっくりと横を――――
「継くんのバカぁっっ!!!!」
耳を劈(つんざ)く大絶叫。そして弾け飛ぶような勢いで要はスコアシートの入力端末を操作し――――すっと、静かに立ち上がった。
「……だったら、これで良いでしょう? 継くんは一人でやればいいよ。その代わり」
表示画面には『けんご・さえか』、『けい』『そうじ・めぐみ』と表示され、最後に。
「あたしは、継くんにだけは勝つから……ッ!!!!」
最後に追加された枠には『かなめ』の文字がしっかりと入力されていた。
総志「これが若さか……」
愛「あーあ、せっかく考えたのに〜」
謙悟「その割には楽しそうだな?」
冴霞「いいんですか? こんな調子で」
総志「予想外の事は、起きる物だよ」
愛「そうそう、無問題〜。というわけで、ハイ、今村センパイ!」
冴霞「え? あ、えっと……続きます♪ …………あぅ、は、恥ずかしい……」
謙悟「よしよし、冴霞は頑張った……」
あとがき:
2009年初のBGM本編は、早々に波乱の予感から始まります。
この対決物は昨年度から企画自体は準備していた物ですが、文化祭で登場・合流した
「あきよな」の二人を参加させることを第一に考えていたもので、それ以外は詳細を決めて
いませんでした。なのでこれから先、どう転がっていくかは私自身も測りかねている状況。
早速、継のアホのおかげで要が離反してしまいましたし……さて、どうなるこの決戦!?
管理人の感想
総合スポーツセンターで繰り広げられる激闘の幕が、今切って落とされました!
とはいっても、継のおかげ(?)でいきなり躓いた形になりましたが^^;
彼は性根は優しいんでしょうけどねぇ。やはりまだ、大人になりきれていないといいますか。もう少し、空気を読むスキルを身に付けようぜと。
まあ自分の得意な種目ということもあり、要にいいところを見せようと。またライバルのような関係である謙悟に勝ちたいという気持ちが、自然に出てしまったのかもしれませんが。
とはいえ、ともすれば不穏な空気になりかねないこの状況下でも、他の4人は落ち着いていますね。それが唯一の救いか。
さて、死亡フラグが立ってしまった継がどこまで健闘できるか(笑)、次回も注目です!^^