B&G MEMORIAL of SUMMER

BOYS and GIRLS in Long Vacation

 

 

 

 天崎(あまみさき)町の陽乃海駅前バス停でバスを降りると、謙悟は愛から指示された待ち合わせ場所へと急ぐ。集合時刻は午前十一時を指定されており、

あと十分足らずでその時刻になる。謙悟の予想が当たっていれば、愛が声を掛けているであろう二人の内一方は、少しでも遅れようものならそれこそ、鬼の

首でも取ったように喜ぶだろう。それを回避するために謙悟は早歩きどころか駆け足のような速さで目的地を目指し――――わずか二分で、待ち合わせ場所

である駅前イベント広場に到着した。

「あ、新崎くーん!」

「遅ぇぞ、なにやってんだ!」

 にこやかに手を振る少女と、その隣で不満の声を上げる少年。もうすっかり慣れ親しんだ友人の、柊木要と高平継である。

「なんだよ、時間前なんだからセーフだろ?」

 ふぅ、と大きくため息をつき、呼吸を整えて携帯電話の時計を見る。十時五十三分。待ち合わせの時間にはまだ若干の余裕を残しており、継が言うほどに

遅くはない。しかし継は尊大に腕組みをすると、得意そうな顔で。

「こっちは三十分近く待たされてんだからな! それ考えりゃ、お前は遅いんだよ!!」

「ごめんね、新崎くん……継くん、これが言いたかったがためにコンビニで時間も潰さないで、ずっと新崎くんの事、待ってたんだよ」

 フォローするように要がネタばらしをする。継はそれを言われるとやや頬を赤らめて要を見るが、時すでに遅し。

「まったく……秋月だけじゃなくて、ここにもアホがいるのか」

「だっ、誰がアホだ!?」

「継くん以外に誰がいるの?」

 さらっと酷い事を言う要。だが実際、継の取った行動はアホだと罵られても仕方がないものだった。謙悟を馬鹿にするためだけに、日陰とはいえ三十度を

超える炎天下で待ち続けるなど、よほどの馬鹿か、あるいは相手の事を――――

「もう、継くんってばホント素直じゃないんだから。新崎くんのこと待ちたいんだったら、ちゃんとそう言えばいいのに」

「ば、馬鹿っ!! 何言ってんだよ、要っ!?」

 要の言葉に過剰なまでの反応を示し、またさっき以上に頬を染める継。謙悟はその反応を見て、わざとらしく一歩後ずさる。

「えっと……その、何て言ったらいいのか分からないんだけど……ごめん」

「あ、謝ってんじゃねぇ!! そもそも、俺は男に興味なんかねぇよっ!!!!」

 全身全霊という表現がぴったり当てはまるほどの声を上げて否定する。すると謙悟も要も、清々しいまでの頬笑みを浮かべた。

「何言ってんだ、そんなこと分かってるよ」

「もう、ムキになっちゃって……継くん、可愛い」

 からかわれていたことをようやく理解した継は、その場に膝をついて倒れ込んだ。要はしゃがみこんで「よしよし」と頭を撫でてやるが、その一方で

謙悟は、こんなにも容易に要と組んで意思の疎通が図れた事が、新鮮だった。もっともそれは要の事を異性として意識したわけではなく、継をからかう

という目的に対して行ったものだ。そこに特別な感情は、謙悟も要も抱いてはいない。だが――――

「随分楽しそうですね、謙悟くん、要さん?」

 発せられた声は明るく、しかし込められた温度は氷点に達するほどに冷徹。それを敏感に感じ取った謙悟は首を痛めそうなほどの速度で声の主を見る。

 流れるほどに長い黒髪。道行く人が振り返らずにはいられない美貌。平均をはるかに上回る長身に、モデルもかくやという長い脚線。しかしてその立ち姿は、

ともすれば仁王の如く威風堂々としたもの。

「「冴霞……」先輩……」

 意図せずハモる謙悟と要の声。それを聞いて冴霞の怒りゲージがわずかに上昇する幻を、謙悟はしっかりと見てしまった。

 

 

27.合流、出会い、そして再会

 

 

「やー、おそくなってごめんねー!!」

 十一時十三分。予定の時間よりも大幅に遅れて、今回の集まりを提案した秋月愛(めぐみ)がのほほんと歩いてきた。

「遅い」と謙悟。

「遅ぇ」続いて継。

「遅刻だよ」最後に要。

 三人それぞれに言葉遣いによる差はあれど、きっちり時間厳守で来た身としては、言いだしっぺである愛が遅れたことは不満でしかない。特に電話の

際から比較的失礼なことをされている謙悟としては、その不満も二割増しといったところだ。

「う、みんな手厳しいねぇ……。で、でも、ちゃんと予約取ってきたんだから勘弁してほしいなぁー。きっちり六人分、夜まで遊べるようにしてきたん

だからっ! というわけで、会費三千円ねー」

「微妙に高いね……まぁ、払えるけど」

 財布を取り出し、千円三枚を手渡す要。それに倣うように継と謙悟も財布から現金を抜き出し、愛に手渡す。そして最後に冴霞が会費を渡そうとすると、

愛はようやく冴霞が参加していることに気がついた。

「あ、あれ? なんで今村センパイが?」

「はじめまして。新崎くんに誘われたので、参加させてもらいに来ました。ご迷惑でしたか?」

 ふんわりと微笑む冴霞。愛は大慌てで千円札の束を持ったままの手を何度も振り、冴霞の言葉を否定する。

「いえいえいえいえ、とんでもない! ……そっか、やっぱり……新崎くんっ!!」

「何だ」

 次に飛んでくるであろう言葉を覚悟しながら、ぶっきらぼうな返事をする謙悟。しかし愛はそれを意にも介さず、掴みかかるような勢いで。

「やっぱり、二人はお付き合いしてたんだねっ? ひょっとしなくても一学期からっ!? あたしが質問した時には、もう付き合ってたのっ!!?」

 まくしたてるように質問三連打。謙悟と愛との距離はその質問の度に一歩一歩詰め寄られ、ついには謙悟が仰け反らなければ愛の頭が謙悟の肩にぶつかり

かねないほどの至近距離にまでなった。すると謙悟の身体は右腕を起点にぐいっと後ろへ引っ張られ、そのまま冴霞の腕が謙悟の腕を抱き締める形になる。

「近づきすぎです、二人とも。……謙悟くん、紹介してもらえますか?」

「ん、ああ。えっと……クラスメイトの、秋月愛。俺の後ろの席で……冴霞と昼飯食い始めてた頃に、付き合ってるのかって聞かれたんだ。その時はまだ

付き合ってなかったから、友だちだって答えておいた……ある意味一番鋭かったのかな、秋月が」

「そうなのかなぁ? でも、二人って…………うん、お似合いだと思うよ? センパイは見たまんまの美人さんだし、新崎くんもカッコいい方だし」

 ずいっ、と遠慮なしに近づき、謙悟の顔を見つめる愛。あどけない無垢な視線が年齢の割に幼さを感じさせるが、この遠慮のなさと純粋さこそが愛の魅力

なのだ。とはいえ、それを察することが出来るほどに親しくはない謙悟は何も言えずに押し黙り、冴霞も自分の最愛の男性が褒められるのは嬉しいものの、

そのおかげで他の女性からアプローチをされるのは困ってしまう。

「そ、それよりっ! 遊びに行くって言いましたけれど……一体どこに行くつもりなんですか?」

 謙悟の身体をさらに引き寄せると同時に、冴霞が愛に問いかける。すると今まで空気を読んで黙っていた継も要も、口を開いた。

「だな。愛ちゃん、予約取ってきたって言ってたけど、そんな場所ここらへんにあったか?」

「このあたりだと、みんなで遊べる場所なんてせいぜい駅ビルのゲームセンターくらいだけど……まさかそこに予約なんてないだろうし」

 継と要の言う通り、駅付近は確かに栄えてはいるものの、それは買い物や食事をするという目的に限ってのことだ。まだ日も高いうちから、それも未成年

が満喫して遊べる場所など、要の言う通りゲームセンターくらいしかない。しかし愛はふふん、と得意げに胸をそらし、ズバッ!! と右手の人さし指を

突き出した。

「あぶねっ!? おい、秋月! 目突きしようとしたな!?」

「うぇ!? や、ご、ごめん! ただの偶然、不慮の事故ですよぉ!?」

 愛が突き出した指は丁度、謙悟の顔の前でぴったりと止まっていた。角度、速度ともに申し分のない突きはあと数センチ伸びていれば謙悟の右目を貫いて

いたことだろう。

「こほん。き、気を取り直して……でぇいっ!」

 謙悟との距離を開けて、リテイクとばかりに再び指を突き出す愛。流石に二度目だけに謙悟たちも全く驚かず、また愛自身も決まりが悪いのか、一度目

ほどの勢いも覇気も感じられない。だがそこで諦めないのもまた、秋月愛の良さだ。

「これより、陽乃海スポーツセンターに向かいますっ! 肉離れ起こすまでしっかり遊ぶから、そのつもりでっ!!」

 そのつもりで、と言われた四人だが、リアクションのしようがなかった。だが愛の眼に見える輝きは本物だ。それにこれから先、愛が言う通りならば

夜まで遊び倒す中、共に過ごす人間を不機嫌にさせてはならない。それを察した四人はやる気は出なかったが、ゆる〜く手を挙げて返事をする。

「「「「お〜……」」」」

「よしよし。でもみんなぁ、声が小さいよ? もっと大きな声でっ!!」

 厳しい事をさらっと言ってのける少女・秋月愛。結局三回ほどやり直しをして、なんとか愛が納得がいくだけの声量が出る頃には、既に十一時半を大きく

回っていた。

 

 

 

「遅いっ」

 叱咤の声とともに、到着した愛の頭をこつんと小突いたのは、眼鏡をかけた男性だった。身長は謙悟と継の中間くらい。しかし身体の線は細く、おそらく

継と同等くらいだろう。だがその男性を見て、謙悟と冴霞は驚きを隠せない。

「え……総志さん?」

「森川先輩!?」

 互いに名前を呼び、また謙悟と冴霞も見つめ合う。だが呼ばれた当人である男性――――森川総志は、そんな二人を見てくすっと笑った。

「新崎くん、久しぶり。それに今村さんも、活躍ぶりは愛から聞いているよ。すっかり立派になったんだね」

「? 総志くん、新崎くんの事も知ってたの?」

 ねーねー教えてー、とせがむ愛を引き剥がして、眼鏡のブリッジを押し上げ、正す総志。その拍子にレンズが照明を反射し、きらりと光る。

「ああ。でも、詳しい話は……昼飯の後にでもしようか? なぁ、継くん。要ちゃん」

「そーですね。丁度いい時間だし」

「じゃあ、早速ロビーに行きましょうか?」

 驚くこともなく、ニヤニヤと笑いながら謙悟の肩を乱暴に叩く継と、冴霞の背中を押す要。愛は総志の腕にしがみつき、総志もまた愛との会話を楽しんで

いる様に見える。

「謙悟くん……」

「冴霞……」

 ――――いったい、なにがどうなっているのか?

 その疑問に答えられない二人は、答えを与えられるのを待つことしか出来なかった。



あとがき:

ようやく全ての登場人物が一堂に会しました。しかしまだまだ顔見せ段階で、
互いがどういう経緯で知り合いなのかは明かされていません。と言っても、以前の
Memories Base三周年記念作品であるHighSchoolMemorial、通称ASFをご覧
頂ければその疑問は四分の一ほどは解決するのですが。
次回は残った四分の三を解決させ、そしていよいよ……本番と、相なります。


管理人の感想

・・・え〜、まずは一言。

愛、いきなり全開(フルスロットル)ですなっ!!(爆)

炸裂する愛節に、他の四人はタジタジ。それでいて嫌味にならないところが、彼女の凄いところですよね。
そして冴霞の嫉妬も可愛いなぁ、おい。要と謙悟が息の合った会話を見せただけで膨れますか・・・。
次回に残った謎も含め、楽しみにしましょう!



2008.12.20