B&G MEMORIAL of SUMMER

BOYS and GIRLS in Seaside Vacation

 

 

 シャワーを浴びながら、冴霞は火照っていた自分の身体を念入りに洗っていた。今浴びているのはお湯ではなく、冷水に近い。隣にある浴槽にお湯が

張られていなければ、夏場であっても風邪を引いてしまいかねないくらいに。

 動悸が治まらない。どれだけ水を浴びても、熱が引いていかない。

当然だ。口の中が溶けそうなくらい熱いキスをして、胸を揉まれて、性感を刺激されて。その相手が他の誰でもない、謙悟なのだ。

「うぁ……」

 思い出すだけでまた熱くなる。冷水シャワーも届かないくらい奥の、体の芯が。

 これから風呂を上がれば、謙悟も風呂に入るだろう。恐らく十分かその程度。それが済めば……間違いなく、その、アレを、することに。

「〜〜っ!!」

 力を入れずに優しくと身体を擦る。わざわざ家から持ってきたヘチマスポンジだ。これを持って来ている時点である程度覚悟は決まっているのだが、

それでもいざその時が目前に迫っているとなると、もはや「ある程度」などという生易しいレベルでは追いつかない。

 ぺたんと椅子に座り、足を擦る。指の間も爪の間も丁寧に洗い、ふくらはぎも膝の裏から、腹、背中、脇下、胸の下も、そして何より大切な箇所も全て。

 当然日頃から清潔にしてはいるが、やはり今日は特別だ。海にも行ったし、海の家でも軽くシャワーを浴びたとはいえ、どこかベタベタした感覚が残って

いる。特に髪に関してはまだちょっとカサついている気がする。

「そんなに待たせられないのに……」

ちら、と浴槽側の壁に付いているリモコンパネルに視線をやると、入浴を始めてから十分以上経っている。これからこの長い髪を洗うのは、手馴れている

とはいえ七分以上かかる。だがだからと言って、謙悟の前で不潔な身体でいることなど耐えられない。

「はぁ……」

 諦めの溜め息を吐いて、バスポーチからシャンプーとリンス、コンディショナーとさらにトリートメントを取り出す。腰まで届く長髪を美しく維持

し続けるのはとても大変で、風呂上りにはかかさずさらに保水用のヘアウォーターも使う。本当ならばそのあとにも色々と手を加えるのだが、そこまで

やっていたら二十分では収まらない。出来る限り工程は省かなければ。

 水の温度を調整してお湯に変え、今まで濡らすことを躊躇っていた髪にゆっくりと水分を含ませながら、冴霞は謙悟を待たせてしまうことを心の中で

詫びていた。

 

 

13-ESweet and Pure Lovers Night

 

 

「ふぅ……」

 部屋に戻って冷蔵庫の中身を補充し、冷凍スペースにアイスクリームを保管し、ハンドクリーナーで部屋を掃除し終えた謙悟は、いそいそとベッドメイクを

していた。麻那が生まれてしばらく経ってから、父と母のお下がりでもらったクイーンサイズのベッド。

ベッドマットレスは一昨年新調し、スプリングもマットも傷んではいない。もらった当時は身長に対して大き過ぎたこのベッドも、今ではほとんど違和感なく

寝られるくらいに謙悟も成長した。そして今日、再び冴霞とこのベッドで一夜を共にする。

 クリーニングに出し、開封していなかったメイキングシーツを広げてマットレスを包み、、枕のカバーも新しいものに変える。タオルケットは一応敷いて、

その上からまた薄手のシーツを被せる。ホテルなどのベッドメイクとは異なるが、謙悟にとってはこれが一番横になりやすいスタイルだった。

 時計を見れば、冴霞がバスルームに入ってから三十分ほどが経過している。女性はなにかと手入れに時間がかかるということは母を見て知っているので、

謙悟としても特に追求する気はない。しかし、世の中これほど彼女の事情に理解のある高校生も珍しいだろう。

「…………」

 ベッドに腰掛けてサイドボードに飲み物を置き、何気なく左手を見る。冴霞の身体に触れ、胸に触れ、腹を撫でた左手。柔らかくて心地よく、いつまでも

触れていたいと思えるほどの暖かさ。これからその温もりも柔らかさも、そして冴霞の全てを文字通り手に入れることは、謙悟といえども一人の男である以上、

胸を高鳴らせずにはいられない。愛しい相手と結ばれるのだ、嬉しくないはずがない。

「っ……落ち着かないと、な」

 無理な相談だというのは謙悟も十分承知している。だが焦って、リビングのときのようにがっついて行為に及んでも冴霞を傷つけるだけだということも、

今の謙悟はしっかり理解出来ている。無理矢理に事に及べば冴霞の身体だけではなく心も傷つけてしまう。もっとも、行為に及ぶ以上身体の傷だけは我慢

してもらわなければいけないのだが。

 さらに数分経って、コン、コン、と。

 控えめなノックが響いたあと、ゆっくりと冴霞が部屋に入ってくる。湯上がりでわずかに火照った身体と表情、そして身体を包むのは冴霞が自宅から

持って来ていたパジャマだ。シンプルな淡いピンクの長袖ブラウスと、踝までをすっぽり覆うズボン。どちらも無地で、しかし光沢と品のある落ち着いた

デザイン。

「それ……家から、持ってきたのか?」

「は、はい。いつもこれで寝てますから……おかしい、ですか?」

 不安げに謙悟を見下ろす。謙悟はその視線を受けてすっと立ち上がり、ゆっくりと腰から冴霞を抱き寄せた。

「おかしくない。凄く……可愛い」

 洗い立ての髪と、身体から感じる石鹸の香り。ゆっくりと重ねた口唇は瑞々しく、甘く、どこまでも愛おしい。

 謙悟は左手をそのまま腰から背中にかけて添えて、膝を落とす。そして冴霞の膝裏に右腕を通して、力強く立ち上がった。

「わぁっ、け、謙悟くん!?」

「やってみると意外と簡単だな、これ」

 体格も良く、また十分な筋力を備えた謙悟にしてみれば、この抱き方も苦ではない。

しかし冴霞は、まさか自分がこの抱かれ方をされるとは思ってもいなかった。

 童話や小説、漫画やドラマなどで出てくる抱き方。正しくは横抱きというのだが、俗称のほうが圧倒的に有名な『お姫様抱っこ』。

 身長も平均よりかなり高く、体重は……一応五十代前半と軽い部類に入るが、それでも百七十二センチ近くある冴霞をお姫様抱っこできる男性など少ない。

それを叶えられるのはやはり謙悟のように逞しくなければ不可能であり、また冴霞が抱かれることを心から許せる相手は、彼を置いて他にはいないのだ。

「っと……」

 ぽすん、とベッドに置かれ、ヘッドボードのすぐそばにある枕を背もたれにする冴霞。謙悟もベッドの上に座り、冴霞を近くで見つめられる位置に移動する。

「びっくり、しました……」

 はふぅ、と冴霞が色っぽい吐息を吐く。頬はさっきよりも赤くしかし驚きの言葉とは裏腹に、表情は嬉しそうに緩んでいる。謙悟はそんな彼女を眺めながら

薄く笑い、艶やかな黒髪をそっと撫でた。

「いつも思うけど……綺麗だよな、髪」

「ありがとうございます……でも、髪だけですか?」

 自分でも意地悪かな、と思う問いをする。すると謙悟は髪から頬に手を移し、いたわるように頬を撫でた。

「髪も、ほっぺたも、全部綺麗だ。冴霞は……いつも綺麗で、可愛くて、かっこいい時もあるけど、甘ったれだよ」

「私が甘えるのは謙悟くんだけです。他の人の前ではそんな所見せません。私が寄りかかれる人は……貴方だけ」

 恋人であっても、相手の背負っているもの全てを背負ってやることは出来ない。出来るのは、抱えた荷物に倒れそうな相手の身体を支えてやることだけ。

そうすれば、重さは分かち合える。いつか二人で辿り着けるのなら、荷物を下ろすのは辿り着いた後でいいのだから。

「ん……」

「ちゅ、……ん」

 口唇を重ね合う。冴霞の右手と謙悟の左手、互いの指が絡み合い、離れまいと握り合う。そして――――謙悟の右手が冴霞のパジャマに触れた瞬間から、

二人の営みは加速していく。

 

 

 

 慣れないながらもゆっくりと、謙悟の手がブラウスのボタンを外していく。首もとのボタンは開いていたので、喉の下、胸元、胸の下、腹、と順番に。

「んっ……」

 ひくっ、と冴霞の閉じた目蓋が揺れる。キスはまだ続けられており、緊張を堪えるように謙悟の左手をきゅっと握れば、彼の手はそれを受け止めるように

軽く握り返してくる。しかしそれだけでは耐えられない衝撃が冴霞の身体を支配した。

「んぁっ……っく」

 はだけたブラウスの下、ブラジャーをつけていない柔らかで大きなふくらみに触れられる。自分でも頻繁に触れる箇所ではないソコに、今、謙悟の手が

触れている。

「……分かっちゃいたけど、大きいな」

「っん……で、も……おかげで、陸上のタイム……落ちちゃ……ぁん」

 高い身長に、豊満なバスト。およそ陸上競技者としては不向きな条件。勉学に集中するという目的はあったが、体形が女性的に成長してきたことも、

冴霞が陸上を諦めた理由のひとつではある。

「そんな事言うなよ。もし冴霞が陸上続けてたら……俺たち、きっと会うこともなかったんだから」

 学年が違い、生徒会長でない以上、互いに廊下ですれ違うだけの存在。たしかにそれは、有り得たかも知れない『if』の世界。

「そんな話、嫌い……私は、今の私だけ、なんだから……」

 感情的になっているのか、それとも地が出ているのか。冴霞の言葉遣いはいつもの丁寧語とは違った。謙悟は慰めるようにゆっくりと首筋にキスを落とし、

ちゅうっと強く吸う。そして数秒置いて口を離すと――――。

「ちょっと、痛そうに見えるな……止めとけばよかった」

「ふぇ……あ、キス、マーク……」

 わずかに日に焼けているとはいえ、そこはちょうどトップのストラップが通っていた場所だった。白い肌に残された赤い傷痕。謙悟に付けられた、彼の証。

 熱の残る傷痕を優しく撫でて、冴霞もまた謙悟の首筋に口を付け、ちゅっと吸い込む。

「お返し……あ、むぅっ」

 再び口付けられ、同時にすこしだけ強く謙悟の手が冴霞のふくらみを揉み始める。けれど決して無理矢理ではなく、どこまでも優しく。

「あぅっ……ゃぁ」

 先端を愛撫され、思いがけない感覚に嬌声が上がり、快感で仰け反ってしまう。ボタンを全て外されていたブラウスはそのまますとんと落ち、あとは手首

さえ抜いてしまえば衣服としての役目を終える。謙悟は左手をつなげたまま冴霞を抱き寄せて、少し力を入れてベッドに押し倒した。

「はぁ……けん、ご、くぅ……んんっ」

 答えの代わりに深く口づけを押し付ける。謙悟が着ているシャツが無ければ、直に感じられるほどに密着した冴霞の肌。目の細かいシャツに触れて先端が

擦れる度に、冴霞の身体は敏感に反応してしまう。だがそれ以上に、もどかしさも感じている。

「……っ?」

 ふっと冴霞の手の力が抜けたかと思うと、その時には既に冴霞の手が謙悟のシャツの中に潜り込んでいた。健康的にほのかに日に焼けた腕はするすると

謙悟のシャツを捲り上げ、応じるように謙悟も腕の向きを変えて――――がっしりと鍛えられた上半身を晒す。

 そして冴霞もまた、今まで脱げずにいた右手首の封印が解けたことで、ブラウスが脱げ落ちる。華奢ながらも頼りなさを感じさせない程度についた筋肉、

流線を描くボディライン、そしてラインからせり出す豊かなバスト。

「っ……綺麗だ、冴霞……」

 飾り気の無い、本心からの言葉。冴霞は恥ずかしそうにはにかみ、

「ちょ、ちょっとだけ……電気、落として欲しい、って言ったら、ダメ……です?」

 控えめな提案。謙悟はその申し出に頷き、サイドボードに置いていた照明のリモコンのボタンを押した。

 眩い昼光色は影を落とし、緩い電球色がほのかに灯る。温かみを感じさせる落ち着いた明るさは、二人の心にも穏やかさを与えた。

「冴霞、その……俺もこういうの初めてだから、加減とか上手く出来ないけど……嫌だったり、痛かったりしたら、ちゃんと言ってくれ。すぐ止めるから」

 優しい言葉。慈しむような、それでいて不安げな表情。それだけで謙悟がどれだけ自分のことを思ってくれているかが分かる。

 冴霞は胸の奥に暖かいものを感じながら、謙悟の頭を自分の胸に抱き寄せた。

「んむっ!?」

「大丈夫。私も初めてですけど、ちゃんと謙悟くんのこと受け止めます。だから……」

 とくん、とくん、と流れていく互いの鼓動を感じながら。

「私の全部をもらって……いっぱいいっぱい、愛して。謙悟……」

 

 

 

 

Epilogue

 

 熱い、甘い、ひと時だった。そしてこれまでの人生で、こんなに幸福で心地良い時は存在しなかった。

 時計を見れば、もう日付が変わって午前二時になろうとしている。長かった八月五日は終わって、今日はもう八月六日。

 謙悟の腕の中で、冴霞は子犬のように丸くなって彼の顔を見ている。そして謙悟はそんな冴霞の頬に、ちゅっと口付けをする。

「ゃん」

甘ったるい声。つい一時間前までは小さな痛みと大きな感動で、ぼろぼろに泣いていたとはとても思えないほどだ。謙悟はそのことに苦笑いしながら、

シーツごと冴霞を抱きしめた。むにゅっと押し付けられる柔らかくて大きなふくらみも、シーツのおかげで全ては見えない。

「くあ……」

「ぁふ……」

 二人同時に大きな欠伸。ただでさえ海で体力を使い、岬まで歩き、その上……言ってしまうが、三回もしたのだ。初めてだというのに。当然体力はとっくに

底を尽きており、今はもう起きているだけでも辛い状態である。

「明日は、どうしましょうか……?」

「ん……とりあえず、ロードワークは……」

「行っちゃダメですぅ……謙悟くんが、いなかっ、たら……にゃぅ」

 いなかったら何だというのか、と聞こうと思ったが、冴霞の目蓋はもう閉じてしまっていた。呼びかければ起きるだろうが、謙悟としてもそろそろ限界が近い。

だが寝る前に、冴霞が聞いていなくてもいいから、この言葉だけは言っておかなければ。

「……愛してる。ずっと、ずっと一緒にいような……さえか」

「………………ぁぃ」

 可愛い寝顔で、寝言のように。しかしそれでもハッキリと。

 世界でたった一つの空間で、永遠の約束をもう一度交わした。

 

 

 

 

 

FIN.




あとがき:

なんとかR15程度に抑えたつもりデス。さすがに下半身の描写をするとジオ様が我が家のドアを
蹴っ飛ばしそうな予感がしたので、自粛、自重。あんまりえろーすになってない? かな?
なんにせよ、長かったBGMの夏休み前半戦はこれにて終了。このあとは……後半戦!!(ぇ
改題はしません。話数も引き続いて14話からの継続。しかしそれほど長くはならないつもりですので、
もうしばらく、謙悟と冴霞とその他大勢にお付き合い下さい。


管理人の感想

ということでEパートでした〜(ボリボリ ←岩塩を食す音)
5部作となった13話を飾るに相応しいお話でした。ウチのサーバー様の都合で18禁はご遠慮頂かなければならなかったのが、誠に申し訳ないです。
それでも、充分に甘くそして若干エロくと、謙悟と冴霞の幸せっぷりを垣間見ることができたのではないでしょうか。
裏話ですが、パジャマという冴霞の服装は私のリクエストを通していただきました。
選択肢は、バスタオル・バスローブ・パジャマで・・・さあ、貴方ならどうしますか?(笑)

次回の14話も、お楽しみあれ〜^^
それでは!



2008.6.2