「かなめぇ〜、もういい加減、許してくれよぉ〜」
情けない声を上げる継は、ボロボロと涙を流しながら謝罪していた。しかし謝罪をされている側の要は、継の言葉などまるで聞く耳を持たないかのように
のんびりとレモンティーなど飲んでいる。
「手が止まってるよ〜。そんなんじゃお昼に上がるなんて出来ないよ〜」
「つーか、コレは……明らかに、イジメだろ……ぐすっ」
ごとん、とそれなりに重量のある音を立てて、継は手に持っていた包丁をまな板の上に置き、ざるに入れられていた野菜を軽く放り上げた。
学名Allium cepa。ユリ科の多年草。その鱗茎は一般的にタマネギと呼ばれる野菜であり、普段から料理に縁遠い継にとってこれを十個スライスし続ける
という作業はもはや拷問以外の何物でもなく、見ていて可哀想なくらいに涙でボロボロだった。
スライサーを使えばこの程度の作業は継にも出来る。だが要はスライサーの使用を堅く禁じ、包丁一本でどれだけ時間が掛かってもいいからやれ、と
のたまったのだ。もちろん水につけたり電子レンジで加熱すれば涙を流すことなく切れるのだが、それをやると風味が落ちるので、要は禁止している。
「イジメじゃないよ。コンフィチュールに使うんだから」
「コンフィ……なんだって?」
「コンフィチュール。ジャムのこと。継くんもお母さんが作ったの、食べたことあるでしょ?」
タマネギのコンフィチュールは甘酸っぱい味が特徴のジャムであり、またコンフィチュールという言葉はフランス語である。「ひいらぎ」では以前から
メニューにもコンフィチュールと記していたが、継は由来の分からないこの謎のメニューを敬遠していた。
だが要の言うとおり、継も昔から柊木家で食事をご馳走になるときに度々出されていた「タマネギのジャム」の存在は知っていたし、何度か口にしたことも
ある。要の母・柊木千景はそれを「ジャム」としか紹介しなかったため、継は勘違いしていたのだ。
「なんだ、ちゃんと理由あったんだな」
「ううん、別に今すぐ必要じゃないし。そろそろ心許なくなってきたから、今のうちに作っておこうと思っただけだよ?」
にっこりと悪びれることもなく告げる要。だがそれはつまり、継に押し付けたこのコンフィチュール作りの為の下ごしらえはやはり、彼に対する嫌がらせ
であるという事だ。
「タチの悪いイジメじゃねーか!」
「自分の彼女がいるのに、友だちの彼女に見惚れる方がよっぽど、タチが悪いと思うんですけど?」
「う……そ、それは、悪かったって言ってるだろ?」
涙を拭い抗議する。要は紅茶をシンクの上に置き、継の側に歩み寄る。
「今村先輩が美人だっていうのは、あたしだって分かってるよ? あたしも時々ドキッとするくらい綺麗だと思うし。でも……継くんが他の女の人に見惚れる
なんて、やっぱりイヤだよ……」
ぎゅっと継の手を包む要の手。継はその手に自分の指を滑り込ませ、しっかりと絡め合う。
「要、ゴメンな……でも他の人に見惚れても、俺には要だけだから」
「うん。んっ……」
口唇を重ねる。もう何度となく交わしてきた継と要のキスは、謙悟と冴霞のそれに比べれば遥かに熟達している。
「んちゅっ……んぁっ、もう、また舌入れて……この前みたいに間違えて噛んじゃったらどうするの?」
「噛まなきゃ良いんだっての。つか、紅茶のせいで変な味したぞ?」
「レオンティーだよ、変な味じゃないもん」
ぷぅっと頬を膨らませて可愛らしい反論をする。継はそんな要をきゅっと抱きしめ、と同時に壁に掛けられている時計に目が行った。
「もうすぐ十一時だな。新崎と先輩、もう海に着いたかな?」
「どうだろ? バスで行けるから着いてると思うけど。継くんも海、行きたい?」
「そりゃ、せっかく水着買ったんだから行きたいに決まってんだろ? 要の水着姿をバッチリカメラに納めておきたいし」
「うぅ、行くのは良いけど、せめてもう少し痩せたかったよぅ……今村先輩スタイルいいし、あたしより軽いかも」
しみじみと溜め息を落とす要。すると継はひょいっと要を抱え上げた。
「ひゃっ、け、継くん!?」
「大丈夫、持ち上げられるくらいには軽いぜ。それにな?」
少し目線を上げる継。普段なら見下ろす要の顔が自分よりも高い位置にあるのは、少々妙な気分だったが。
「さっきも言ったろ? 俺には要だけだって」
「うん……あたしも、継くんだけだよ」
幼い頃から共に過ごし、ようやく互いの想いを見つめ合えた二人。その絆は深く、多少のことでは揺らぐことすら有り得ない。
ならば。そう、ならば。
知り合えて間もないもう一組の男女は、どんな方法で絆を深めて行くのか。
B&G MEMORIAL of SUMMER
BOYS and GIRLS in
13.Sweet Sweet Strawberry
青い空、白い雲。こだまする蝉の声と雑踏の声。
陽乃海海岸は平日でありながら、海水浴に訪れた人々で溢れていた。家族連れ、友人、仲良しグループ。分類は様々に出来るが、どこを見ても
人、人、人だらけだ。
「みんな、他に行くとこないんだな……」
呟いた後で、それは自分も同じかと思い、謙悟は溜め息をついた。既に着替えは済ませており、ごく普通のサーフパンツ・トランクスの水着に
上着を羽織っている。だが隣りに冴霞の姿はないのは、まだ彼女が着替えの最中だからだ。
女性用の更衣室として使われている海の家は男性用よりも少々混雑しており、列も出来ていた。中には個室が設置されているのだが、男性用と
同じ数だとすると三つしか用意されていない。これでは混雑するのも当然といえる。
なので謙悟は先に着替えて適当な場所を取ろうと海岸に出た……が、どこを見ても人だらけでとても場所を確保することなどできず、荷物を詰めた
バッグを砂浜に落として椅子代わりにし、冴霞からの連絡を待っていた。
実は今日、冴霞が着てくるはずの水着は謙悟と一緒に選んだ物だ。美優と再会し一悶着あったあの後、今度は謙悟も立会い何着か試着した中で
冴霞が一番気に入った物を選んでいる。ただし実際に着ている所を謙悟は見ておらず、ちゃんとした形ではこれが初めてだ。
ガラにもないことだが、謙悟はそわそわしていた。
落ち着かない、待ち遠しい、組んだ腕を自然と指が叩いたりしている。
武を修める身である以上、精神修行は積んでいる。どんなときにも慌てることなく、どこか大人びた思考は積み重ねてきた修練の賜物だ。禅を組んで
数時間は平然としていられる謙悟が、わずか数分で耐えられなくなっているなどという事態を彼の師匠らが聞いたら、竹刀を謙悟の肩ではなく自分の
頭に叩き込むだろう。少なくとも彼らにとってはそれくらい混乱するほどの異常事態である。
謙悟自身にもその原因は分かっている。冴霞が来るのが楽しみで仕方がないのだ。
正直、こんな気持ちは初めてだった。美優と付き合っていたときにも近い感覚はあったのだが、お互いにどこか距離を置いていた為にこうした高揚感は
少なく、また真相を知ってからはそれが自分の求めていた関係ではなかったからか、酷く落胆したのを憶えている。
そんなことを取りとめもなく考えていると、手に握り締めていた携帯が着信音を響かせた。謙悟はすぐさま携帯を開き通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『謙悟くん、今どこですか?』
「更衣室のすぐそば。場所が取れなかったから、そこで待ってる」
立ち上がりバッグを肩に背負う。すると階段の上から、謙悟と同じように携帯を耳に当て、左手にはバッグと上着を持った冴霞が歩いてきていた。
「お待たせしました。ちょっと遅くなっちゃいましたね……どうですか? 似合います?」
くるりと背中を向け、そしてまた向き直る冴霞。だが謙悟だけでなく、周囲の人々の大多数(主に男性)が冴霞の姿に目を奪われていた。
黒く長い髪はいつもどおり結ぶことなく波打っている。そしてそれとは真逆の白い水着が、冴霞の身体を包んでいた。
水着は背中のホックと首の後ろを結んで止めるタイプのトップ部と、ややローレグのアンダーに分かれたビキニタイプだ。トップは胸元に少し大きめの
リボンをあしらっており、アンダーの腰、両サイドにも小さなリボンがつけられている。
綺麗か可愛いらしいかで言えば、可愛らしい部類に入るであろうその水着はしかし、冴霞の容姿の素晴らしさをより一層引き立てる物としての役目を
十二分に果たしていた。
以前から度々触れてきたが、要ほど大きくはないにしても冴霞は十分に巨乳と言って差し支えない。わき腹もきゅっと締まって見事なくびれを形成し、
その細さが実際のサイズ以上にバストを大きく見せている。誇張表現ではなく抱きしめれば折れてしまいそうな腰の細さだが、程よくついた腹筋により
頼りなさは感じられない。
ヒップラインにいたっては少々髪で隠れているにも関わらず、美しく引き締まっているのが分かる。理由はそこから伸びる脚線の美しさだ。
かつては陸上部に所属し、現役であった中学時代には陽乃海市の百メートル走における大会記録保持者だった冴霞の脚はすらりと長く、そして無駄な脂肪は
一切なく、またゴテゴテした筋肉は既に取り払われ、ただ細いだけの華奢なものとは違う、一種の芸術品とも呼べるものに仕上がっている。
そしてなにより特筆すべきは、彼女の足の長さだ。
冴霞の足の長さは八十九センチにもなる。これは身長に対しての平均的な足の長さ(股下高)を大幅に上回るものであり、単純に言ってしまえば世に出ている
ファッションモデルに匹敵する長さである。
顔の美麗さはいうに及ばず。加えて非の打ち所もない完全無欠のスタイル。そしてこれ以上ないほどにその魅力を演出する水着。
過剰な物言いをするならば、今村冴霞はこの瞬間に陽ヶ崎高校のみならず陽乃海海岸の注目の的となった。
「…………」
「「「「……(ゴクリ)」」」」(←海水浴客)
「も、もう! 何か言ってください!」
そうは言うものの、人間本当に感動すると言葉など出ないものである。謙悟は身をもってそれを痛感しながらも、改めて冴霞を見る。
不満そうに、それでいて不安そうに自分を見つめている冴霞。突出した容姿とは正反対に自信のなさそうな彼女に救いの手を伸ばせるのは、自分しかいない。
「うん。その……可愛いし、凄く似合ってると思う」
「〜〜!!」
瞬間湯沸かし器もかくやというほどの速さで赤面し、衝動的に冴霞は謙悟の胸に飛び込む。周囲からはかすかにざわめきが起こった。
だがそれ以上に、謙悟自身も自分の言葉に驚いている。まさか自分が、小説や漫画の中でしか出てこないような褒め言葉を言う日が来ようなどとは。
しかし、この思いは間違いなく本物であり、謙悟の心からの本音である。隠す必要などないのだ。強いて隠す必要があるとすれば――――。
「冴霞さん、その……みんな見てるんですけど」
控えめに抗議するが、冴霞の抱擁は中断する気配がない。それどころかより強く謙悟の身体を引き寄せ、密着してくる。
当然密着すれば、冴霞の身体の中で最も突出した部分は謙悟の胸板に押し付けられ、水着越しに柔らかさを維持したまま形を変える。
「(くぁっ……)」
漏れそうになる嬉しい悲鳴を喉の奥で飲み下し、半ば無意識に視線を下に下ろす。
――――豊かなバストを持つ女性だけが作り上げられる領域。胸の谷間。謙悟は生まれて初めて、生でその光景を目にした。
抱き合ったことはある。だがその時はお互い服を着ていたし、こんなに密着もしていなかった。だが水着となれば薄布一枚取り除けば当然裸であり、上着を
羽織っているとはいえ謙悟もまた似たようなものだ。文字通りレベルが違う。
「「「「ざわ……ざわ……」」」」
周囲のざわめきが増す。更衣室から出てくる人々、更衣室に向かう人々、そして砂浜を歩く人々。衆人環視とはまさにこの状況に相応しい言葉だ。
「冴霞、そろそろ羞恥プレイはやめてくれ……っ」
「え? …………はぇぁっ!!?」
顔を上げて、辺りを見回して。
状況認識を終えた冴霞はリンゴのように真っ赤になって、謙悟の手を引っ張って砂埃を巻き上げながら、砂浜を駆け抜けた。
ちなみにこの時の速度が、現役時代に拮抗できるほどのタイムを叩き出していた事は、誰も知らない。
密集地帯を抜けて、やや防波堤に近い砂浜まで一気に駆け抜けた冴霞は、ビニールシートの上に仰向けで寝転がっていた。急激な運動による疲労は久しく
忘れていたもので、心地良いことは心地良いのだが、現役を退いて二年以上経つ現在では心地良さよりも、疲れの色のほうが濃い。
「ほら、水」
「ん……」
少し頭を上げて、こきゅこきゅと差し出されたペットボトルから水を飲み込み、再び「枕」の上に頭を置く。謙悟は控えめに溜め息をついてから冴霞の
前髪を梳き上げて、わずかに浮かんでいる汗をタオルで拭き取った。
「ごめんなさい、謙悟くん……私、嬉しくってつい……」
「いや、いいって。まぁ……恥ずかしかったけどな。これもこれでゆっくり出来ていいし」
「あぅ……」
視線を上に向ける冴霞。その先には謙悟の顔があり、彼女が「枕」にしているのは謙悟のフトモモだ。つまりは膝枕、である。
「本当だったら、私の方がこういうことしなくちゃいけないのに……」
「いいって言ってるだろ? それに、こっちはあんまり人も多くないし、時間もまだある。膝枕は後でしてもらうから」
「ぅん……ありがとうございます」
唐突に、くぅと小さく冴霞のお腹が鳴る。朝食を軽めにしかとっていなかった上に、先の大脱出で大幅にカロリーを消耗したのだから仕方がないが、冴霞は
ばつが悪そうな顔をした。
「……聞こえました?」
「一応。何だ、腹減ってるのか?」
「ちょっとだけ……。私のバッグ、出してもらえますか?」
「ああ」
傍らに置いていた冴霞のバッグを取り、彼女のお腹の上に置く。冴霞は謙悟の膝に頭を乗せたままごそごそとバッグを漁り、小さなタッパーを取り出した。
「弁当?」
「ううん、フルーツです。父の知り合いが送ってくれた、夏イチゴ」
かぱっとフタを開けば、ぎっしりとヘタを取ったイチゴが詰め込まれていた。そしてその上にはうっすらと練乳がかかっている。
「んしょ」
起き上がり、肩を寄せる冴霞。謙悟も少し距離を詰める。
「夏にイチゴなんて珍しいな」
「はい。本当はイチゴの旬って六月くらいなんですけど、最近は夏イチゴっていうのも増えてるんですよ?」
しなやかな白い指が真っ赤に熟したイチゴを摘み上げ、口へと運ぶ。柔らかな実はほんのりと甘く、それでいてしっとりとした瑞々しさもある。
「謙悟くんも、どうぞ?」
「ん、いただきます」
一つ摘み、口へ放り込む。甘すぎるのは好まない謙悟だが、このくらいの甘さなら特に問題なく食べられる、というのが素直な感想だ。
「…………謙悟くん、私にも」
「え? ……ああ、うん」
いきなり言われたので何のことかは分からなかったが、冴霞の目を見ればなんとなく言いたい事は分かった。また一つイチゴを摘み上げ、それを冴霞の
口唇に当てる。薄く開かれた口唇はちゅっと小さな音を立てて口の中へ吸い込まれ、数秒も経たずに喉の奥へと消えていった。
「じゃあ、今度は私……ですね」
謙悟の返事を待たずにイチゴを摘み、口へと運ぶ。しかしそれは謙悟の口へではなく、冴霞自身の口。そしてそれを食べるわけでもなく、器用に口唇に
挟んだまま、謙悟に突き出していた。
「えっと……これを?」
「ん」
浅く頷く冴霞。少しでも体勢が崩れたりすれば、イチゴはすぐにでもシートの上に落ちてしまう。もちろん突き出されたイチゴを手で取るという選択肢も
なくはないのだが、謙悟はそんな無粋な選択などせず。
「……んっ」
「ふぁっ……んっ、んぅ」
口唇でイチゴを取り、口の中で二つに切り、半分をまだ開いていた冴霞の口の中に押し込む。正直目眩がしそうなくらい恥ずかしかったが、それ以上に
謙悟は冴霞とこんな甘い時間を過ごせることが、ただ純粋に嬉しかった。
そしてそれは冴霞も同じだ。自分でも大胆なことをしている自覚はあるし、当然それなりに恥ずかしい。謙悟が一言でも拒絶の言葉を口にしていれば、
恥ずかしさのあまりまた爆走して逃げ出していただろう。だが謙悟は拒絶どころか率先して受け入れ、また予想だにしないことまでしてきた。
それが本当に嬉しい。
口唇を離し、互いの顔を見つめ合う。つぅ〜、と冴霞の口の端から果汁の残りが流れ出し、謙悟はそれを指ですくい、自分の舌でなめ取った。
「……イチゴ味のキス、おいしかった……です」
「死にそうなくらい、恥ずかしかったけどな……でも」
「でも?」
小鳥のように首を傾げる冴霞。謙悟はそんな彼女の口唇に餌を与える母鳥のように、ぐいっとイチゴを押し付けた。
「正直、ここにある分だけ俺、同じことしたいって思ってる」
「んむっ……ちゅ」
ちゅるっ、とイチゴを飲み込み、謙悟の指までくわえる冴霞。そして空いた手でイチゴを摘み、謙悟がしたように彼の口に押し当てる。謙悟もまた冴霞と
同様に指ごとイチゴを口に収め、二人同時に互いの指を口から開放する。
「ふふっ……今の私たちって」
「ああ。文句なしのバカップルだよ」
互いに笑い合い、十数個残っているイチゴから一つ摘み、またイチゴを口に含もうとする謙悟。それを冴霞は制し、自分でもとんでもないことだと思える
提案をした。
「その……これだけあれば、ジュースにも出来ますよ?」
「ジュース? でもミキサーなんてないぞ? 手で一個ずつ潰すのか?」
「い、いえ、えっと……ここ、で」
つん、と冴霞は自分の頬をつっつく。謙悟は数秒考えて、絶句と共に顔を赤らめた。
「そりゃ、また……斜め上の発想だな」
「ああっ、わ、私、何てこと言ってっ……け、謙悟くん、今のは無し、無かった事にして――――」
「イチゴジュース、オーダーしてもいいか?」
「くだ、さ、ぁ……えぇっ!?」
ぼふっ、と音を立てそうな勢いで赤面する冴霞。謙悟はそんな彼女を見ながら、珍しくニヤニヤと意地悪な笑顔を浮かべている。
「なんだよ、自分で言ったんだろ? ちゃんと作ってくれよ? 楽しみにしてるから」
「で、でも、イチゴだけじゃないんですよ!? 私の、その……だ液だって、いっぱい入っちゃうし……」
「そんなの今更だって。気にするなよ、ほら」
今まで摘んでいたイチゴを冴霞の口元に持っていく。だが無理に食べさせるようなことはせず、謙悟はあくまで冴霞が自分から口に含むことを待っている。
冴霞はそれを理解し、しばし逡巡するが意を決して謙悟の手からイチゴを食べ、またタッパーに収まっていたイチゴを一つ、また一つと口の中に入れていく。
都合五個。最初はハムスターのように頬を膨らませていたが、口の中で一つ一つ丹念に切り、押し潰し、すり潰し、だ液とともに口の中で混ぜ合わせる。
普通ならそれを想像するだけで、飲む側の気持ちも少なからず萎えてしまうだろう。だが謙悟は萎えるどころか、受け入れる気満々だった。
それは決して謙悟が変態的な性癖の持ち主だという事ではない。彼はいたってノーマルであり、あえて言えば冴霞に対する愛情の深さという一点が突出している。
そして冴霞も、いくら付き合っている彼氏であっても、好き好んで自分のだ液を飲ませるのは抵抗がある。だが彼になら、謙悟になら飲んでもらいたいとは
いかないまでも、少量程度なら飲まれることには抵抗が少ないのだ。
だからこそ、そもそもの『イチゴジュース』という発想が出てくるわけであり、謙悟の愛を信じていればこそ言い出せる。
「ん……」
「出来た?」
「んむ」
こくん、と首肯する。だがいつまでも水分を口に含んではいられない。謙悟は右手で冴霞の手をきゅっと握り、空いている左手で頭を引き寄せ、押さえつける
ように下から口唇を塞いで冴霞の口に溜まっているジュースを吸い出す。
甘く、すこし果肉の残った粘り気のある赤い液体が口の中に広がり、同時に縮こまっていた冴霞の舌を吸う。舌にも味が染み込んでいたのか、以前よりも
遥かに甘い。
ごくん、と最後の一口を飲み下す。そしてゆっくりと口唇を開放し、絡み合っていた舌を名残惜しそうに放して顔を見合わせる。
「ど、どう……? 美味しかった、ですか?」
「うん。すっごく甘くて、美味しかった……って、また垂れてる」
ジュースの残りを指で拭うと、今度は冴霞が付着したイチゴジュースを謙悟の指から舐め取った。
「ホント、甘いですね」
にっこりと微笑む。その笑顔のほうがずっと甘くて蕩けそうだ、と謙悟は心の中で呟いた。
あとがき:
久し振りに糖度全開で書いてみました。タイトル通りの甘々です。
書いてるこっちが恥ずかしくなるほどのベタベタラヴラブ。昔の私なら間違いなく
出血多量で悶死していることでしょう。
次回は後編。これで最終回となるかどうかは、まだ未定ですよー。
管理人の感想
・・・。
・・・・・・。
・・・はっ!?
いかんいかん。最近、自身ではラブラブ系の作品を書いていなかったので、軽くショック死しそうになりました(笑)
前半の要&継も大概でしたが、冴霞&謙吾はやばい・・・。
イチゴジュースだとぉ!?私も飲みt(殴
後半もラブンラブンなんだろうなぁ・・・(遠い目)