B&G High School Memorial

 

 

 

 今村家に全員が再び戻り――――もとい、帰ってきたのは一時間ほど過ぎた午後七時を少々回ってからだった。最初に帰ってきたのは一番近い彩乃で、

次いで巴。意外にも天桜町の隣町である美松(みまつ)町の住宅街に住んでいる事が判明した愛は、さらに隣町・日ヶ峰町に住む要と待ち合わせをして、

二人一緒に帰ってきた。そして要の両手と愛の右手には、宣言通りに追加された食料が握られている。

「めぐちゃん、かなめちゃん、おかえりなさぁい!」

 ととっ、と二人に駆け寄って、荷物を運ぶ手伝いをする麻那。だがずっしりと重い紙袋は麻那にはまだまだ重く、持ち上げるどころか引きずるような形に

なってしまった。

「まだ麻那ちゃんには無理だろう。ほら、一緒に持とう」

「……うんっ」

 彩乃が片方の持ち手を持つと、麻那も空いた持ち手をつかんで二人の力で持ち上げる。彩乃と麻那の身長差は今居る面子の中では一番近いが、それでも

三十センチ近くある。だがそのおかげで、考えられる組み合わせの中では外見上、一番姉妹と言って納得できるペアだった。

「やれやれ。彩乃もすっかり麻那ちゃんの虜ね」

「そういう事言うとまた怒られちゃうよ、巴ちゃん?」

 控え目に苦言を呈する冴霞。だが、本音を言えば冴霞も同じような事を考えていた。彩乃が、彼女にとっては不仲としか言いようがない冴霞の恋人である

新崎謙悟の妹・麻那とこれほど親しくなっている姿を見れば、そう思ってしまうのも無理からぬことだろう。

 と言っても、実は冴霞自身も知らない事なのだが、謙悟と彩乃は確かに不仲ではあるものの、互いのことはちゃんと認め合っている。両者とも冴霞の事を

想う気持ちに変わりはないのだから、その気になればいつでも和解は出来るのだ。しかしお互いの言い分が微妙に食い違っているので上手く仲直り出来ない

のが、現状といったところだろう。

 それはさておき。

「今から晩ご飯を準備していたら結構遅い時間になってしまうので、ピザを頼んでおいたんですけど、良かったですか?」

「あ、はい。あたしもあんまりメインになるような食材は買って来なかったから……でも、結構するんじゃないんですか? 六人前にもなると」

 確かに、要の言う通りである。サイズの小さい物でも一枚千円以上する宅配ピザは、一番大きいLサイズにもなれば三千円以上する。仮にそれが二枚だと

すれば、単純計算で六千円。だが無論、それを考えていない冴霞ではない。

「大丈夫ですよ。今回の麻那ちゃんのお泊りに関しては、謙悟くんのお母様からも少々援助してもらってますから。いくらとは言えませんけど」

 ぴ、と取り出した封筒を見せる冴霞。封筒にはしっかり「冴霞ちゃんへ」と書かれており、中には現金だけではなく謙悟の母・陽子からの手紙も同封され

ている。内容は当たり障りのない挨拶文と、麻那の事を頼むということ。そして――――誰にも言えないが、早く娘になって欲しいという陽子からの熱烈な

までのラブコールが書かれていた。

 

 

Another Episode

冴霞と麻那の姉妹な一日。

 

第八話 Lodging Party 2 ~Healing Bath TimeBefore~

 

 

「はぅ……」

 直径三十六センチ。文字通りのLサイズ一枚と、二回りほど小さいMサイズを見事完食した六人の中で、ご満悦といった感じの溜息を吐いたのは麻那だ。

家でもあまり食べる機会のない大判のピザの食べ応えは彼女の想像以上であり、手も口の周りも油まみれになる事など一向に構わず、見ているだけで幸せに

なってしまうほどの食べっぷりだった。そして今はちょっぴり膨らんだお腹にシルビアを乗せて、ソファーの上でテレビを見ている。

「麻那ちゃん、デザートはまだいらないかな?」

 要がやって来て、自宅から持って来たシュークリームを掲げる。カスタードクリームと生クリームをふんだんに使った物だ。普段ならば一も二もなく飛び

つきたい所ではあるが、さすがに今のお腹にこれ以上食べ物を詰め込むことは、出来そうにもない。

「……あとで食べるぅ」

「ん、分かった。ちゃんと箱に入れておくからね」

 ケーキボックスにシュークリームを仕舞い、要はそれを冷蔵庫の中に入れる。他の女性陣の中で、愛と彩乃はもくもくとシュークリームを食し、一方で

巴と冴霞はピザに合わせて作ったサラダの片づけをしていた。穏やかな食後の歓談は所々で行われており、優しい空気に満ちている。その中で、麻那からの

視線に気づいた冴霞が手を振ってくれるのを見ると――――麻那は不意に、陽子の事を連想してしまった。

「あ……あぅ……っくぅ……?」

 唐突に、ぽろぽろと涙が零れてくる。泣きたいわけでも、何が悲しいわけでもない。麻那自身にさえその理由は分からない。シルビアはすぐに異変に気が

付き、麻那の顔を覗き込むが、そのまま麻那の身体に乗っていることしか出来なかった。

「麻那ちゃん!?」

 洗い物を即座に切り上げて、駆けるような速さで冴霞が麻那の隣に座る。やや遅れて巴、要、そして彩乃と愛も麻那の元にやってくるが、泣きやむ気配は

一向にない。以前、文化祭の時には泣き喚くという言葉がピッタリくるような泣き方だったが、今の泣き方はそれとは正反対に麻那自身も泣くのを堪えよう

としている。その事を察した冴霞は抱き締めることをせずに、シルビアを下がらせ、麻那の左手を握った。

「麻那ちゃん、どうしたの? どこか痛いんですか?」

「っ、っ……」

 首を横に振られれる。冴霞自身も先ほどの質問は定型句に過ぎない物だと分かってはいたが、小さな子が涙ながらに訴えかけるものと言えばまずは肉体的

痛みだ。だが、冴霞も知っている事だが麻那は意外と芯の強い子でもある。にも関らず泣いた、ということは。

「……寂しいんですよ、きっと」

「え……?」

 冴霞が聞き返した相手は、要だった。要はそのままソファーに腰掛けると、麻那の空いている右手を握って、そっと自分の頬にくっつけた。

「麻那ちゃん。もしかして、お母さんのこと考えたのかな?」

「……う……ぅん……ひっ」

「そっか、そうだよね。…………多分、今日は新崎くんもいないから、それを考えちゃったんだと思いますよ。麻那ちゃん、一人で誰かの家に泊まるって

初めてなんですよね?」

 要が向けた質問に、今更のように冴霞は気付かされた。謙悟からも聞いてはいたが、麻那があまりにもしっかりしていて、またこの状況を楽しんでくれて

いた為に忘れていた、一つの重要な事実。

 そう、麻那には陽子や謙悟がいない状態での外泊や、独り寝の経験が一度もない。常に家族の誰かが傍についており、片時も離れた事が無い。そのことに

自発的に気付いたが故にこみ上げた、感情の爆発。大好きな冴霞がいても感じてしまう、否、冴霞の姿を母と重ねられるほどに親しく思っていたからこそ、

起きてしまった――――ホームシック。

「まぁ、仕方がないかもね。まだ小さいんだし、お母さんが恋しくなるのは当然よ……」

「麻那ちゃん……うぅ〜……」

「お、お前が泣くな、秋月っ!」

 思わず貰い泣きしかけた愛に突っ込みを入れる彩乃。だがそんな漫才も今の麻那には届かず、涙はまだ止まらない。そこで冴霞は手を離すと、

麻那の涙を指ですくい取り、そして母が子にするように、慈しむような優しさで麻那を抱いた。

「麻那ちゃん……ごめんなさい、気がついてあげられなくて。……私、麻那ちゃんが初めてお泊りするって知っていたのに。こんなんじゃ私、麻那ちゃんの

おねえちゃんになんてなれませんよね……ごめんなさい……」

「おね、ちゃ……ひっく」

 冴霞に抱かれるのはもう何度も経験している麻那だが、今の冴霞は今までとどこか違うような気がしていた。どこが違うか、とは明確には分からないものの、

甘くて優しくて、それでいて……ただそれだけではない、何かが。

 あえて答えを言うならば、それは『母性』だろう。今までの冴霞には足りなかったがしかし、今この時だけは麻那の母親代わりになりたいという気持ち

から生まれたもの。まだまだ本物の『母』には程遠いものではあるが、それも。

 冴霞だけではなく、麻那の手を握る四人の姉たちがいれば、十分に麻那の涙を止めるだけの力が得られる。

「……っ」

 ぎゅ、と小さな手で四人の手を握り返し、冴霞の胸に顔を埋める。大きくて安心できる温かさ。頭を撫でてくれる優しい手。その手を通して、皆が麻那と

繋がっている。だからきっと――――もう、大丈夫。

 

 

 

「じゃあ、お風呂入れましょうか。誰から入ります?」

 湯沸かし器のパネルを操作しながら、冴霞が問いかけた。すっかり落ち着いた麻那は今は巴と一緒にゲームをしている。ちなみにジャンルは冴霞がプレイ

する事を禁じられている対戦格闘ゲームだ。

「冴霞の家の風呂は広いからな。二人くらいなら一緒に入れるだろ」

「そしたら、ジャンケンでおなじのを出した人たちでペアにしませんかぁ? それなら早く済むでしょ?」

 愛にしては珍しく的確な意見に、彩乃もほう、と感心の声を上げる。確かに冴霞自身も謙悟と一緒に入った経験から、二人一緒に入れることは身を持って

証明している。だが、それを打ち破るどころか粉砕する意見が提案された。

「みんなではいろぉっ!!」

「「「「「……………………え!!!!!????」」」」」

 巴、彩乃、要、愛、そして冴霞が一斉に聞き返す。だが提案者である麻那はコントローラを置くと、巴と愛の手を引いて彩乃の元まで行き、キッチンで

明日の朝食の下ごしらえをしていた要も連れて来て、冴霞の元に辿り着くと。

「お姉ちゃんたちみんなと、いっしょがいい!!!」

 無邪気に、無垢に、信頼と親愛をこれでもかと乗せた笑顔。この天使の笑顔に抗う術は、最早誰も持ち合わせていなかった。

「…………えっと、とりあえずは浴槽に三人……シャワールームに二人と、普通のシャワーで一人……ですね」

 冴霞がイメージしてみるが、驚いたことに全員入ってもとりあえず何とかなりそうだった。

 狭苦しくはなるだろうが、楽園の完成。たった一人の天使によって作り上げられた乙女の園が完成するまで、あと――――三十分。



あとがき:

ホームシックはいつも突然。といっても、麻那くらいの年なら出て当たり前。
けれど、優しいおねえちゃんたちに支えられてあっという間に回復。ここで一番的確だった
のは、冴霞ではなく要だった。いざという時に頼りになるのは、圧倒的なリーダーの冴霞や
巴ではなく、何気ない縁の下の力持ちな要の方なのかも知れません。


管理人の感想

第八話をお送りして頂きました!^^
みんなでピザを食した後は、満足気な麻那を残しつつそれぞれ後片付け。
しかし麻那は、台所で作業をしている冴霞――大好きなお姉ちゃんに、母・陽子の姿を重ねてしまって・・・。
けれど、優しいお姉ちゃんたちに囲まれて、何とか笑顔を取り戻す。傍に居てくれるという尊さを学びながら。
次回は・・・乙女の楽園!さあ皆さん、鼻血防止のティッシュを鼻に詰めてお待ちください(笑)



2009.3.20