B&G High School Memorial

 

 

 

「しるびあ〜、ごろごろぉ〜♪」

「〜〜〜〜♪」

 冴霞の膝の上に乗った麻那は、さらに自分の膝の上にシルビアを乗せてあごの下を撫でまわしていた。一方、冴霞は冴霞で麻那から貸してもらった

iPod touchの操作を学んでいる。元々興味はあったが購入するには高額であったことと、以前から使っているiPod nanoがまだまだ現役で使えているため、

どうしても手に入れたかったというほどでは無かったからだ。

 冴霞の住むこのマンション、グランレジデンス天桜は全室無線LANが標準仕様として増設されているため、iPod touchを利用したインターネットも十分

ストレスなく動作させることが出来る。また、麻那が使っていた位置情報検索機能はGPSではなくSDK(ソフトウェア開発キット)による物だということ

も、冴霞は理解する事ができた。だがそれはつまり、麻那がそこまでこのiPod touchという端末を使いこなしているという証明でもある。

「……時代の流れ、なんですかね」

 十七歳の身空で年寄りじみた事をいう冴霞。だが、そう感じても仕方がない。世の中に携帯電話が普及し始め、またパソコンがようやく一家に一台程度の

割合で浸透し始めたのが、ちょうど冴霞が麻那と同じくらいの年頃だった。父の仕事の関係でパソコンやワープロに触れる機会が多かった事と、冴霞自身の

心の病という都合で同世代の子たちよりはパソコンのソフトウェア・ハードウェアの知識には精通していた。だが麻那に聞いてみれば、iPod touchを買って

くれたのは父と母からの誕生日プレゼントだそうだが、操作はほとんど独学で覚え、必要なソフトは自分で調べて導入したのだという。さすがに冴霞でも、

七歳当時でそこまでは出来なかっただろう。

「おねえちゃん、どうかしたの?」

「いいえ、麻那ちゃんってすごいなぁって思ってたんですよ」

「??」

 首を傾げながら、ミルクウエハースを口に咥える麻那。それをパキンと半分に折ると、残った半分を冴霞に差し出してきた。

「はいおねえちゃん。あ〜ん」

「あ〜……んっ」

 口の中に頬張り、麻那の指も一緒に口に入れてしまう。麻那はそれを嫌がる事もなく、冴霞の口の中で濡れた指をぺろっと舐めると、嬉しそうに笑った。

「……なー」

「…………」

 さらに二匹の猫・シルビアとフレデリカが麻那の指をぺろぺろと舐める。両者とも麻那の事はすっかり気に入ったらしい。

 ふっと冴霞が掛時計に目をやると、時刻はすでに十二時を回っていた。時間をきっちり守るわけではないが、もう昼食時だ。麻那のためにあらかじめ用意

しておいた『企画』を実行に移す時が訪れている。

「や〜、くすぐったいよぉ〜」

 きゃっきゃっと笑いながら、シルビアとフレデリカを抱っこする麻那。冴霞からは体勢が体勢だけに正面から見ることはかなわないがその分、自分の手で

彼女に触る事が出来る。冴霞は麻那のふわふわな髪を撫でながら。

「麻那ちゃん、もう少ししたらお昼にしましょうか?」

 その申し出と同時に、再び来客を伝えるインターホンが今村家に鳴り響いた。

 

 

Another Episode

冴霞と麻那の姉妹な一日。

 

第三話 All the members set !

 

 

「ども」

「こんにちはぁ〜」

「お久しぶり、冴霞」

 突然の来客は冴霞が今年の夏になってから親しくなった柊木要、秋月愛と、昔からの親友である間宮巴だった。三人はそれぞれに近くにある大型スーパー・

スーパー天桜のビニール袋をぶら下げており、中には食材やお菓子、飲み物がわずかに透けて見える。

「みんな、いらっしゃい……あれ? 巴ちゃん、彩ちゃんは?」

「そこにいるわよ。ほら彩乃、いつまで隠れてんの」

 扉の影から巴に引っ張り出されてきたのは、冴霞のもう一人の幼馴染・来栖彩乃だ。彼女だけは手ぶらだったが、すぐ上の階に住んでいるために必要な

物があった場合にはすぐに取りに行ける事を考えれば、さして不自然なことではない。

「引っ張るな、服が伸びるっ! ったく……」

 ぱんぱん、と袖を叩きながら冴霞を見上げる彩乃。同じ学校・同じクラスということもあって、二人はほぼ毎日顔を合わせている親友同士である。そして

もう一人の親友である間宮巴は、小〜中学校と九年間ずっと冴霞と同じクラスで過ごしており、通っている高校こそ違うものの今でも変わらぬ親友だ。

「あんたが隠れたりしなかったら服引っ張ったりしないっつーの。じゃあ冴霞、上がっていいよね?」

「うん、どうぞどうぞ。ちょうどお昼にしようと思ってたところだから、時間ピッタリだよ」

 先陣切って玄関をくぐる巴に続いて、要、愛、そして彩乃も入室する。ここ最近は冴霞の家を訪れることの無かった巴だが、昔から変わる事のない遠慮の

なさとリーダーシップは変わらない。この点は現在の冴霞の性格にも影響を与えている。

「うわ……冴霞さんの家って、こんなに広かったんですか?」

「ふえぇ〜……」

 リビングの広さに圧倒されているのは要と愛だ。二人とも冴霞とは夏以降親しくなった間柄ではあるが、冴霞の家に招かれたのは今日が初めてだ。荷物を

置きながらも、やはり家庭用としては完璧に近い設備を備えているキッチンは相応に広く、四人くらいならば不自由なく移動できるスペースがある。

IHに、ウォータースチームレンジ……すごい、何でもある……これなら、いろんな料理が出来ますねっ!」

「ありがとうございます。私も微力ながら、お手伝いさせてもらいますね」

 袋の中身を開けて、必要なものは冷蔵庫や床下の収納スペースにしまっていく冴霞と要。その一方で、愛はと言うと――――

「おぉ、麻那ちゃ〜ん!!」

「? めぐちゃん? わぅっ!?」

 むぎゅうっ、と不意打ち気味に抱擁を敢行する愛。だが前回の文化祭の時とは違い麻那も泣きじゃくって抵抗することはなく、にこにこ笑いながら小さな

腕で愛を抱き返す。あれ以来、麻那と愛は密かに仲直りして、十歳もの年齢差を飛び越えて友達同士になっていた。『めぐちゃん』はその交流の際に愛から

言い出した愛称であり、麻那もそれが気に入ったのか使っている。

「やれやれ……またしても、新崎の関係者か」

「毛嫌いしないの。いいじゃん、可愛いんだから。それにあたし、フレデリカが冴霞と悠香さん以外に懐いてるの初めて見たわよ?」

 巴に言われて見てみれば、愛に抱きしめられている麻那を心配するように、シルビアだけではなくフレデリカまでもが二人の周りをうろうろしている。

人懐っこいシルビアはともかくとして、彩乃にさえ満足に懐かないフレデリカが、人間のそばにいるというだけでも驚きだというのに。

「わざわざ冴霞があたしらを呼んでまで、あの子を喜ばせてやろうって言うんだからさ。それを手伝ってあげるのが友達ってもんでしょ、彩乃?」

「……ふん、料理下手のトモに言われたくないぞ」

 ぷいっとそっぽを向いて去っていく彩乃。しかし歩いて行く先はリビングであり、そこには当然麻那がいる。小さい子相手に彩乃が何かするなどと微塵も

思っていない巴はキッチンに入ると、片付けの手伝いをし始めた。

「あ、巴ちゃん」

「手伝いに来たわよ。柊木ちゃんもありがと。あとはあたしと冴霞でやるから、早速準備に取り掛かってくれる?」

「あ、はい。巴さん」

 巴に言われるままに要は肩までの髪をヘアゴムで縛ってまとめると、下準備に取り掛かった。そのやり取りを見ていた冴霞は疑問を感じ、巴に呈する。

「巴ちゃんって、要さんと友達だったの?」

「いや? まともに話したのは今日が初めてだけど。でもたま〜に寄り道してた日ヶ峰の商店街で、柊木ちゃんのことはよく見かけてたから。あの子って、

『ひいらぎ』の看板娘でしょ?」

「今時、看板娘って……まぁそうだけど」

 商店街では名の売れた欧風喫茶レストラン『ひいらぎ』。要がそこのオーナー兼店主の娘であり、また将来有望なパティシエールの卵であることは周知の

事実だ。お互いに確たる面識はなくとも、一方が事情を知っていれば話題の展開もそう難しくはない。

「もう一人の秋月ちゃんも、かなり話しやすかったし。スーパーで買い物してる間にすっかり仲良くなってね、今じゃどっちも友達ってわけ」

「そうなんだ……」

 遠慮のなさから来る自信と、相手に溶け込む会話のテンポ。天性とでも言うべき巴の力――――人を惹きつける人間力。それを見せられるたびに、冴霞は

いつも『巴ちゃんには敵わないなぁ』とつくづく思うのだった。

 

 

 

「えっと……はじめまして、でいいのかな」

「?」

 今度は愛の膝の上に乗って遊んでいる麻那に向かって、彩乃は話しかけた。文化祭の時にも一度顔を合わせてはいるが、こうして話をするのは彩乃の記憶

では初めてだったはずだ。栗色の髪の、小さな女の子。冴霞の恋人である新崎謙悟の妹。

「……とにかく、はじめまして。冴霞の幼馴染の、来栖彩乃だ。よろしく」

「おねえちゃんの、おさななじみ? めぐちゃん、おさななじみってなに?」

 後ろにいる愛に質問する麻那。愛はその問いにニコニコと笑顔で答える。

「幼馴染っていうのはねー、ずっとずっと、小さい頃からのお友達の事を言うんだよ〜。ね、センパイ?」

「そういうことだ」

 ほえー、と納得したのか感心したのか分からない曖昧な声を上げると、麻那はぴょんと愛の膝から降りて、彩乃に向かって頭を下げる。

「はじめまして、しんざきまなです。よろしくおねがいしますっ」

 初対面の相手には必ず行う、麻那の挨拶。今までは冴霞にした挨拶以外は常に兄である謙悟に促されて行ったものだったが、今日の彩乃への挨拶は麻那が

自らの意思と判断で行ったものだった。それを知っているのはこの場では冴霞だけであり、彼女はキッチンにいながらその様子をしっかりと見ていた。

 そして、見ていたいのは麻那の成長だけではなく。

 幼馴染で親友の彩乃が、彼女が快く思っていない新崎謙悟の妹にどう接するかだったのだが――――。

「うん、よくできました。礼儀正しいんだな、麻那ちゃんは」

「えへへ〜」

 優しく麻那の頭を撫でる彩乃の表情を見れば、冴霞の心配は杞憂でしかなかった。

 新崎麻那と、来栖彩乃。新崎謙悟と今村冴霞に最も近しい存在である二人。そして冴霞にとっては大切な二人。そんな二人が円満な関係でいられることは、

冴霞自身の喜びでもある。これを機に、彩乃も麻那を通して謙悟との関係をより良くしてほしいというのが冴霞の秘めたる狙いだったのだが、それも余計な

お世話でしかなさそうだ。

 今日ここに、また新たな友情の種が蒔かれた。芽吹く時は遠くなく、やがては大輪の花を咲かせることだろう。




あとがき:

これにてメンバーが全員集合となりました。本編においては出番がなく、外伝のみの
キャラである巴も参戦。彼女たちの狙いは昼御飯の製作にあるようですが、それが冴霞の
「企画」とどう絡んでくるのかは、次回にて。
そして不仲な謙悟の妹と接することとなった我らが彩乃様ですが、やはり小さい子には
彼女も優しくなるようで。麻那とならきっと良好な関係を築いていけることでしょう。


管理人の感想

デレた!デレた!彩乃がデレた!!(爆)
はい、いきなり失礼なことを言いつつ管理人登場(ぇ
・・・なんか、冴霞と麻那が超らぶらぶなのは気のせいでしょうか(汗)
口元に運ばれたお菓子ごと指をぺろりと舐めるって・・・恋人同士かっ!(笑)
いや、微笑ましいんですけどね。・・・いいなぁ、あんな妹が欲s(ry
さて、意外にも早々に打ち解けた4人。さらに冴霞も含めて行なう「企画」とは・・・?



2009.2.26