第2回
一つの流派または幾つかの流派が集まって、各々の趣向を凝らして 数席を設け、客を招く場合を「連立茶会」と申します。 この場合、一席に20名、30名以上入席していただくことが多く、 この様な催し方を「大寄せ」と申します。 今回はそのような席の一つで、格調もありながらもっとも簡潔な点前を 一つご紹介いたしましょう。
「禅房花木深」と春を謳歌した黄檗玄妙管長の筆による床掛。
茶花は土佐水木とやぶ椿と加茂本阿弥。
左端は緑釉交趾の香筒。
長板飾り煎茶席。
名前のとおり、長板でしつらえた銘座から、一杯だけお茶をお出しする 点前です。この写真は昨年の3月に神奈川文化展で行った際のものです。 床の間には茶掛と季節の花と金彩の緑釉交趾(りょくゆうこうち)の 香筒(こうづつ)を飾り、春の魁を謳歌しています。
銘座には「結界」と呼ばれる衝立を置き、炉に「湯沸かし」を掛けます。 この炉は「涼炉(りょうろ)」と呼ばれ、春蘭の絵が施してあります。
右の「水注(すいちゅう)」には水を用意し、左は「褥(じゅく)」の上に 「茶入れ」と茶を量る為の「茶計(さごう)」を飾ります。
水注の前には「布巾筒」に布巾を入れ、また涼炉の脇には「箸立」が 色鮮やかに置かれます。
席の左、畳の上にある『清風』と書かれた「茶旗」は、煎茶道の始祖 『売茶翁(ばいさおう)』が江戸時代に野外で茶莚を開いた時、松の枝等に かけ、道を行く人に茶を煮ている合図とした名残として立てられます。
その手前の皿は香を炊く時の受け皿です。香は茶席を清め、新しい客を 迎える心づかいとして、一席毎に炊き、点前の前半には落とします。
右の篭は、炭とその道具が置かれます。
さて、それでは茶席の進行をご紹介しましょう。
長板の上に三点の主要な道具が置かれますと、「茶具敷(さぐしき)」の 上の盆中に大振りの茶碗三ヶと急須、茶托、蓋置きが用意され、 「盆覆(ぼんおおい)」が掛けられます。
この状態で席主(茶席全体の催し主)がお客様をお迎えいたします。
末客迄の入席が済み、主客の挨拶の後、童子(どうし;点前の補助役) によって「湯こぼし」が運ばれます。湯こぼしの中には、盆を拭く為の 布巾が「盆巾入(ぼんきんいれ)」に入れられています。
次いで銘主(点前をする人)が水屋口で一礼して席につきます。 湯こぼしを客席より見えないように膝脇に置き、客一同に点前を始める為の 一礼を致します。
規定の手順で点前が進み、急須に茶葉が入れられる頃「お菓子をどうぞ」と 席主より声がかかりますので、すでに運ばれている器の菓子を主客から順に 取り回します。 お菓子は懐紙にいただいて、左膝頭に置きます。
この席では「若草」という金沢の銘菓を菓子器「春陽」に盛って 供しました。
やがて美しい薄みどりの湯茶の入った茶碗が茶托にのり、 一客ずつに供されます。 主客から三客迄は銘座からお出ししますが、同時に召し上がって いただくために他のお客様には水屋からお運びの者が運んで参ります。
客は茶碗を手に取り、少々高く掲げて目礼をし、ゆっくりと一口茶を すすります。 上席では「大変結構な、、、」という喜びの挨拶が席主との間で 交されます。 客と言葉を交すのは基本的に席主で、銘主は点前に専心します。
ここで茶碗を右膝前に置き、菓子を懐紙ごと取り、楊枝を用いて適宜 切りわけて食します。使用済みの懐紙は、袖内、ポケットなどに入れて 持ち帰ります。 口の中に広がった菓子のうまみを楽しみつつ、残りの湯茶を自由に、 ゆっくり味わいながら飲み切り、茶碗は膝前に戻しておきます。
この間、銘主は湯わかしに水を足したり、布巾で盆を拭いたりして、 待座しています。
客一同が飲み終わる頃、始めと同様に上客三客分の茶碗を銘座へ 下げます。銘主はまず、茶碗を盆に納め、茶托を拭き、茶碗を湯で清めます。 続いて、茶碗、急須、茶托を盆外に仮置きし、盆を空にして拭き清めた上で 各々を盆中に元のように戻します。ここでは盆覆は致しません。
最後に、銘主は湯わかしの湯が拭きこぼれないように蓋を取り、 一膝下がって点前終了の一礼を済ませ、水屋に下がります。 入れ替わりに童子が出て、湯こぼしと盆巾入を持って下がります。
銘主と童子が改めて席主の隣に入席し、席主がただいまの点前におつき合い 頂いた礼を述べます。
再度、銘主と童子が退席しますと、客は銘座や床の間に近づいて茶席の しつらえを改めて拝見し、席主にいろいろと尋ねたり、 感謝の意を伝えたりし、和やかに終席となります。
以上が煎茶一煎点席の概略です。いかがでしょうか。 この他にも煎茶二煎点や、玉露、淹茶(えんちゃ;上質の煎茶を 用いる場合の点前)、番茶、夏は冷茶などと、季節と道具飾りの 趣向を変えていろいろと楽しむことができます。
次回は煎茶道の始祖といわれる売茶翁についてお話しいたします。
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