村上堅太郎・江上波夫・林健太郎 編 『史料世界史 下巻』 山川出版社 より/FONT>

不戦条約


<不戦条約(ブリアン・ケロッグ条約)1928年>

「国家ノ政策ノ手段トシテノ」戦争の放棄を定めた不戦条約です。

1) 不戦条約の意義

【戦争の違法化】

・戦争は違法だ、戦争はしてはいけない、戦争は禁止だと、国際条約において規定したことが不戦条約の最大の意義です。

・国際連盟規約が、原則として戦争を禁止しつつも一定の場合には戦争を容認していたのに対し、不戦条約は戦争そのものを否認している点において、より踏み込んだ内容になっています。

・ブリアンは演説なのかで、「戦争という制度そのもの」が正当性と合法性を否定され、戦争の「真の非合法化」を達成する普遍性を持った「国際協定制度」だと、この不戦条約のことを説明しています。

【アメリカ合衆国の参加】

・ご存じのように、アメリカ合衆国は国際連盟に加盟しませんでした。アメリカ参加の中で、多数の国家間の条約として成立した不戦条約は、国際連盟体制の欠陥を補うものでした。

・参加国は、不戦条約の成立時は15カ国でしたが、1938年には63カ国に増えました。63カ国でも少ないじゃないか、と思われるかも知れませんが、これは当時の世界の国々の9割以上を含む数字です。

2) 不戦条約の限界

・侵略戦争と自衛戦争の区別ができていなかったこと、戦争禁止制度に違反して戦争に訴えた国に対する制裁手段を規定していなかったこと、宣戦布告なき武力行動が抜け道となったこと、などが不戦条約の限界とされています。

※ なお、不戦条約は、その主唱者であったフランス外相ブリアンとアメリカ国務長官ケロッグの名をとって、ブリアン・ケロッグ条約ともいいます。
(深瀬忠一 『戦争放棄と平和的生存権』 岩波書店 1987年 p68-70参照)

<「戦争の放棄」思想>

 日本国憲法第9条1項は、「国権の発動たる戦争」を永久に放棄すると定めています。この「戦争の放棄」思想の歴史的系譜をたどっていくと、この不戦条約に行き着きます。

 また、1945年締結の国際連合憲章では「すべての加盟国は、その国際関係において,武力による威嚇又は武力の行使を、(中略)慎まなければならない」と定め、不戦条約の思想を受け継ぎつつ、戦争の違法化を前進させました。

<フランス外相ブリアンの業績>

 70数年前のフランス外相ブリアンの業績をまとめておきましょう。
 1920年代は国際協調の進んだ時代ですが、国際政治において、平和外交と国際協調の中心的役割を果たしたのがブリアンです。ブリアンは、1925年以降はほぼ一貫して外相の地位にとどまり、対ドイツ協調を軸とした平和外交を推進しました。

【ブリアン時代の主な事項】

1925 ロカルノ条約:ドイツ西部国境の現状維持を定める
1926 ドイツの国際連盟加盟
1928 不戦条約(ブリアン・ケロッグ条約)の成立

 ドイツとフランスは、プロイセン・フランス戦争(1870-71)、第1次世界大戦(1914-18)と、2度にわたる戦争で敵同士として戦いました。ブリアン外交とは、独仏協調を実現することで戦争の再発防止をめざした、と言うことができましょう。

 今日のEU(ヨーロッパ連合)も独仏協調を基礎として成立したものです。ブリアンは1930年にヨーロッパ連邦結成の覚書をヨーロッパ諸国に送付しましたが、実現しませんでした。
 ブリアンは1926年に、シュトレーゼマン(ドイツ首相・外相)とともに、ノーベル平和賞を受賞しています。

※ なお、不戦条約は期限の定めがなく、今日でも効力を有しています。


〔史料問題〕

人類ノ福祉ヲ増進スヘキ其ノ厳粛ナル責務ヲ深ク感銘シ其ノ人民間ニ現存スル平和及友好ノ関係ヲ永久ナラシメンカ為国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争ヲ率直ニ抛棄スヘキ時機ノ到来セルコトヲ確信シ(中略)左ノ諸条ヲ協定セリ
【口語訳】人類の福祉を増進すべき厳粛な責務を深く感銘し、人民の間に現存する平和と友好の関係を永久のものにするために、国家の政策の手段としての戦争を放棄すべき時が来たことを確信し、次の諸条を定めた。

第一条 締約国ハ国際紛争解決ノ為戦争ニ訴フルコトヲ非トシ且其ノ相互関係ニ於テ国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争ヲ抛棄スルコトヲ其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ厳粛ニ宣言ス
【口語訳】締約国は、国際紛争解決のために戦争に訴えることはできない、かつ、お互いの関係において、国家の政策の手段としての戦争を放棄することを、それぞれの人民の名において厳粛に宣言する。

第二条 締約国ハ相互間ニ起ルコトアルヘキ一切ノ紛争又ハ紛議ハ其ノ性質又ハ起因ノ如何ヲ問ハス平和的手段ニ依ルノ外之カ処理又ハ解決ヲ求メサルコトヲ約ス
【口語訳】締約国は、お互いに起こりうる一切の紛争または紛議は、その性質や原因がどうであれ、平和的手段によらずに処理・解決することを求めない、と約束する。


Q1 この条約は何か。

Q2 この条約の主唱者であったフランスの外相は誰か。

Q3 この条文の内容に合致するものは次のA・B・C・Dのうちどれか。
A) 現在は諸国の人民間に平和・友好の関係が存在していない。
B) 締約国は国際紛争を解決するため戦争を行うことができる。
C) 締約国は国家の政策の手段としての戦争を放棄する。
D) 締約国は平和的手段によらずに紛争や紛議の処理・解決を求める。

Q4 当時の日本政府がこの条約を批准するにあたり、適用除外を宣言したのは次のA・B・C・Dのうちどの部分か。
A) 「国家ノ政策ノ手段トシテノ」
B) 「其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ」
C) 「相互間ニ起ルコトアルヘキ一切ノ」
D) 「其ノ性質又ハ起因ノ如何ヲ問ハス」

☆★ 解答 ☆★
A1 不戦条約(ブリアン・ケロッグ条約)
A2 ブリアン(Aristide Briand)
A3 C) 締約国は国家の政策の手段としての戦争を放棄する。
A4 B) 「其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ」

以上