二十七、 祖父と仏様

 祖父は信心深い人であった。月々の仏様の日には仏間に入りカンカンとお鉦を叩きながらお経をあげるのであった。うちの者が誰も知らん顔しているとお経の合間に声がかかり「お前達もたまには仏様拝まっしゃい」等とおこられる。母は私をそばに坐らせてお参りししばらくは聴いている。落語の小言幸兵衛みたいな具合であった。

 又精進日といって毎月祖父の父母と長姉の命日には必ず一日生臭ものを絶っていた。筋子とか冬はいかの塩辛、鱈の子など大好物の酒の肴であったがその日は一切口にしなかった。

 祖父は別膳で茶の間に運ばせて食事をしたけれど私共が朝から卵などを食べている所を見つかると叱られた。
「今日は精進日だぞ、お前達ご先祖様を大事にまつらんでどうするッ」
 先ず祖母が怒鳴られるのであった。怒られると祖母は神妙にハイといって頭を下げる、祖母は自分では食べないのであったけれども私達には甘かったし、母は母で栄養が大事であるという考えであった。


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