『はぴねす!SS』


 『解かれた魔法 運命の一日 第1話』


                              投稿者 フォーゲル



  風薫る新緑の季節―――
 つい先月まで、ここが見せ場とばかりに咲き誇っていた桜の木も、今はすっかり葉桜になり、
 季節の移り変わりを見せ始めていた。
 そんな中で、俺―――『吾妻(あずま)和志(かずし)』は、
 明日から、自分が転入する学園、私立『瑞穂坂学園』を見学しに来ていた。
 「しっかし・・・例の事件の被害は相当なものだったんだな・・・」
 ニュースで聞いた『魔法科校舎崩壊事件』の爪跡がまだ、あちらこちらに残っていた。
 今、学園の敷地内はその復旧工事が急ピッチで進められている。
 (これは、工事のジャマをしないようにした方がいいかもな・・・)
 俺はそう考えると空を見上げた。
 どこまでも、抜けるような青空が続いている。
 「だけど・・・ここに来れば何かあるのか?母さん・・・」
 俺は懐から母さんに貰ったペンダント―――
 女神が中心に縁取られた空色のペンダントを握り締めながら呟いた。
 (分かってるのは、この学園が母さんの母校だってことくらいだけど)
 そんなことを考えている内に、俺は母さんのことを思い出していた。
 母さんはその世界でも有名な魔法使いだったらしい。
 『だったらしい』というのは、俺は母さんが魔法を使うところをほとんど見たことが無かったから・・・
 ただ、母さんの使う魔法は常に優しい光に溢れていたのを覚えている。
 その母さんも俺が中学卒業するのと同じ時期に亡くなったけど・・・
 俺の心に哀しい想いが込み上げる。
 (・・・ダメだな〜こんなんじゃ母さんが悲しむぞ)
 俺は自分の頬をピタピタと叩くと気合いを入れなおした。
 その時―――
 (・・・!?)
 俺は不意に周りを見回した。
 周囲に人の気配、それも俺を見ているような気配を感じたからだ。
 だが、周囲を見回して見ても誰もいなかった。
 (気のせいか・・・)
 俺はそんなことを考えながら、学園の前を離れた。






  「これで朝ご飯完成です」
 わたしはキレイに盛り付けられた料理の数々を見て満足そうな笑みを浮かべます。
 時計に目をやると時間はすでに朝の10時を差していました。
 「兄さんはまだ、寝てるんですか〜しょうがないですね」
 わたしは兄さんを起こしに部屋に行きます。
 本来なら今日は日曜日なので兄さんを起こす必要も無いんですけど、今日はそうもいきません。
 「兄さん・・・起きてますか?」
 部屋のドアをノックして起きてるかどうかを確認します。
 「・・・」
 反応がありません。
 部屋に入ると兄さんはまだベットの中で寝息を立てていました。
 「兄さん・・・兄さん、起きて下さい」
 そっと布団を揺すります。
 「う・・・う〜ん・・・すももか?」
 わたしの名前を呼んだ兄さんはゆっくりと目を開けます。
 「もう、朝ですよ〜起きて下さい」
 「朝って・・・今何時だ?」
 「もう10時ですよ〜今日は姫ちゃんとデートじゃなかったんですか?」
 「・・・マズイ!」
 「キャッ!!」
 兄さんはわたしを跳ね除けるように跳び起きました。
 「完全に遅刻だ〜春姫の奴怒ってるかな」
 そんなことを言いながら兄さんは着替えようとしてパジャマのボタンに手を掛けます。
 その姿を見たわたしは慌てて兄さんの部屋を飛び出します。
 部屋を出たわたしは後ろ手にドアを閉めました。
 「に、兄さん。一応女の子が居るんですから、そういうことには気を使って下さい〜」
 「え、ああ、悪いな。すもも」
 ドアの向こうの兄さんの声を聞きながら、わたしは一つため息を付きました。




 「姫ちゃんっていう彼女が出来てもそういうところは変わってないんですね」
 わたしはそう言いながら、急いで朝ご飯を食べる兄さんを見ていました。
 「それはそうだろ?人間そんな急に変わらないしな・・・ウッ・・・」
 「兄さん、大丈夫ですか。お水です」
 食べ物が喉に詰まったらしく、苦しむ兄さんにわたしは急いで水を差し出します。
 「あ、ありがとう・・・すもも」
 何とか食べ物を飲み込んだ兄さんはそれでも食事だけは食べていきます。
 「あの〜兄さん?時間が無いのなら、無理に食べて行かなくても・・・」
 「そんな訳には行かないだろ?せっかくすももが早起きして作ったんだし」
 「兄さん・・・」
 昔から兄さんはこういうところがありました。
 なんだかんだ言って誰かが困っていると放っておけないのが兄さんのいいところです。
 (そんな兄さんを姫ちゃんは好きになったんだし・・・わたしも好きだった)
 『俺は春姫が好きだ』
 兄さんがそう宣言した時―――
 もちろん最初はショックでした。
 でも、姫ちゃんといる時の兄さんはとても幸せそうで―――
 わたしと姫ちゃんは昔からの幼馴染で、大好きな友達の一人です。
 そんな2人が幸せそうに過ごしているのを見ていると、わたしも嬉しかった。
 だから、わたしも素直に自分の気持ちに踏ん切りを付けることが出来ました。
 「・・・も?すもも?」
 「えっ?兄さん・・・どうかしたんですか?」
 「さっきからボーッとしてるから、どうしたんだと思って」
 見ると、兄さんはとっくに朝ご飯を食べ終えていました。
 「あ、い、いえ。何でもないですよ」
 「そうか?ならいいんだけど」
 兄さんは身支度を整えると、出かける準備をしながら言いました。
 「すももはどこか出かけるのか?」
 「わたしももう少ししたら出かけますよ」
 「そうか・・・あまり遅くならないようにしろよ」
 「は〜い、分かってますよ」
 兄さんはそう言い残すと姫ちゃんとのデートに出かけて行きました。
 「さて、わたしも行こうかな」
 わたしは自分の身支度に取り掛かりました。





  わたしは学園の近くを歩いています。
 今日は友達と遊ぶ訳でも無く、ただお散歩をしているという感じでした。
 何故、わたしがそんなことをしているのかというと―――
 (小雪さん・・・何もありませんよ)
 わたしは、昨日小雪さんに呼び止められていました。
 そして、こう告げられました。
 『すももさん。明日、あなたに運命的な出来事が起きますよ』って・・・
 小雪さんの予知はほぼ100%に近い的中率を誇ります。
 兄さんもそれで結構大変な目にあってたりしているようでした。
 (小雪さんの占いも当たらないこともあるんですね)
 わたしはそんなことを考えながら学園の前に差し掛かりました。
 (・・・?)
 わたしは思わず足を止めます。
 そこに一人の男の子が立っていました。
 黒い頭に、短い髪、背もわたしより少し高いくらいの男の子です。
 その男の子は懐から何かを取り出すとジッと眺めていました。
 ・・・それだけだったら、わたしも気にせず素通りしていたかも知れません。
 だけど、わたしはその男の子をジッと見つめていました。
 その男の子の哀しそうな瞳が気になったから・・・
 例えるなら、もう届くことの無いものに想いを募らせているような感じでした。
 男の子はピタピタと自分の頬を叩くと不意にわたしの方を見ました。
 何故かわたしは、思わず近くの街路樹の影に身を隠します。
 その男の子は、しばらくキョロキョロしていましたが、やがて校門の前を離れました。
 隠れていた街路樹の影からわたしは出ると思わず大きく息を吐きます。
 (誰だろ・・・この辺じゃ見たことない子だったけど)
 暗くなってきたのでわたしは家に帰ることにしました。
 わたしの心に、その男の子の哀しそうな瞳が印象に残りました―――




 
  一晩経ってもわたしの心にはその男の子のことが印象に残ってました。
 あの哀しそうな瞳を思い出すと何故か放っておけない―――そんな感じがしました。
 「よ〜し、お前等席に着け」
 担任の先生が教室に入ってきます。
 「え〜今日は転校生を紹介する」
 教室がざわつき始めます。
 「先生、今度は男の子ですか?女の子ですか?」
 「今度は男だ」
 その言葉に教室は男の子は不満気な声をあげ、女の子は期待に満ちた声を上げます。
 「では、入って来なさい」
 先生の言葉に従って、転校生が入って来ます。
 「吾妻 和志です。よろしくお願いします」
 わたしはその転校生の顔を見た時、思わず呆然としていました。
 その男の子は、昨日わたしが校門前で見た、哀しい瞳をした男の子でした―――



 
  「あ〜終わった〜」
 俺はやっと緊張が解けて、机に突っ伏した。
 (瑞穂坂学園は偏差値高いって聞いてたけど・・・とりあえず付いていけそうだ)
 そんなことを考えながら俺がホッとしていると・・・
 「大丈夫ですか?」
 俺の後ろの席に座っている大きなリボンを頭に付けた女の子が俺に話し掛けて来た。
 「あ〜大丈夫だよ・・・えっと・・・」
 「すももです。小日向すもも」
 「すもも?・・・それはまた・・・」
 「また・・・なんですか?」
 「美味しそうな名前だね」
 「よく言われます」
 これが俺と小日向さんの最初の会話だった。
 「へ〜じゃあ、小日向さんにはお兄さんいるんだ」
 「そうなんですよ〜1つ上なんですけど」
 「俺も姉ちゃんいるんだよ〜今は離れて暮らしてるけど」
 席がすぐ後ろということもあってか、俺と小日向さんはあっという間に打ち解けた。
 「お姉さんはいくつなんですか?」
 「小日向さんのお兄さんと同じ年だよ・・・あっ」
 俺はあることを思い出した。
 「どうしたんですか?」
 俺の表情の変化に気付いた小日向さんが聞いてくる。
 「いや・・・そういえば俺の従兄弟がこの学園の普通科に通ってるんだ。2年生なんだよ。
  転入したら学園案内して貰うはずだったのに・・・来てないな」
 「2年生ならわたしの兄さんに聞けば分かるんじゃないですか?」
 小日向さんがそう言った時―――
 「すももちゃ〜ん!!」
 遠くから小日向さんを呼ぶ声がした。
 そっちを見ると、学ランを着た男子生徒と紫色の髪をした女子生徒が立っていた。
 「あっ!兄さん、準さん」
 小日向さんがその2人の所に歩み寄って行く。
 一言、二言会話を交わすと小日向さんは俺を手招きする。
 俺はそれに従って2人の方に近づいた。
 「吾妻和志です。よろしくお願いします」
 「小日向雄真だ。すももの兄貴だ。よろしくな」
 「渡良瀬準で〜す。よろしくね・・・だけど」
 それぞれに自己紹介を終えて、俺は準さんの方を見る。
 「準さんですか・・・男みたいな名前ですね」
 「みたいじゃなくて・・・」
 ボソッと雄真さんがポツリと呟く。
 見ると小日向さんも苦笑いを浮かべていた。
 「それで、本題なんですけど・・・」
 小日向さんは、俺に話を振る。
 「ああ、なるほど・・・そういうことか」
 俺は2人に自分の従兄弟に関する話をした。
 「名前さえわかれば何とかなるぞ」
 「名前は・・・『高溝 八輔』って言うんですけど・・・知ってます?」
 俺がそう言った瞬間―――
 雄真さんと、準さんは2人して顔を見合わせた。
 そして―――
 「こんな可愛い顔をした男の子がハチの身内なんて・・・」
 準さんの信じられないと言った声が洩れた―――



                   
                   〜第2話へ続く〜


                 こんばんわ〜フォーゲルです。

                『はぴねす!』のSSをお送りします〜

         メインヒロインはすももで、設定は本編春姫ルート終了後です。

          この話を含めて、プロローグ編は3話で考えています。

       雄真への想いを吹っ切り、歩み始めたすももの前に現れた一人の少年―――

       2人の出会いがどのような展開を生み出すのか、期待してくれると嬉しいです

      ある意味最後の展開のために、主人公をちょっと影のある設定にしました(笑)

            次回を楽しみにして頂けると嬉しいです。それでは!!



管理人の感想

フォーゲルさんの長編SS第2段は、はぴねす!すももメインのオリジナルストーリー♪

二人にとっては、一瞬にして初めての邂逅。すももの心に残ったのは、見知らぬ少年の哀しげな瞳。

若干テンポが速い感がありますが、まあここはプロローグ的な部分ですから。充実してくるのは、ここからでしょう。

・・・っていうかハチの従兄弟なのか。とりあえず準の最後の台詞からして、和志は美少年であることが判明(笑)

次回も楽しみに待ちましょう!以上、管理人の雅輝でした^^

2007.4.28