当作品は、富士見ファンタジア文庫、「生徒会の一存シリーズ(作者 葵せきな氏)」の二次創作小説です。
おそらく、知らない人も結構多いのではないかと思うので、軽く人物紹介だけしておきます。
〜碧陽学園生徒会〜
会長 桜野 くりむ(Kurimu Sakurano)
――三年生。見た目・言動・思考・生き様、全てにおいてお子様だが、何事にも必要以上に一生懸命な生徒会長。
その容姿と性格からか、トップである生徒会室ではよくイジられている。
副会長 杉崎 鍵(Ken Sugisaki)
――学業優秀による「特別枠」で生徒会入りした異例の存在。黒一点の二年生。
エロ・・・もといギャルゲ大好きで、生徒会メンバーの全攻略を狙う。
副会長 椎名 深夏(Minatsu Siina)
――運動神経抜群で、ボーイッシュな美少女。女子人気が高く、若干百合気味?
鍵とはクラスメイトだが、デレる気配のない正統派ツンデレ。
書記 紅葉 知弦(Chiduru Akaba)
――三年生。長身・モデル体型の美女。クールでありながら優しさも持ち合わせている大人の女性。
生徒会における参謀的地位だが、激しくS。ちなみに、くりむのことは「アカちゃん」。鍵のことは「キー君」とあだ名で呼ぶ。
会計 椎名 真冬(Mafuyu Siina)
――深夏の妹で一年生。儚げな美少女で、男性が苦手。
鍵からは「一番攻略しやすい」と思われていたが、とある理由により恐怖対象に。
傾向としては、ほのぼのとしたギャグです。恋愛要素は若干薄いかも。
それでは、どうぞ。
「青春とは、何よりも尊く、けれど一瞬にして過ぎるものなのよっ!」
会長がいつものように小さな胸を張ってなにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。
高校生という、まさに青春時代の真っ最中とも言える俺たちにはピッタリの名言だが、どう見ても見た目小学生の会長が言えば、微妙に説得力に欠けるのは気のせいだろうか。
「そうですねぇ。学生でいられる時間なんて、後数年も無いんですもんね」
とりあえず俺は、ぼんやりと会長の言葉に同意する。すると真冬ちゃんが、「そういえば・・・」とおずおずと質問した。
「会長さんと知弦先輩は3年生ですけど、もう進路とか決めてます?」
「私は一応、T大とK大を推薦で受けるつもりよ。ちょっとずつ準備も始めてるしね。アカちゃんは?」
読んでいた教科書を閉じて真冬ちゃんの質問にサラリと答えた知弦さんが、その涼しげな瞳に軽くSの炎を燃やして会長へと振る。
会長はまさか自分の発言からそんな質問が来るとは思っていなかったのか、「うぐっ」とたじろいだ後、皆から向けられている視線からフイと顔を背けた。
「わ、私は・・・まあそれなりに。うん、そこそこの大学への進学を決めてるわ。ほ、ほどほどに勉強もしてるちねっ」
何というか、とても必死だった。横を見ると知弦さんが「ああ・・・」と軽く恍惚の表情を浮かべている。
しかし、俺たちはあえて何もツッコまない。たとえ会長の成績が散々なものだと知っていても、たとえ会長が動揺しすぎて台詞を噛んでいたとしても。
何も言わず、そこはかとなく生温かい目で彼女を見つめる。それが大人のマナー。プ○ミスもびっくりの慈愛の精神だ。
「ちょ、何よみんなしてその目は!逆に居た堪れないよっ!」
「・・・いえ、会長さんならどこでも行けますよ」
「そうだぜ、会長さん。あんたなら・・・きっと、どんな夢だって掴めるはずさ」
「もう私、完全に敗者じゃない!なんか変なフラグ立ってるよっ!」
椎名姉妹の激励という名の口撃に、完全に防戦一方の会長。俺と知弦さんがそれを見て悦に浸っていると、会長は仕切り直すようにバンッと机を両手で叩いた。
「とにかくっ、青春はあっという間に過ぎるのよ!というわけで、今日の議題はコレ!」
そう宣言して、ホワイトボードへと向き合う会長。届きもしないのに、必死になって上の方に書こうとする姿は、言うまでもなく萌える。
そうして生まれたのは、丸っこい女の子っぽい字で書かれた――。
「・・・合宿?」
「そう!この生徒会のメンバーで、GWを利用して合宿を敢行するわよ!」
生徒会の一存シリーズ SS
「合宿する生徒会」
Written by 雅輝
〜前編〜
「・・・あの、会長。ちょっと質問いいですか?」
とりあえず、俺には確認しておかなければならないことがあった。
「はい、杉崎」
「それは俺のハーレム計画のための企画と見て間違いないですよね?」
「間違いあるよっ!っていうか間違いしか無いよ!何でそうなるのよ!?」
「え?だって、合宿とか旅行っていったら、ヒロイン達のフラグを立てるための重要なイベントですよね?」
「だから何でそんな純粋に不思議そうな顔をしてるの!?」
あれ、おかしいな。周りを見渡してみても、知弦さん・深夏・真冬ちゃんの3人にそれぞれ無言で首を横に振られてしまった。
「まあ、それはさておき。アカちゃん、旅行の日程は決まってるの?」
「ええ、5月の4日と5日。みんなの予定は大丈夫?」
「あたしは大丈夫だな」
「私も・・・特に予定はありません」
「まあ私も問題ないわ。じゃあ日程は決定ね。次は・・・」
「ちょ、ちょっと知弦さん。何で俺には聞いてくれないんですか!」
椎名姉妹の予定を聞いた段階で次へと進もうとする知弦さんに、慌てて待ったを掛ける。
「だってキー君なら、たとえどんな予定があったとしても棄却するでしょう?」
「読まれてるっ!?」
確かに生徒会の合宿という重要イベントのためなら、たとえ風邪で40度の熱を出したとしても参加するような気がする。
「大丈夫よ。お馬鹿さんは風邪をひかないから」
「心を読まれた上にさりげなく失礼なことを!?」
「とりあえず、次は場所ね」
「そして置いてけぼり!?」
相変わらず知弦さんは手強い。流石は生徒会の参謀。影の会長とまで言われる人だ。
「アカちゃん。当然、もう宿の予約は済ませてあるのよね?」
「え?してないよ?そんなの、前日くらいでいいでしょ」
「「「「・・・は?」」」」
あっけらかんとそう答えた会長に、質問した知弦さんを始め俺たち生徒会の面々は唖然とする。
この人は旅行を舐めているのだろうか。昨今は普通の休日だってなかなか宿が取れないのに、GWまで三日と迫った今日の段階でまだ予約すらしてないとは。
「・・・キー君」
「分かってます。もう既に、近郊の県の宿をしらみつぶしに検索しているところです」
「あたし達は、近くの旅行会社に話を聞いてくるよ」
「先輩方は、ネットでの検索をお願いします」
「仕事が早くて助かるわ。いってらっしゃい。・・・どう、キー君。見つかりそう?」
「流石に4日と5日の日程では厳しいですね。もうちょっとエリアを拡大してみましょうか?」
「そうね、時間も無いし。空いてる宿が見つかったら、すぐに押さえても構わないわ」
「了解です」
生徒会室に備え付けられているPCを使って、検索を掛けまくる。やはり普通の旅館は既に満室。こうなったら、少しワケありの旅館でも・・・。
「あ、あれ?みんな、どうしたの?」
そして上座の生徒会長の席では、未だに状況を理解出来ていない会長が慌てていた。
「いやぁ、一時はどうなることかと思ったけどなぁ」
「そうね。無事に合宿に行けるようになったことを、神に感謝したい気分だわ」
ガタンゴトンと、一定の音を刻み続ける鈍行列車に乗りながら、俺たちは会長発案の合宿へと向かっていた。
行き先は、俺たちの住んでいる町から県を二つ超えたところにある、人里離れた旅館。先の深夏や知弦さんの発言のとおり、一時は合宿案の中止までも視野に入れていたのだが・・・かろうじて、検索にヒットしたその旅館を借りることができた。
しかし惜しかったなぁ。もし部屋が一つしか空いていなかったら、なし崩し的に皆と一緒の部屋で寝泊まりするフラグが立ったというのに。
どうして二部屋空いてるんだよ!そこはちゃんと空気を読んでくれよ!と、何度も心の中で呪詛に近い言葉を吐きながら予約したわけだが。
でも・・・まあいっか。男一人に女四人の一泊二日。何が起きてもおかしくはない、というよりむしろ何か起きる可能性の方が・・・。
「ぐふふ・・・」
「ああ、また先輩の思考がどこか遠くへ・・・」
「真冬ちゃん、見ちゃ駄目よ。それにこいつの思考の行き着く先なんて、分かりきってるしね」
「じゃあとりあえず、席の移動でもするか?何となく、鍵から身の危険を感じるオーラが見えるんだが」
「そうね、この車両に乗っているのは私たちだけみたいだし。キー君があっちの世界から戻って来るまで、目に付かない場所に移動しましょうか」
待て待て、何かって何だよ? ナニか? いやいやお前、それはまだ早いっていうか、でも全然ウェルカムなんですけど!
「お姉ちゃん、ポテチ食べる?」
「おっ、サンキュー真冬」
「ねえ、知弦。後どれくらい時間掛かるの?」
「そうねぇ。もう一度乗り換えがあるから、それも含めたら三時間ってところかしら。まあゆっくり行きましょ」
こうして誰にも相手にされないまま、俺は貴重な移動時間中の好感度UPは果たせずに目的地まで辿り着いてしまった。
・・・とりあえず、少し妄想は自重しようと反省した。
「へえ、なかなか立派な旅館じゃない」
地元から数えれば優に五時間を越える長旅の末に俺たちが辿り着いたのは、山奥にひっそりと佇む洋風な建物だった。
割と物事をハッキリ言うタイプの会長が軽く感嘆しているように、確かに外見は小奇麗であり、建物自体のデザインセンスも悪くはない。
さらに言えば、立地条件も適していた。山奥ということで確かに交通の便は少ないが、それを補って余りある絶景。今はまだ建物を見上げている段階なので何とも言えないが、テラスにでも上れば、森林を超えた先にある街並みと、さらに向こうに波打つ海をも眺めることができるはずだ。
ただ・・・綺麗な花にも棘がある、ということで。
「でも、キー君。よくこんな旅館の部屋が空いてたわね。私はもっと、みすぼらしいアパートのような旅館さえ想像してたわ」
先に旅館の入り口に向けて歩き出した会長と椎名姉妹の背中を見送りながら、知弦さんが耳元で囁いてくる。
「それとも――何か他に、空いていた理由でもあるのかしら?」
・・・流石は知弦さん。勘が鋭い。
「やっぱり知弦さんは誤魔化せませんね。実はこの旅館、ちょっと「曰くつき」でして」
「曰くつき?」
「ええ、細かい説明は省きますけど、どうやらこの旅館、出るって噂らしいんですよ」
「出る・・・か。なるほど、だからキー君は誰にも言わなかったわけね」
「ええ、所詮噂は噂でしょうし。折角の旅行に、そんな無粋な話は持ち込みたくありません」
本当は、この旅館を予約したときに、皆に事情を説明するつもりでいた。だけど、楽しそうに合宿の算段を交わし合う会長や真冬ちゃんを前にしては、俺の意思なんてちょっとした風で消えてしまう灯火のようで。
それに、前に生徒会室で怪談話をしたときのことを思い出す。あの時、会長はかなり怯えていた。勿論、そんな姿は見せまいと気丈に振る舞ってはいたが。
そんな彼女にこの話をすれば、それは水を差すどころの話ではない。楽しみに思っているものを打ち砕く、単なるいじめっこだ。
「相変わらず、そういう所は無自覚に優しいんだから・・・」
「え?何か言いました?」
「・・・いいえ、何でもないわ。さあ、私たちも中に入りましょう」
「???」
首を傾げるが、知弦さんが何となくご機嫌になったので、それで良しとする。――――と。
「・・・ん?」
知弦さんに付いて旅館の入り口へと向かった俺は、視界の端に違和感を覚え思わず立ち止まった。
旅館の二階の窓。等間隔に丁度10個並んだそのいずれかから、何者かの視線を感じたような気がしたのだが・・・。
『・・・気のせい、か?』
どちらにせよ、この旅館には他の旅行客だっているのだ。たとえ誰かがこちらを見ていたとしても、全く不思議でも何でもない。
ただ――ネットの至るところで露呈していた「曰く」を思い出して、何となく嫌な予感がした。
「・・・暇だ」
仲居さん(?)に部屋に通され、とりあえず荷物やらを整理してしまうと、後は特にやることも無くなってしまった。
・・・いや、分かってたけどさ。男女別々の部屋だってことくらい。でもいくらなんでも、この部屋に俺一人だけ放置プレイってどうよ?
一応部屋自体は隣同士だが、この厚さ数センチの壁が酷く疎ましい。時折隣から聞こえる笑い声から察するに、話に盛り上がっているのだろう。彼女たちがこちらの部屋に遊びに来る、というのはかなり望み薄だ。
「よしっ、とりあえず今日の夜のことを、頭の中でデモンストレーションしてみよう」
・・・何故か色んな人から可哀想なモノを見るような眼で、しかも軽く引かれたような気がするんだが、きっと気のせいだ。うん。
それでは・・・レッツ、スタート!
〜桜野くりむの場合〜
「あら、杉崎。どうしたの、こんな真夜中に」
「・・・会長。俺、もう我慢できません」
「え?・・・あんっ。こらっ、この合宿中は無しだって言ったでしょ?」
「でも、会長のココは正直ですよ」
「わわっ、触っちゃダメだってぇ」
「大人しくしてください」
「うぅ〜。・・・あっ、杉崎・・・ちょっと、深いよぉ」
「あっ、すみません。今度はもっと優しくいきますね」
「あ・・・うん、気持ちいいよ」
「ふふっ、今日は素直ですね」
「うん、だって気持ちいいんだもん。杉崎の”耳掃除”」
「いやぁ、週に一回は会長の耳を掃除して癒されないと気が済まなくて」
――そんなオチ。ごめんなさい、石を投げないで。
〜紅葉知弦の場合〜
「あら、キー君。どうしたの、こんな真夜中に」
「・・・知弦さん。俺、もう我慢できません」
「そう・・・実は私もよ、キー君」
「え?」
「私たちの部屋じゃ無理でしょ?あなたの部屋でしましょう。準備してから、後で行くわ」
「は、はい!・・・・・・ん?準備?」
―――。
「あの・・・」
「ん?なぁに、キー君」
「この状況はどういうことでしょう、知弦さん」
「あなたが望んだんじゃない。とりあえず、私のことは女王様とお呼びなさい」
――いつの間にか逆さ吊りに縛られてました。
〜椎名深夏の場合〜
「ん、鍵か。どうしたんだ、こんな真夜中に」
「・・・深夏。俺、もう我慢できねえよ」
「鍵・・・。その、何だ。ほ、本気なのか?」
「ああ。俺はいつだって本気さ」
「そう、か。わ、わかった。あたしも初めてだから、その・・・手加減しないでくれよな」
「ああ、優しくするさ・・・って、手加減?」
「はぁっ!」
「おわっ、ちょ、何だよ!?」
「え?何って・・・これがよく少年漫画なんかにある、”真夜中の決闘”だろ?」
「アホかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「ふふ、今更怖気づいたのか?・・・はぁぁぁぁっ!!」
「ちょ、髪の毛が超サイ○人みたいになって――ギャアアアアアアアアッ!!」
――ボコボコにされました(全治二か月)。
〜椎名真冬の場合〜
「あれ、先輩。どうしたんです、こんな真夜中に」
「・・・真冬ちゃん。俺、もう我慢できないよ」
「先輩・・・実は真冬も、今夜は先輩のところにお邪魔しようと思ってたんです」
「え?」
「真冬、今日はあんまり眠くないんです。だから・・・朝まで、付き合ってくださいね?」
「・・・ああ、分かった。とりあえず、俺の部屋に・・・」
「やっぱり私は、基本的に先輩が攻めで中目黒先輩が受けだと思うんですよ」
「・・・へ?」
「でもネット友達には、逆だって主張する子もいまして。その辺りについて、本人である先輩と相談したかったんです。さあ、今夜は明け方までBLの素晴らしさと奥深さについて、存分に語り合いま――」
「じゃ、また明日ね、真冬ちゃん!」
シュパッ!(←華麗に身を翻してダッシュを掛ける音)
ガシッ!(←背を向けた瞬間、後ろから尋常じゃない握力で頭を掴まれた音)
「・・・ふふふ。逃がしませんよ、先輩♪」
――結局、明け方まで付き合わされました。
「・・・ダメじゃん!!」
シミュレート終了。結果、どのルートを選んでも120%の確率で失敗(BADエンド逝き)することが判明。
自分で妄想しておいて何だが、まさか誰一人として成功しないとは思わなかった。いやこれ、ツンデレ過ぎるだろうよ。
とはいえ、時間は結構潰すことができた。まさか一時間も夢想しているとは・・・時々、自分が恐ろしくなる。
時計を見れば、そろそろ夕食の時間。夕食自体は、5人分全てが俺の部屋に運ばれてくる手筈となっているので、そろそろ皆も来る頃だろう。
などと考えていた、丁度その時。
”コンコンッ”
「杉崎、来たわよ〜」
「アカちゃん、なんだか嬉しそうね」
「そ、そんなこと無いよっ!」
「おー、顔が真っ赤だぜ」
「そうですよ、会長さん。これがツンデレってやつですね」
「だ〜か〜ら〜っ!」
ノックの音と共にドアの外から聞こえてきたのは、愛しきハーレムメンバー達の声。
俺は緩みすぎて崩れそうになる顔を何とか気合で持ち直すと、いつも通りのクールな表情で彼女たちを迎え入れた。
後編へ続く
後書き
ってことでやっちまいました、雅輝です(笑)
今回は初めてラノベのSSに挑戦してみました。いや、「生徒会の一存シリーズ」、かなりハマったもので。
ギャグを書くのは、実は今回が初めてだったりします。作中に盛り込んだりはしてましたが、ギャグ主体の作品は初体験です。
割と原作の雰囲気はそのままに、いろいろとアレンジしてみたのですが・・・原作を既読の方、いかがでしたでしょうか?
そして原作を未読の方、かなりオススメですよ? 少なくとも、このSSの百倍は面白いです(爆)
続きは・・・書くかどうかは、読者の皆さまの反応次第ということで。
それでは、またお会いできることを願って・・・。