『桜がもたらす再会と出会い〜特別編』
『Four-leaf clover』
投稿者 フォーゲル
3月の春風が美春の髪を少し舞い上げます。
少し暖かいその気候が美春の心も弾ませていました。
(ううん、違う―――それもあるけど本当に心が弾んでいるのは―――)
美春はそんなことを考えながら、学園の校門前である人を待っています。
ちょっと離れていただけなのに、凄く会いたい人でした。
(まだかな〜〜〜)
その時でした。学園のグラウンドの方から、何人かの男子生徒が歩いて来ます。
そして、その中の一人―――冬貴君が美春の方に向かって歩いて来ました。
「ゴメン、美春!待ったか?」
「大丈夫だよ〜美春も今来たところだから。じゃあ・・・帰ろっか!」
美春はそう言って手を差し出します。
「・・・ここから?」
少し顔を赤くしながら聞いてくる冬貴君に美春は言います。
「だって、久々なんだよ。いいでしょ?」
「しょうがないな・・・」
冬貴君はそう言いながら、自分の指と美春の指が交互に重なるように手を繋いでくれました。
「エヘへ・・・ありがとう」
美春は、大好きな―――そして、恋人の冬貴君の手の温もりを感じていました。
「だけど、残念だったね〜冬貴君」
美春は励ますように冬貴君に声を掛けます。
「この間の甲子園での試合のことか?」
風見学園の野球部は春の甲子園の大会に初出場して、冬貴君もエースピッチャーとして試合に出ていました。
「最後にあそこで思いっきり絶好球投げちゃったからな〜俺」
「それでも、ベスト8でしょう?スゴイよ」
「でも、負けると悔しいぞ」
「夏、もう一回頑張ればいいじゃない」
そんなことを話しながら、美春達は本屋さんの前を通ります。
「あ、美春、ちょっと待ってくれ」
冬貴君はそう言って本屋さんの中に入っていきました。
本屋さんから出てきた冬貴君は、雑誌を持っています。
「何の本?」
美春は尋ねます。
「ああ、甲子園の大会総括の雑誌だ・・・俺も取材されてるんだよな」
「本当に!?どこどこ?」
「落ち着けよ・・・どっか落ち着く所で見よう」
冬貴君は美春の手を繋いで適当な場所を探して歩き始めました。
「で、結局ここしか無かったか」
冬貴君はしょうがないと言わんばかりに腰を下ろします。
美春もその隣に座ります。
ここは初音島で一番人が来ないと思われてる場所、『枯れずの桜』です。
喫茶店とかいろいろな場所を見て回りましたが、どこも人が居ました
正確には、どこにいっても冬貴君目当てに人が集まってくるからと言った方がいいかも知れません。
(しょうがないよね・・・ちょっとした有名人みたいな状態だし)
甲子園はテレビ中継もされるし、ただでさえ話題が少ない初音島では大会期間中盛り上がってました。
「冬貴君はどこに載ってるの?」
「ほら、このページ」
大会の注目選手として冬貴君は結構大きく取り上げられていました。
「うわ〜スゴイね〜」
「いや、俺なんかより、こっちの選手の方が・・・」
その後、冬貴君は甲子園で体験したことを美春に話してくれました。
美春は野球のことはよく分からなかったけど、楽しそうに話す冬貴君の顔を見てるだけで嬉しかったです。
「・・・という訳なんだよな〜・・・ふ、フワァ〜〜」
話終わって一息ついた後、冬貴君は大きな欠伸をしました。
「眠いの?」
美春は思わず冬貴君に聞きます。
「いや・・・そんなこと無いけど」
「無理しないで横になったら?疲れてるみたいだし・・・ま、枕ならここにあるから」
美春は自分の膝をポンポンと叩きます。顔がちょっと赤くなっていたかも知れません。
「あ・・・その・・・いいのか?」
「いいよ〜ゆっくり休んでね。暗くなってきたら起こして上げる」
冬貴君は美春の言葉を確認すると、美春の膝を枕代わりにして横になりました。
「ありがとう、美春・・・じゃあ甘える・・・ことに・・・」
言葉も半ばに冬貴君は寝てしまいました。
(よっぽど疲れてるのかな?)
そんなことを考えていた美春はさっき見た雑誌の冬貴君に対する評価を思い出します。
『これからの成長が楽しみ』
『将来はプロ入りも?』
だけど、美春の膝の上で寝息を立てている冬貴君はとてもそんな風には見えない、どこにでもいる普通の男の子って感じです。
(けど・・・ちゃんと夢に向かって進んでるんだね・・・)
本当は彼女としては嬉しいことなのかも知れません。
だけど、美春の心には不安や寂しさのようなものが芽生えていました―――
「冬貴君・・・遅いなぁ」
美春はそんなことを呟きながら、足元の小石を蹴ります。
今日の美春は少し大人っぽい格好をしています。何故かというと―――
今日は冬貴君との久々のデートの日です。本当はもっと早くしたかったんだけど・・・
冬貴君が用事があるとのことで、今日までズレました。
(野球部絡みの用事だって言ってたけど・・・)
そう思った瞬間、また美春の心に寂しさがこみ上げます。
(・・・もうすぐ会えるのに)
美春は自分の心が分からずに戸惑います。
それに今日は・・・美春の誕生日です。
冬貴君も今日は必ず時間を作るからと言ってくれたし・・・
(なのに、どうしてこんなに寂しいと思うのかな・・・)
美春は疑問に感じながら、冬貴君の来るのを待ちました。
だけど、1時間待っても、2時間待っても冬貴君は来ません。
(どうしたのかな〜)
携帯に電話しても誰も出ません。
不安になった美春は冬貴君の家に行ってみることにしました。
家に着いてみると、鍵は掛かってなくて、靴はあります。
「失礼しま〜す・・・冬貴君?居ないの?」
美春はそのまま、冬貴君の部屋へ向かいます。
冬貴君の部屋のベットは大きく膨らんでいました。
(寝坊してるだけ?・・・心配してソンした)
と同時に美春の心に少しだけ怒りが込み上げて来ました。
ベットに近寄ると、冬貴君の体を揺さぶります。
「冬貴君!!起きてってば!と・・・」
その時、冬貴君の体が寝返りを打って美春の方を向きます。
「ハァ・・・ハァ・・・み、美春か・・・」
冬貴君の顔は真っ赤で、美春にも一目でおかしいと分かりました。
「冬貴君!?どうしたの?」
美春は慌てて自分の手を寝ている冬貴君の額に当てます。
(大変!!凄い熱!)
「ち、ちょっと待っててね!」
そう言うと、美春は冬貴君の部屋を出ました。
『う〜ん、それは完全に風邪ね』
「そうなんですか?良かった〜」
電話の向こうから聞こえてくる音夢先輩の声に美春は思わずホッとした声を上げます。
冷たいタオルを額に当ててあげて、とりあえず落ち着いた冬貴君を見た後、
美春はどうしたらいいのかを音夢先輩に相談してみることにしました。
『熱が40℃近くあるならインフルエンザの可能性もあるけど・・・そうじゃないんでしょう?』
「それは大丈夫です。冬貴君も計ってみたらそこまでは無いって言ってました」
『じゃあ、大丈夫ね・・・たっぷりの栄養と睡眠を取ればすぐに熱も下がるから。後は・・・』
「後は・・・何ですか?」
『美春が献身的に看病してあげれば、すぐに良くなるから』
「な、何言ってるんですか〜〜音夢先輩」
美春の動揺を感じ取ったのか電話の向こうで音夢先輩が笑ったような気がしました。
『じゃあ、もう切るからね?柊君にもよろしく伝えてね』
「ハイ、ありがとうございました」
電話を切った後、美春は冬貴君のところに戻りました。
熱が高い状態から少し落ち着いたのか、冬貴君はスヤスヤと寝ています。
(寝てるのを起こさない方がいいよね)
美春はそう判断するとリビングの方へ向かいました。
しかし、リビングは冬貴君が甲子園に行ってから、掃除してないのか汚れが大分目立っています。
ちなみに脱衣所も洗濯物が大分溜まっていました。
(全く・・・しょうがないなぁ)
美春はお掃除とお洗濯をしてあげることにしました。
(男の子ってみんなこうなのかな〜)
本校に進学してから、冬貴君は冬英さんも外国に行っちゃったので一人暮らしをしています。
なので、ご飯は美春が作りに来てるんだけど・・・
(さすがにお掃除やお洗濯はね〜自分でやってるみたいだったし)
美春はそんなことを考えながら、テキパキとこなして行きます。
(でも・・・こうしてると・・・予行練習になるかも)
将来、冬貴君のお嫁さんとして家事に精を出している自分の姿を想像して、思わず顔が赤くなります。
【トゥルルルルル】
冬貴君の家の電話が鳴ったのはその時です。
「は〜い」
美春はその電話に出ようとして固まりました。
(え〜と・・・これは当然冬貴君の家の電話だから・・・『はい、柊です』って出なきゃいけないってことだよね)
さっきの想像のせいで妙に意識しながら美春は電話に出ました。
「は、はい、ひ、柊です」
『え?その声は・・・美春ちゃん?』
「あ・・・笑美流さんですか?」
電話を掛けて来たのは冬貴君のお母さんの笑美流さんでした。
『久しぶり〜ウチの息子はどうしたの?』
美春は笑美流さんに簡単に事情を説明しました。
『そうなの〜ゴメンね。美春ちゃんに苦労させてるみたいで』
「いいんですよ〜美春がやりたくてやってるんですから」
『そう言ってくれると私としても気が楽になるんだけど・・・そうだ、あの子風邪で寝てるのよね?』
「そうですけど・・・」
『じゃあ、教えてあげることがあるんだけど・・・』
笑美流さんはそう言って美春に『ある事』を教えてくれました。
「冬貴君〜起きてる?」
美春は冬貴君に声を掛けます。
ベットに寝ていた冬貴君はゆっくり目を開けます。
「あ・・・美春・・・」
ビックリしたような声を上げる冬貴君を見ながら美春は冬貴君の額に手を当てます。
「うん、熱も下がったみたいだね」
内心ホッとしながら、美春はベットサイドに椅子を持って来て座りました。
「大丈夫?食欲ある?」
「う、うん・・・大丈夫」
「そっか〜良かった〜あ、そうだ!食欲あるなら食べてほしいものがあるんだけど」
「いいけど・・・何?」
「ちょっと待っててね」
疑問を浮かべている冬貴君をその場に残し、美春は台所に向かいます。
数分後、美春は手頃な大きさの土鍋を持って来ました。
「・・・お粥?」
「ただのお粥じゃないよ〜食べてみれば分かるけど」
美春はそのお粥をスプーンにすくって、冬貴君の口元に持っていきます。
「はい、『あ〜ん』」
「い、いいよ自分で食べられるから」
また、熱出したのかと思うほど顔を真っ赤にしながら冬貴君が言います。
「ダ〜メ!病人なんだから美春に甘えてよ・・・いつもは美春が甘えてるんだから」
観念したのか、冬貴君は大人しくお粥を口に入れました。
「・・・美春、何でお前がこのお粥作れるんだ?」
冬貴君が驚くのも無理はありません。
「昼間、笑美流さんが電話してきてね、冬貴君が風邪で寝てるって言ったら、このお粥を作ってあげてって」
笑美流さんが美春に教えてくれたのは、そのレシピでした。
「『このお粥だったら、あの子は喜んで食べるから』って言ってたよ」
「そっか・・・でも俺は『このお粥』の方が好きかな」
「え?」
「美春・・・お前自分仕様でバナナ入れただろ」
「あ、気付いた・・・の?」
「何となくな・・・味がバナナ風味だし」
(う〜ん、やっぱりバレちゃった・・・でも)
美春は心の中で思います。
(冬貴君が『こっちの方が好き』って言ってくれたのは、嬉しかったな・・・)
「だけど・・・悪かったな、美春」
冬貴君がそんなことを言ったのは、しばらくくつろいだ後のことでした。
「え?何が?」
「いや、だって今日は―――」
冬貴君がそこまで言った時です。
美春はビデオデッキに入っている一本のビデオテープに気付きました。
「冬貴君・・・何これ?」
「あ・・・それは・・・」
美春はビデオの再生ボタンを押します。
そこに写っていたのは―――
『やりました!風見学園高校、甲子園初勝利!』
この間の甲子園で勝った時の試合の映像でした。
その映像の中では冬貴君がカッコ良く活躍しています。
「昨日、その映像を見てたら夜更かししちゃって、それで今日体調を・・・って美春!?」
冬貴君がビックリした表情で美春を見ています。
「お前・・・何で泣いてるんだよ」
自分でも気付きませんでした。
美春はその映像を見て、何故か涙が出てきました。
それに気付いた時、美春はどうしてここ数日不安や寂しさに襲われていたのか分かりました。
「あ、ゴ、ゴメンね・・・だけど」
「だけど・・・何だよ?」
「このビデオの中の冬貴君見てたら、冬貴君だけ先に行っちゃってるような気がして」
野球で活躍していたり、取材を受けていたりするのを見てると・・・
「いつか、美春なんか手の届かないところにいっちゃうんじゃないかと思って・・・」
美春がそう不安を口にすると・・・
【フワッ】
不意に温かいものが美春を包んだような気がしました。
「えっ・・・冬貴君?」
ベットの上で上半身だけ起こした冬貴君が美春を抱き締めていました。
「ゴメンな・・・まさか美春にそんな想いをさせてるなんて、俺気付かなくて・・・」
冬貴君が悔しそうな感じで言葉を絞り出します。
「なぁ・・・美春、そこにあるバックから小さな箱、取ってくれないか?」
一旦冬貴君から離れた美春は箱を取り出して、冬貴君に渡します。
「目を閉じてくれないか?」
美春は目を閉じます。
冬貴君が美春の手を取って何かをしているのが分かります。
「目を開けていいぞ」
美春は目を開けました。そこには―――
「美春、誕生日おめでとう」
そして、美春の左手の薬指には、四葉のクローバーを象った指輪が光っていました。
「誕生日プレゼント何がいいかなと思ったんだけど・・・俺の気持ちを伝えるのにはそれが一番かなって」
「ど、どういうこと?」
「その指輪な・・・クローバーに一つ一つ願掛けをして・・・願掛けした夢が叶った時には―――」
冬貴君は言葉を飲み込み、そして続けます。
「指輪を渡した相手と結ばれるっていう話があるんだ」
それって―――
「美春―――もし俺が自分の夢を実現させて、自分に自信が持てたらその時は―――俺と」
もう冬貴君の言葉は耳に入りません。
今度は美春から冬貴君を抱き締めていました。
2人で見つめあい、そして―――
「うんっ・・・むっ・・・あっ・・・」
熱いキスをしました。
「ゴメンな、美春・・・絶対にもうそんな想いはさせないようにしてやるから」
「うん・・・冬貴君・・・大好き!!」
その後、冬貴君は美春を優しく愛してくれました―――
【チュン・チュン・・・】
小鳥のさえずりで美春は目が覚めました。
隣には、冬貴君が寝ています。
昨日の冬貴君の言葉と、その後のことを思い出して美春の顔が赤くなります。
左手には昨日貰ったクローバーを象った指輪が光っていました。
(冬貴君・・・ありがとう。昨日は嬉しかったよ)
もう美春の心からは不安も寂しさも消えていました。
(美春も冬貴君が迎えに来てくれる時には、冬貴君に相応しい女性になれるように頑張るからね)
美春はそれを指輪に誓いました―――
END
こんばんわ〜フォーゲルです。
時間ギリギリになりましたが、『桜がもたらす再会と出会い〜特別編〜』
『Four-leaf clover』をお送りします。
(四葉のクローバーを英訳するとこの訳になるんですよね)
作者的に10文字以内で感想を述べるなら・・・『美春可愛いよ美春』って感じですか(爆)
今回の話は本編終了後、恋人同士になった冬貴と美春の関係を書いてみました。
・・・書いてる本人が照れくさくなりました(笑)
やっぱり、彼氏が有名人だったりすると彼女は大変なのかなとか思いながら書いてました。
次回は再び本編に戻ります。それでは!!
管理人の感想
はい、皆様いかがでしたでしょうか?美春誕生日記念ということで、フォーゲルさんより頂きました^^
「桜がもたらす再会と出会い」の特別編ということで、恋人同士となった冬貴と美春がメインのお話でした。
冬貴が甲子園で活躍し有名人となったことで、それを誇らしく思うと同時に不安に駆られる美春。
それでも最後はやはりラブラブエンド。プロポーズっぽい事もしてますしね。
・・・美春可愛いよ美春(笑)
それでは、ありがとうございました〜^^