夕方になり,日もだいぶ落ちてきた。
義之と由夢の二人は,ナンパ騒動で疲れていたのか,あのまま寝続けていた。通りすがりの人が二人を微笑ましい光景だと思いながら通過していく中,一緒に来た渉と雪月花三人娘に見られなかったのは義之にとって命拾いものだろう。もし見つかっていれば写真が次の日には全校にばら撒かれ,由夢の隠れファンによって義之の平穏は文字通り消滅していただろう。
そんな時,義之の携帯がなった。だが,義之は目覚めることなく,目が覚めたのは由夢の方だった。
「ん・・・・兄さんの携帯・・・誰からだろう・・・?」
由夢は半分寝ぼけながら義之の鞄から携帯を抜き出し,相手が小恋だと確認してから通話ボタンを押そうとした。
・・・が,義之の寝顔を見て,
「すみません小恋先輩・・・もう少しだけ・・・」
義之の携帯を自分のポケットの中へしまった。
30分後,夕日が眩しかったのか,義之が目を手で覆いながら起き上がった。
「おはようございます,兄さん♪」
「ん・・・おはよ・・・って今何時だ?」
「えっと,6時半くらいですね。あ,そういえばさっきから数回携帯がなってましたよ?」
由夢は何も知らないような素振りをしながら,義之に携帯を返した。
「げ・・・もう30分ほど前から6回も小恋から電話がかかって来てた・・・ちょっとかけ直してみるか。」
義之は小恋へ電話をかけてみた。
「今並んでるやつに乗り終わったらこっちに向かってくるってさ。ただ,30分ほどかかるらしいが。」
電話を終えると,義之は由夢にそう伝えた。
「ところで由夢・・・待ってる間に観覧車でも乗るか?」
「・・・え?」
「いや・・・その,待ってるだけってのも退屈だと思うし・・・その・・・やっぱり彼女と来たんなら乗るべきかなって・・・///」
由夢は口を半開きにしたままポカーンとして,義之の誘いに返事しなかった。
「や,やっぱりやめとくか。そうだよな,待ってる間にいこうなんておまけみたいな形じゃ・・・」
「え・・・も,もう,しょうがないですね。兄さんはどうしてもって言ってるみたいだし,行ってあげますよ。ほら,早く♪」
やめようとする義之を制するように由夢は強引に腕を組んで,義之を半ば引っ張る形で歩き出した。言葉の上では「仕方なく行ってあげる」と言っても,顔がにやけてしまうのは抵抗できず,下を向いてばれないようにしていた。
少し並んで,10分後。二人はようやく観覧車に乗ることが出来た。
「すごい・・・この遊園地ってこんなに広かったんだ・・・」
「まぁ初音島唯一の大テーマパークだしな。でも上から見るとやっぱりデカいな・・・・」
「あ,あれが風見学園か・・・それじゃ家はあのへんかな?」
由夢が観覧車からの風景を満喫していたところへ,突然義之が思い出したように話しかけた。
「あ,そういえば小恋が気にしてたんだけどさ。なんでさっき俺の携帯にかかってきてた電話に出なかったんだ?」
由夢はピクリと肩で反応し,少し目を義之から逸らした。
「い,いや・・・兄さんの携帯に勝手に出るのはどうかと思ったんで・・・」
「でも俺の携帯持ってただろ?それに小恋は由夢の携帯にも電話したらしいし。」
「そ,それはその・・・別にもう少し膝枕をしておきたかったとかそんなんじゃなくて・・・あっ!」
「・・・バ〜カ///」
由夢はふと漏らしてしまった秘密に赤面してしまった。義之も赤面していたが,下を向いて笑うようにしてごまかした
「そういえば,もうすぐ頂上だな。」
「そうですね・・・キス,しますか?」
「な・・・で,でも他の人に見られたら・・・」
「一番上って隣のゴンドラからも見にくいですよ。それにあんな大衆の前で膝枕していたことに比べればマシだと思いますけど。」
「それをいったら大抵のことが許され・・・!?」
突然だった。由夢は頂上に着く前に,一足先に義之に触れるような優しいキスをした。
「私はね・・・他の人に見られて恥ずかしいなんてことよりも,また兄さんと離れるほうがイヤ・・・私は兄さんと一緒にいたい。だから”観覧車の一番上でキスしたら永遠のカップルになる”って話は単なる迷信かもしれないけど,それで兄さんと一緒にいられるならって思うから・・・」
「・・・そうだな・・・あ,じゃあここでちゃんと約束しておくか。」
「約束,ですか?」
「ああ,この先ずっと一緒にいるってこと。それから・・・まだ先の話になるけど,由夢が本校を卒業したら・・・その,結婚するってこと・・・//」
「え!?ちょ,ちょっと・・・それってプロポ・・・んんっ!?」
今度は義之が由夢に少々強引にキスをした。ただ,由夢は抵抗することなく,二人とも目を閉じて唇を重ね続けた。
20秒ほど経っただろうか,二人はようやく唇を離した。
「もう・・・なんでイキナリなんですか・・・・ムードのかけらもないですよ・・・」
「いや,あのままほっといたら多分頂上通過してしまうところだったからな。」
「そ,それで・・・あの,結婚って・・・」
義之は笑顔を崩し真剣な表情をして,真っ直ぐ由夢の方を見た。
「一応・・・いや,かなり真剣な話だ。あと3年以上あるけど,本気で考えてる。だから・・・もう今言っておくか。」
義之は一度深く深呼吸をして
「由夢,俺と結婚してくれないか・・・?」
「━━━っっ!!」
由夢は思わず目を逸らしてしまった。嬉しさもあったが突然だったため戸惑っている面もあり,返答に困ってしまった。
由夢は俯いたまま何も言わず,義之もしつこく返答を求めなかった。そのままゴンドラの中で沈黙が2分ほど漂っていた中,由夢はゆっくりと顔を上げた。
「私・・・私も兄さんのことが好き・・・だけど,結婚とかはまだ先の話すぎて・・・まだ実感わかないから,答えられない・・・」
「そっか・・・まぁそうだよな・・・ごめんな,突然言って困らせて・・・」
「でも━━━」
由夢は義之の方を真剣な目で見ながら
「3年後,私の卒業式の日にまたプロポーズしてくれたら・・・その時は絶対に答えを出すから。」
今までに見せたこともないような大人びた表情をしながらそう答えた。
観覧車を降りた二人はもといたベンチに戻ったところ,すでに渉たち4人は到着していた。
「もう,おそいよ義之〜。どこ行ってたの?」
「ああちょっとみんなが来るまでの間二人でその辺をブラブラしておこうと思って。」
間違っても”観覧車に乗ってた”なんていった日には,強制裁判を開かれ,一言一句聞き出されるのをわかっていたため,あえて触れなかった。
「まぁいいわ。とりあえず帰りましょ。」
「待て,杏・・・渉はどこに行ったんだ?」
「あら,義之くん,足元に何か落ちてるけど?」
・・・そこには腐敗した”かつて渉だったもの”が落ちていた。
「どうしたんだこれ?」
「さあ?今日は一日中やけに挙動不審だったり,時間が経つにつれて目に見えてやつれていったんだけど・・・」
義之は渉の耳元にそっと口を近づけた。
「なあ,渉。小恋が事情をしらないってことは・・・まさか失敗したのか・・・?」
「ハハハ・・・・今日は楽しかったな・・・ハハハ・・・」
渉は浮浪者の如くフラフラと立ち上がり,再び転んでその後なかなか立ち上がることができなくなっていた。
「それじゃ〜また明日学校でね。」
「またね,由夢ちゃん,義之。」
「・・・それじゃ」
「・・・・・・・・」
夕食をレストランで取った後,義之と由夢は家の方角が若干みんなと違うこと,また音姉にあらかじめ連絡をいれてなかったことから,先に別れることになった。ちなみに,渉の調子が戻る様子はなかったため,杏が半ば引きずる形で帰ったことも先に記しておく。
「なんだかんだいって,かなり楽しめたな。」
「そうですね。といっても,昼間はずっと寝てましたけど。」
「そういうデートもありだとは思うけど,まぁ確かにあんまり好ましいとは言えないか。」
そんな会話をしながら,二人は一旦芳野宅に入った。
「あれ?留守電が入ってますけど・・・」
「聞いてみるか。えっと,再生だな。」
義之は留守電再生をしてみた。
『あ,弟くんおかえり〜。実はまだまだやらなきゃいけない仕事があって・・・悪いけど今日はまゆきの家に泊まるから,由夢ちゃんのことよろしくね♪あ,ただし私がいないからって,その・・・エ,エッチなことはしちゃダメだからね!!!(プツッ)』
(・・・照れるなら始めから言わなきゃいいのにな。)
「あ,あの・・・兄さん。一緒に寝てもいいかな・・・?」
「ああ。ただし今日は疲れてるから何もしてやれないぞ?」
「いいよ,一緒に寝てくれるだけで十分だよ。んじゃ先にお風呂沸かしてくるね」
由夢はスキップ気味に風呂場へ向かった。
その後一人ずつ風呂に入り,そのまま一緒にベットへ就いた。もっとも,由夢は「一緒にお風呂に入る?」と誘惑してきたが,義之はなんとか理性を押さえ込んで別々に入ることになったのは別の話である。
由夢は疲れきっていたのか先に熟睡して,義之は一人で考え事をしていた。
「三年後か・・・・短そうで長そうな期間だな。」
一人で今日のことを思い出していた。
「ちゃんと覚えとかないとな。それと・・・一緒に入るって約束したからな。音姉に桜の木の話をもう一回聞いておかないといけないか。」
義之は由夢の頭を撫でながら
━━━ずっと一緒だ。これからもずっと・・・・
そう熟睡している由夢に語りかけた後,義之もすぐに眠りについた。
もう二度と離れることがないよう,二人一緒にいられるように。
二人の物語はまだまだ始まったばかりである━━━
fin.
(コメント)
さて,創作者のdairyです。以前からときどき雅輝様のHPの掲示板で見かけてる人は多いかと思います。いろんなSSサイトを回ってますが,書き込んでるところはここくらいかと。
SSを書くのはすごく久しぶりで・・・といっても,元々駄文書きでしたし,今まで投稿はしたことはなく一人で書いていたんですが。
まだまだ情景描写とかかなり下手だったり・・・受験生なのでいくらかけるかわかりませんが,これからも来年のHP作成を目指して,ちょくちょく書き溜めたり,また投稿したりすると思います。
最後に,最後まで見ていただいてありがとうございます。
それでは。
2007年4月26日(木)by dairy