カーテンから差し込む光で、あたしの目は自然と覚めた。
秋の朝は、正直ちょっと苦手。
あたしが生まれたのも9月で秋だけど、どっちかって言うと夏に近い時期だし。
でも、今日の目覚めはここ最近ではかなりイイ感じ。
だって。
「ん……くー……」
隣には、あたしの大好きな総志くんが寝てるから。
しかも、寝る前にあたしが言った『手、握っててね』っていう無理に近いはずのお願いを、ちゃんと叶えてくれてる。
どんな小さな約束も、総志くんはほとんど叶えてくれる。だから、いけないって思ってても甘えちゃうの。
「学校……なかったら、よかったのになぁ……」
もちろん、文化祭もメイド服もそれなりに楽しみ。
……だけどやっぱり、そこには総志くんはいないから。
…………今でも、やっぱり思うの。
もし総志くんが年上のお兄ちゃんじゃなくて、同い年だったらって。
そして、あたしと一緒の学校に通う、同じクラスの1人だったらって。
そうしたら、ずーっと一緒にいられるのに……って。
でも、総志くんはそれを違うって言った。
『もしそうなってたら、俺はお前のこと、好きにならなかったかもしれないんだぞ? それに愛だって、別の誰かを好きになってたかもしれない』
そんなの、考えたくない。
総志くんがあたしを見なくて、あたしも総志くんを見ない、なんて。
それは、今のあたしには辛すぎて、悲しくて。
きっと、どんなに泣いても癒せない、塞がらない痛みだと思う。
でも現実は違う。
今、現に総志くんとあたしは恋人同士。
しかも両方の家族が認める、名実ともに公認カップル。
歳は違うけど、あと1年半であたしも高校卒業。入籍だけならとっくにできるのだ。
「そーじくん……あたし、はやく卒業したいよ……」
空いてる左手で総志くんのほっぺたに触れる。
長い睫毛。綺麗な鼻筋に、薄い唇。
そこらへんのタレントなんか目じゃないくらいに、総志くんはカッコいい。
もう1人カッコいい人は知ってるけど……あの人よりも断然総志くんのほうがカッコいいと思うのは、彼氏だからっていうのもあると思う。
でも、彼氏とかじゃなくって、もっと単純に総志くんのことをステキだと思ってる。
あたし達が出会って惹かれあったのは、そう。
いうなれば運命。フェイト。ですてにー。
あたし――――秋月愛はきっと、この世界に生まれた瞬間から、森川総志くんのためにいるんだ――――。
〜秋の夜長の恋人たち〜
<Part4> ふたりの朝
「そーじくん、朝だよー」
顔を寄せて、耳にそーっと息を吹きかける。ぴくっ、とちょっとだけ反応するのがすっごく可愛い。
いつもなんとなく隙がない総志くんだけど、寝てるときはさすがに別。でもあんまりビックリするような起こし方すると、後で怒られちゃう。
前に耳を甘噛みしてたら、うっかりがりっと噛んじゃって……ゲンコツされたし。
手加減はしてくれたし、自業自得だけど……アレは痛かったよぅ……。
「そうじくーん、お・き・てー!」
「んぐ……ぅぁ……」
ゆさゆさ揺すっても効果なし。ちょっと開いた口から寝息が漏れてる。
そのビミョーな開き加減が、なんか……キスできそうな、けっこういい感じ。
「…………キスしたら、起きるかな」
童話とは逆だから、女の子のキスで相手を起こせるかどうかはわかんないけど。
でも、試してみてもいいはず。
「起きないと……ちゅーしちゃうよ……」
でも内心、起きないで欲しいと思ってるあたし。だって、もし起きてたら……また総志くんにリードされちゃう。
総志くんはとにかくキスが上手。ふつーのキスから、頭の中が真っ白になるくらいスゴイのもできる。何回かされたこと、あるし。
だからこっちがリードしてるはずなのに、いつの間にか逆転されるなんて当たり前。
それがちょっとだけ悔しいから、こういうのは滅多にないチャンス。
「…………んっ」
唇だけのキスをする。ちょっと角度を変えればもう少し奥にいけるけど、あたしも総志くんも寝てるから、ちょっときびしいかも。
「……やっぱり、起きないかな」
と、思ったら。
うすーく開いた目蓋の向こうから、総志くんの目があたしをじーっとみてる。
「お、おはよぅ……」
「ああ、おはよ。愛」
総志くん、笑ってる…………って、ことは。
「お、起きてたのぉ!? ずるーいっ!!」
「いや、起きたのはホント、ついさっき。愛が俺のこと揺すってる時から」
くしゃっとあたしの髪を撫でてから、優しく手櫛で梳いてくれる。その手つきは相変わらず、すっごく優しい。
悔しかったのも恥ずかしいのも、その手が全部忘れさせてくれるのは嬉しいけど……やっぱりなんとなく、悔しいよぅ。
「手、放すな?」
「うん。ずっと握っててくれたんだよね」
優しかった拘束が解かれると、あたしの手はじっとり汗をかいてた。総志くんもそれは同じみたい。タオルケットで手を拭って、汗を吸わせてる。
「んしょっと」
ベッドから上半身だけ起こして、まだ横になってる総志くんを見下ろす格好に。
上から見ると分かるんだけど……寝癖のせいかな? 総志くんの前髪がちょっと目にかかってる。
あたしはそれを、しゅっと梳かす。その奥にある、まだ半開きだけど切れ長気味の目は、じっとあたしを見てる。
「ん? なーに?」
「いや……今日が休みだったらなって、思っただけだ」
……こういうの、なんて言うんだっけ? 離れてる2人の気持ちが一致するの。
シンクロ何とか……あ、違う。シンパシーだ。
「あたしもそうしたいけど、ゴメンね……文化祭だから、行かなきゃ」
「いいさ。俺も愛も、まだ学生なんだから。学生はちゃんと勉強するのが本分だからな」
「でも文化祭は勉強じゃないよ? フリフリのメイド服着て、お茶とかケーキ出すだけだもん。それに、味見したんだけど……ちょっと、おいしくなかった」
期待はしてなかったけど、意外に出来は悪くなかったんだよね。
でもやっぱり、総志くんがあたしの誕生日に作ってくれたザッハトルテの方が、全然おいしかった。
「でもみんなはおいしいって言うんだよ? あたしの舌って変なのかな?」
「素人の学生が作ったケーキなんだから、おいしくないのは当たり前だろ。プロ顔負けなんて、どう頑張っても作れるわけないんだし」
「でも、そーじくんのは普通においしかったよ?」
「そう言ってくれんのは嬉しいけど。俺のケーキだって、店に並べられるレベルじゃないぞ?」
「そうなの? あたしはお店のケーキより、おいしい気がしたけど……」
「…………なんつーか、朝っぱらからこんなこと言いたくないんだけどさ」
「?」
あたしと同じように、総志くんもベッドから起き上がって、ベッドの横にある小さな台からメガネを取る。
「それは、ちゃんと俺が愛のこと好きだと思って作って、愛がそれを分かってくれたから……だろ」
そっかぁ……。料理は愛情って、ホントなんだ。
ただでさえおいしい総志くんのケーキを、お店のケーキよりおいしいって思えるくらいの愛情って、どのくらいなんだろ? きっとすごいんだよね?
「じゃあ、あたしのご飯もいっぱい愛情こもってれば、いつか総志くんが『おいしい』って言ってくれるくらいになるのかな?」
「ゴメン、それは無理。愛はまず料理の基礎からやり直しだから」
「ひどっ、ていうか即答なのっ!?」
「当たり前だろーが。親父さんが料理人なのに、愛は絶望的すぎる」
確かに事実だけどっ。でもお父さんからはちゃんと料理習ってないし、なにもそこまでこき下ろさなくてもいいと思うんですけど……。
うぅ、ちょっと泣きそう。ていうか涙溜まってきてるし。
「うぅ〜……そーじくんの、ばかぁ……」
「ああ、もう。朝っぱらから泣きそうになるなって」
ちゅっ、と下まぶたに触れる優しいキス。あふれかけてたあたしの涙は、総志くんの唇に吸い取られてく。
「……俺がちゃんと時間取れる時は、基礎から教えてやるから。それで……いつか、2人で料理しような?」
優しくて、甘い声。当たり前みたいに重なる唇。ちょっとしょっぱい味はあたしの涙の味。
それと、また一件新しい約束。これもきっと、総志くんは叶えてくれるんだね。
でも、あたしもその約束は絶対守れるように、頑張らなきゃっ!
昨日2杯分だけ残ってたシチュー。
レタスとハムと、スライスしたたまねぎ、トマト、ゆでたまごを使ったサラダ。
あとはテーブルパン2個ずつと、牛乳と、昨日の夜のデザート。
あり合わせのものしか使ってないのに、総志くんが作る朝ごはんはすっごくおいしそう。
ううん。おいしそうじゃなくて、実際においしい。
由佳おばさん――――総志くんのお母さん――――のお仕事が忙しくなってた何年か前から、総志くんは自分で料理を作るようになっていった。
そのとき、あたしは総志くんの試食第1号を買って出ていて、総志くんのレパートリーのほとんどを、一度は食べたことがある。
今思えば……あたし、アレだけ食べてよく太らなかったなぁ。
「いただきますっ」
「ほい、どーぞ」
総志くんはパンにナイフを入れて、マスタードをつけてからサラダを挟む。あっという間にサンドイッチの出来上がり。
それをあたしのお皿に置いて、まだなんにもしてないパンを1つ持っていく。
シチューにはブロッコリーとマッシュルームが追加されてて、見た目もすっごくおいしそう。
こういう風に、ぱぱっとアレンジできる総志くんはホントにすごいと思う。
だって、普段お料理しないあたしじゃ、そういうの全然思いつかない。
「そーじくん、絶対いいお婿さんになるねー」
「婿入りする気はないけどな。それに嫁に来る相手には、ちゃんと料理覚えてもらうし」
「うぐ……努力します……」
「おう、しっかり努力してくれ」
スプーンでシチューをひとすくいして、口に運ぶ。
クリームシチューは家でも食べるけど、総志くんの作ったシチューは……なんだろう。なんとなく、優しい味がする。
総志くん、今なら分かるよ。
これが総志くんの、愛情の味なんだね。
あとがき:
愛視点は2回目です。ちょっと天然入ってるのを意識してたんですが、
どうかなぁーって感じです。
次は登校、仲間となるので、必然的にキャラが多くなります。
全員を活かしきれるかどうかはまだ分かりませんが、頑張りますよー。
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2006年4月 鷹
今回は愛ちゃん視点でしたが・・・甘々度がさらに増したと感じるのは私だけですかね?(笑)
やっぱり女の子視点だと、可愛らしい表現や言葉遣いなどで益々そう感じてしまうのかも・・・。
次回は学園編なのですが・・・。
なんと私が考案した(とは言っても名前ぐらいなものですが)キャラを出してもらえることになりました^^
名前は・・・まあ当ててみてください(笑)
雅輝